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第41話 イリーナVSツヴァイ ①


 天気は快晴。

 周囲は足首より背の低い草。

 行く手に広がる広葉樹の森。

 遠くには、緑が生い茂ったなだらかな山容。


 良い天気に良い景色。

 レジャーシートを敷いて、お弁当でも食べれば楽しいかもしれない戦闘結界(そんな場所)


 今、一緒にいる相方は、実に働き者だ。この景色を見て、もうちょっとのんびり寛ぐ心のゆとりを持って欲しい。


(ひぃぃっ!)


 走りながら咄嗟にサイドステップ。

 直後、先端の尖った金属の棒が、ひらりと舞ったスカートの一部を抉った。


 振り返ると、一緒にここに来た相方──ツヴァイと呼ばれていた甲冑は、手にした槍を引き戻していた。


 ボクを殺すこと(お仕事)に余念がない。ここへ飛ばされてから、ずっとこの調子である。


 このままでは、捕まるのは時間の問題。体力が尽きる前に、目前に迫った森に入って少しでも時間を稼ごうという魂胆だったけど、それが出来たところで打開策があるわけでもない。

 

 こちらの攻撃は通じない。相手の刺突が直撃すれば、そこで勝負が決まる。


 完全に詰んでいる。ように思える。

 それでも、たった一つだけ希望がある。

 

 創造神の手紙だ。


 ここがゲームの世界なら、何か攻略法があるはずなのだ。


 ストーリーで死が決まっている主人公のパパや、途中で死んでしまうヒロインがいたりもするけれど、そこは今考えても仕方がない。敗北が必須の戦闘とかも同様だ。勝てなければ殺されるのだから、積極的にそれを試す必要はない。今はやれることをやるしかないだろう。


(とは言え、どうしよう……)


 こちらの手札は魔力を使った攻撃のみ。射撃が通じないのは検証済み。通じる可能性があるのは砲撃だ。漫画とかなら防御できる威力には限界があって、想定外の高威力魔法なら通用してトドメ、となるところだけど、現在進行形でピンチだと試す余裕がない。隙を作る必要がある。


 ティアーシェさんがくれた回復アイテムがあるから、倒せなくて魔力欠乏症で動けなくなったところを逆にやられる、という心配をしなくていいのは救いだ。


 相手の槍を躱しつつ、何か手はないか考える。が、避けることに意識が集中してしまうので、なかなか良い案が浮かばない。 


(なんって邪魔な槍!)


 こっちには長柄武器なんてないから、避けるしかない。考えるために、まずはあの槍を何とかするしかないか……。


(しかし方法が……──あっ!)


 ふと、思い出した。


 オルカさんを狙って、槍を投擲された光景。



 あの時、甲冑への攻撃は音もなく消滅したけど、槍の迎撃には成功したのだ。



 それは、甲冑と槍は材質が違うということ。もっと言えば、槍には魔力による攻撃が通用するということだ。


 根本的な解決にはならないけど、武器破壊で相手が素手になるならかなり楽になる。問題は射撃では弾けても、破壊には至らないという頑丈さか。


 結局のところ、頼みの綱は砲撃モード。


 銃を変化させるのは走りながらでも可能だ。高威力の収束砲のように“確実に当てなければいけない一撃”を撃つわけではない。それでも多少の隙は欲しい。


 この甲冑相手に向かい合った状態で、砲撃しながら逃げることは出来そうにないのだ。


 銃ほどには連射も出来ない。撃てるのは相手の攻撃を躱した後、槍を引き戻す動作のタイミング。相手の速さを考慮すると、一度に一発撃てるかどうか。


(せめて槍に対抗できる武器でもあれば────って、あああっ!)


 自分と相手の動きをイメージしながら、何とかして確実に一発は撃てる時間を稼げないか思案していると、ボクには相手の攻撃では傷一つ付かないであろう、頑丈な“打撃武器”があることに思い至る。しかも、おそらく相手の槍よりも長い。


 こんな簡単なことに気付けなくなるなんて、先入観って怖い。


 ボクは腕輪に魔力を込めて銃に変えた。そこからさらに魔力を込める。


「────!」


 再びの刺突。それを躱す。だけど、今回はただ躱すだけじゃない!


「たあああっ!」


 気合いと共に、ボクは手にした物で、敵の槍を下から勢いよく跳ね上げた。


 手にした物。それは、全長約1800㎜の“打撃武器”。

 ホーリースタッフの砲撃モードだ。


 そう。銃だろうと大砲だろうと、撃つだけが攻撃じゃない。殴ればそれも攻撃になるのだ。


 何はともあれ隙は出来た。だけど距離が砲身より近すぎて、撃つことは出来ない。


(なら、もう一手!)


 槍を跳ね上げた状態から、さらに一歩踏み込む。その踏み込みの力を砲身に伝えるような意識で、相手の頭部目がけで全力で振り下ろした。


 ガンッ!


 金属製のバケツに強い衝撃を与えたような、軽い、耳に響く音がした。


 頭部がちょこっとだけどヘコんでいた。


(物理防御、低っ!)


 魔消鋼、見た目よりもかなり柔らかい金属のようだ。最悪、殴り続ければ倒せるかもしれない。


 頭部がヘコんでも痛がる様子はなく、甲冑が槍を振るう。


「────っ!」

 

 光明が見えたことで、安堵したのが良くなかったのだろう。ほんの僅かに緩んだ緊張の糸。その刹那の隙を、甲冑は見逃さない!


(ホーリースタッフでの防御は間に合わない!) 


 瞬時にそう判断すると、少しでもダメージを減らすために地を蹴った。片腕を捨てる覚悟で身を守る。歯を、食い縛った。


 ゴッ!


「~~~~っっっ!」


 強い衝撃に吹っ飛ぶ体。地面を転がらなかっただけマシだろう。


(い、痛い! めっちゃくちゃ痛いっ!)


 鉄パイプで殴られるようなものだ。向こうも刺すだけが能ではないということか。


 折れたであろうその腕に治癒魔法をかけつつ、次の行動に移る。即ち──


(逃げる!)


 近接主体の敵に、両手でも勝てるか分からないのに、ボクが片手で太刀打ちできるわけがない。打撃が有効だと分かっただけでも収穫だ。

 森まで逃げて、回復するまでは木が互いの中間にくるように動き、時間を稼ごう。あわよくば、砲撃で武器破壊を狙う!


(うまくいけばいいんだけど……)


 負傷したとはいえ、さっき逃げていたときよりも、多少は心が軽い。 



 それは砲撃が通用しなくても勝てるかもしれない方法を、一つだけ思いついたからだろう。




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