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第40話 二兎を追う者は


「ティアーシェ。あの魔法陣、どれくらいの威力か分かるか!?」

「わ、分かりません。さ、最低でも一キロメートル以上に影響を及ぼすということくらいしか……。もしかするとその何倍もの威力になるかも……」


 なら最悪、数キロメートルに及ぶ可能性もあると考えるべきか。


「止める方法は!?」

「も、もう起動しています。起点になっているいくつかの魔法陣があるはずですが、それを探して破壊しようとしても間に合いません! おそらく、一分~二分後には……」


 確かに、グングン魔力が増大するのを感じる。このまま放っておけば、すぐにドカンといきそうだ。


「起点って、特に魔力が集中している魔法陣か!?」

「分かるんですか!?」

「ああ」


 かなり広範囲に複数の魔法陣が形成されている。魔法陣で魔法陣を描くような光景で、複数の魔法陣の一部が重なっている箇所も多くあり、視覚的にはどれがどれだかさっぱり分からない。だが、俺の感覚は捉えていた。特に魔力の密度が濃い箇所を。


「……大雑把でも百以上感じるんだが……」

「ひゃ、百!? い、いえ。ぜ、全部止めるのは無理でも、いくつか破壊すれば多少威力は落ちるはずです! どの辺りですか!?」


 いくら俺でも爆発前に全部を破壊することは出来ない。それをするには、倒した人形が広範囲に散りすぎていた。


 俺は一番近い破壊する箇所を、ティアーシェに指示する。そこに複数の風魔法が撃ち込まれた。


「どうですか!?」

「命中した。だが……」


 全体的な魔力の流れは、ほぼ変わっていない。これを続けても威力が弱まる前に爆発し、俺たちはその直撃を受けることになるだろう。


「……仕方がない。奥の手を使う」


 俺は風王裂覇に大量の闘気を込めると、特に魔力の密度の濃い箇所が集中している場所めがけて、全力で投げた。



 覇王流・投擲術奥義──爆炎刃。



「爆ぜろ!」



 ドオォォン! 



 剣が着弾した場所に、十メートル程の空間がぽっかりと出来た。中心にはヒビが入り、刃こぼれした風王裂覇。その空間の外側にいた人形も、爆発の影響で吹っ飛び、先程とは配置が変わったことだろう。


 物に闘気を纏わせ、俺の制御から離れた高密度の闘気が暴走し、結果として爆発するのを利用した技だ。材質や大きさで纏わせることが出来る闘気の量が変わるので、その辺りの見極めが難しい。俺が本気でやると投げる前に物が砕けるので、普段使う場合は今回ほどの闘気を纏わせない。風王裂覇がダメになってしまったが、あれも魔道具の一種だ。イリーナなら直せるかもしれない。それどころか、新しく作れる可能性もある。後で頼んでみよう。スカート捲り(夢の生活)の為に。

 

「これでどうだ!?」


 魔法陣の光が弱まっていく。


「や、やりましたよ、オルカさん!」


 が、それはほんの数秒の出来事。魔法陣は配置そのものが組み替わり、何事もなかったかのようにその機能を再開する。


「あ……」

「クソッ、ダメか!」


 なんて奴だ、エスクード・マグナス!

 正直、人形たちの頭の悪さっぷりにどこか舐めていた。


 カシムは商人だ。

 一日足らずで用意できる戦力など、おおよその見当が付く。だが、フリージアはそれなりに大きな街だ。運良く手練れが何名か混ざり、ドラゴンもどきを倒せる戦力が揃うかもしれない。


 それでも関係なかったのだ。あの男には。


 ドラゴンもどきや人形たちで勝てるならそれで良し。全滅しても、全滅を起動条件にした爆破魔法陣が人形の体内にあるのだから。


 俺が奴でも、人形たちに任せっきりにしたりしない。少しの間、敵として対峙しただけでも何かやらかしそうな人形たちだったからな。


(まずいまずいまずい!)


