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第14話 聖女スキル


 時刻は夜。

 夕飯を食べ終え、オルカさんがとってくれた宿の部屋に籠もったボクは、体を拭いてさっぱりした後、部屋に備えられた机に向かって座っていた。


 体を拭くときは裸だったわけだけど、最初はドキドキしていたのに、終わる頃にはわりと平気だった。何だかあれだ。イザ女体を触ってみても“自分の体”を拭くというのは、どこか作業的で、色気を感じない。せっかくの容姿もこれでは台無しである。


 手紙をくれた神様は、絶対配役を間違えたと思う。


 今考えても仕方がないけど。なので今はあまり考えない。考えるのは他のことだ。



 オルカさんに言われたように、自分の能力を把握することである。



 そのオルカさんは、ボクが今日は夜遅くまで部屋で出来る能力の検証をすると言ったら「頑張れ」と声をかけてくれて、こんな時間にどこかへ出かけた。


「びぃすとの世話をしてくれる人たちのところへ行ってくる」


 とか言っていたけど、ペットをどこかに預けているみたいだ。


「今度ボクにも見せてくださいね」


 と言ったら、


「今度と言わず今からでもいいぞ。何だったらイリーナが世話をしてくれても」


 と、ニヤけた笑みで言われた。

 無論、断ったよ。オルカさんがそんなに顔が緩むほど可愛がっているペットには興味があるけど、ボクはオルカさんに頑張るって約束したんだ。初日からサボるわけにはいかない。



 そのオルカさんだけど、あの人はどうやらボクが思っていた以上にいい人みたいだ。



 落ち込んでいたボクに親切にしてくれて、依頼だとか強引な理由をつけて気晴らしに連れ出してくれたのだ。しかも、それだけじゃない。

 オルカさんは二度、途中で数分間どこかへ行った。

 二度目に戻ってきた後、ボクはある場所に連れて行かれた。



 そこにいたのは十歳くらいのひとりの少年。



 オルカさんが情報屋から聞いた話によると、その少年が木から落ちた少年だそうだ。途中でどこかへ行っていたのは情報屋のところだったらしい。


 少年は元気だった。見る限り、特に怪我なども見当たらない。


 ほっ、と安堵した。


 そして、ボクは少年に正直に話して謝った。


「昨日の爆発はボクがやりました。危ない目に遭わせてごめんなさい」


 と。それに対する少年の反応はこうだ。


「は? あんなこと人間にできるわけねーだろ。子供だからって馬鹿にすんなよな」


 信じてすらもらえませんでした。はい。


 それでもボクは本当だと主張して謝った。


 それに対する少年の反応はこうだ。


「あー、はいはい、分かった分かった。姉ちゃんのせいな? 許す許す。だから気にすんな。な?」


 十歳くらいの被害者の少年に、気を遣われて慰められる加害者(ボク)がいた。



 本気でへこんだ……。



 けど、木から落ちた子供の元気な姿をこの目で直接見て、話すことで、かなり心は軽くなった。


 

 本当に、感謝だ。



 おかげで気持ちの切り替えがかなり楽になった。もうあんなことが起こらないように、頑張らないとね。


 さて、それじゃあ、どこから手をつけるか考えよう。

 何故か習得した聖女の固有スキルはこうだ。



 自己修復(身体の損傷を治す、自動回復能力。パッシブスキル)

 

 治癒魔法(生物の怪我を治す。効果は使用した魔力量により変化。使用する魔力量が一定量を超えると“過剰回復魔法”に変化する。アクティブスキル)


 状態異常無効(外的要因による状態異常効果を無効にする。パッシブスキル)


 聖女の祝福(直接触れた対象を回復する。回復効果・小。パッシブスキル)


 聖女の加護(魔力を定着させることが可能な物質に聖属性が付与されることがある。効果はランダム。パッシブスキル)


 蘇生魔法(死者を蘇らせることが可能。但し、腐敗したもの、損傷が激しいもの、寿命が尽きたものには効果がない。アクティブスキル)



 ちなみにパッシブスキルとは、ボクの意志に関係なく常に発動しているスキルのことで、アクティブスキルとは、ボクが任意で使用することが可能なスキルのことだ。


 これらのスキルを身につけたことを知り、パーソナルカードのランクを見たときに思った。


(チートって、そのままの意味だよね)


 回復系に関してはズルっこい。

 そう言われても否定できない能力だ。


 オルカさんに言わなかったのは、チートという言葉がこの世界にあるのか分からなかったことと、もし実演して見せてくれとか言われた場合、困るからである。


 やったことがないし、スキルのほとんどが怪我や死を前提にしたものだから、おいそれと試すことが出来ないのだ。


 だけど今日、ヒントを得た。



 折れた枝が修復されていく、あの光景だ。



 植物も生物学上は生物に含まれる。魔法的には分からないけど、試す価値はあるだろう。


 そんなわけで、机の上には雑草がいくつか置いてある。


 この草に傷をつけ、それが治るのか、治るなら速度や消費魔力量を調べるのだ。



(よしっ、 始めるか!)




 ◇◆◇◆◇◆




「ふぅ……」


 机の上に置かれた水差しからコップに水を注ぎ、喉を潤して一息吐く。

 二時間くらいやっていただろうか。同じことを何度も何度も繰り返し、検証していたのでちょっと疲れた。


 結論から言うと、回復系のスキルは植物にも有効だ。

 

 治す箇所が多く、深くなるほど、全快までに必要な魔力量は増えた。治った時点で魔法を止めれば過剰回復は防止出来ることも分かった。これは大きな収穫である。誤って治す対象を死なせる心配がなくなったのだから。


 ちなみに、過剰回復魔法というものがどういうものかというと……腐った。ドロッ、と。動物には使いたくない魔法である。視覚的に。


 それと回復速度についてだけど、対象の患部以外に触れるよりも、直接患部に触れた方が回復効果が高かった。これは治癒魔法と聖女の祝福共通である。あと、治癒魔法の方は魔力量を増やせば回復速度も上昇したけど、これはやりすぎると過剰回復魔法になって危険なので、もっと経験を積む必要があるだろう。


 自己修復については、どこまで治るのか調べるわけにはいかないので今はやめておく。冒険者をやるなら知る機会はいくらでもあるだろう。知るような目には出来るだけ会いたくはないけど。

 オルカさんの話では、あのホワイトゴーレムの攻撃で出来た頬の傷はすぐに治ったそうだし、多少の傷はすぐに治るということが分かっていれば今は十分だ。


 蘇生魔法と状態異常無効は今は試せない。

 聖女の加護は運の要素が強いけど、これは魔道具製作と並行して検証出来そうなスキルだ。



 よしっ。少し休憩したら、魔道具を作ってみよう。



 もう時間も遅い。目安として二時間。それ以上かかるようなら明日に持ち越しだ。夜更かししすぎてオルカさんに迷惑をかけるわけにはいかないからね。



(頑張れっ、ボク!)



 ボクは体を休めつつ、次にやることを反芻して気合いを入れた。


 


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