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第35話 4番目の選択肢


「カシム・アッカーシャ。連れてきた自慢の戦力を失った気分はどうだ? 次に奴らに会うとき、それは無残な死体となっている。その時の貴様の顔を想像するだけで今から楽しみだ」

「くっ……爆破魔法陣ではなかったのか……」


 剣を構えながら、少しずつ魔族と距離を取るカシムさん。その表情からは怯えが見て取れた。


「ほう……アレに気付いたか。保険で仕掛けただけだが、優秀じゃないか」

「保険……だと?」

「ああ。俺の誘いは罠だと、少し考えれば誰だって分かる。だから用意してやったのだ。大人数を一網打尽に出来る罠を。手を打って安心しただろう? 何とかなると思っただろう? あれ程の剣士が仲間にいたのだ。それも当然だろう。俺としても最強の手駒を二体やられたのは痛手だ。だが、戦闘結界で捕らえた時点で我が勝利は確定した。俺の能力を予測しきれなかった貴様らの負けだ」


 戦う前に敵が何年童貞こじらせてるかなんて普通は考えないよっ!


「くっ……なぜ才能とはこうも不公平なのだ……」


 距離を取りながら、忌々しげに吐き捨てるように言葉を紡ぐカシムさん。


「俺のように天に選ばれし者は、ある日突然“力”に覚醒す(目覚め)ることがあるのだ」


(あれ?)


 DTSのことを知らないっぽい?


 この体が知っている情報は“一般的”なもののはずだ。


 そういえば、オリハルコンに関することもみんな知らないみたいだった。……いや、おかしくはないのかな? “一般的”といっても、その情報量には個人差がある。大事なのは正確さだ。


 今は敵が童貞かどうかなんてどうでもいい問題だろう。考えるのはそこじゃない。


(さて、どうしようか……)


 オルカさんは逃げろと言った。別働隊に突入の合図を送れではなく“逃げろ”と言ったのだ。


 突入の合図はボクかティアーシェさんが上空に向けて、大きな音が鳴る魔法を放つというものだ。だから今からでも合図は出せる。にもかかわらず“逃げろ”だ。それはつまりオルカさんの考えでは、別働隊だと相手にならないということなのだろう。八十人以上いるのに、それでも戦力は相手の方が上だという予想なのだ。


 魔族の目的はカシムさんへの復讐。


 こちらの選択肢は三つ。


① カシムさんを見捨てて一人で逃げる。


② カシムさんと一緒に逃げる。


③ カシムさんと一緒に戦う。



 ①は見逃してくれるかどうかによる。後はボクが良心の呵責に耐えられるかどうかが問題だ。


 ②はまず見逃してくれるという線はない。背後からの攻撃に対処出来るかと、互いの脚力が鍵になる。


 ③は無謀だろう。ボクの魔法では甲冑を倒せない。オルカさんの見立てでは、カシムさんは二体同時に相手は出来ない。剣を持つ甲冑は肩が抉れているので本来の強さを発揮できないけど、それ込みの話だろう。その上、向こうにはエスクード・マグナスがいる。どちらかの戦力比が一対二になるのは必至だ。


 二対三はたぶん無理。

 ボクの攻撃がエスクード狙いになるのは確実だし、敵はその分対処しやすく、こちらはカシムさんとの連携を取りにくい。

 乱戦になった場合、オルカさんならボクが攻撃した直後に、例え射線に入っても勝手に避けてくれそうな安心感があるけど、カシムさんだと同士討ちになりかねない不安がある。


(どうするどうするどうする!?)


 ③はない。だとすれば①か②だ。


 治癒魔法で怪我が完治し、ボクは警戒しながら立ち上がる。


 甲冑は動かない。カシムさんは少しずつエスクードと距離を取っている。エスクードは──ボクを見ていた。


「……何ですか?」

「アイン、ツヴァイ。カシム・アッカーシャを死なない程度に痛めつけろ。俺はその間に、この娘を処理しておこう」

 

 エスクードはそう言うと、ローブをその場に脱ぎ捨てた。上着は着ていない。ズボンだけだ。

 ローブから覗く筋肉から、マッチョだとは分かっていた。直接見ると、その筋肉は想像以上に発達していた。


 見るからに強そうだ。勘弁して欲しい。


(ここここ、こんなのと一対一で戦えと? ボクにっ!?)


 甲冑二体が動き出す。


 カシムさんが怯えを浮かべたままボクを見る。目が合うとすぐに逸らされた。一瞬だけ躊躇するのが見てとれる。直後、踵を返した。


 カシムさんは走り出す。

 この場から離れるように。



 カシムさんは逃げ出した。



 それを追う甲冑二体。

 

(──え? ええええええっ!?)


 残されたのはボクと、エスクード・マグナス。



④ カシムさんがボクを見捨てて一人で逃げる。 



 選ばれた選択肢は失念していた④。


(……………………仕方がないか)


 彼を責めまい。

 ボクも逆のことを選択肢に入れていたんだ。選ぶ覚悟がなかっただけで。


 勇者だと思っていたら違いました。

 直後に頼れる仲間が全員いなくなりました。

 強敵二体に襲われます。

 その後はたぶん魔族に殺されます。


 心が折れてもおかしくない状況。



 だから……責めない。



 よく考えてみれば、ボクの状況はさっきよりはマシだ。

 攻撃が通用する相手と、一対一が確定したんだから。



 ここでボクが勝てば、結界に捕まったオルカさんたちも解放される。



(覚悟を…………決めろっ!)



 銃を握る手に、自然と力が籠もった。




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