第2話 『気の利く精巧なアンドロイド誕生』
ある日のこと。
僕は生まれたばかりにして、窮地に立たされました。
「このアンドロイドは失敗だな。廃棄して作り直しだ」
アンドロイド製造会社の社長さんが言いました。
僕の頭部に埋め込まれたチップが取り外されそうになった。
そのとき、ある男性が声をあげてくださったのです。
「その失敗作、私に譲ってくださいませんか? うちは、アンドロイドを買える程裕福じゃありません。捨てるなら、頂きたいのですが」
社長やその場にいた技術責任者らは、レベルの低い人間だと彼を嘲笑っていました。
「なんの役にも立たない失敗作だぞ。持ち帰っても邪魔なだけだ」
「私が最低限修理して使います。うちの生活機器は、自分で直した貰い物ばかりです」
上司がバカにした目で見ている貧乏さをむき出しにしたようなこのお方こそ、後に僕のご主人となる旦那様・ジョン・ハシディー様です。
最初、僕は意味がよくわかりませんでした。
失敗作でしたし……。
でも、今となっては感謝しています。
彼は僕の命の恩人ですから。
旦那様は、トラックの助手席に僕を座らせました。
普通、トラックならば僕のような大き目の機械は荷台に乗せるでしょう。
その日が雨だったわけでもないのに、旦那様はこんな僕をモノではなく、ヒトと同じように扱ってくださったのです。
***
試しに、修理せず一週間過ごしてみました。
やはり、僕は全然役に立たず、むしろ厄介者のお手伝いでした。
洗濯機の蓋を開け、柔軟剤を専用の計量カップに入れるまではいいのですが、柔軟剤の箱を戻す際に中身が零れて、洗濯機の中に柔軟剤が余分に吐いてしまいます。
旦那様の車の修理を手伝った際は、頼まれたボルトの隣に置いてあるプラスドライバーを渡してしまったりもしました。
仕舞には、笑っているのに、困った表情が機能してしまうこともあり、まだ幼かった娘さんたちを泣かせてしまうこともしばしばありました。
週末の朝、狭いリビングで家族会議が開かれ、僕の改善について話し合われました。
旦那様は、その全てを順番に修理していきました。
作業部屋は寝室。
奥様はガレージでやるよう勧めたのですが、旦那様は眠くなったらすぐにベッドへ入り、起床後もベッドから起きてすぐに作業に入れることにこだわりました。
ガレージに移動する時間ももったいないと、僕の改善に必死で取り組んでくださいました。
耳栓をした奥様がダブルベッドで気持ちよさそうに寝返りを打つ中、旦那様は僕の体をいじり続けました。そのお蔭か、僕は飛躍的な変化を遂げ、奥様の家事手伝いや、子供達の家庭教師、ご家族の喧嘩の仲裁役など、大いに役立つように改善しました。
***
しかし半年後、旦那様は、僕にはまだ何かが物足りないと感じたようです。
僕に感情の変化をプログラミングし直し、なかなか手に入らなかったシリコン樹脂を使って、表情も滑らかに変化するようにも作り直されました。
≪つづく≫
次回は、アンドロイドに転機が訪れます。お楽しみに。