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第3話 初戦闘


 ホワイトゴーレム。


 魔族が住む領土――魔族領でも危険度の高いエリアに棲息するゴーレムで、ゴーレム種の中でも上位種に入り、魔力によって並のゴーレムとは比べものにならない硬度を誇り、高い物理防御力と魔法防御力を併せ持つ、非常に厄介な魔物だ。少なくとも、並の戦士や魔法使いでは倒すことは叶わないとさえ言われている。

 白い岩がゴロゴロ落ちている場合、ホワイトゴーレムを疑え。近づくな。

 それは冒険者ギルドに所属している者にはわりと有名な話。


(って、情報遅いよ!)


 この身体の頭脳に文句言っても仕方がないのは分かっているけど、心の中で文句のひとつも出るだろう。


 眼前には身の丈三メートルは超える巨人。

 身長の大半は胴体が占め、脚は胴体の半分程しかない。が、腕は長く、地面の近くまで伸びている。指はない。先端は丸く、中心には穴が空いていた。

 人間で言えば頭に該当する部分にも岩の塊が鎮座しており、そこには目も耳も鼻も口もない。にも関わらず分かる。伝わってくるのだ。

 


 今、こいつと“目が合っている”と。



 残念なことに……ひっじょおぉぉにっ! 残念なことに! その視線からはあまりいい気配が伝わってこない。何だか背中がゾクゾクするのだ。悪寒だ。ひょっとするとこの気配が殺気なのかもしれない。


 とても強いらしいので、逃げる方法を模索する。

 戦うという選択肢はない。並の戦士や魔法使いでは勝てないような相手に、並ですらないボクにどうにか出来るはずもない。

 ボクにも使えてこいつを倒せるような武器でもあれば別かもしれないけど! ゲームの世界ならそれくらいのサービスあってもいいと思うんだ。でないとボク死ぬし!


 ボクの切実な願いが届いたのか、頭の中にその情報が浮かぶ。


「おおっ!」


 瞬時に理解が及び、希望が見える。助かるかもしれない!


 ボクは右手首の黄金の腕輪に魔力を通す。

 まるで長年何度もそうしてきたように、魔力操作はそうしようとした瞬間遅延なく行われ、魔力は必要な分だけ腕輪に渡る。その直後腕輪が光り、その形を変える。



 現われたのは細長い印象の自動拳銃。



 銃身長は150mmは超えているだろう。全長は250mmくらいか。全体的には黄金色で銃口付近はオリハルコン製で白く輝いていた。持ち主であるイリーナの魔力を弾丸として撃つから弾倉はない。グリップには装飾が施されている。重さは見た目に反して軽い。腕輪状態から変わっていないんじゃないだろうか。



 神器ホーリー・スタッフ。



 神器は魔道具の中でも最高ランクの名称らしい。

 そのひとつである魔法の杖を改造に改造を重ねて造り出されたものが、今、ボクの手の中にある。

 それが手の一部であるかのように錯覚しそうなほど、馴染む。 


 その“力”の威力を理解したことで、心の中にあった恐怖が薄れるのがわかった。

 同時に、薄れた恐怖の領域を闘争心が占有していく。



 意識が切り替わった。



 ◇◆◇◆◇◆



 バンッ、バンッ、バンッ。


 バックステップでホワイトゴーレムから距離をとりながら、銃から魔力弾を撃つ。

 まるで空気が弾けるような音を響かせ、銃口から青白い魔力の弾丸が射出されるのを見ながら、ボクは不思議な感覚に包まれていた。


 さっきまでホワイトゴーレムが視界いっぱいに映っていたように思えたのに、今は周囲の風景を視界の端に捉えていることを意識することが出来る。身体が軽い。手足が思った通りに動く。

 自分が殺されるかもしれないこの状況で、相手に意識を集中しつつも周囲にも意識を向ける。そんなことをする精神的余裕があるのだ。それも、魔力操作により身体能力を強化しつつである。

 

 初めてのことばかりなはずなのに、それを出来て当然とすら思える。いや、事実、これくらいのことは出来て当然なのだ。この肉体――イリーナ・レティス・セラフィムという名の少女は。


 キンッ! キンッ! キンッ!


 狙い通りの箇所――ホワイトゴーレムの胴体に着弾した三発の魔力弾は、金属と金属がぶつかり合ったような甲高い音を響かせ、跡形もなく霧散した。ホワイトゴーレムには一切の傷がない。無傷だ。


(やっぱり堅い!)


 今の弾丸には石を砕くくらいの威力を込めていた。できればちょっとくらいダメージがあってくれればよかったんだけど、これも想定内。念の為に近くにあった石に向かって同程度の威力で撃ってみる。石は簡単に砕けた。


 うん。威力は問題なし。やはりここはこの身体の性能と情報を全面的に信じるとしよう。戦うと決めた以上、信じるしかないんだから。


 なら、やることはひとつ。このゴーレムを倒せるだけの攻撃を放つことだ。


 この武器は注ぎ込む魔力の量とイメージによって威力や射程、効果範囲を変えることが可能だ。情報によれば全力で魔力を込めた攻撃なら、ホワイトゴーレムの頑強さを大きく上回る砲撃が可能であり、直撃すれば確実に倒すことができる。ただ、その為には数秒時間が必要だ。


「むっ!?」


 本命の攻撃の準備をしようとしたとき、ボクの攻撃にも無反応だったホワイトゴーレムが動く。両腕を左右に広げ――吠えた。


「グオオオオオオッ!」


 どこから出ているのか、その雄叫びは激しく空気を震わせ、聞く者の肉体を、心を萎縮させようとする。普通の人なら怯んで身体が硬直しただろう。それくらいの力が籠もった声だ。だけど今のボクには効かない。この体だと精神も強化されるのか、それとも魔力操作の影響か、とにかくその声を聞いてもボクのホワイトゴーレムに対する戦意は揺るぎもしなかった。


 ドシン! ドシン! と音を響かせボクに向かって突っ込んでくるホワイトゴーレム。その動きは鈍重な見た目と違って速い! 身体強化した今のボクと比較しても大差ないくらいか。

 姫宮夏姫としてのボクの運動能力は同年代の男子の平均値だった。足の速さや跳躍力で平均を少し上回るくらいか。魔力強化した今はその数倍の運動能力を発揮できる。それと互角の速度で動く岩の巨人の一撃は、並の人間には全てが必殺の威力を持つことになる!


