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第17話 冒険者ギルド(オルカ視点)


 冒険者ギルド。


 そこは冒険者を名乗るならば、必ずお世話になる場所だ。


 主な目的はクエストを受けたり、仲間を探したり、情報を仕入れたり、クエストの報酬を受け取ったり、素材を買い取って貰ったり、その時によっていろいろだ。


 クエストを受ける場合、依頼に指定がなければ誰でも受けることが出来る。だが、指定がある場合は別だ。


 例えば討伐系のクエストであれば、戦闘系の職業ランク10以上という指定があれば、11以下のランクは受けることが出来ない。


 当然、中にはパーソナルカードに表示されている職業が戦闘系ではないが、強い奴だっている。そういった場合、ギルドに所属している試験官と模擬戦を行い、認められれば、それ以降そのランク以下の指定はパスできる。



 イリーナの職業は聖女。ランクはチート。



 一般的には意味不明だ。


 今朝聞いた話によると、彼女は魔法で他人の怪我を治すことが出来る。


 そんな魔法、聞いたことがない。だが、試しに俺が自分の指先をほんの少し傷つけてその魔法を使って貰ったら、本当に治った。疑う余地はない。


 そんなわけで、彼女の本当の職業、ランク、スキルはあまり知られない方がいいだろう。


 代わりにパーソナルカードに表示する職業は魔道具使い。ランクについては8くらいが妥当か。


 高ランクすぎると、名前が知れ渡っていないことで余計な詮索を受ける可能性がある。彼女はそういったことは避けたいのだろう。記憶喪失だと言っていることからも──もしかすると、本当にそうなのかもしれないが──過去は詮索されたくないのだと推測できる。だが、低ランクすぎると、今度は俺とパーティーを組むことが問題になる。ランク1の剣士である俺と組むのが低ランクの魔道具使いだと、中には寄生だと侮るような輩が出るかもしれん。俺と一緒にいるときなら問題ないだろうが、俺を倒して名を上げようってどっかの馬鹿が、イリーナを狙う可能性がないとは言い切れない。


 そこでランク8だ。


 ローリエ村の魔道具使いのじいさんはランク7だと聞いたことがある。腕がいいと、この周辺ではそこそこの有名人だ。だが、国全土に知れ渡っているかと言われればそこまでではない。それを考慮すると、イリーナの名が無名なのは、この辺りの人間ではないということにすればいくらでも誤魔化せるだろう。


 イリーナの若さでランク8というのはかなり凄いことだが、それも傍にランク1の剣士(おれ)がいればその凄さは霞むはずだ。


 同じ能力を持つ周辺の有名人より微妙に下。怪しまれず、侮られにくい。落としどころとしては悪くない。


 この話は事前にイリーナにもしてある。

 クエストはその条件で、一緒に受けられるものを選ぶのだ。


 そんなわけで、俺とイリーナはギルド内のクエストが張り出されている壁の前に立っていた。


「わあ~、いっぱいありますね」


 物珍しげにクエストの内容が書かれた紙を眺めるイリーナ。薬草採取から魔物の討伐、おつかいや護衛など、合わせても五十もない。この規模の街ならこんなところだろう。


「興味のあるクエストがあったらそれで構わないぞ」

「いいんですか?」

「ああ」


 本当の意味でのイリーナの初仕事だ。好きに選ばせてやりたい。最初のクエストってのは、時間が経っても案外覚えているものだからな。


「それじゃあ……」

「時間はあるんだ。ゆっくりでいいぞ」


 イリーナが端から順にクエストの内容を見ていく。俺は空いている席に座り、そんな彼女の後ろ姿を眺める。


 う~む、横に移動するときの、ふわりと揺れるミニスカートとそこから覗く太ももが魅力的だ。


「よお、兄ちゃん。あの娘、あんたのツレか? すげぇいい女だな」

「あん?」


 下卑た笑みを浮かべながら、俺の左右に二十代後半くらいの筋肉質の男二人が座る。


「俺たちとパーティー組もうぜ。俺たちは二人とも戦闘系のランク10だ。護ってやるからよ。な?」


 左右から俺の肩を掴み、かなりの力を入れてくる。闘気を纏わない素の状態だと痛い。


 グシャ。


 俺は右側の男の顔面に裏拳をめり込ませた。


(あ、やべ。拳に血が付いた。あとで洗わなきゃ)


 とりあえず殴った男の服で拭う。


「えっ?」

「はっ?」


 殴った男と反対側の男、二人はそこでようやく何が起こったのか理解した。


「あ、が、が、ぐあああっ!」

「て、てめえっ!」


 鼻が曲がった男は顔面を押さえ、反対側の男は立ち上がる。そんな二人に俺はパーソナルカードを見せた。これで引いてくれれば助かる。つい手が出てしまったが、これ以上変な男の血で手を汚したくないからな。


