ヒトとケモノ
ボクらはわからない。ケモノだから。
考えることは出来ても、気づくことは出来ない、ケモノだから。
賢くもなければ、憎むこともしない、ケモノだから。
ボクらはヒトより弱い、そしてヒトはボクらが嫌いだ。
いつも殺そうと狙っている
きた―――ヒトだ
いつも3人か4人で、姿を現してくる。
もういくつも殺された。
近所のおじさんも、おばさんも、お兄さんも、お父さんも。
ただボクらは自分の気持ちに気づけない。
その気持ちを、どうすればいいかもわからない。
その気持ちを、どこへ捨てればいいかもわからない
「キミはだれだい。
私はヒトが嫌いなヒトだよ
名前はノエミ
キミにヒトを殺す権利を譲ろう。私は疲れたんだ」
珍しくヒトは一人だった。
ケモノのボクには言っていることは解らなかった。
「殺すってなに?殺されるなら知ってるよ?」
ヒトが遠くから迫っていることに気づいていた。
けれど、もうどうしようもないと思った。
その時、ヒトはボクの顔にキスをした。
すると。
ボクの胸のところに今まで持っていなかった゛何か゛が現れたことに気づいた
そして同時に、体から力が湧き出るのにも気づいた。
その胸から溢れ出る゛何か゛に従って体を動かせば、
あんなに強かったヒトは簡単に千切れとんだ。
ボクはさいきょうだった。
ボクはヒトを殺せるようになってから
ヒトの言葉もわかるようになった
ヒトの気持ちもわかるようになった
胸にから溢れるヒトを憎む気持ちを手に入れた
そしてヒトを殺す度に失っていくものがあるのに気づいた
一方のノエミはボクらと過ごす度に
ボクが失った沢山のものを手に入れていた
ノエミはボクらに色んなものを与えてくれた。
知識や遊び、ヒトから逃げる術にヒトの話
最初あった、刺々しい感じもいつの間にか消えて
幸せな夢のような日々が続いた。
だけど、その幸せの反面にボクは
日増しにケモノからヒトに近づいていく自分にも気づいた
ノエミを見ていると、まだ説明できない胸の゛何か゛があった
どうせこれもヒトへの憎しみだと思って、怖くなった。
いつから憎むことを覚えてしまったのだろう
ヒトは賢くて、強い。けれど―――
ケモノは弱くて、スカタンだ。だけど―――
顔を触ると涙を流している自分にも気づいた。
その涙がどこからくるものか理解できる自分に
ボクはまた涙を流した。
ある日。
数え切れない程のヒトの軍勢がボクらを襲撃した
狙いはノエミだった
沢山反抗した、だけどヒトの刃がノエミの胸を貫こうとしたとき
僕はノエミが受けるはずだった、それを受けた。
額から流れ落ちる血が止まらない。
身体から力が零れていくのがわかった
ボクはさいきょうではなくなった
だけど―――――――――失ってたものを取り戻せた気がして、笑った。
ケモノの僕を抱いてヒトのノエミは叫んでくれる。
もう今の僕には何を言っているのか理解することはできなかった。
なのに、ノエミの叫びは心に刺さる。
気づくことのできない筈の頭なのに、ノエミとの過ごした日々が蘇る。
ああ、そうか。
ボクは―――――――――ようやく気づけたんだ