主人公になんて絶対ならないからな!
ここからは、主人公に変わって怠惰でやることがない極めて暇な僕が物語を語るとしよう。
あれ? この物語って何かのお話の続きじゃないの? え、違うの? うそでしょ!
うーん、仕方がない。じゃあ、なおさら主人公にさっさと戻って来てもらわなきゃいけないな。なんたって僕はそれまでの繋ぎだからね、あくまでも。絶対に主人公なんてごめんだよ。だって主人公っていうのは何かやらかさなきゃいけないんだよ? 僕はあくまでも動かず騒がず、ただただのんきに時間を過ごしたいだけなんだよ。
繋ぎって言ってもなぁ、特に話して面白いことなんてあるのかなぁ、なぁなぁ。
あれ? 某作家の真似をしたら誰かに呼びかけているみたいになっちゃった。僕はまだ全然使い込めてないらしい、らしいらしい。うーん、なんだかとっても、びみょい(微妙の形容詞形みたいなもの。昔誰かが使っていたのを聞いたことがあるのでなんとなく使ってみたくなったので使った)。
さてさてはてさて、一体絶対どうしたもんでげしょ。いやいや、今のは噛んだのではなくてですね、うん、まあそういう表現もあるということで、はい。納得してくれると嬉しいかな。
うーん、なかなか話が進んでくれそうにないぞ。一言にコメントが多すぎるのだ、うがー。なんて言っても全く以て状況は変化しないのである。くそ、おのれ孔明、死してなお我を貶めるか……。いや、孔明一切関連ないし。あってたまるかと叫びたいところ。
よし、やることもないし(いや学校に来ている以上やることがないなんてことはないんだけれども、どうしてかやる気が出ないからやることがないことにしておく)、運命の赤い糸の話でもしようか。いや、めっちゃ聞こえはいいんだけど、そうはいってもこれは、僕に降りかかった不幸以外の何物でもない話だし。おもしろいのかな。まあ、この際そんなこと、どうでもいいか。
事の発端は、あれ? いつだっけ? と首を傾げたくなるような平日、すなわちウィークデイだった。何の変哲もなさそうな日で、天気は晴れ、気温は八月にしては少し寒いぐらいの二十九度だった。まあ、簡単に言ってしまえば夏休みの平日である。今から五年ほど前、僕が小学校五年生のときのこととなるんだけども、それが表に出始めたのはつい最近、高校に入ってから。僕の成長が止まってたことが大きな原因だったりする。
五年前の僕は、何を隠そう今の性格からは想像もつかないほどそれはそれは真面目で頑張り屋だった。大抵のことはやってのけたし、頼まれたら断れないという大変損な性格を持っていたぐらい、いい奴だった(自分で言うとなんかおかしいなぁ)。
そんな僕は夏休み中に歩いていて、持ち前の人助け精神を発揮した、とかそんな主人公じみた感じではなく、ただ脇役がやるように、自然に振舞っていただけなのだった。
僕がその休みにしたことは、言ってしまえば『誘拐犯退治』だった。だけどこれは本当に本当に偶然で、ただの奇跡でしかなくて、僕が図書館に行こうとして途中で面倒になって家にひき返そうとしてやっぱりコンビニに向かおうと思ってコンビニでアイスを買ってそれを食べながらやっぱり図書館に向かおうと思って近道を通ろうと思ったことのどれか一つでも欠けていれば出会うことのなかったシナリオだった。やれやれ、誰がこんなシナリオを用意したんだろうね。……見つけたらぶっ飛ばしてやりたい。
さてさて、図書館への近道を通ろうとした僕は、今にも誘拐されかけている少女を見つけ、そしてそれを一瞥して脇を通り過ぎようとしたんだ。しかし、誘拐犯はどうやら目撃者が出るのはいくら子供であろうと面倒事になると思ったのだろう。僕までも捕らえ、そして近くにスタンバイさせていた車へと乗せた。いや、放り込んだ、の方が正しいかも。
