ゆかりちゃんって、誰、それ?
戦いが終わると、ミマサカ国境の警護に十分な兵力を払いながら、現国王派との首都決戦に向け、再び軍は動き出した。
次の戦いまでには数日の猶予がある。そんな戦いの中の束の間の平穏な時に、俺は呼び集められた。俺を陥れた、あの事件の真相を聞くために。
その場にいたのは、俺と同じく収監された俺の親父、俺たちを助けるために動いてくれた姉貴に、玲奈、玲奈のお父さん。そして、あの女の子。
最後にやって来た、俺を見て、玲奈が小さく手を振りながら、にこりとした。
「ありがとうな。玲奈」
俺は心の中で言った。
「寺沢君、大変だったね」
軍の制服姿の玲奈のお父さんが俺に言った。
「いえ。
こちらこそ、ありがとうございました」
そう言って、俺は深々とお辞儀した。
あの日、姉貴の横で泣いていた女の子は今日は泣いてはいなかったが、俯き加減で俺に目を合わせてはこない。
俺としては、少しさみしい気がしたが、見れない気持ちも十分理解できる。
「じゃ、まず約束だったよね」
俺が空いている席の前まで来ると、姉貴がそう言った。その言葉で俺は座り損ね、立ったまま、様子を見守った。
あの女の子が震えながら立ち上がると、俯き加減のままさらに頭を下げた。
「寺沢君、寺沢君のお父さん。
すみませんでした。
全ては私がした事です」
俺はもう許す気になっているので、その言葉で十分だったが、親父がどう言うつもりか分からないので、親父に視線を向けた。
親父は俺に任せる。そんな視線を俺に送ってきた。
「いいよ。
本当の事を話してくれたんだし、それにもう済んだ事だし」
俺はそう言いながら、席についたが、その女の子は立ったまま座ろうともせずに、ただただ震えていた。
「うちのバカ弟がいいって言うんだから、ゆかりちゃんも、もう座りな」
ゆかりちゃん?
誰それ?
俺が驚きの表情で、目が点になっているのに気付いた姉貴が、深いため息をついた。
「本当にばかだね。あんたは。
未だに気付いちゃいないんだね。
この子が誰だか」
「えっ?
彩加ちゃんだろ?
うちにも何度も来てたじゃんか」
「まあ、私も水上彩加って、自己紹介されたから、他人のそら似だと思ったくらいだし、当時あんたは私より小さかったから、覚えていないのも仕方ないか」
「あの子はな。
お父さんの友達で、お前が拉致されそうになった事件の黒幕の一人として、国外に逃亡した菅原さんのお嬢さんだよ。
お前も菅原さんがうちにやって来た時には、よく一緒に遊んでいたじゃないか。
まぁ、そう言う私もお前が彩加ちゃんって言うから、気付いてなかったので、偉そうなことは言えんのだけどな」
親父が俺に諭すように言った。
ゆかりちゃん?
確かに、記憶彼方にそんな子がいた。
「ええっ!
何それ!」
俺は思わず絶叫してしまった。




