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第26話 襲撃


 何故こんなことになったのだろう?


 話の流れは知っているのに、それが“決闘”という単語に繋がる理由が分からない。オルカさんのことだから、何か考えあってのことなんだろうけど。


 オルカさんとカシムさん、二人の決闘を見ようと庭には見物人たちが集まっていた。その中に混ざって様子を窺っていると、オルカさんがこちらに真剣な眼差しを向けながら口元に笑みを浮かべた。


 どうしたんだろうか? 何か重要な話があるような雰囲気ではないけど。格好いい人がああいう顔をすると、やっぱり格好良さが二割増しくらいになるね。ボクもあんな風になりたいものである。中退者でも自分に格好良さくらいは求めてもいいじゃないか。


 試しにボクもオルカさんのように、表情を引き締める。自然と見つめ合う形になる。

 暫くそうした後、ボクから視線を逸らした。


(ダメだ。勝てる気がしない)


 若干、敗北感が胸に去来するも、その後にそんなことは簡単に消し飛ばす人物が現われた。

 場の視線が少女に集中する。


 灰色の地味なローブに身を包んだ、金髪碧眼の可愛い女の子だ。年齢はボクとあまり変わらないんじゃないだろうか。


(す、すごい……!)


 ゴクリ、と無意識に唾液を飲み込む。


 

 ものすっっっごい! 胸のおっきな娘さんだ!



 同年代でこれ程のモノをお持ちの女の子は見たことがない! いや、同年代どころかここまでのモノを実物で見たのは生まれて初めてだ!


 視線が、視線が吸い寄せられるっ!


 あまり胸をジロジロ見るのは失礼だ。少なくともボクは、男に露骨な視線を向けられるのはいい気がしない。だけど目が離せない。頑張って視線を逸らそうとするんだけど、すぐに吸い寄せられる!


 そんなボクの葛藤をよそに視界に映る人たちの多くは、視線を少女の胸へと向けていた。


(…………)


 木を隠すなら森の中、と言う言葉がある。これだけ注目を集めているならボク一人の視線が加わったところで、女の子も気にも留めないか。


 よしっ! 開き直ってボクもおっぱい観賞に加わろう!


 体は女だから視線の不快度は低いかもしれないし。とか思っていたら、オルカさんと何やら話していた少女は、オルカさんの意識がリンスリットに向いた瞬間──ハッ、と何かに気づいたように不意に、こちらに向かって視線を向けてきた!


(え? あれ? ボク?)


 周りの誰かを見ているのかもしれないと思ったけど、何かに驚いたような彼女の視線は、間違いなくボクを見ていた。


(あっ! ひょっとして視線がキモかったですか!?)


 ボク自身、さっきカシムさんの視線に嫌な思いをしたばかりだ。彼女にあんな不快感を味わわせたのかもしれない。それ以外にあんな可愛い子に意識される心当たりないし。


(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!)


 これだけの人数がいて、大半の視線をその胸に集めておいて、ピンポイントでボクを見るのだ。


(ボクの視線はそこまでキモいですか……)


 ガチでヘコむ……。ショックの余り、心の中のボクは四つん這いだ。


 そうして落ち込んでいると、やがて戦いは始まった。



 結果は、オルカさんの勝ちだ。



 最後は危ない! と思ったけど、一瞬でカシムさんを倒しちゃった。


 決闘が終わった後、オルカさんはまだ戦いが続いているような緊張を全身に張り詰めたまま、建物の中に消えていった。


 オルカさんの話では、カシムさんの強さは大したことがないということだった。しかし素人目だけど、ボクには凄く強いように見えた。


 ランク1の剣士としてのプライドが、今の戦いの過程に納得がいかないのかもしれない。


 今はそっとしておこう。


 反省しているときによく分かってない人がありきたりな慰めや助言めいたことを口にしても、イラッとするだけだろうから。


 仲間としてボクに出来ることは、オルカさんがいつも通りに接してきたらこちらもいつも通りに返し、今回の不満を口にしてきたら快く愚痴の一つくらい聞いてあげることだ。


 そんなことを考えていたら、周囲の誰かが空を指さして言った。


「おい、あれ何だ?」


 つられて周囲の視線が空に向かう。



 “それ”を見て、ボクは驚きの余りギョッ、とする。



 まだ距離はあるけど、翼を動かしこちらに向かって飛んでくるのは一羽の鳥だ。それも、見たことがないくらいの巨大な鳥だ。


 体色は茶系に白い斑模様。おそらく、翼開長は五メートルを超えるだろう。全長は二メートル前後くらいか。そんな巨体が空から飛来する光景にボクは恐怖する。が、もう少しこちらに近づいてくる頃には、その恐怖はある疑問によって薄まった。


「……鳥?」


 誰かの疑問の声が聞こえる。


 うん、その気持ち、すごい分かる。


 遠目にはどう見ても巨大な鳥だったんだけど、首から上の様子が視認出来るようになると疑問しか湧かない。


 とても生物とは思えない顔だ。首から上だけが、まるで子供の落書きみたいに造作が崩れている。よく分からないけど便宜上鳥と分類しよう。


 その鳥がクチバシをパカッと開けると、そこに魔力が集まるのを感じた。



「────いけない!」



 カシムさんを看ていたおっぱいおっきな審判が、鳥に向かって手の平を向ける。直後、鳥の口から数発の火球が放たれた!

