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第10話 LSP1(イリーナ視点)

「お~……」


 宿の外に出て、最初に口から出たのは感嘆の声だった。


 だって、ファンタジーだよファンタジー!


 石造りの街並みは、日本とは明らかに違う。

 街中に電柱なんてどこにもないし、お店の看板には絵が使われている方が多い。

 武器・防具屋なら剣と盾。ポーションなどの回復アイテムのお店なら瓶。宿屋ならベッド。

 識字率の問題なのか、単純にここがゲームの世界だから分かりやすくしているのかは分からない。パーソナルカードなんて物がある以上、字が書けなくても最低限自分のカードを読めるくらいには知識があるとは思うけど。

 とにかく外の光景は、遠出なんて修学旅行や家族旅行くらいしか経験のないボクにとって、とても新鮮で、とっても衝撃的だった。


 それが顕著なのは、道行く人の容姿だ。


 黒髪黒目の日本人らしい特徴の人を見かけない。

 オルカさんのように、栗色の髪と黒目の人が多い。けど、中には赤髪や緑髪や銀髪なんて人もちらほら歩いているのが見える!


 ここが日本じゃないということを再認識させられてショックもあるけど、ここがファンタジー世界だということも同時に再認識させられた。


 ちょっとテンション上がるね!


「冒険者ギルドはこっちだ」

「はいっ!」


 ボクより半歩ほど先を歩いて道案内をしてくれるオルカさん。

 本当にいいひとだ。


 無一文になっていることを知らずに、朝食の代金を払おうとして失敗したボクを快く許してくれて、それを気にするボクのために、いきなり胸を揉むなんて妙な行動をとってまでボクの気持ちを軽くしてくれるなんて。


 そりゃ、最初胸を揉まれたときにはビックリしたよ。

「チャラだ」とか言われたときは(何言ってんの、このひと!?)とか思っちゃったよ。

 けど、その行動が彼なりの気遣いで、ボクの態度にも問題があったかな? と思うと、わりとすぐにこの件は水に流す気になった。


 最もこの件で、考えてみれば男が基本エロいことを考えるのは普通だと思い、ついオルカさんから少し距離を取ってしまったけども。

 男であるボクが男相手にそんな警戒をしたということが、ちょっとイヤだ。次は出来るだけ男らしく、普通に接するように心がけよう。そうすればオルカさんも、萎え萎えするに違いない。


 その後の“ボクが何者か?”という質問には内心ドキッとした。平静を保てた自分が凄い。動揺を見せたら、何か疚しいことがあるように見えるかもしれないしね。

 それに、命の恩人に嘘は吐きたくない。だから、出来る限り本当のことを話した。何故この世界に来たのか、何か理由があるみたいだけど、ボクは知らない。報酬(パンツ)のこともそうだ。ボクが望んだらしいけど記憶にない。ある意味、記憶喪失と言ってもいい状態だろう。


 まあ、可能な限り正直にいったところ──聖女としてのスキルについては、大部分を伏せたけど──叱られたというか、助言をいただくことになったけど、あれもボクのことを考えてくれてのことだ。ありがたいことだね。


 それでその後、無一文なのはボク的にすごい困るので、何かお金を稼ぐ方法はないかと尋ねたところ、オルカさんが冒険者としてパーティーを組まないかと提案してきた。

 知り合いが誰もいないこの世界で、親切にしてくれる人が一緒に仕事もしてくれるのは心強い。他人の好意に依存しすぎるのはよくないけど、背に腹は代えられない。この恩は必ず返そう。


 そこで、ただひとつだけ、恩返しとして渡そうと決めた物がある。


 魔道具のひとつ『どうぐぶくろ』だ。

 魔道具袋とも呼ばれてるらしいけど。

 早い話が、ボクが持ってるパンツ袋と同じようなアイテムである。普通はこんなにいっぱいの荷物は入らないそうだけど、容量の小さな物でもオルカさんが使っているリュックサックの倍くらいは入るらしいとか。それでいて、中身の重さは関係なく、重量は『どうぐぶくろ』の分だけという、携帯に便利なアイテムだ。


