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第46話 神話の目覚め(真・イリーナ視点)


 あの日。

 永い時間をかけて封印の中で完成させた術式によって、誰にも悟られることなく復活し、療養した後にこの世を謳歌する予定だった、私──イリーナ・レティス・セラフィムは、予定を覆す不幸に見舞われた。


 封印から抜け出し、その代償に魔力が尽き掛けた瞬間、何者かの意識が“私”を押しのけ、この身体の主導権を奪ったのよ!


 そして、意識を失った私が次に目覚めると、眼前に変なのがいた。

 犬っぽい何かだ。


 嫌な気配を放っていたので、とりあえず大魔王スキルの一つ、身体強化・無双──私は無双強化と呼んでいるけど──でその顔面を掴める程度に握り砕き、近くにいたそいつの仲間らしき二体に向かって、横になったまま強化した腕の力だけで投げた。


 立ち上がろうとすると、首に力が入らなかった。どころか、カクンッと妙な方向に曲がった!


(ななななな、なにコレっ!?)


 慌てて両手で固定する。すると不思議なことに、暫くそうしていただけで首が治った。動かすと最初は音が鳴っていたけど、すぐにスムーズに動くようになった。


 周囲を見回す。


(ここは……異空間ね。結界の中?)


 イマイチ状況が分からない。

 まずは、分かっているだけでも情報をまとめるべきね。と、その前に服を修復する必要がある。今の状態は女の子として看過出来ない。


 服に手を触れて、魔力を流し込んだ。すると、服が新品同様になる。

 この服は一見普通の服に見えるけど、私が作った魔道具だ。私の魔力を込めれば、あらゆる汚れをおとし、解れを直し、いつでも新品同様に早変わり! 洗濯いらずで旅人には心強い味方だ。


 と、そこへ近くにいた猿っぽい物体が、私に襲いかかってきた。

 無双強化はまだ発動中。親指と中指で輪を作り、力を溜める。手の届く距離まで来たところで、中指の力を解放した。

 額と思われる辺りに命中すると、力の余波で猿っぽい物体は頭だけではなく、体全体が消し飛んだ。仮とはいえ、復活の記念に見逃してあげてもいいかなー、とか思っていたのにタイミングの悪い物体だ。


 しかし解せない。

 私の体を使っておいて、憑依者は何故この程度の相手にやられたのか?

 現在、私の中で憑依者は眠っている。おそらく、起きたらまた私の意識は封じられることになるだろう。私はまだ、完全に復活したわけではないのだ。


 憑依者のことを考えていると、頭の中にいくつかの情報が浮かぶ。


(聖女スキル?)


 試しに腕を噛み、傷を作る。そこに手を触れて治そうとしたけど、魔法が発動する様子はなかった。が、改めて手を当てたままにしていると、傷そのものは治った。


「なるほど。そういうことね」


 どうやらこの体に備わった常時発動型のスキルは、私と憑依者でお互いに恩恵を受けられるけど、任意発動型の固有スキルについては制限がかかるようだ。


 納得した。 

 素の私、か弱いし。とってもか弱い乙女だし。


 パーソナルカードを確認してみる。今の私の状態が、どう表示されているのか知っておく必要がある。本調子ではない今の状態で、余計な注目を集めたくはないのだ。ちょっと買い物に勤しんでいるときに、うっかり大魔王という職業を見られて騒ぎになるのは面白くない。



 そして、私は目を疑った。



 所持金が0G。


 Gって何だろう。所持金はBで表示されていたはず。永い時間で変わったのか。それはまあ、別に良い。所持金と言うからには、そこの数字が現在の私のお金だ。



 0。



 おかしい。

 お金がない。あれだけあったお金がない!

 ちょっとしたお城の一つや二つくらい余裕で買える額はあった、あの大金はきれいさっぱり消えていた!


 何度見直しても、そこに記された数字は──0!

 短期間であの額を使い切るのもどうかと思うけど、ここまできれいさっぱり使い切るとか最早天才ね。


 私に憑依した何者かに、強い殺意が芽生えた。

 どうにかして私から引き剥がして、絶対、殺そう。


 当面の目標が出来た瞬間、甲冑が私の頭に槍をぶつけてきた。髪の毛が一本、はらりと落ちる。


 これはアレだろうか。

 虫の居所が悪くなった私に、憂さ晴らしを提供しようという心遣いなのだろうか?