 ちなみにカシムさんはまだ気絶中。リンスリットは「あたしはまだ負けてないわ。カシムが油断したから負けたのはカシムよ。もう寝る!」とぷんぷん怒った後、静かになった。


(げ、迎撃を──)


 何とかしようと腕輪に魔力を込め銃に変える。が、それよりも先に審判の人が真空の刃を放ち、火球を相殺した。


(おお~。すごい! 攻撃魔法だ!)


 フリージアに着くまでの道のり、ボクはただオルカさんの金魚のフンをやってたわけではない。自分の出来ることを少しずつ増やすようにしてきた。



 その一つが魔法だ。



 移動中、喉が乾いたときはオルカさんが両手を組んで、その手の中に魔法で出した水に口をつけて飲ませて貰っていたんだけど、毎回そんなことをさせていては申し訳ない。ボクも同じことが出来ないかと思って教わったところ、すぐに出来るようになった。


 それ以外にも、大した火力はないけど握り拳くらいの大きさの火を出したり、雪かきで使うようなシャベルで掘る程度の穴を地面に作ったり、逆に土を盛ったり、ちょっと風量が強めの扇風機程度の風を操ったり出来るようになった。


 オルカさん曰く、四属性──火、水、風、土──を全て使えるというのはそれなりに凄いらしい。一時間くらいで習得したら褒められた。特に風属性はオルカさんには使えないらしく、羨ましがられた。ひょっとすると暑がりなのかもしれない。


 ファンタジーで魔法と言えば属性魔法のイメージが強い。それを自分が扱えたのはある種の感動すらある。だけど、攻撃に使えるような威力のある属性魔法は、直接は使えなかった。今後の努力次第では分からないけど。


 ちなみにこの世界、魔法を使うのに呪文をごにょごにょ言う必要はない。詠唱する人は、そうすることで集中力を高めて魔法を発動しやすくするためだ。詠唱の内容は何でもいい。

 そんなわけなので、



“我が身に宿る大いなるマナよ。紅蓮の業火に変わりて、我が敵を焼き尽くせ!”



 とか言いながら、実際に出るのは小さな火、ということもあるのだ。……ボクジャナイヨ?


 攻撃魔法に興味があるのは事実。だけどオルカさんも使えない。つまり、今が攻撃魔法を初めて見た瞬間なのだ。



 審判の人が立ち上がり、今度は数十の真空の刃を飛ばす。



 見えないはずのその刃が、何故か感覚的に分かるのだ。それは鳥も同じらしい。


「なっ!?」


 審判の人が驚きの声を上げる。それもそのはず。鳥はその巨体からは信じられない動きを見せた!


 緩急をつけて縦横無尽に飛び回り、数十の刃の全てをかいくぐる!


「何だあいつは!?」

「動きが普通じゃないぞ!」

「なあ、ヤバくないか!?」

「鳥の動きじゃないぞ!」

「逃げた方がいいんじゃないか!?」


 周囲の人たちのざわめきが大きくなる。


「皆さん避難してください!」


 審判の人が攻撃と火球の迎撃を続けながら、みんなに呼びかける。


 ボクは審判の人に協力しようかな? 一応遠距離攻撃出来るし。


「そこのあなた、手を貸してください!」


 って、ボクを見ながら審判の人が言ってきた。そのつもりだったので、彼女の元に駆け寄る。


「あれって倒しちゃってもいいんですよね?」


 念のために確認。あの顔面はマトモな生物とは思えない。殺しちゃったら呪われたりするかもしれない。状態異常無効のスキルを持ってるけど、呪いは無効の対象外という仕様の可能性もある。過信は出来ない。


「もちろんです。期待してもいいですよね?」

「理由を聞いても?」


 銃を構えながら質問で返す。

 初めて会う人に戦力として期待される理由が分からない。こっちは戦闘初心者だ。


「あなた程の魔力の持ち主は見たことがありません。それだけの魔力を持ちながら何の能力もない、ということはないのでしょう?」

「買いかぶりすぎですよ」


 今のところボクの能力で役に立ったのは、ホーリースタッフがなければ精々パンツを腕輪に変えることくらいだ。自慢にならない。オルカさんは違和感が全くないって喜んでくれたけど、あの人はいい人だから気を遣って言ってくれたんだろう。悪い気はしなかったけど。


 ともあれ、やるだけやってみよう。鳥との距離も二百メートルないし。


 どれくらいの魔力を込めれば射撃モードから砲撃モードに切り替わるのかは、魔法の練習とあわせて、ここまで来るまでに検証済みだ。感覚は掴んでいるけど一度失敗した身だ。切り替わらないようにギリギリよりもちょっと余裕を持たせて、その範囲で可能な限り魔力を込める。



