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屋飼乃音は努力次第  作者: 土曜原アオ
プロローグ
2/4

プロローグ2 「ミヤウの森」

「はぁ……っと、結構奥まで来たみたい」


 森の中で一人、息を()く。

 Cランク冒険者であるムア・イルムユは、ギルドで依頼を受け、この【ミヤウの森】へと足を運んでいた。


 多種多様な魔物が生息する森林系の迷宮(ダンジョン)では、他の迷宮に比べ、その場所固有のモンスターが数多く存在する。

 それはこの森でも例外なく、今回はこの森で新たに確認された魔物の討伐が、ムアの受けたクエストだった。


『Cランククエスト:【ケブニス・タルミヤウ】の討伐』


 なんでも最近見つかった新種だというモンスターで、肉など素材がどういうものなのか、どれくらいの価値があるかの調査としての依頼だった。


 ミヤウの森中腹の難易度はDランクである。


 不確定要素も含め、Cランク以上の冒険者に対してのクエストとして発行されたそれを、ムアは受注した。


「んー、いないなぁ……」


 タルというのがこの世界で言う鳥類を指す物の意であり、ミヤウの森に分布している鳥の総称がタルミヤウとなる。


 つまり鳥みたいなモンスターを、ムアは探していた。

 報告書には、そのモンスターの特徴などが書かれていたが、ムアはそれを見ていない。

 名前だけ見て、それでどうにかなるだろうと高を括っていたのだ。


「鳥なんだから飛んでるはずだよね」


 と、上を向いて歩いている。

 木の枝や空を見て、それらしいものがいないか探しているのだ。

 下を見ず、器用に足元の障害物を踏破しながら、森の奥へ奥へと踏み込んだ。


 ミヤウの森には約90種の鳥類型モンスターが生息する。

 その中でも、ここミヤウの森のみに生息する24種を含め、それらを全て把握しているムアは当然、新種であるモンスターは、見ればわかる(、、、、、、)のだ。


「あー、そもそも見つけられなきゃ見れないかぁ」


 自嘲気味に独り()ちる。

 今日何回目かの溜息の後、すぐそばの草むらから生き物の気配を感じ、そちらに意識を向けた。


「ほお……」


 ここでムアは目を瞠る。

 意外な物を見た。という様子で、それを観察する。


 それは陸上に降りた鳥の身体。翼を持っているのに何故地上にいるのかわからないが、それはおそらく、その巨体さ(ゆえ)だろう。

 これでは常に飛び続けるのは無理そうだ。

 それが羽毛に包まれていて、討伐依頼されている【ケブニス・タルミヤウ】であることは、彼女の知識から見て、「明白」だった。

 それはほぼ微動だにせず、草むらから出てきたネズミの魔物が脇を素早く通り抜けて行く。


 モンスターは、こういった自分より下位のモンスターを喰らって成長する生き物だ。

 しかし近くにいた小型獣が無事だったという事は、この鳥がこの類を獲物にしないという事だろうか。

 小さな獲物ではこの巨体を維持できないのか、ならばもっと大きい、中型の魔物を捕食するのだろうか。

 そのレベルまで成長している魔物だとすると、少々厄介である。


 わずかに呼吸している事だけは理解(わか)るが、それ以上にどういう生物なのかが全く分からない。


 レベルが高くなった魔物の中には、小さな魔物を襲わなくなるものも存在する。

 だがそれとは別に、モンスターがなぜこんなにも動かないのかが、不可解なのだ。

 モンスターは基本、近くに獲物があれば襲う。というメカニズムで動いている。

 自分より弱い生き物には牙を剥き、自分より強い物からは逃げるという習性があるのだ。


 そこで、ムアは試しに【魔物除け】を使用する。

 この森の最深部に生息するBランクに相当した魔物の匂いを似せて作ったこれは、自分より強い魔物から逃げるという性質を利用したアイテムだ。

 同時に、初見の相手の強さを、ある程度見極めることも出来る。

 そしてたとえ逃げ出したとしても、ムアは自分なら確実に追いついて狩れるという自信があった。


 しかし、この鳥は動かない。

 ほぼ気配を感じさせない巨体が、未だそこには存在する。


「Bランクの魔物除けにも反応なし、か」


 近づいて行くと、更に奇妙な点に気が付く。

 始めは木の枝に隠れて気が付かなかった。

 ただ、その巨大な鳥の身体には本来存在するべきものが欠落していたのだ。


「ケブニス……、ってそのままの意味だったのね」


 一人納得する。

首無し(ケブニス)】の意を含む鳥を不思議そうに眺め、ムアはもう一度だけ、息を吸う。


 翼を持つのに飛ぶこともせず、首から上が存在しない魔物は、如何(どう)やら見た目通りに、周りが見えていないらしい。

 これではそもそも、餌をどうやって食べるのかもわからない。

 見た目から恐らく鈍足で、その巨体から、そもそも飛ぶ事は出来ないのだろうと思われる。

 脚が異常に発達しているようだが、関節が無く、『走る為』と言うよりも『突っ立っている為』と言った方がしっくりくる感じだ。


「じゃあ、サクッと狩りますか」


 Bランクの魔物除けに反応しなかったのも、単純に頭部が無いからだろう。

思った以上に弱そうな獲物にほくそ笑みながら、ムアは迫る。


 長い時間探すことで溜まっていたストレスをぶつけるべく、ムアはその怪鳥へと近づいて行った。

誤字などあったら教えてください。

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