第12話 LSP1(オルカ視点)
覇王流の中には腕だけを素早く動かせるように出来る技がある。
これは主に戦闘中に手数が必要なとき──例えば多数の敵に対しての攻防などにも使える。
極めれば、理論上は一秒間に千発くらい殴ったり出来るらしい。俺自身は、そこまで出来ない。というか、出来る奴なんて知らないが。
だが、ぜひ覚えておきたい覇王流の技のひとつである。
その名は、
覇王流──無音千手。
この技は、戦闘以外にも応用が利く。
だからこそ努力の果てに習得したと言っても過言ではない。
◇◆◇◆◇◆
美少女という以外にイリーナに興味を持った俺は、金を得たいという彼女に、冒険者として俺とパーティーを組まないかと提案したところ、彼女は二つ返事で承諾。冒険者ギルドに二人で向かっているときの出来事だ。
こちら側に向かって美少女ネコ耳獣人が歩いていた。
(……7…………いや、6か……)
俺的美少女レベルの数字である。
一昨日までの俺なら9美少女くらいの評価をあげていたかもしれない。だけど昨日イリーナと知り合ったため、基準値を大幅に修正せざるを得なくなった。
現在はイリーナを10美少女とした場合の減点方式を採用している。
あくまでも“美”少女レベルなので、評価が1でも一般的には十分に可愛い部類に入る。つまりは目の前のネコ耳少女は“かなり可愛い”部類の少女なのだ。シャツを盛り上げる膨らみには、イリーナとは別の魅力があるしな。
そんなことを考えていると、何故か案内されているイリーナが俺を追い越し、前を歩く。
「? イリーナ?」
どうかしたのか? と思っていると、イリーナが滑った。俺に向かって。
素早く移動して彼女が倒れないように支える。無論、危ないので手はしっかりと前に回して抱き止めるのだ。そう、危ないから前に回すのだ。
むにゅっ。
柔こい。
俺の両手の平がイリーナの胸にフィット。しっかりと固定する。危ないからな!
しかし今のは妙な滑り方だった。地面には滑りそうな物など何もない。
つまりこれは──
(ラッキースケベの発動だ!)
ならば俺の取るべき行動はひとつ。
ラッキースケベによって美少女のおっぱいを掴んだ男が取らねばならない行動。それは──
揉むっ!
ことである。
だが、ただ揉むだけならただの男にも出来る。
俺はランク1の剣士。ただの男ではない。
ただの男ではないなら、揉み方にも工夫が必要だ。
瞬時に全身に闘気を練り上げ、ほぼ時間差無く、手の指先に集中する。
覇王流──無音千手。
むにゅむにゅむにゅむにゅむにゅむにゅ。
一秒間に最低十六揉みはする速さだ。指が痙るのも覚悟すれば百揉みはいけるかもしれないが、女の胸を揉んでるときに指が痙ったら格好悪いので最大五十くらいまでに抑えた。
「ん……ちょっ、ダメ。オルカさ────ンっ」
俺は揉むのに集中しつつ、闘気を目にも集中させ、視力を強化する。
イリーナの僅かな反応すら見逃さず、クリティカルな一揉みをするためだ。
イリーナが身悶えする。
頬を赤く染めている表情と吐息がエロい。
「悪い悪い。つい手が勝手に……ムフフ……」
いかんいかん。イリーナの扇情的な表情に、思わずエロい笑いが漏れてしまった。
(──弱点発見! よしっ、2コンボだ!)
「やめ……アッ──」
「──バカップルがっ──」
ネコ耳少女が何か言っていたが、無視。今はこっちの方が大事だ。
(ぐふふ……)
俺は数秒間、手の平の中の天国を堪能した。
◇◆◇◆◇◆
俺が天国を手放すとイリーナがぐったりと脱力したので、お姫様だっこでその場から移動した。
俺としてはそのまま冒険者ギルドに向かうつもりでいたが、抱き上げるとイリーナが激しく抵抗。疲労した女を道端で降ろすのも何なので、すぐ近くの公園までそのまま抱えて移動した。
結果、イリーナが怒った。
だが、どこか迫力が無い。本人的には物凄く怒っているのだろうが、俺から見ると、まるで子猫が威嚇しているような愛らしさすら感じる。ふみゃー、って。
だからといって、軽く考えてはダメだ。
これからパーティーを組もうって相手だ。不和は取り除くべきだろう。
俺が揉んだのが原因とはいえ、揉まないという選択肢はあの瞬間にはなかった。
ラッキースケベのお約束だろう。イリーナがエロい表情だったので、多少調子に乗りすぎたのは認めるが。
そんなわけで、俺は頭を下げた。エロにも引き際が肝心なのだ。ここを間違えると最悪破局する。
これまでの態度を見るに、イリーナからの好感度は出会ったばかりにしてはかなり高い方だと感じる。
俺に好意的な視線を向けてくるし、汚れていたとはいえ全裸にしたことに対しては一言も文句言わないし、宿での一揉みの警戒もすぐに薄れたし、パーティーを組むことについて躊躇しなかった。それに、今の様子を見るに、あまりマジギレしないタイプなのかもしれない。素直に謝れば許してくれるだろう。
そんな打算もあった。
案の定、イリーナの態度はすぐに軟化した。
おまけに美味しいアイスを奢ると言ったら、興味ないフリをしながらも興味津々なのが見て分かった。まるで動物に餌付けしている気分だ。
随分とチョロい娘さんである。
放っておいたらその内悪い男に欺されて、エロいことをされまくって不幸な道を歩くことになるかもしれない。そうなっては大変だ。俺が護らねば。
ちなみに俺はエロいことをしてもいいのだ。美少女を不幸になんてしないいい男だからなっ!
そんな事情で俺はイリーナを公園に残し、アイスを買いに行った。
アイスを買って公園に戻ってきたとき、イリーナの表情は暗く、その顔は青ざめていた。