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第24話 奇跡との出会い


「ボクたちの今後の目的は、カシムさんたちが活躍したり、有名になったりしないようにすることですね?」


 イリーナがそう耳打ちしてきたときには驚いた。


 訪れようとしている世界の危機──将来的に美少女の数が、今より減ってしまう可能性──を未然に防ぎたい。

 イリーナも同じ答えに辿り着いたとは心強い。


 俺はてっきりイリーナくらい可愛いと、自分より美少女レベルが低い相手が増減したところでどうでもいいと感じるんじゃないか、とか考えていた。


 そんなことはなかったな。最初から杞憂だったんだ。一緒に頑張ろうじゃないか。


 何てことを考えていたら、喋る変な剣が急に怒り出した。

 イリーナが俺のほっぺにキスしたとか騒いでやがる。バカバカしい。


 もしイリーナみたいな美少女から積極的にほっぺにキスしてきたとする。


 俺だったら、それには唇にキスを返し、体を弄り、本気の拒絶がなければその先に進む。無論、イリーナの裸は他の男に見せる気はないので、肥満はおやつの後だしお昼寝だ。強制的に。


 それがないということは、キスの事実もないということだ。


 だが、ちょうどいい機会だ。少し煽ってみる。すると、簡単に乗ってきた。俺と決闘したいらしい。


 勇者は大魔王を倒せるとか言っているが、もしそうなら、ランク1の剣士くらいには勝てなくてはおかしい。だが、勝つのは俺だ。



 屋台巡りをしているときに、ついでに店の者に勇者に関して聞いておいた。



 その時に聞いた話によると、本来のカシムはやはり大して強くないらしいが、聖剣とやらを手に入れて、急に強くなったそうだ。少なくとも、一人でゴブリン百匹を一度に相手しても、無傷で勝てるほどに。


 ゴブリンは成体でも人間の子供くらいの大きさで、知能の低いの魔物だ。先天的に闘気をほんの僅かに纏える個体が多く、そういった個体は人間の成人男性の平均を上回る腕力を持つ。素早さや防御力に関しては普通の人間とそう変わりはしない。あくまでも大半のゴブリンは、という話であって、例外もいるが。

 

 ゴブリン百匹というのは例えるなら、人間の成人男性と同等かそれ以上の腕力を持った、十歳くらいの好戦的な子供百人と戦うようなものだ。

 並の人間からしたら、それを無傷で倒すというのはかなり凄い。


 聖剣とやらが特別な物だというのに、説得力は十分か。


 まあ、祭りをやっているのは大魔王云々を信じているというより、単にこの街は祭り好きの人間が多い街で、屋台を出すのは稼ぐ口実に乗っただけ、という奴がほとんどだとか。祭りの運営資金の殆どはアッカーシャ商会持ちだって話だしな。商会直営店では勇者饅頭とかも売ってるらしいぜ。



 ともあれ、俺の敵ではないだろう。



 俺が勝って、大魔王がいたとしてもカシム・アッカーシャでは到底敵うわけがない、と教えてあげるのだ。


 勇者=大したことない。


 その図式が浸透すれば、道を踏み外す美少女も激減するに違いない。


 脅迫紛いなマネをしたり、勇者としての奴の顔に少々泥を塗ったりしたところで、こちらにデメリットは少ない。


 当然ながら、こちらに対する心証は悪くなるだろう。だが、カシム・アッカーシャは商人だ。自分の感情をある程度は飲み込んででも、利益を取るだろう。

 どんなに馬鹿げていても、大魔王を倒すと言って傭兵を募集するような奴が、ランク1の剣士とランク8の魔道具使いという戦力(りえき)を得ないというのは考えにくい。やり過ぎればその限りではないだろうが。



 そんなわけで、俺たちはカシムの望み通り、裏庭に来ていた。



 広さは縦七メートル、横二十メートル程の長方形。隣の建物とはフェンスで仕切られており、その建物は低いので日中の陽当たりも良好。通常は従業員の憩いの場なのだろう。端にベンチや花壇があるが、ちょっとばかし剣を振り回すくらいなら邪魔になるほどでもない。

