プロローグ3 「首無しの巨鳥」
私、ムア・イルムユは冒険者だ。
今現在は、討伐依頼の対象『ケブニス・タルミヤウ』の目の前まで来ている。
「と、ホントに鈍いなこの子」
この鳥型モンスター、かなり接近しているのだが、未だに反応が無い。
「……んー」
無防備すぎて逆に怪しい。
と、流石に感じるが、目と鼻の先にいるこの時点で、一捻りだ。
「おもしろ」
試しにつんつんと触ってみたら、羽毛が逆立つ。
ぞわぞわっと動いてもこもこになるので、かなり触り心地が良い。
「うわぁ……、この羽毛だけ全部毟ろうかな」
この羽毛で寝袋作ったら、さぞや素晴らしい寝心地だろう。
「とはいえ、討伐依頼だし全部依頼者に持ってかれちゃうんだろうけどなぁ」
冒険者がクエストで狩る獲物のほぼ全ての素材が依頼者の物である。
まあ、金で雇って獲物捕って来いという仕事なのだから仕方がない。
この『新種』モンスターは新種故に、素材の質で上乗せに報酬が出る。
それに文句はないので、この羽毛はお預けだ。
どうしても欲しければ個人的に討伐許可をもらって狩に来ればいい。
森に入るのにも通行料とかかかるが、それは仕方がない。
「この個体だけじゃなきゃあいいんだけど」
いきなりこの個体だけで絶滅。
ってことは無いと思いたいけれど、そんな事も別に無い訳じゃない。
『魔物の進化』という現象は確認されているし、他の魔物を喰らって強くなった個体は、元の魔物と比べてかなり変質している物だ。
だが、こんなに意味不明な魔物がどんな生態で、どんなものの上に成り立っているのか興味があった。
「じゃあ、あっさりしちゃうけど、ごめんね」
バッサリと、二本あった脚を切断する。
もうこれで動けないだろう。
「……うわあ、静かだね」
首から上が無いせいか、全く無反応に感じるが流石にそんなことは無いようで、ズドンと身体が地面に落ちると、今までに無いほどに羽毛を逆立てた。
「これしか身体の機能無いの?」
と、流石に不憫に思うが、まあそんな事はいいだろう。
良くわからないが腹部が急に膨らんでいた。
「なんだろう?」
もしかして、身籠ったとか?
いやいや、そういう事じゃないよね。
腹が膨れたのは、そうだなぁ、ご飯食べたから、かな?
どうやって?
いつの間に?
この鳥は謎に事欠かない。
「まあいいや、取りあえず腹掻っ捌いてみようか」
安直に。
一応こんなデカいのそのまま運べないしこの巨体見た時から解体するつもりだったけれど、胃の中何が入ってるのかとか、かなり興味がある。
「よし、じゃあ捌きますか」
躊躇いなく、身体の真ん中にナイフを突き立て、解体用の小刀を器用に捻る。
一層羽毛がもわっとするが、無視して作業する。
「ふぅ……、こんなもんか」
鳥の身体は見事に肉塊として分解した。
羽毛付きの毛皮と、あとは内臓。
肺とか、かなりおっきい。
どこから空気吸ってたのかわからないけれど、これはかなり強靭ですよ。
「で、これが胃っぽいかな」
袋状の器官を見やる。
これもなかなかのサイズだ。
「何も喰ってないって訳じゃなかったんだね」
当然と言えば当然なのだけれど、ちょっと意外だった。
そういう性質の魔獣も、存在しないという事は無いだろう。
腹が膨れたのも、防衛本能の一種かと考えていた。
「さて、何を食べてたのかなあっと……」
胃袋を裂くと、ドロッと中のものが出て来る。
血だ。
胃液が出てきたのかと思ったけれど、違う。
しかし中にあった物は、溶かされているという感じではなく、どちらかと言うと”保管”しているような感じで、中身はそんなにぐちゃぐちゃではなかった。
「ただ、うーん……、どういう事?」
首を捻る。
どこから食べたのか、とか、それもかなり気になるのだけれど。
「困ったなぁ」
この仕事は、なかなかに扱い辛い事になってしまったようだ。
「まあ、取りあえず……」
鳥の胃袋の中から出てきたのは、傷だらけの少女だった。
誤字などあったら教えてください。