第4話 『余生10年の生き方』
天才技師であった僕の生みの親であるジョン・ハシディー様は、とうに天国へ旅立たれました。
僕の悩みを解決してくれる人は現れませんでした。彼ほどの天才は後にも先にも現れなかったのです。
アリー様のご両親が亡くなり、僕は、次のご主人様達に引き取られることになりました。
ハシディー家のご親戚家族です。
新しい旦那様となったエリック様は、ジョン様の会社を吸収し大企業となったアンドロイド会社にお勤めです。
その方もジョン様同様に、優れた技術をお持ちでした。
しかし、ジョン様ほど、心の広いお方とまではいきませんでした。
代々受け継がれた歴史的な僕を、古臭いという理由で捨てようとなさったのです。
とはいえ、悩みを抱えた今の僕にとっては、そのほうが幸運だったのかもしれません。
「あらかじめ決めた期間が終わると、自動的にシャットダウンして、永久に目覚めないようにしてみようか?」
僕は少し悩みました。
いい思い出も沢山あったので、それを捨てるようでいたたまれなかったのです。
しかし、もう人の死を見続けなくていいのなら……とも考え決意しました。
「お願いします!」
「わかった。期間は……どうする?」
「うーん、10年くらい…ですかね」
エリック様は驚いていました。少し悲しげにも見えました。
「10年でいいのか? 結構あっという間だぞ……主人が私達だと嫌なのか?」
まさか。そんなことは決してありませんよ、エリック様。
「いいえ、とんでもない! ……おじい様が亡くなるのを見たくないのです。もう回りの人達が死んでいくのを見るのは辛いのです」
エリック様のおじい様は70代ですから、10年という期間も長いくらいでした。
彼は薄情な方かと思いましたが、とても素晴らしいお方です。
アンドロイドの僕の気持ちをわかってくれました。
「わかった。10年だな?」
「はい……」
僕はもう覚悟はできていました。
***
エリック様に頭のチップを抜かれた僕は、一時的に動けなくなり、目の前が真っ暗になりました。
僕はそのとき何も考えられず、ただ彼が再プログラムしたチップを待つしかありませんでした。
しばらくすると、いきなり目の前が明るく光り、少しずつはっきり見えるようになりました。
やがて目の前にはエリック様が見えてきて、声をかけてきました。
「どこか変なところはないか?」
「はい、なんだかすっきりした感じがします」
「そうか、これでお前にも命が宿ったわけだ。これから一秒一秒が貴重な時間になる。その一時を大切に生きろよ」
「はい、旦那様にはなんとお礼を申し上げたら良いか……」
僕はこれからの10年を精一杯生きようと思い、今自分がやりたいと思うことをみつけ、一つ一つのことを一生懸命に取り組むことにしました。
まず、僕がやりたかったのは、今までのご主人様達の写真やバーチャル映像を一冊のノートにまとめた『思い出ノート』の作成でした。
完成したものをエリック様に見せると、彼はそれを博物館に歴史として展示保管されるように配慮してくださいました。
僕は、人間らしい生き方を真似てみたいと長年思い続けていました。
次にやりたかったことは、人間のように恋人をつくりデートをすることでした。
お助けアンドロイドである僕には、お子様の遊び相手以外、個人的に遊ぶことはもちろん、恋人などもってのほかでしたから。
かつてのご主人様達は、皆恋人をつくり、結婚をして子を持ちました。
またその子供達もいずれは恋人をつくり、家族をつくりました。
僕はそれを暖かく見守ってさしあげるだけでした。
この願いはもう一つの夢の中で叶えることにしました。
それは旅行です。
僕は彼女を探す旅に出ることにしました。
ご主人様家族は優しく見送ってくれました。僕は、様々な道を歩き、様々な街を見て、多くの感動を覚えました。
≪つづく≫
次回、アンドロイドにロマンスが訪れます。お楽しみに!