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第39話 人形たちの最後


「こんなもんでいいだろ」


 俺たちは魔法で穴を掘って三人を埋めた。無論、呼吸が出来るように顔だけは出しているが。


 この結界、地面の深さは二十数センチしかなかった。防具を着ているために多少盛り上がってしまったが、遠目には分からないだろう。


 野晒しにしても的になるだけだからな。埋めた方が狙われる確率が低くなるだろうと、ティアーシェを説得して数分で作業を終えた。


「これからあの人形たちと戦うんですよね?」

「ああ。早くここを出ないとイリーナが心配だしな」

「よければこれを使ってください」


 ティアーシェが琥珀色の液体が入った小瓶を差し出してくる。 


「これは?」

「闘神の秘薬です」

「────これが!?」


 聞いたことはあるが、初めて見る。


 飲めば闘気の総量が一時的に五十パーセントも上昇するアイテムだ。闘気が少ない奴や闘気法の練度が低い奴なら飲んでもあまり意味がない。だが、俺が飲む場合は別だ。


 これを飲めば闘気の消費が激しい技を、いつもより多用できるのだから。


「有り難く使わせてもらおう」


 どれだけ高価だろうと遠慮はしない。気軽に受け取る。勝算は高い方がいいからな。


「ティアーシェはこの辺りにいてくれ」


 男三人から離れた場所に拠点を作る。拠点と言っても厚めの土壁で輪を作り、その中にティアーシェがいるだけの簡素なモノだが、ティアーシェのアイテムにより物理・魔法防御が強化されている。この中に男たち三人を入れなかったのは、アイテムにそこまで大きな輪を強化できるだけの数がなかったためだ。幅としては一人が横になれる程度しかない。


 俺が派手に戦って敵の注意を引きつつ、ティアーシェはこの場で固定砲台をやってもらうことになっている。


「とにかく自分の安全を第一に考えろ。俺の援護はしなくていい」

「で、でも……」


 不安げに逡巡された。ドラゴンもどきを倒して俺の強さの一端を知ったとはいえ、相手の数はこちらの戦力の数百倍。俺が負けるかも、とか思っているのかもしれない。

 

「サポートとしては闘神の秘薬で十分だ。それに戦闘中もこいつが回復してくれるからな」

 

 左腕を見せる。そこには、イリーナから貰った腕輪が輝いている。


「こ、これは……ミスリルの腕輪ですか?」

「ああ。それもサリラの腕輪だ」

「あ、あれは布や革だったと思いますが……」

「俺もそう思っていたが、こうして目の前にあるし。しかも回復量が話に聞くサリラの腕輪より大きいみたいなんだよな」


 だから多少の怪我は問題にならない。そう言外に告げる。


「…………分かりました。で、ですが、危ないと思ったら下がってください。私も戦えます」

「分かった。俺も死ぬ気はないからな。その時は頼む」

「はい」


 キリッ、と表情を引き締めるティアーシェ。それは死を覚悟した者の目だ。女にさせたくない表情俺的ランキング、トップクラスのモノだ。人形共を倒してすぐにこんな表情は消してやろう。


「ん? 騒ぎが収まったみたいだな」


 ギャーギャー言っていた人形共が静かになる。実際はここまで聞こえないだけで、何か言っているかもしれんが。 


 立っているのは当初の半数くらいだな。ドラゴンもどきの爆発と、魔法で同士討ちやっていたことを考えると、無傷の奴もそれ程いないだろう。


 俺は闘神の秘薬を飲んだ。……薄めた蜂蜜の味がした。


 秘薬の効果はすぐに現われる。体内から力が吹き出しそうな感覚。覇王滅龍閃で消費した闘気を補っても余りありすぎると言っていい。想定以上に“派手”にいけそうだ。


「こ、効果はどうですか?」

「ティアーシェは、やっぱりそこに隠れているだけでもいい。負ける気がしない」

「え?」

 

 次の瞬間には瞬歩で移動していた。人形共から百歩くらいの距離で止まる。人形たちは予想通り、無傷のモノがあまりいなかった。


「あっ!」

「敵襲-!」


 俺は剣を抜き、攻撃に移る。敵の統率がとられる前に、出来るだけ数を減らしておきたい。


「急がないと仲間が危ないかもしれないんでな!」



 覇王流──闘刃・吹雪。



 闘気の刃──闘刃を連続で飛ばす! 前面一帯が敵だから、狙わなくても誰かには当たる。


「囲んで袋だたきにするわよ!」

「魔法攻撃よ!」

「身体強化魔法よ!」

「固まってたらやられるわ!」


 口々に人形共が騒ぐ。


 右往左往するモノ。

 散発的に飛んでくる魔法。

 何体かが、連携も何もない動きで殴りかかってくる。背後から飛んできた味方の魔法に当たる奴もチラホラいる。


 攻撃は簡単に避け、向かってきた人形はそれぞれ一撃で斬り伏せた。


(ひょっとして、指揮官がいないのか?)


 この規模の戦力でそれは考えられないが、動きを見ていると各々の考えで動いているようにしか見えない。さっきの騒ぎで指揮官クラスが全員死んだと考えるのは、いくら何でも都合が良すぎるだろう。


 暫く攻撃を避けつつ、闘刃や斬撃で倒しながら様子を窺うが、やはり統率された動きをする集団はいなかった。いたらいたでそこを優先的に潰すつもりだったんだが、いないなら好都合だ。


 この程度なら、集団戦闘に慣れたそこそこの強さの冒険者が百人もいれば十分対処可能だろう。ドラゴンもどきさえいなかったら、第二陣の奴らだけでも勝てたんじゃなかろうか。


(どうやら、エスクード・マグナスの切り札はドラゴンもどきだったみたいだな)


 そうと分かれば楽勝だ。


 相手の数が多いため、俺は少しずつだが後退を余儀なくされるが、この調子ならそれも問題ないだろう。



 それから暫くして、俺はティアーシェのいる拠点まで下がることなく、人形たちを全滅させるのに成功した。




 ◇◆◇◆◇◆




「ほ、本当に凄いですね……」


 俺の戦果に半ば呆然と呟くティアーシェ。


「思ったより大したことない相手だったな」


 数に騙された感じだ。統率力ならゴブリンの方が上かもしれないというレベルだ。単体の戦力としては魔法の威力分、人形の方が上だったが、当たらなければ関係ない。


「ど、どうかしたんですか?」


 話ながら周囲を見回していると、ティアーシェに訊かれる。


「ティアーシェは戦闘結界に捕まったことはあるか?」

「い、いえ。魔法陣と効果は知っていますが、今回が初めてです」

「戦闘結界は勝敗条件を満たせば、すぐに解除される。少なくとも、俺がこれまで経験したモノはそうだった」


 つまり、結界がまだ“終わっていない”と判定しているということだ。何かが潜んでいる可能性がある。

 

「…………あ……ああ……っ!」

「ティアーシェ?」


 見開かれた碧い瞳と、震える彼女の声。

 俺の背後を指す指先に導かれ、振り向く。


「────なっ!?」


 その光景には、流石の俺も戦慄せざるを得ない。


 いつの間に浮かび上がったのか、倒した人形たちの体のどこかしらに、魔力で形成された魔法陣が描かれていた。中には複数浮かび上がっている個体もある。


 それぞれの魔法陣が互いに干渉し合い、発動時の威力が飛躍的に増していく。


 それは、森に入ってからいくつも目にした魔法陣。



 爆破魔法陣だった。




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