 現在は昔の魔道具使いが作った物が現存するだけで、今は作れる者がおらず、激レアアイテムだとかいう話。

 オルカさんが回収してくれたパンツを袋に仕舞うボクを見て、羨ましそうにしていたのを思い出す。



 ボクの中の知識によると、材料さえ集まれば、たぶん作れるのだ。『どうぐぶくろ』が。



 魔道具『どうぐぶくろ』


 作成可能ランク3


 材料 時空石、魔力布(または魔力革)、魔法の紐


 効果 アイテム内に拡張された空間分、収納が可能になる



 知識によれば時空石以外なら何とかなるみたいだ。だけど時空石というアイテムがどこで入手できるかが分からない。けど、ボクとしても恩返しをするなら、出来るだけ相手に喜んでもらえる方が嬉しい。オルカさんとは幸いパーティーを組んで暫くは一緒に行動するから、作れさえすれば渡す機会はいくらでもある。状況が少し落ち着いたら、元に戻るための情報収集と並行して時空石を探せばいい。それまでは出来ることでコツコツと恩返しだ。


 そんなこともあって、ボクは当面の生活の糧を得るため、恩返しのため、冒険者ギルドに向かっている。


 周りの風景を物珍しげに眺めつつ、オルカさんの後をちょこちょこ着いて行くこと暫し、向こうからこちらに向かって歩いてくるひとりの少女に目がとまる。


 その少女を目にした瞬間の感動は、ある意味、この世界に来てから最大級のものだった。


(ネコ耳美少女キターーーーー!)


 ネコ耳ですよネコ耳!


 年齢は十代後半くらいか。

 白いシャツにショートパンツ姿で長い白髪の美少女! 尻尾がゆらゆら揺れてます!

 しなやかな手足と細い腰のわりに、お胸がシャツを盛り上げているのがとってもせくしー!

 勝ち気そうなつり目がその服装と相まって、活発そうな印象を与える。

 

 ボクはゴクリと唾を飲み込んだ。


(やってみるべきか?)


 狙って発動するわけじゃないみたいだけど、ひょっとしたらということもある。


 LSPの消費──即ち、ラーキースケベの発動だ。


 エロゲーの世界に来たのなら、ボクもちょっとくらいエロい目にあってもいいと思うんだ。


 ボクは意を決すると、自然を装って進行方向から僅かに逸れる。角度で言えば数度くらいの差だ。


「? イリーナ?」


 あ。ネコ耳少女に集中する余り、オルカさん抜いちゃった。まあいいか、ネコ耳少女と接触をするまでの間だし。 

 強くぶつからないように注意しないとね。こんなことで相手に怪我でもさせたら、ボクは激しく自己嫌悪。軽くぶつかるくらいで発動するかは分からないけど、元々発動条件なんて分からないんだし、ダメ元だ。

 気を付ければいいのだ。集中集中。


 自然を装うために少女と目を合わせないようにし、だけどその姿は視界の端に捉えつつ、距離が約五メートルを切ったときだ。


「────え────?」


 滑った。昨日に続いて、また。今度は後ろ向きに。


「おっ、と」


 倒れる! と思った危ういところを、背中から優しく抱き止められる。オルカさんだ。


 むにゅっ。


 彼はボクを後ろから支えると同時に、その両手を前に回してしっかりと掴んでいた。胸を。

 そして、ものすっごい速さで揉み出した!


 むにゅむにゅむにゅむにゅむにゅむにゅ。


「ん……ちょっ、ダメ。オルカさ────ンっ」

「悪い悪い。つい手が勝手に……ムフフ……」

「やめ……アッ──(ムフフって、絶対わざとだよねっ!?)」


 くすぐったいような、むずむずするような、ぞくぞくするような、そんな感覚がごちゃ混ぜになった変な感覚に身悶えしていると、ネコ耳少女がボクたちの横を通り過ぎる。


 チラッ、と一瞬ボクと目が合った。冷め切った視線。


 そして、ボソッと吐き捨てるように一言。


「──バカップルがっ──」

(ちがーーーーーーう!)

 

 ボクは、心の中で絶叫した。



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