 

 周囲にはこの戦いを見物しようと、従業員が何十人か遠巻きに見ている。こいつら仕事はいいのだろうか? 俺が気にすることじゃないが。まあ、実力の差を見せつけるのに観客は多いにこしたことはない。贅沢を言えば、美少女と美女のみで構成された観客が欲しいところだが……残念なことにほとんどが男だ。一応女もいるにはいるが、年齢や顔や体型が俺の守備範囲外である。イリーナのお顔を眺めて癒やされよう。


 そのイリーナは、話の流れについてこれていないのか、見物人に混ざって不安そうな表情をしていた。俺が心配するな、と目で訴えながら笑みを作ると、やや戸惑った後、キリッと表情を引き締めた。そのまま視線を交わしていると、ふぃ、と逸らされる。うん。伝わってないっぽい。


「もう少し待ってくれ。そろそろ着くはずだ」


 今は、俺と共に庭の中央に立つカシムと、万が一のためポーションが来るのを待っている。必要ないとは思うが、相手の憂いをなくしてやった方が結果を受け入れやすいだろう。俺はポーションを基本携帯しているが、こんなことでおっさんに提供するのはもったいないから黙っておく。使った場合、倍額での買い取り扱いなら考えるが。


 その時だ。



 たゆん、たゆん。



(────っ!)


 その気配を感じて、息を呑む。


(馬鹿なっ! な、何だ、この圧倒的な存在感はっ!?)


 何か、途轍もない何かが、こっちに近づいてくる!


 庭の出入り口の方にいる見物人たちの気配が動く。


(────来た!)



 たゆん、たゆん。



「あ、あの。通してくださ~い」


 鈴の音のような通りのいい声質で、だが、どこか気弱な印象を受ける口調で、少女の声が聞こえた。


「来たようだ」


 カシムがそう口にする。どうやらその人物がポーションを持ってくる者らしい。出入り口の辺りの人垣が割れていく。



 そして、その強大すぎる気配の持ち主は、姿を現し、こちらに向かって歩いてくる。たゆん、たゆん。



「お、お待たせしました。遅くなってすいません」

「大して待ってはいないさ。なあ?」

「あ、ああ」


 俺は、その存在感に圧倒され、カシムの言葉にただ、頷くことしか出来なかった。たゆんたゆん。


 俺やカシムのみならず、その場にいる殆どの人物が、その存在感を放っているモノに視線は釘付けだ。同性であるイリーナですら、その存在感に支配されていた。たゆんたゆん。



 金髪碧眼で白い肌の少女。フードを目深に被って口元も隠しているので顔立ちはハッキリと見えないが、推定美少女レベル6は下らないだろう。その素顔を見れば、上方修正せざるを得ない期待感を持たせてくれる美少女だ。たゆんたゆん。

 おそらく年齢は十代半ばから後半くらい。身長は俺より頭一つ分くらい低い。外見年齢、身長はイリーナと大差ないか。だが、一カ所だけイリーナとは別次元だ。たゆんたゆん。



 その箇所とはたゆんたゆん──じゃない。



 俺としたことが存在感に呑まれてしまった。視線がなかなか離せない。なんという淫力だ。



 その箇所とは、おっぱいだ。



 ローブで体の線が分かりにくいにも関わらず、隠しきれないその実り。



 巨乳を通り越して爆乳である!