少女――と言っても僕と同い年だけど――は車の中で僕にひたすら、
「ごめんね、ほんとに、ごめんね」
と謝罪の言葉を述べていた。それで何かが変わるわけでもないのに、と思ったことを、僕は今でも覚えている。あそこは暗くて狭くて嫌だったからなー。ああ、あと汚いし。二人を背中合わせにして座らせられ、おまけにお洒落(だと信じたい)にも赤い糸でぐるぐると目が回りそうなぐらい巻かれて、二人で文字通り一括りにされた。
そこからどうしたんだっけな。確か、携帯していたプラスチックカッタで赤い糸を切ろうとしたんだっけな。そうしたらなぜか少女に止められて、――結局糸を切った。犯人は不用心だよね。いくら子供だからって何持ってるか分かったもんじゃないってのに、荷物検査もせずに車に放り込んだんだよ? 僕がプラスチックカッタを持っていたのはほんとの本当に万に一つぐらいの確率ぐらい低いんだけど、そのたまたま過ぎる偶然でそれを持っていた結果、助かることができたんだから文句は言うまい。
さてさてさてさて、その後、僕は確かめっちゃくちゃな強行手段に出た。その時は多分、犯人の家に着いたが最後、どうなるか分かったもんじゃないと思っていたんだろうね。まあ、いま思えば向こうの家に着いた後でもカッタを持ってたから何とかなったんだろうけど。こう、サクッと相手の動脈やら静脈やらを切ってしまえば良かったんだろうね。あーあ、それをちゃんと理解してればあんな大惨事も起こらず、今よりももっと楽な生活が送れたはずなのに。まあ、過去を振り返ってもしょうがないか。
えーと、めっちゃくちゃな強硬手段って言うのは、車を運転している犯人の首にカッタを刺して、無理矢理車を止めようとしたってことなんだよね。全くよく考えついたもんだ。昔の僕は相当頭の切れる奴だったに違いない。今は考えるのも面倒だけど。
結果としてどうなったかって言うと、まあ案の定車が止まる訳もなく、そのまま大事故を起こしましたっと。僕は少女をかばい、大けがを負いましたっと。その結果無傷だった少女に依存症状を引き起こさせちゃいましたっと。
聞こえはいいよねー。とっても。僕も、自分以外の人だったら羨ましがったんだろーな。だって少女が無償で自分のことを好いてくれてるんだぜ? あ、無償じゃなかった。大けが負ったんだった。
でも、やっぱりマイナスは大きすぎた。少女が僕に依存してしまったせいで、何と面倒なことに同じ高校に行くために頑張らせられたのだ(少女が意外と頭が良いのがいけないのだ。いや、勉強ができると言い直す。頭良くはない。だって重症だもの、主に頭が)。他にも、少女が僕しか見ないせいで男子にリンチされたり(少女がそこそこ可愛いのがいけないのだ。ってかリンチって本当にあるんだね)、テスト前の貴重な土日をデートで割かれたり(しかも少女は確実に追試を回避する。僕は追試回避に必死なのに)で毎日が忙し過ぎる。まあ、今はテストも終わって楽に過ごしているけど。
とか言ってるけど、彼女といるのはそこそこ楽しいし、加えて僕は彼女をそんなんにした責任を取らなきゃいけないから、何とかこれからもやっていくつもりだ。
そういやぁ、主人公さんはまだ来ないのかな? そろそろ喋ることなくなって来たよ。
繋ぎの役目はもう十分なんじゃないのかな。え? 主人公が主人公を降板した?
嘘でしょ、うそだよね。嘘と言ってくれ!
え、僕が主人公になれって? 僕はそんな柄じゃないし、他の人を確保してよ。もっと主人公っぽい人をさ。
僕はやらないぞ。主人公なんて絶対にやらないからなぁ!




