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屋飼乃音は努力次第  作者: 土曜原アオ
プロローグ
1/4

プロローグ1 「夕闇の惨事」

 真夜中の公園。

 少女の声が、弱々しく辺りに響く。

 街灯は(ひしゃ)げ、地面のアスファルトは無残に(えぐ)られ崩れている。

 雲間から僅かに差した月明かりによって、辛うじてその光景が見て取れた。


「……ぁ」


 そこには元々は少女の親友だった亡骸(もの)だけが存在した。


 その身体からは既に生気が抜け落ち始めており、顔があった場所からは大量の血液が噴き出している。


「……いや……嫌だよ…………」


 怯えからか、脳が現状を拒絶している。

 その目は、焦点が定まっていない。

 だが、この惨状からとても目を背ける事が出来ない。


「ぅ……ぁあ……」


 それでも必死になって、その血を浴びてでも、死体(しんゆう)を抱きしめていなければ少女はとても平静(いしき)を保つ事が出来なかった。


 木の陰に身が隠されていたが、そもそもそれは無意味だと理解する。


――メキ、メキ


 と、木がへし折られる音が、耳に届く。

 恐怖故の好奇心が、強張る少女の顔を持ち上げ、その光景を作り出した元凶へと視線を向けさせた。


「…………っ!」


 思わず息を飲む。


 街灯に照らされるそれは、巨大な鳥の首だ。

 小刻みに、虚空に浮かぶ首をカクカクと傾けながらこちらを睥睨する鳥の頭(ばけもの)の姿。

 蛇に睨まれたカエルの様に、少女の身体は恐怖に染められ動かない。


 目に映るのは常識から遠く外れていて、ひどく現実離れしている。

 事実、首から上だけのその物体(とり)は『化け物』でしかない。


 襟巻(えりまき)の様に首の根元を覆う鶏冠(とさか)を震わせ、ペリカンに似た(くちばし)から弾き出されたのは、鳴き声だ。


――――――――ッ!!


 音にならない絶叫が、空気を割る。

 空間の振動は、少女の脳を容易(たやす)く揺さぶり、感覚を狂わせる。


 耳鳴りがひどい。

 涙が滲む。

 吐き気に見舞われ、目眩が襲う。

 意識が現状を、この非常識を認識出来ない。


「う……うぅ…………」


 虚弱に(うな)る。(うな)される。

 こんな化け物は存在しないのだと、意識は現実逃避を始める。

 一層強く、既に冷たくなったもの(、、)()く。

 ぎゅっと強く。

 縋るように、強く。


 少女はふっと、目を瞑った。

 縋りついて、やっと、悪夢から目を逸らす。

 顔をうずめる。

 もう血の匂いに塗り潰されているはずの親友の残り香に包まれ、安心したように身体から力を抜く。


「…………ゃ……」


 そして眠るように、少女は深い闇の中へと、その意識を手放した。


『クアアァァアァァァッッ!!』


 喉元から発せられる爆音じみた奇声。

 少女の様子を窺う様に、瞬きだけをしながら首だけの怪鳥は獲物を()える。

 人二人を丸呑みに出来るほどに大きな口が少女に近付けられ、何故か未だ警戒する様子で、鳥は目の前にある少女をつついた。


 いたずらに少女の肌を破り、痛々しい傷を作っていく。

 鳥首の行動は動物らしい故に生々しく、その光景は不気味さを孕む。

 少女の身体に嘴の一部があたるが、しかし少女はピクリとも反応しない。


 数分の間(なぶ)り、ようやく満足したのか。

 化け物は器用に二人分の肉(えさ)を拾い上げ、開かれた口の中へあっさりと放り込んだ。


 誰かの声が聞こえる。


 この公園でこの化け物の死骸が発見されるのは、夜が明けた後の話だった。

誤字などあったら教えて下さい。

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