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第15話 魔道具製作 


 コンコンッ。


 そろそろ魔道具製作に取りかかるかなー、と思っていた矢先、ドアがノックされた。


「はーい」


 ドアを開けるとそこにいたのはオルカさん。ペットのところから帰ってきたんだね。


「やっぱりまだ起きていたのか。気配がしたから起きているとは思ったが、もう遅いぞ?」


 ちなみに時計がないので正確な時間は分からないけど、太陽が沈んでから結構な時間が経過している。たぶんそろそろ日付が変わるか、とっくに変わっていてもおかしくない時間だろう。


「ええ。分かってはいるんですが、もうちょっとだけやったら寝ます」


 モチベーションは大事だ。根を詰めすぎるとガリガリ削られることになるけど、高い内にある程度はやっておきたい。


「そうか。俺が言うのも何だが、無理はするなよ?」


 そう言って、ボクの頭を撫でた。


「ちょっ──何するんですか!?」


 子供じゃないんだ。頭を撫でられるとか恥ずかしすぎるっっ。しかも相手は男である。やめて欲しい。


「頑張っているイリーナを褒めてるんだよ。俺は褒めて伸ばすタイプだからな」


 なんて、ボクの抗議を笑いながら流す。頭を撫でる手は止まらない。


(くっ──こうなったら!)


 パシッ、と頭の上を動く手を止めるために、オルカさんの手首を両手で掴む。その際、手首の太さを覚えておく。魔道具製作に役立てるためだ。


 その時、オルカさんのもう片方の手が動く。ボクの胸に向かって──。


「ひゃあっ!」


 手首を放し、素早く距離をとる。


 あ、あぶなかった。


「ひ、ひとの胸を簡単に触らないでください!」

「いや、寝る前に挨拶いるだろ?」

「どこの世界に胸を揉む挨拶があるんですか!?」

「おっぱいの王国」


 何言ってんの、このひと!?


《おっぱいの王国。それは、バースト帝国の俗称。究極の胸囲差別主義国とも言われている忌まわしき国。滅べばいいのに》


(あるのっ!?)


 その事実にビックリだよ!


 あと知識の中に何か黒い感情が交ざってた気がする。


「た、例えその国でそういった挨拶があるにしても、ボクにはやらないでください」

「そか。んじゃあ、おやすみ、イリーナ」


 そう言って、あっさりとオルカさんは部屋を出て、隣にとった自分の部屋に向かう。


 あっ、と、いけない。深呼吸深呼吸。


 ボクは昨日オルカさんに命を救われた。

 今日はとてもお世話になった。

 明日もきっと、冒険者ギルドでいろいろ教えてもらうことになりそうだ。


 まだ、何も返せていない。



 ならせめて、挨拶くらいは出来る限りの笑顔で返そう。



 追いかけて、ドアから顔を覗かせる。

 

 オルカさんはちょうど、部屋に入ろうとしているところだった。


「オルカさん」

「ん?」



「おやすみなさい」



 出来るだけ、満点に近づけた笑顔。



「お、おう。おやすみ」


 何故かドモられた。 




 ◇◆◇◆◇◆




 サリラの腕輪の材料は、サリラの実、魔力布(または魔力革)、魔法の糸。この三つだ。


 サリラの実は十分な数がある。問題ない。


 魔力布や革というのは、特別な製法で魔力を定着させることが可能な布や革のことをいう。布の場合は人工的な処理をしたものが大半だけど、革の方は魔獣のもの──つまりは天然ものが多いみたいだ。


 だけど例外的に、魔力布や革の代わりに使用することが可能なものがある。



 神によって作られたアイテム──神器だ。



 それらは例外なく魔力を定着させることが可能で、通常の魔道具よりも高い魔力伝達率があり、魔道具の最高峰の名称にもなっている。


 サリラの腕輪を作る場合、魔力布や革の代用──むしろ上位互換だけど──として使えるのは、あくまでも布や革の神器だ。


 そしてボクには、神様からもらった布がある。



 神様からの報酬( パ   ン   ツ)である。



 昼間、サリラの腕輪の作り方を脳内検索したとき、ふと思ったのだ。


 大量のパンツって、神器なんじゃない? と。

 