 おっぱいの日──おっきなおっぱいがものすっっごく揉みたいという衝動に駆られる日だ。不定期に訪れる──にこの少女が目の前にいれば、その美少女レベル( 戦 闘 力 )は大きく変化する。イリーナに届くかも知れない。フードを取った素顔のレベルによっては、瞬間的にイリーナを僅かに超える可能性もある。それ程までに大きく変化するタイプは珍しい。



 その容姿と果実の組み合わせは、まさに奇跡と言えるだろう。



 気持ちを引き締め、柔和な笑みを浮かべ、鋼の精神で視線を動かし、少女の目を見る。


「俺はオルカ・アーバレスト。君の名を教えてくれないかい?」

「──オルカさんって……あの“龍殺し”のですか!?」

「ああ」


 サインが欲しいというなら何十枚でもあげようじゃないか。望むならそのおっぱいにだってサインしちゃおう。むしろさせてくださいお願いします。


「は、初めまして! 私はティアーシェ・エリアルといいます!」

「────えっ!?」


 その名前に該当する人物を、俺は一人だけ知っている。


「……“ポーション革命”?」

「え、ええ。そう呼ぶ方もいるみたいですね」

「あなたのレシピにはいつも助けられてます。サインください」


 彼女の手を両手で包み込むように握り、お願いする。



 “ポーション革命”ティアーシェ・エリアル。



 ポーションの製造者の名前に多少なりとも知識があれば、その名を知らぬ者はいないだろう。


 味が無調整のポーションは不味い。ゴーヤを煮詰めた汁のような味だ。そのクソ不味い味を、効果はそのままで美味しいジュースのような味になるように調合した者こそが、ティアーシェ・エリアルという名の天才調合師である。


 しかも、彼女の偉業はそれだけではない。


 植物にも効果があるポーションや、魔力を完全に回復させるアイテムを開発しているのだ。


 怪我に効果のあるポーションの材料は、街中や街の周辺でも栽培可能でわりと安価だが、魔力を回復するポーション──マナポーションの材料には、現在の技術では栽培出来ないものも含まれていて、回復量が少ないわりに値段は高い。魔力量の少ない俺みたいなやつならどうでもいい話だが、魔力量の多いやつほど、魔力を完全に回復させるアイテムの恩恵は大きくなる。


 彼女はそのアイテムのレシピだけは秘匿しているため、滅多に市場に出回ることなく、価格もその分高いが。



 ともあれイリーナに引き続き、短期間にこれ程いろいろとレベルの高い少女と知り合うとは、運命的な気がする。



「サ、サインなんてそんな。私なんて大したものじゃないです!」

「そんなこと言わずに。あと、キミが作ったいちご味のポーションが飲みたい」

「あ、それならあります。まだ試作品ですが」

「マジか!? 売ってくれ!」


 りんご、オレンジ、バナナ、パイナップルなど、いろんな味があるが、いちごはないから気になってたんだよな。どうせ飲むならバリエーションが欲しい。それを作るのが美少女だと、ポーションの美味しさもひとしおだ。


「そろそろ始めるわよ。準備しなさい」


 喋る変な剣──声が幼女っぽいから幼剣でいいか──は、散々人を待たせておいて急かしてくる。だが、こんな素敵な出会いをサプライズしてくれたのだ。許してやろう。俺を舐めたことも含めて。


「明日でいいんじゃないか?」


 今日はこれからイリーナと一緒に、ティアーシェにこの街を案内して貰いたいという用事が出来た。前に何度か来たことはあるが、ここまでハイレベルな美少女二人と一緒ではなかったから、さぞ景色も違って見えるだろう。


「あ・ん・た・ねぇ……絶対あたしを舐めてんでしょ!」

「いや、別に?」


 本当に怒りっぽい剣だな。


「ぐ、ぐぐ──聖女さえいれば魔法手形の呪いくらい簡単に解くことが出来たのに! こんな男にふざけたマネされないですんだのに!」

「────っ! それは本当ですかっ!?」

「ほ、本当よ」


 ティアーシェが俺から離れ、幼剣に詰め寄る。その妙な迫力に、幼剣は引き気味な声で答えた。


「呪いが……」


 何やらぶつぶつと呟いているが、呪いがなんとか以外聞き取れない。

 イリーナから聖女の能力について話は聞いたが、呪いが解けるようなことは言ってなかった。後で聞いてみるか。


「オルカよ。せっかくティアーシェが勝負に立ち会ってくれるのだ。それにお前はクエストを受けるのだろう? なら、この三人はパーティーメンバーだ。早い内にある程度は互いの実力を知っておいた方がいいだろう」

