Hinter Gedächtnis
「無事運び終わりました。」
主様が紅茶を呑んでいる・・・紅茶嫌いは克服されたのかしら?
見間違いではないかと目を擦る。
しかし、目の前の主――屡夷――は確かにティーカップに注がれた紅茶に口をつけている。
不意にそのカップから口が離され、こちらも向かずに口が開かれる。
「そうか、ご苦労。」
「今後はいかがなさいますか?」
たしか予定はなかった筈よね
「少しの間この屋敷に滞在するとしよう。」
面白いモノも手に入ったことだしこの屋敷にいるのもいいかもな
「しかし、協会に見つかってしまうのでは?」
やはり、今宵の主様はどこかおかしいわ!
「そこらへん抜かりはない。」
――協会ね。
「ご意思に従いましょう、主様。」
その後しばし続いた沈黙を破ったのは意外にも屡夷だった
「人間界など、所詮ゴミたちの溜り場だ。」
そう言われた稀羅は事態が読み込めず目を見張る
しかし、ここは長年この主に仕えた稀羅だ――すぐに主の望む応えをはじきだす。
「いかにも、神にも悪魔にもなれない中途半端なモノたちの集まりですわね。」
紅茶を呑むなど、久しいな。
そういえば昔毎日紅茶をいれてくれた人がいたな――
―――『私はね。紅茶の中ではダージリンが一番好きなの。』
遠い記憶が昨日のことのように甦る。
「そう、昔それでも人間界に帰るといった愚か者が居たな。」
俺はアールグレイが好きだったよ―――
それは紅茶の好きな『彼女』が唯一嫌いだったもの。
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灯籠