4 忘れる言葉
次の日の昼休み、放送室にいた。有紗と秀一が放送部員と話して、時間を貰った。二人は有名人だから、ゲストとして登場することを歓迎していた。こういうとき、二人がいると話が早い。
放送部員が『お昼の放送』を初めて数分間挨拶した後、秀一と有紗を紹介した。
「来栖有紗です。今日は少しお時間をいただきました」
「瀬尾秀一です。こういう場所で話すのは緊張するな」
「だね。何を話そうか?」
有紗と秀一が自分たちの噂について答えている途中で、軽く手を上げた。
不意打ちの方が良い。皆が有紗たちの話を聞いている今、この時が丁度良い。
「始めます」
腹式呼吸で声を出した。叫びたい衝動が身体を支配しそうになるけど、ここでそれをしても何も伝わらない。
今は冷静にならないと失敗する。当然割り込んだ僕の声に放送部員は固まっていた。
『始まり』の言葉は人を縛る。終わらせることができるのは発言者だけだ。
「それじゃあ、説明するね。本当の言霊を知らない人は多い。最後まで間違ってはいけないから」
言霊は、ルールを逆に言えば『言霊』の存在を忘れさせることができる。
さ行の最後から言って、成功させる。
『そ』れじゃあ、『せ』つめい、『す』るね、『し』らない、『さ』いご。
「終わり」
これで言霊のことは忘れたはずだ。あともう一つ忘れさせなければならないことがある。
通常の言霊と同じように、この後に願いを言えば願いが叶う。
一息吸って、はっきりと言った。
「『おまじないの絆創膏』のことを忘れろ」
今回は、これだけを忘れればいい。言霊は、正しい知識を得ない限りは思い出せない。『おまじないの絆創膏』は、絆創膏を『おまじないのアイテム』とすることを忘れさせるだけで良かった。絆創膏は怪我のときに使うものだ。
僕は、本当の言霊を知っていたから言霊のことを思い出した。だから、それを知っている僕が言わないといけなかった。
有紗と秀一は両手で耳を塞いで、『言霊』を聞いていなかった。二人は忘れない方が良い。始まりの言葉を聞いてしまうと、聞かなかったことにはできない。その時点で耳を塞いでも無駄だった。僕たち三人以外の人は、何が起こったかわからないようだった。
きっと、僕が『言霊』を使ったことも忘れている。
これからも『魔法の言葉』が『言霊』だと知った人が、僕と同じように記憶を消すだろう。僕がかつてそうであったように。
いつの間にか、忘れている。
「今日は有難うございました」
「では、俺達はこれで」
何事も無かったかのように、秀一たちは締めの挨拶をして放送部員に引き継いだ。
欠席などで放送を聞いていなかった生徒もいる。でも、『魔法の言葉』の流行は消えていくだろう。
一度流行ると二度目はすぐには流行らない。
何それ。変なの。
影響力のある有紗が否定すれば、流行は途絶えるだろう。
有紗に別の流行を作ってもらうのも良いかもしれない。
もし、この学校外で『魔法の言葉』が流行っていたら。
『言霊』を知っている人がどうにかするんじゃないかな。