 ホワイトゴーレムがまるで手を叩くように両腕を振る。標的は当然ボク。

 左右から迫る岩の腕。まともに食らえば骨折どころか内蔵が潰れて確実に死ぬ!

 バックステップだと踏み込まれて、距離が詰まればピンチが続く。しゃがんで避ければ踏みつぶされそう。なら――!


「たあっ!」


 ジャンプして躱す!


 ゴオンッ!


 ホワイトゴーレムの両腕の先が打ち合い、鈍い音が響いた。そのまま腕の動きがわずかの時間止まる。


(だったらこのまま!)


 その腕を足場に、ボクは手にした銃に大きく魔力を注ぎ込みながら駆ける。目指すはホワイトゴーレムの背後。今の身体能力で頭を踏み台に全力で跳躍すれば、10メートル以上の距離が稼げる!


 ホワイトゴーレムの頭を蹴って空中に跳ぶ。

 常人を遙かに超えたその跳躍はもはや滑空しているとすら言える。こんなときだけどここまで自由に身体が動くというのは凄く気持ちいい。その心地よさがより戦意を高めてくれる!


 ボクの戦意に呼応するように、大きな魔力を与えられた銃はその姿をさらに変化させた。


 ホワイトゴーレムに向くように空中で身を捻り、ザザッ、と地面の上を滑りながら靴底でブレーキ。止まったときには、銃の変型は完了していた。



 それは最早銃と呼ぶよりは大砲と呼ぶべきか。



 全長は約1800mm。口径75mm。重量はその大きさとは裏腹に変化はない。つまりはこのサイズで普通に持ち運べる重さだ。

 試し撃ちをしたいところだけど、この形態の魔力消費量は最低でも銃の数倍必要だ。だけどその分、威力も段違いに上がる。貫通力に至っては比べものにもならない。

 その知識が、白銀と黄金に輝くその物体を、頼りない重量に比べて随分と頼もしい存在感を放っているように感じさせる。

 

 何より、全力で魔力を込めた砲撃なら、必ずホワイトゴーレムを貫通できると、そんな検証結果の知識が頭の中にあるのだから。


 距離を再び詰められる前に、ありったけの魔力を注ぎ込む!


 ホワイトゴーレムがその巨体をゆっくりとこちらに向ける。


(遅い! これなら余裕で間に合う!)


 希望が大きくなる。


「?」


 と、大砲に魔力を注いでいると僅かに違和感。

 

 ホワイトゴーレムを倒すためには“全力の魔力”を注いだ一撃を直撃させる必要がある。それに相等するだけの魔力量をすでに注いだ感覚が何となくあるんだ。だけどボクの魔力にはまだまだ余裕があるのがわかる。


 こちらに向かって走ってくるホワイトゴーレムを見ながら、一瞬の思案。


(いいや、このまま込めちゃえ)


 確実に倒すのに、より威力が高くて悪いことなんてないだろう。それに距離が近い方が当てやすい。

ギリギリまで溜めよう。


 そう思い、さらに威力を高めるべく、魔力を注ぐ。

 ホワイトゴーレムが腕を伸ばせば大砲に触れるかどうか、その直前の距離まで迫られたとき、ボクは引き金を引いた。



 込められた魔力は“全力の魔力の感覚”の十数倍。ホントにホントの“全力の魔力”。



「いっけえええっ!」


 まさにボク自身の命運を賭けた一撃。



 ――――――――――――――――――――!!!



 刹那──軽い振動が砲身から伝わってきた。脇と手で固定していれば狙いが逸れるほどのものではない。

 

 無音。

 

 派手に音を響かせていた銃と比べれば余りにも呆気ない。

 しかし放たれたモノは、銃での弾丸とは明らかに次元が違っていた。


 言うなればそれは一条の青い光の奔流。


 それが圧倒的な暴力を伴ってホワイトゴーレムに迫る。

 時間にして一瞬にも満たない。

 にもかかわらず、ホワイトゴーレムはその体躯を関節部分から捻るような動きで回避行動を取った。

 信じられないその反応速度。

 それでボクは相手に遊ばれていただけだと悟る。

 最初から殺す気で来られたらとっくにやられていただろう。実際、この反応速度なら最初の攻撃でボクは躱しきることなく、叩き潰されていたに違いない。そう思わせるのに十分な動きだ。

 想像するとゾッとする。だけどおかげで助かった。

 結果、ホワイトゴーレムは――



 その代償を支払うことになるのだから。



 ジュワッ!


 熱した鉄に水滴が触れたような蒸発音。

 魔力の奔流はホワイトゴーレムの肩から脇腹の辺りをまるで何もないかのように貫通し、空に向かって伸びる。

 

 それは魔力によるものか、それとも他の要因か、ホワイトゴーレムは砲撃に触れた場所から順に、瞬時に消滅していき、激しく吹っ飛んだ。

 幾度も地面を跳ねて転がって行く。二百メートル以上は転がったか、やがて止まる。


 勝った。と思ったのも束の間。



 “それ”は起こった。




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