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美しい玩具  作者: 遠堂瑠璃
9/11

No.09 自壊

 貧しい青年と、美しい娘の恋の結末。

 ようやく心を通わせ、互いに恋するようになった二人。けれど、あまりに身分が違い過ぎた。

 二人は周囲の大反対に合う。娘の両親は、二人の恋を決して許そうとしなかった。

 二人を無理矢理引き離し、娘の縁談を決めてしまう。

 トントン拍子に進んでいく娘の結婚話。

 両親の眼を盗み家を飛び出した娘は、青年の元へ会いに行く。そして二人は駆け落ちし、遠い街に身を隠す。だが、娘の両親は執念深く、逃げ通す事はできなかった。


 結ばれる事が叶わないと悟った二人は、共に死にゆく事を選んだ。

 最後は互いに固く抱き合ったまま、深い海へと身を投げていく。魂だけになって、結ばれる事を誓いながら。


 何処にでも語られるような、悲しい恋の結末。



       ∞


 

 物語の結末がそうであったから、二人を真似たいと思ったわけではない。そんな安易な結論ではない。

 結ばれる事がないから、共に死んでいく。そんな理想を描いたわけでもない。


 アルフレドには、『死』というものはない。

 完全に壊れてしまわない限り、半永久的に動き続ける。アルフレドを造り出した人間達が全て居なくなってしまった後も、燃料が尽きない限り、ずっと。


 イブの肉体は、いつか朽ちる。

 こうして今は美しいカタチをしているけれど、生身である以上イブは歳を取っていく。それは、イブが眼を覚ましても覚まさなくても、変わらない事実。

 喩えアルフレドがイブと心を通わす事ができたとしても、いつかはイブだけが死んでいく。生身の体は、時間と共に年老いる。

 

 生き物たる故の『死』。死ぬ事のないモノは、生き物ではない。

 命の(ことわり)

 曲げる事のできない摂理。


 それならば……。


 それならば、いつかその理に習って朽ちていくイブと一緒に、自壊していく事を選んだ。

 何故だか判らない。

 けれど、そうしたいと思った。


 アルフレドの人工頭脳の回路に発生した思考。


 自壊。


 全ての出来事には、終わりがある。

 この宇宙に生まれた星々ですら、永遠ではないように。


 いつか訪れるかもしれない終わりならば、自分の意思で終わりたい。

 目覚める事のない、唯一の人と一緒に。

 

 アルフレドはそう思った。

 人工頭脳にプログラムされた回路の思考ではなく、自らの意思でそう決めた。


 自壊という選択肢は、プログラムにはあり得ない。

 アルフレドの『心』が望んだ答え。

 人工頭脳の学習プログラムが造り出した、偽物の『感情』かもしれない。けれど確かに今、アルフレドの中に『心』というものが存在していた。


 イブへの『恋』という『感情』で満たされた、アルフレドの『心』。



 アルフレドは、ただじっとイブを見詰め続けていた。


「イブ、僕に感情を教えてくれて、ありがとう」


 恋しい人。

 この人の心には、永遠に出会う事はできない。


 だから、せめて最期は君と共に。



 そう、この基地ごと、君と崩壊していく。


 想定される様々な緊急事態に備え、このドーム型の基地の機器類には消滅プログラムが内蔵されている。それを全て同時に発動させれば、この基地自体が消滅する。


 ここにあるものの全てが、等しく崩壊していく。


 イブも、アルフレドも。


 二人の体を構成していたものが、するすると(ほど)けていく。

 形成していたものが、解放されていく。

 全てが、この宇宙に自由に散らばっていく。


 君も僕も、ここへ散らばっていく。


 それで、いいんだ。



 アルフレドは、それで満足だった。

 イブを見詰めながら、嬉しそうに微笑む。

 この世界に造られて、本当に良かったと思った。


 こうして、自壊を選んでしまったけれど。


 アルフレドの『心』は、満たされていた。

 







明日の夜も19時に更新します。

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