 魔力(弾丸)の装填──完了。



 撃つ頃には、距離は百メートルから百五十メートルくらいになっているだろう。だとすれば、射程は二百もあれば十分か。あの回避能力を見る限り、単発や連射では避けられる可能性が高い。弾丸のタイプは散弾を選択。弾と弾の間隔は鳥の厚みの半分以下。威力は最大──石を砕くレベル。速度は通常。その代わり散弾範囲は出来るだけ広く。


 

 攻撃イメージ──完了。



 鳥が放つ火球は審判の人が迎撃してくれているけど、ホワイトゴーレムのときの件もある。念のために言っておこう。


「回避されたり命中しても効かないかもしれません。その時はフォローをお願いします」

「分かりました」


 フォローしてくれなんて具体性のない言葉をあっさり了承してくれる。頼もしい。美人でおっぱいおっきなひとは違うね!


 よしっ! 安心して引き金を引こう!



 バアァァァァァン!



「────」


 爆竹が同時に何十発も爆発したような大きな音が鳴る。消音機能とかも考えた方がいいかも。



 そんなボクの考えなどお構いなしに、放たれた弾丸は巨鳥に迫る! その数はザッと見ても百や二百は軽く超えている! 思ったよりもいっぱい出た。



 巨鳥は火球を放ちながら回避行動を取ろうとする。が、撃った弾丸は火球を貫き、回避も許さない! 巨鳥をそのまま蜂の巣にする。


(効果あり。だけど一回じゃ倒せないか。もう一発いこう)


 今度は視覚情報もあるので、さっきよりイメージしやすい。ほぼ魔力を装填するだけで準備が整う。

 あの顔面のおかげで相手が生物だという意識が薄いから、引き金が軽い。



 バアァァァァァン!



「────っ」


(しぶとい。もう一発)



 バアァァァァァン!



「────ょっ!」


 三度全身に魔力の弾丸を受けた巨鳥は耐えられなかったらしく力尽き、空中で何故か木製と思われる鳥の模型へと変わり、地面に激突すると所々ポッキリと折れた。


 傍らを見ると、審判の人がボクと模型になった鳥を交互に見、呆然としている。


「あの鳥なん──」

「助けなさいって言ってるでしょっ!!」


 あの鳥何だったんですかね? と言おうとしたら、それを遮るようなリンスリットの怒鳴り声が庭に響く。


「うわあっ!」

「今度は猿だ!」


 見ると一メートルくらいの猿っぽい何か──これまた首から上が残念な造形──が、リンスリットを小脇に抱えてフェンスの向こう側に飛び降り、建物と建物の間の路地に入るところだった。みんな鳥に気を取られて、周囲への注意が疎かになっていたらしい。フェンス周辺の見物人たちは、気が付いたら傍に変なのがいてちょっとしたパニック状態だ。


 ボクは瞬時に魔力による身体強化を行い、フェンスに向かって駆け出す。高さは約二メートルといったところか。それくらいなら飛び越えられる!


(たあっ!)


 と心の中で気合いを入れてジャンプ! 次いで、


「おおおおおっ!」


 という歓声がいっぱい聞こえた。


 ひょっとしてこれくらい跳べるのって、この世界でも凄いことなのかな? などと思ってチラリと確認。すると、みんなの視線──主に男のもの──が一点に集中していた!



 ボクのスカートの中である。



(あっ────!)


 反射的にスカートを前後から押さえた。



(ちちちちち違うんですいつもはこんなスケスケな黒のせくしー下着なんて穿いてないんです出来心なんです興味本位なんです気の迷いな──)



 ガシャン!



 バランスを崩し予定よりも跳べなかったボクは、跳躍の勢いのままフェンスにぶつかり地面に墜ちた。めっちゃイタイ。けど我慢だ。すぐに起き上がってリンスリットを持って行った猿を見る。しかし、既に姿は見えなかった。


「愚かだな、人間族という生き物は」


 失礼な! 自分でもマヌケなことをやった自覚はあるけど、知らない人にいきなり愚か者扱いされる謂われはない。


 声の方を振り向くと、相手はそもそも“人”ではなかった。


 二メートル以上の白い大きな犬?──こいつも首から上が……──が建物の屋上にいた。カシムさんを凝視している。


「なるほど。そこで寝ているのが勇者か」


 その犬──これも便宜上──は普通に人間の言葉を話していた。二十代くらいの男の声だ。骨格の問題とかどうなってるんだろう?


「起きたら伝えておけ。聖剣とやらが大事なら、明日正午、フリージアの西の森まで来いと。詳しい位置を描いた地図をここに置いておく。人数は好きなだけ連れてこい。ただし、遅れることは許さん」


 次の瞬間、全身にぞわりと鳥肌が立ち、寒気に襲われた。


「必ず伝えろ。──タダオが味わった苦しみを! タダオを失った悲しみを! その身に全て刻んでやるとな!」


 その声は、ボクが今まで聞いたことがないと断言できる。殺意に満ちた声だった。



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