4発:YESロリータNOタッチ!
「こっ、きっ、きょっ、きょれはッッッ!!!
……って、タダのスマホじゃん!」
「スマホではないのデス。
――godPhone。通称、ゴッホ!」
「ゴッホ――なんか、存命中はうまくいかなさそーな名称だな~…」
「このゴッホは凄いのデス!創造主であるあたしの力を込めたアーティファクトガジェット。
このゴッホを使って、この世の全て、あらゆる世界を創造したのデス。
もう創り尽くしちゃったんで一時的に護居颯汰さん、あなたに貸してあげるのデス」
「…それが本当なら、凄いマジックアイテムなんじゃねーの?
俺が世界を創り変えちゃうかもよ~?なんて、な!」
「ソレはムリかも、デス。
超越界レベルに応じてアクセス権限が設定されてますから、あなたが使いこなすことの出来る範囲は極めて小さいデス」
「えっ?今の俺のレベルだと、どれくらいのことが出来るわけ?」
「そうデスねぇ~、『0』レベルで出来ることと云えば~…」
「云えば?」
「…ダレかと通話することくらい、デスかねぇ?」
「やっぱ、タダのスマホじゃねーか!」
それにしてもだ。
この幼女、自分で神様っつってんだから、もちっと、いい物用意しとけよ、な。
どんな世界に転生すんのか分からんけど、やっぱほらっ、聖剣とか欲しいじゃん?
まぁ、その場合、ファンタジックな世界限定だが、スマホじゃ話にならん、いや、通話は出来るが。
だが、もし、もしもだ。
FPS的な世界だったり、ホラーチックな世界だったら、どうする?
俺、苦手なんだよなー、そっち系。
よし、祈ろう、神様、仏様に!
え?
目の前の幼女が神様じゃねーかって?
おまえの目は節穴か?
どーみてもタダの幼女だろ!
幼女に祈ってどーすんだよ。
幼女ってのはなぁ~?
愛でるもん、なんだよ!
幼女を前にしたのであれば、二拝二拍手一拝、が正しい作法。
ん?
それって祈ってるんじゃねーかって?
バカヤロウ!
拝んでるんだよ。
幼女にナニかを求めてはイケない!
純粋に、捧ぐ、だけ。
御利益よりロリ益。
加護を求めるもんじゃない、保護すべき対象なのだ。
コレだから困るんだよ、ニワカのファッションロリは。
こっちはガチロリだ!
ガチだからこそ、神聖なるものとして敬い奉る。
決して、触れてはいけない尊き存在。
ロリータは遠きにありて思ふもの、そして、悲しくうたふもの。
YESロリータNOタッチ!
分かるか?
コレが、幼女哲学、だ!
「ちょっと、そこを離れて下さい、デス」
「ん?なに?」
「その辺りの床に、異世界への扉を開きますから離れて欲しいデス」
「…どーやって?」
「異世界転生の魔術で転送扉を穿つのデス」
「おおっ!」
なんか知らんが、ファンタジックになってきたぞ?
スマホなんか渡されたもんだから、やたら現代チックな感じかと思ったが、いよいよオカルトまがい、あるいは、ファンタジー臭を醸し出すのか?
ちょっと、ワクワクしてきたな。
「それでは始めますデス」
「お、おう」
「クチュクチュベロンチョ、ロリッペド…」
「ちょっ!ちょいちょいちょいッ!!何ナニ、どうしたの急に!?」
「え?なんデスか??呪文の詠唱中に、口を挟まないで下さい、なのデス」
「えっ、えっ!?ソレ、呪文なの?……」
「そうデスよ。異世界転生呪文デス。詠唱中は黙っておいて下さいデス」
「あっ、はい…」
「クチュクチュベロンチョ、ロリッペド、コリコリサキッチョのっ、ハ~トたん♡」
――ピュルピュルピュルピュルゥ~~~
なんじゃ、その呪文!?
ついでに、変な音がこだまする。
どゆこと?
床に渦巻く光が収束する。
一陣の風を巻き起こし、渦巻く光が大きく脈動する。
光が大きく穿ち、その中を闇が満たす。
闇の中には惑星や彗星を思わせる星々が軌道を残し、蠢く。
おおっ――
凄い!
なんか、すっげーイリュージョンっぽいぞ!
どういう原理なのか、まるで分からんが、凄まじい映像表現、演出。
こりゃあ、たまげた。
――ブリッ!
え?
――ブリッ、ブリブリブリブリブリッ!
え?え?
何これ?
光の渦の中を満たす闇からドス黒いヘドロのようなものがボドボドと溢れ出てくる。
床にこぼれたドロが溜まり、うねうねと脈打つように這う。
時折、ゴポゴポと音を立てては、緩慢な泡を作り、弾けては黄色っぽいガスを噴出。
なんか――
きったねぇー。
ついでに、若干、臭くね?
汚泥?
小バエも飛んでるし。
なんなの、コレ?
なんか知らんけど、ヤバイもんなんじゃねーの、コレ?
「さあ、護居颯汰さん。その中に入るのデス」
「ぇえ゛!?こ、このきったね~ヘドロの中に??」
「はい、そうデス。それこそ、まごうことなき異世界転生の扉」
「エェー、なんかヤダー」
「むっ!急げ、と云うから急拵えで転生魔法を使ったのに、なんデスか、そのわがままはっ!」
「だってさ~、くっせーし、きったねーしさぁ~」
「…殴られたいのデスか?」
「ヒッ!!わっ、分かったよぉ、仕方ねーなぁ~…入ってやんよ」
土留色の不気味に泡立つそのヘドロに、恐る恐る足を踏み入れる。
ズブブッ――
うほぉっ!
なんつ~、気色悪い感覚。
靴がドロに埋もれる感触が何ともいえず、気持ち悪い。
それにしても、そんなに深くはない。
そりゃ、そっか。
中空に浮かぶ光の渦とその闇から零れただけなのだから、嵩は少なくて当然。
「それでは、いってらっしゃい、なのデス」
手を振る幼女は満面の笑み。
なんだよ、さっさといなくなれ、ってか?
ったく、コレだから飽きっぽいガキは嫌いだっちゅーの。
――ズルリッ!
あっ!?
足を滑らした。
あぶねっ!
一歩、泥に踏み出す。
――が、深い!?
なんで、急に深くなんだよっ!
コケる。
汚れたくない!
何せ、今着てる服はコスプレ衣装。
大事な尻トルフォきゅんのコス。
泥まみれにするわけにはいかねぇ~!
そりゃっ――
手を伸ばす。
何かに捕まり、体勢を立て直す、そのつもり。
あれっ?
ぷにぷに――
なんだ、この感触。
一体、俺は何を掴んだんだ?
ぉお!?
「ちっ、ちょっ!?護居颯汰さん、手を放すのデス!」
ありゃ?
こりゃ、幼女の腕じゃねーか。
くっそ!
俺としたことがッ!
YESロリータNOタッチの訓戒を思わぬ形とはいえ、破っちまったじゃねーか。
おさわり禁止の誓いを守れぬとは、ロリコン失格、人間失格。
しかし、バランスがっ!
うおっ!
倒れる。
「あぶっ、あぶないっあぶないッ、泥に嵌まるぅ!」
「手をっ、手をッ、手を放すのデェーーース!!」
――ドプン。
二人はヘドロに呑まれた。
白い部屋は、そして、誰もいなくなった――
――静けさや、泥に染み入る、俺とロリ