 見逃してあげると言ったのに、この仕打ちだ。自慢の髪を台無しにされたら、いくら寛大な私でも黙ってはいない。



 私は、今の苛立ちの全てを、甲冑にぶつけることにした。




 ◇◆◇◆◇◆




 結界から解放された私は、森の中にいた。

 先程も森の中ではあったけど、周囲の木の葉の形が違う。魔力の流れにおいても、ここが結界内だとは思えなかった。


「さて、と……」


 ちょっとだけ気が晴れたところで、現在の状況を整理しよう。


 封印から抜け出した後の情報で、私の頭の中に浮かぶモノはある。やはり憑依者の記憶の一部を共有しているようだ。


 それによると、憑依者は聖女と呼ばれる者。

 憑依者は勇者と呼ばれる者とパーティーを組んでいる。

 勇者と聖女は聖剣を覚醒させ、聖剣は大魔王を倒すために存在している。

 大魔王=私。

 憑依者=聖女IN私の体。私=大魔王。ワタシ、セイケン、コロサレル。


「…………めんどくさ」


 魔道具の開発とかなら、頭を使うのは割と好きだ。だけど今は別件。妙なことにあまり頭を使いたくない。しかも久しぶりの外だ。情報収集を任せていた使い魔が帰ってこなくなってから、結構時間が経っている。私は刺激に餓えていた。気分をスッキリさせたい。

 

 めんどくさいから、その勇者と聖剣とやらには死んで貰おう。


 私は大魔王スキルの一つ『宝物庫』を使い、私専用の異空間に手を突っ込んで一つの魔道具を取り出す。

 それは、手の平大の透明な水晶玉だ。覗き込むと私の顔が映った。


(────ッ! ……ほほぉぅ……)


 憑依された時に私の体に何らかの影響があったのか、瞳が金色の魔眼になっていた。能力は魔力の総量の大幅な増加。単純だけど、汎用性は高い。  


 意外な能力の向上に心の中で感嘆した後、魔道具に魔力を込めて起動させる。水晶玉は中空に浮かび、真上に光の膜が展開した。そこには世界地図が表示されていた。


 魔道具『神の目』


 地図を投映し、自身の現在位置とこれまで行ったことのある場所と、触れたことのある生物の現在位置を表示することが可能な魔道具。拡大機能で周辺の地図に切り替え、表示される生物を人類種に限定。点滅する赤丸──私の現在地──を中心に、いくつかの赤丸が表示された。


 近くにいるのは一人、二人、四人の組み合わせで三組。内、二人組は交戦中なのか、激しく動いている。憑依者が戦っていたことから、片方がそいつの“敵”であり、片方が“味方”である可能性が高い。

 私を倒すということは、それだけの力を持つ勇者は主力であり、二人組の片割れと考えるべきか。


「よしっ!」


 私は腕輪を砲撃モードに変えて、二人組がいる方向に構えた。後で順番に他の組も撃てば、どれかは正解だろう。

 憑依者と視覚情報までは共有していないのか、勇者とやらの顔も拝まずに殺してしまうのは残念だけど、将来的に自分の命を脅かす相手を生かしておく理由もない。


 魔力を込めた。グングン込めた。二人組を倒して余りあるほどの、大量の魔力。魔力が増加している分、魔力の運用効率は多少無視しても問題ない。そんなことよりも一発ど派手に撃って、スカッとしたかった。──のに、突如、体に異変が起こる。


「──くっ……」


 込めた魔力が急速に抜け出した。まるで私の体が、大量の魔力を込めるのを拒否するかのように、体に力が入らない。動悸が激しくなり、呼吸が乱れる。軽い目眩に襲われた。


 このままではマズイ! 私は過剰すぎる威力は諦め、すぐに撃つことにした。ホーリースタッフには命中率補正効果がある。狙う場所のイメージさえ出来ていれば、多少のズレは勝手に修正してくれる!


 『神の目』に視線を向け、二つの赤丸が直線上に並んだ瞬間、私は引き金を引いた。


 ホーリースタッフから放たれる、魔力の奔流。それは狙い違わず、森の中を貫いた!

 瞬時に目標地点を通過し、その先に到達する収束砲。



 ドガアアアァァァァン!!



 爆発し、その力は森の中を荒れ狂う!


 暴風の中、私は意識を保てそうにないのを自覚した。


(──くっ……今回はここまでのようね。けど、当面の懸念さえ消えてくれれば……)


 私はホーリースタッフを腕輪に戻し、結果を確認するために『神の目』に視線を向ける。


「────なっ!?」


 二人組を示していた赤が、一つ残っていた。


(ハズれた!?)


 いやそれはない。私は二人組が直線上に並んだ瞬間に撃った。実際“一人には命中しているのだ”。印が一つ減っているのがその証拠。逸れたわけではない。つまり──


(回避したということね。私の収束砲を)


 この距離と私が放った収束砲の速度なら、ほぼ時間差はなく目標に届いている。この不意打ちは、戦闘職のマスターランクでも回避できるモノじゃない。


(残った方の“敵”は、それ以上の実力の持ち主ということか……厄介ね)


 せめて、勇者を倒せていることを祈ろう。




 そして私の意識は、再び闇の中に沈んでいった。






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