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第38話 風の極意


「ガアアアアアアッ!」


 茶褐色の鱗を陽光に照らされ、大きな翼をはためかせて現われた巨大生物──仮としてドラゴンもどきと呼称しよう──は、喚ばれたことを歓喜するように吠えた。

 

「キターーーー!」

「ガー君きたーーー!」

「ガー君頑張れっ!」

「ガー君ふぁいとっ!」


 人形共の声援を受けたドラゴンもどきは、俺を見ると威嚇するようにその牙を剥き出した。見た目がアレでも、ここまで巨大だとそれなりの迫力になるモノだな。この程度で俺がビビることはないが。


 数割の人形を犠牲にしてコイツ一体を喚んだのなら、むしろ俺にとってはラッキーかもしれない。ドラゴンもどき一体を撃破すれば、数割の人形を倒すのと同等の戦果を得るということだ。手間と時間が短縮できる。


「ガー君、あいつらをブレスで丸焼きにしてー」

「ちょっっっっっ! そっち側はいいけどあたしらが巻き添えになるでしょ!」

「召喚直後に場所空けときなさいよ!」

「踏み潰せばいいでしょ!」

「踏み潰すときにガー君の足の裏に剣とか刺さったらどうするの? 痛がって暴れるガー君をあなたたちが抑えられる?」

「中にいるほど巻き添えで潰されそう……」

「…………私配置変更希望。外周でお願ーい」

「あ、ズルーイ、私も私もー!」

「あたしも後ろがいい!」

「ぶっぶー、早い者勝ちでーす!」

「ブレスの射程にいる奴が場所移動すればいいんじゃないのー?」

「おお~、流石シルキー13号。年の功だね!」

「誰がババアよ!」

「あたしは言ってないよっ!?」


 前後の奴らがごちゃごちゃと言い合った後、俺たちの後方にいる人形たちが動き出す。暫くすると、後方に地平線が見えるほどの空間がポッカリと空く。


 その間、俺は闘気を錬り、風王裂覇を使った攻撃をイメージしていた。


「さあ、ガー君。場所が空いたっス! ドカンと一発決めちゃってください!」

「やっちゃえやっちゃえ!」

「殺された仲間たちの恨み、晴らしてガー君!」

「…………リリィ422号が手にかけた方が遙かに多いけど」

「戦いとは犠牲がつきものっス! 彼女たちの分まで頑張りましょう、ガー君!」

「ガー君頑張れー!」

「こっち側だと万が一にもガー君ブレスこないから安心やわ~」

「えええーーーーっ!」

「何? どしたん?」

「シルキー107号さん、この戦いが終わったら主様にあいつとの結婚の許可もらうんだって!」

「結婚っ!?」

「あいつって、ツー君?」

「当たり前でしょ。あと、他人(ヒト)の男をツー君って呼ばないで」

「何よ-。呼び方くらいでマジにならなくてもいいじゃんー」


 ドラゴンもどきがバサッ、バサッ、と巨大な翼をはためかせ、人形たちの頭上数十メートルに浮き、その場に滞空する。


「きゃああっ! 髪が乱れる。二時間かけたあたしのツインテールが!」

「二時間とかかかりすぎでしょ。あたしは一時間もあれば出来るわ!」

「……それもかかりすぎだから……」

「目に、目に砂がっ!」

「わっ、ぷっ。ぺっ、ぺっ。砂が口に入った」

「ちょっとー、ガー君気を付けてよ」

「もー、最悪ー」

「ガー君、早くやっちゃってください! 被害が甚大です。乙女的に!」



「ガオォォォ──」


 

 ドラゴンもどきが大きく息を吸う。それは、俺がこれまで何度も目にしてきた、ドラゴンたちがブレスを吐く直前のモーション!


(────ここだっ!)


 俺は武装闘神で風王裂覇に膨大な闘気を送り、同時に剣の魔力を指向性を持たせて一気に解放する。


 昨夜、イリーナの立ち会いで風の操作を練習したときに、俺は風の極意を得た。


 

 スカートめくり(風の操作)とは、相手に悟られてはいけない。スカートを押さえら(防御さ)れては終わりなのだ。

 故に、相手の隙をついて一気に勝負を決めなくてはならない。


 操る風の向きも重要だ。強ければいいってモノじゃない。横合いから力任せだと、相手は防御しやすいのだ。内側から外側に向かう風。その方が防御し難そうだった。


 それを踏まえて、俺はこの技を放つ。



 覇王流・奥義の突き──覇王滅龍閃。



 俺が習得している技の中で、最強の貫通力と最大級の速度と射程を併せ持つ大技だ。その名の通り、これまで多くのドラゴンを仕留めてきた。


 まるで剣先が伸びるように、闘気の刃が空を裂く!

 その軌跡を中心にして追うように、風の刃が螺旋を描く!


 ドラゴンもどきが息を吸い終わる直前には、既に奴の胴体部に届いていた。


「サービスいいな、お前ら!」


 ドラゴンもどきを倒せば、落下したその巨体が真下にいる人形共を圧殺してくれるだろう。俺の手間がさらに省ける。


 狙い通り、闘気の刃はドラゴンもどきを貫き、さらに空へと突き進み──上空数百メートル付近で見えない天井にでも当たったかのように砕けた。


 おそらく結界の領域がそこまでなのだろう。続いているように見えて、実は見た目ほど広くないようだ。これも厄介だな。だが、今は目の前のことが優先だ。


 風王裂覇による風の刃は、覇王龍滅閃が貫通して出来た穴に入り、内部から破壊していく!