 時間がない。焦りだけが募る。


「うおおおおっ!」


 俺はポーションが入った小瓶を取り出し、人形たちとは逆方向にそいつを全力で投げた。

 三百メートル程先で、見えない壁に当たって砕ける。これで少しでも距離を取るという手段が消えた。


 魔法陣の威力が一キロから数キロという推測。巨大な密室とも言えるこの空間なら、その破壊力は遙かに大きくなるだろう。


(魔法陣の威力が予想より弱いことを祈るしかないか……)


 だからといって、このまま爆発を待つ気はない。


「ティアーシェ、その中で伏せろ!」

「は、はい」


 俺はティアーシェを拠点の中に伏せさせると、その身を抱きしめるように覆い被さる。


 こんな状況だとおっきなおっぱいが腕にあたっても、流石のびぃすとも荒ぶらない。…………すまん。嘘吐いた。ちょっと荒ぶりました。


「あ、あの……この壁では爆発を防ぎきれないと思いますが……」

「分かっている。こいつを俺の闘気で可能な限り強化する。俺自身と、ティアーシェのローブもだ」


 幸いにも、ティアーシェのアイテムで爆発ダメージは大きく減少する。くらうまでに、どこまで威力を軽減出来るかが鍵だ。……想定内の最低の威力でも確実な命の保障はないが、それ以上の威力なら間違いなく死ぬだろうな。


「強力なポーションはあるか!?」

「あ、あるにはありますが、一つだけしか……」

「なら、安心だ」


 気休めを口にする。休まるかどうかは分からんが。

 どれ程重傷でも、死ななければ何とかなるのだ。


「オ、オルカさんが使ってください」

「は? ティアーシェが使うに決まっているだろ」

「で、でしたら、私が上になります!」

「却下だ。言っただろ。俺は俺とティアーシェを護る。例え瀕死で気を失ったとしても、サリラの腕輪が勝手に回復してくれるんだ。なら、ティアーシェはダメージが少ない方がいい。俺にはティアーシェ程の薬の知識がないからな」


 残念ながら、どう足掻いても無傷とはいかないだろう。最悪で死ぬ。ティアーシェの提案を採用すれば俺の生存率は上がるだろうが、その分ティアーシェの死亡率が上がることになる。

 

 そんな選択肢、俺にはない。


 二兎を追う者は一兎をも得ず、などと言うが、追ってでも得たくなるような二兎がいるなら、俺はどちらも得たい。一兎を助けるために、もう一兎を目の前で見殺しにするのは俺の矜恃を捨てるに等しい。



 その時、一瞬空が光った。



「──爆発します!」


 魔法陣の魔力が限界まで増大し、強い光を発したのだろう。刹那、俺は可能な限り闘気を防御に使う。


(頼むから保ってくれよ!)


 闘神の秘薬で闘気量が増加した分、余力はある。それを可能な限り防御に費やす。俺の人生で、ここまで防御に闘気を使ったのは初めてのことだ。それくらい、全力での防御だ。



 ドオオオオオーーーーン!!!


 

 耳をつんざくような爆発音。次いで、触れている土壁越しに衝撃波を感じた。


(ヤバイ、保たない!)


 自然と、ティアーシェを抱きしめる腕に力が籠もる。ここから先は俺の闘気法の技量と、ティアーシェのアイテムの効果と、イリーナがくれたサリラの腕輪が頼みの綱だ。中でも炎王龍の遺灰の効果が、一番ダメージを軽減してくれるだろう。


 その時、俺たちの体が一瞬だけ赤く点滅した。


「そ……そんな…………」


 ティアーシェが、恐怖混じりの戸惑いの呟きをもらす。嫌な予感しかしない。


「どうしたっ!?」


 俺としたことが、思わず美少女に苛立ちを含んだ声をぶつけてしまった。反省しよう。ここを無事に切り抜けて、俺たちをこんな目に遭わせたエスクード・マグナスをぶっ殺した後にでも。


「え、炎王龍の遺灰の効果が……消えました。こ、こんなに早く消えないはずですが……」


 俺の声とその内容、どちらが原因かは分からないが、ティアーシェは怯えを含んだ声で、俺たちが死ぬことを告げた。


 ヒビが入ったと思った瞬間には、粉砕される土壁。


(イリーナ!)






 そして────俺たちは爆発に呑まれた。






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