Fragment
「ん。」
屡軌がそう言いながら手を出してきた
「え?・・・あ、はい」
コップを渡すと沈黙が流れた。
「・・・・・・。」
「俺の顔になんかついてるか?」
じっと見つめられていたのが気に障ったのか少し不機嫌な顔になる。
「いいえ、ただ・・・。」
「ただ?」
「思ったより優しい方なんだな・・・と。」
「兄貴よりも?」
今日はその話にとんと縁があるようだ。
「ええ。」
「兄貴は優しいっつうか、甘いからな。」
「そう、何ですか・・・。」
全然優しそうには見えないけれど。弟には優しいのかしら?
自分が助けてもらったことを棚上げしていることに気づいていない・・・。
「ああ。」
わかりにくいけどな。
「だから、傷つくのに・・・やめないんだ。」
「はぁ・・・かわいそうですね。」
そんな人には見えないけれど。
「同情してもどうにもならんからな、周りで支えてやらないと・・・。」
本当に無茶ばかりしてくれる兄で・・・。
「やはり、貴方はお優しい。」
支える・・・か。
「あはは、人の必死の願いをいとも容易く踏みにじるけどね。俺は。」
なんか、手玉に取られてねぇか?俺。
「それも、お兄様を思ってのことでしょう?」
「そうだね、兄貴のためなら悪魔にも天使にもなれる自信がある。」
やっぱり面白い女。
「吸血鬼の口から、悪魔や天使などと言う言葉が出るとは驚きです。」
信じているのかしら?
「一応下界にも、興味はあるから・・・。」
そう言うと少しほほ笑んだ。
「では、私がお話しましょうか?」
一応神官に身を置いていたのだから少しは役に立つよね・・・。
「次の機会に頼むよ。」
この女聖職者か。
「はい。」
次っていつかしら。またお話できるのが楽しみだわ
「・・・・・・。」
「すいません、貴方の名をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「俺か?俺は屡軌。」
「屡軌さん。」
屡夷と一文字違いなのね・・・さすが兄弟だわ。