 ドラゴンもどきが一瞬風船のように膨れあがると、全身の至る所に傷が出来、そこから火が噴き出す。ドラゴンもどきは声を上げることもなく、墜落を始めた。


「あああ、ガー君!」

「ガー君の魔力炉が暴走してるわ!」

「逃げてー! ってか、誰かあたしを逃がしてー!」

「私が先に逃げるのよ!」

「痛っ! 誰よ足踏んだの!」

「あっ! シルキー107号が皆を踏み台にして逃げてる!」

「ふっ、ダーリンに教わった体術ならこれくらいわけないわ!」

「ダーリン!?」

「恥ずっ!」

「今はそれどころじゃないでしょ!」


 ドラゴンもどきの真下の人形共がパニックを起こし、我先に逃げようとするも、密集していて逃げられないせいか混乱が増す。


「す、すごい……」


 絶望から一転、あっさりと新手を沈めた俺の背中越しに、呆然とティアーシェが呟く。


 対して俺は、感動に打ち震えていた。


(出来たっ! やっぱり天才だな、俺!)



 これ程イメージ通りに風を操れるなら、最早この俺にめくれないスカートなどこの世に存在しない!

 攻撃力をなくして、スカートの内側から外側に向かって、最速の風を吹かせればいいのだから!



 ドオオォォォォン!



 巨体が地に墜ち、その振動が辺りに響いた。──直後、



 ドガアアアアアン!



 ドラゴンもどきが爆発した。


「うおっ!?」


 風王裂覇の風の魔力を全開にし、全員を包み込む球状の風の壁を作った。危機一髪で爆発の影響から逃れることに成功──といきたいが、マズイ。


(剣の魔力が保たない!)


 このままでは保って数秒。それまでに爆発が収まらなければ爆風と炎を斬るしかない。闘気を纏って防御力が上がっている俺は、多少の属性耐性もつくので問題ない。少しくらいのダメージは腕輪の効果で治る。だが、後ろの連中は別だ。直撃しないまでも影響は免れない。美少女(ティアーシェ)が傷付くことが嫌だ。


 何かいい手はないかと思考を巡らせていると、背後から何かの粉をぶっかけられた。直後に一瞬だけ、俺の全身が赤く光る。


「ティアーシェ?」

「炎王龍の遺灰です。これで暫くの間、爆発ダメージは七割防げます!」


 すっげえ希少なアイテムだな。助かるが。


 さらにティアーシェは、一抱えほどの大きさの瓶に入った透明な液体を周囲の地面に振りまいた。


「それは?」

「水乙女の蜜です。この上にいれば、炎ダメージが軽減されます!」

  

 何とかなりそうだ!


「魔力が保たない! 伏せろ!」


 気配から俺の言葉に従ったのが分かる。

 俺は剣を振りかぶり、風の操作をやめた。直後、襲いかかってくる爆炎と爆風。


「おおおおおっ!」


 そして、それを斬った。


 炎の中に裂け目が出来る。


 爆発の影響はそれが最後だったらしい。二度三度と斬撃を放つことなく、爆風は収まった。すぐに振り返る。


「無事か!?」

「は、はい! 皆さん無事です!」


 何とか凌いだか。爆発するとは思わなかった。偶然なのか、そういった仕掛けなのかは分からんが、人工ドラゴン危険だな。今後戦う機会がないことを祈ろう。無論、戦っても勝つのは俺だが、美少女が危険に晒されると俺の精神が磨り減る。


 周囲を見回すと、そこはまるで阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 人形たちが炎の中で騒いでいる。


「熱っ!」

「アチチっ!」

「水! みずぅ~~!」

「そうだ! 水魔法で火を消すのよ!」

「ソレダッ!」

「リリィ521号あったまいいー!」

「急げーー!」

「必殺! ウォータースプラッシュ!」

「きゃああああっ!」

「あんたバッカじゃないの! 威力強すぎでしょ!」

「私の右腕もげたでしょ! アクアキャノン!」

「痛っ! やったの私じゃないでしょ! アクアキャノン!」


 水系の魔法の撃ち合いが始まっていた。……同士討ちで。


(どんだけ頭悪いんだよ、こいつら……)


 流石に呆れる。助かるが。


「今のうちにここから離れるぞ」 


 剣を収め、A、B、Cの襟首に指をかける。片手二人、もう片手に一人。足を引き摺るが、防具があるから大丈夫だろう。正直置いていきたいが、ティアーシェをここから動かすには、これが最善だろうからな。


「わ、分かりました」


 今度は頷いてくれた。


「ついてこい!」

「は、はい!」


 後方に出来ていた“通り道”を駆け抜ける。両脇には炎と人形の壁があるが、奴らは俺たちの行動に気付かないほど取り込み中だ。邪魔しちゃ悪い。


「あ、あの……オルカさん、ありがとうございます」

「何がだ?」


 人形の包囲を抜け、少し距離を稼ぐために走っていると、ティアーシェが何故か礼を言ってきた。


「そ、その方たちを助けてくれたことです。私が護るって言っておきながら……」

「俺は俺とティアーシェを護っただけだ。それにこっちこそ助かった。貴重なアイテムなのにありがとな」

「い、いえ。大したことないです。そ、それに、今も皆さんを運んでもらってますし……」

「当然だろ?」


 女の子にこんな“大荷物”は持たせられない。


「……噂通りのいい人なんですね」


 その声音と目元から、彼女が柔らかく笑っているのが分かる。


 どの噂かは知らないが、イリーナといいティアーシェといい、最近の美少女は“格好”を省略するのが流行っているのだろうか?


 疑問に思いながらも、俺たちはそれなりの距離を稼いだ。




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