嫌な予感
俺の本職は学生である。学校に行かなければならない。
ゆかりちゃんは玲奈の親父さんに身柄を預かられていて、学校には来ていない。水上彩加はずっと長期欠席状態らしい。
俺としてはかなり好きになりかけていただけに、彩加がいないのは少し寂しい気がしてしまう。俺を陥れた張本人だと言うのにだ。
しかも、俺への接近は俺を陥れるためであり、俺の事をどう思っていたのかなんて、分かりはしない。いや、陥れるくらいだから、きっと親父と一緒に憎んでいたんだろう。
「はぁー」
そう思ったとたん、思わず俺は深いため息をついてしまった。
「亮、久しぶりに一緒だって言うのに、何ため息ついてんのよ。
しかも、さっきから考え事ばっかりして!
いい加減にしてよね!」
電車で俺の右横に立っている陽香がほっぺをふくらせ気味で言った。
「そうですよ。
亮君はまだあの子の事気にしてるんじゃないですよね?」
「あは、あははは」
玲奈にそれを言われると俺としては立場がない。意味不明な笑いのような声のようなものを出して、左横に立っている玲奈ににこりとして、誤魔化すしかない。
そんな俺の態度に、どうする、こいつ?的な表情で俺を挟んで陽香と玲奈が顔を見合わせている。
しかしなんだ、この二人がもめなくなったのはいい事だ。女の子がもめだすと、俺としてはどうしていいか分からなくなる。
そりゃあ、どっちかが好きな子なら、そっちの肩を持てばいい訳だが、俺はこの二人とも好きだしするから、そう言う訳にもいかない。
そう思うと、今の平和な二人を見ていると、俺の表情もにこやかなものになってしまう。
「何それ、図星って事?
呆れちゃわない?」
「そうなんですか?
本当にまだあの子の事想ってたんですか?」
「いや、そ、そんな事ない、ない。
俺は参戦しないけど、今日の戦いはどんなふうになるかなって、考えてただけじゃん」
「よかったぁ。
亮君、騙されたのに、今でも想ってるとしたら、よっぽどあの子の事を好きになっちゃった訳じゃない。それじゃあ、私たち勝てないじゃないですか」
「は、は、はは」
俺はちょっと自分の顔が引きつっている事を感じながら、笑みを作っていた。
そうなんだ。とりあえず、口から言ったでまかせだが、今日作戦が決行されるのは事実だ。軍が色々なケースを想定した結果出された結論。それがミマサカ攻略だ。
松山と連携していると思われるミマサカを叩き、背後の憂いを無くす。同時に北方の長城を越え、蛮族の侵攻意欲をそぐのだ。
この二つの作戦がうまくいけば、松山は孤立無援となり、首都決戦に軍も全力投入できるし、うまくいけば、そのまま降伏と言うのも想定の中に入ってくる。
「玲奈は甘いなぁ。
どう見ても、あの子の事を考えてた顔だよ」
「それは困ります」
二人が同時に俺の顔を覗き込んできた。息が合ってるじゃないか。
以前なら、いがみあっていた二人なのに。
「お前たち、仲良くなったよなぁ」
俺がそう言って素直な気持ちを声に出した瞬間、陽香と玲奈の眉間にしわがよった。
「それは誤解です」
「そうそう。亮は分かってないんだから」
「水上さんが鬱陶しかったから、二人で協力しただけです」
「そうなの?」
「そう言う事。
なんで、私が玲奈と仲良くしなきゃなんない訳?」
「いや、それはあるぞ。
俺を助けてくれたのは玲奈だし」
「それは、そうかも知んないけど」
陽香が口先を尖らせている。
「そうですよ。
亮君を口説く権利は、私の方にあるんじゃないですか?」
「そんな事、もう過ぎちゃった事じゃない。
亮は玲奈には譲らないんだから」
そう言って、陽香が俺の腕を引っ張った。
「だめですよ。
そんな事、許しませんよ」
玲奈が俺の反対の腕を引っ張った。
込んだ電車の中で、何してんだか。
「離しなさいよ」
「離すのは陽香さんの方です」
何だか以前の二人に突然戻ってしまったではないか。
その時、俺はふと思った。仲が良くなくても、共通の敵のためなら、手を結んだりするんだとするとだ、ミマサカと松山が組んでいるのはエドを倒すためなのか?
アイヅもそれに加わっているのか?
俺の頭の中は目の前の二人のいざこざから逃れて、色々な仮説を検証した。
この戦争はエドとそれ以外の戦い。
誰が仕組んだのか。
最初に戦争をしかけたアイヅ。しかし、松山がエドを裏切らないと言う可能性を考えれば、リスクがありすぎる。
松山。
だとしたら、最初に松山が行動を起こさなければ、アイヅやミマサカは行動を起こすのに勇気がいるはずだ。
誰が仕組んだのか、分からないではないか。
それにだ。アイヅとエドの戦いに一度だけ現れた謎の戦闘機。俺の親父や玲奈の親父さんの話でもそうだったが、あれをゆかりちゃんのお父さんが造ったのなら、アイヅではないはず。
そこで、俺の目が見開いた。
だから、以降出てこないのか!
「玲奈、お父さんに電話してくれないか」
電車の中と言うのも忘れ、俺は玲奈にそう叫んだ。
「でも、ここ電車の中ですよ」
「じゃあ、メール打ってくれ。
今日の作戦、深入りしすぎると、あの戦闘機が出て来るかもしれないと」
俺の慌てた大声と、物騒な単語に車内の視線が俺に向けられたが、そんな事気にしている場合じゃない。
俺のそんな真剣な雰囲気に、玲奈がメールを打ちはじめ、陽香がそんな玲奈の指先を見つめている。玲奈がメールを打ち終えたかどうかと言うタイミングで、電車が駅に到着した。学校に行くなら、まだ降りるのは先だ。しかし、俺の基地に行くなら、今から引き返さなければならない。
「俺、基地に行くわ」
俺は二人にそう言って、電車を飛び降りた。