「んなっ!?」

「おおおオルカ・アーバレスト!?」

「一緒にドラゴンでも狩りに行くか? 護ってくれるんだろ?」


 にっこりと笑顔で誘ってあげた。


「いいいいいや、悪かった。勘弁してくれ!」

「そか。お前は行くよな?」


 顔面を押さえてる方に声をかける。涙目で首を振られた。

 男二人は慌てて外に逃げ出す。


 まったく。暴力で他人を従わせて美少女に手を出そうって魂胆だったんだろうが、最低な奴らだ。


 改めてイリーナの後ろ姿を観賞するとしよう。と思っていたら、イリーナがこっちを見ていた。


「ん? どうかしたのか?」

「いえ、さっきの人、怪我してましたけどどうしたんですか?」

「ラッキースケベでテーブルとキスしたんだよ」

「えっ!? そういうのでもLSPって消費されるんですか!?」

「極一部のとても運の悪い人にしか起こらないから気にしなくてもいいぞ。さっきの人もオトモダチがポーション屋に連れて行ったから問題ない」

「LSPって思ってたより危ないんですね」

「可愛いと起こらないって言われているからイリーナは大丈夫だろ。それよりいいのあったか?」

「いいのっていうか、気になるのがひとつ……」


 傍らに行き、イリーナが示すクエストを見る。


 

『聖女及び傭兵募集。


 伝説の勇者カシム・アッカーシャが共に大魔王と戦う者を募集。腕に覚えのある者はフリージアのアッカーシャ商会まで。

 同時に聖女の職業を持つ少女を探してます。情報を持っている方は最寄りのアッカーシャ商会まで。無論、本人でも構いません。お待ちしております』


「……この聖女ってイリーナのことだよな?」


 周囲に聞こえないように耳打ちする。


「やっぱりそうなんですかね?」

「他に考えられない」


 あの肥満、何考えてやがる。まさかイリーナに手を出すつもりか!?

 しかも大魔王とか、神話で創造神と戦ったとか言われている化け物じゃないか。存在すると思っているのか、アホらしい。

 

「このカシムさんって、勇者ってことは、凄く強くて格好よさそうですね」


 何てことだ。イリーナの目がキラキラ輝いている! 早く目を覚まさせてやらねば!


「いや、すげぇ太ってるぞ。強さも商人だからたいしたことないし。三十過ぎのおっさんだ」

「友達ですか?」

「いや、ただの知り合い」

「そ、そうですか。けど、そんな人が大魔王とかいう凄そうなのを相手にどうにか出来るんですかね?」

「死ぬだろうな」


 存在したらな。


 別にあいつが死んだところでどうでもいい──あっ! そういや金受け取りに行くんだった!


 折角だし聖女(イリーナ)を探している理由も問い質すか。

 正直、いい歳して勇者とか名乗るおっさんにはあまり関わりたくはないが。


 そこまで考えた時、俺の脳裏にある考えが雷鳴の如く閃く。



 分かったかもしれない。奴の狙いが!



 勇者という単語に目を輝かせていたイリーナの姿。


 あの肥満を知らない乙女たちが勇者という虚名に憧れちゃったりして、乙女フィルター──大したことのない男が妙に格好良く見えたり、格好いい男がより格好良く見えたりする、恋する乙女に起こり得る状態異常である(別名:恋煩い)──が発動することを狙っているんじゃないか!?


 その程度であの容姿は誤魔化せんとは思うが、世の中には物好きがいる。


 美少女が奴の毒牙にかかるかもしれないじゃないか!


 そして手籠めにされた美少女が不細工な娘なんぞ生もうものなら……考えるだけで恐ろしい。未来における世界の宝( 美  少  女 )が失われようとしている!


 しかもあいつは金持ちの息子だ。本人もそれなりに持っている可能性がある。美人を何十人も侍らせることが出来るくらいには。


 彼女たちから生まれる不細工な子供達。その子供が成長して、二十年後くらいにそいつらの子供ができてさらに増殖する不細工。加速度的に増えていくのだ。



 不細工の世界的感染爆発(パンデミック)の始まりである。



 俺はイリーナがくれた腕輪を見る。


 イリーナの俺に対する印象を考えると、俺が傍にいればあの肥満の毒牙にかかる心配は万に一つもない。幸い、勇者という虚名の呪縛も解けたみたいだしな。


 だが、こうしている間にもどこかの美人が道を踏み外すかもしれない。


「オルカさん、これ、受けてもいいですか?」


 イリーナがおずおずと不安げに、上目遣いで聞いてくる。


「ああ、もちろんだ。受けよう」


 俺は即、頷く。



「──世界の危機だ」




読んでくれてありがとうございます。

ブックマーク300件を超えました!

何とか期待に応えようと更新ペースを少しでも上げてます。が、20話以降の構成で煮詰まっていて、来週ペース落ちるかもしれません。


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