 仮に失敗しても損失は大量のパンツの内、一枚二枚である。惜しくない。



 残る材料は魔法の糸。



 魔法の糸は錬金術によって造り出される特別な糸だ。

 この糸で描いた魔法陣や呪文には、特別な効果を発揮するものがある。ただし、誰にでも出来るわけではなく、魔道具使いの能力者が糸に魔力を込めながら作業をする必要があるみたいだ。


 実はこれも代用品があるみたいだ。


 髪である。


 髪は体の一部であり、魔力が宿る。糸の代用にするには長さと耐久に問題があるけど、長さが許容範囲ならばこの際構わない。今重要なのは耐久ではなく、ボクに出来るかどうかである。


 机の上に材料を並べる。



 サリラの実、パンツ(面積が大きく、飾り気のないシンプルな白いもの)、髪の毛数本。



(とても魔道具の材料に見えない……)


 そうは思うけど、やるだけやってみよう。


 針や刺繍枠は宿に戻ったとき、宿の人に言ったら貸してくれたものがある。図案は同じサイズの似たデザインのパンツに用意した。


 チクチクチクチク……………………。


 ボクの裁縫技術は子供の頃、お婆ちゃんがやっているのを見て面白そうだと思ったので教わってみた。それ以降はたまにやる程度だったけど、何だかこの体でやると手際がいい。


 次はあそこを縫って、その次はこう、と二手三手先を考えるのではなく、どこをどう縫えばいいのか、正解の道筋が終点まで分かっていて、ただそのルートに従って手を動かしている。集中すればする程、自分が刺繍をする機械なんじゃないかと思えるくらい、その手の動きは正確で、素早かった。


 パンツの表面にはみるみる魔法陣が髪によって描かれていく。


 当初予想していたよりも、自分で驚くくらい短い時間で完成した。


(よし、次は仕上げだ)


 机の上に合成板──魔道具製作や錬金術で使用することがある板状の道具で、合成の魔法陣が描かれているものだ。これもちょうどよさげな廃材が宿にあったので貰って、魔法陣はボクが描いた──を置き、その上にパンツを広げて、そのパンツに描かれた魔法陣の上にサリラの実を一粒置いた。


 この状態で魔道具使い(ボク)の魔力をアイテム全体に、均等に暫く流し続ければ合成されるはずだ。

されたら成功。されなかったら失敗ということになる。


 両手をかざして集中。魔力を操る。


 イメージするのは腕輪。サイズはオルカさんが装備可能なものだ。


 自分用に作ってもいいけど、腕輪はホーリースタッフを既に装備済みである。しかも聖女スキルのことを考えると、装備を変更するうま味が薄い。


 危険な生物がその辺りに棲息しているこの世界なら、回復手段はポーション以外にも用意しておいた方がいいと思う。オルカさんならひょっとすると何か用意しているかもしれないけど、今は耐久度外視だし、使い捨てなら効果さえあればダブっても迷惑にはならないはずだ。必要なければ捨てればいいだけだしね。


 いや、うまくいったら量産して売りに出せばいいのか。…………やっぱり止めておこう。自分のパンツを売ってお金を稼ぐような気になって何か嫌。


 よし、オルカさんには材料を秘密にするとしよう。パンツと髪の毛が材料とかドン引きされそうだ。ここは魔道具に効果があればいいってことで、自分を納得させる。


 そんな心配も成功しなければ意味がない。


 先程掴んだ手首の太さを思い出す。


(あの腕にちょうどいいサイズの……腕輪!)


 合成板とパンツの魔法陣が輝く。


 その輝きは次第に強くなっていき、パンツとサリラの実を光が飲み込む。


 その状態が数秒続いただろうか。光が消えたとき、合成版の上にはパンツとは別の物体があった。



 白銀色の、金属製の腕輪だ。



「で、出来た……」


 何故パンツを材料にこんな材質の腕輪が出来るのか、とか疑問は浮かんだけど、今はどうでもいい。魔法で自分がアイテムを作り出したという事実に感動だ。


 

【聖女の加護が発動しました。回復効果が上昇します。小回復→中回復】

【魔道具使いマスターランクボーナスが適用されました。耐久値+10】



「ん?」


 その時、頭の中で機械的な音声が聞こえた。



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