「この三人?」


 この、という言い方が引っかかる。それじゃあまるで、俺とティアーシェとカシムがパーティーを組むみたいじゃないか。


「私とオルカとティアーシェで三人だが?」


 イリーナを忘れてるぞ肥満。


 俺はランク1の剣士。ティアーシェは噂ではランク3の調合師だったか。幼剣の力がどれ程かは知らないが、ゴブリン百匹を無傷で倒せるランクとすると、アイテムや状況次第で戦闘職のランク8か7くらいか。


 対して魔道具使いを戦力としてみるのは、所有する魔道具の性能と、それを使えるランクかに左右される。イリーナが装備している物で目を引くのは腕輪。それ以外は丸腰に見える。


 腕輪型の攻撃系魔道具は、初級から中級の魔法を放つ物が多い。それで彼女を戦力として侮ったのかも知れないが、ある程度の距離を取った彼女がその気になれば、俺を含めたこの場の全員皆殺しに出来るだけの強さを持っている。


 それを差し引いても、俺がパーティーメンバーだと認めた相手が侮られるのは気にくわない。


 それに、ティアーシェもクエストを受けているのか。うっかり肥満に好意を持っちゃったりしないよう、ここで肥満との格の違いってやつを見せておく必要がある。格好いい俺を見れば、ティアーシェの悲劇は回避されるだろう。


「間違えるな、四人だ。勝負の件は了解した。今すぐやろう」

「ああ、そうだったな。それではティアーシェよ。審判を頼む」

「は、はい。分かりました」


 ティアーシェがその場から十分に距離を取り、俺と肥満も数メートルの距離を取る。


「勝敗はどちらかが降参するか、庭から出るか、私が勝敗が決まったと判断した時点で決着とします。多少の怪我は治せますが、なるべく寸止めでお願いします。合意の決闘とは言え、相手を死なせてしまった場合は犯罪なのでご注意を。何か質問はありますか?」


 気を引き締めたのか、ティアーシェの声音から気弱な印象が消えた。


「キミの勝敗の判断の基準は?」

「これ以上の続行は危険だと判断した場合。自力でしばらく立ち上がれなかった場合。気を失った場合。急所に寸止めされた場合です」

「剣以外での攻撃は?」

「どういった攻撃だ?」


 ティアーシェに確認していたら肥満が訊いてきた。仕方がないので答えてやる。


「拳や蹴りや闘気や魔法や身に付けている物だ。他にも地面の土なんかも、使いようによっては戦いに役立つぞ」


 肥満が妙に自信ありげだが、どんな隠し球を持ってるか分からんからな。念のための確認だ。


「庭や見物人に被害が出るような攻撃はなしだ。それ以外なら構わん」

「……と、いうことです」

「了解だ」

「他に質問は?」

「俺はない」

「私もない」

「あたしもないわ!」

「分かりました。それでは、いきます」


 さて、聞いた話ではそこそこやるみたいだからな。ちょっとだけ本気出すか。


「ふふん。あたしの能力にひれ伏すがいいわ! 怒らせたことを後悔しなさい。いくわよ、カシム!」

「ああ!」


 俺は闘気で身体能力を強化するだけではなく、装備まで闘気を纏わせ強化することにする。



 覇王流──奥義・武装闘神。



 俺を含めて五人しか習得できていない、肉体と装備を同時に強化する技だ。防具はより堅く、剣はより堅く鋭くなる。



「始め!」



 その声を合図に、俺は一気に闘気を解放した。それと同時に、カシム側も闘気を纏う。直後──



「──なん……だと……」

「──嘘でしょ……」



 俺と幼剣、二つの驚愕の声が重なる。



 カシムが纏うその闘気。それは奴の体だけではなく、服や剣まで強化していた。






 それは間違いなく、武装闘神と同じ技だった。

 





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