彩加のいない朝
次の日の朝、俺はいつもの時間に家を出て、エレベータの前に立った。彩加は俺が起きた時には、すでに自分の家に帰っていたので、登校の準備をしているんだろうと思っていた俺は、ちらりと彩加の部屋のドアに目をやる。
出てくれば、一緒に乗ろう。そう思ったからだが、彩加が出て来るよりも、エレベータの方が早かった。いや、もう彩加は駅に向かっているのかも知れない。
俺は一人、エレベータに乗って、駅に向かう。
戦争の暗雲が垂れて込めていようが、昨日の戦いで軍が痛手を被っていようが、一般市民の日々の生活は変わらない。いや、正確に言うと変えられない。仕事に向かうため、せわしなく駅を目指している大人たちや、学校に向かうため慌ただしい学生たちで街は溢れている。
俺もそんな中の一人になって、足早に駅を目指す。
駅の階段の上から眺めると、朝のプラットフォームの上は人で溢れかえっている。俺はそんな人ごみの中に飛び込んで、いつもの車両のいつものドアの場所へ向かって行く。
そこに彩加の姿は無かった。俺より遅いのかも知れない。
そう思いながら、俺は列の最後尾に並んだ。電車が来るまではあと数分ある。俺は改札からつながる階段に時々目をやりながら、彩加の姿を探した。しかし、電車が到着しても、彩加の姿は見えなかった。
この電車に乗ろうかどうしようかと迷っている俺を、背後の人の流れが俺を電車の中に押し込んでいく。
「おはよう」
電車のドアの横に立っていた陽香と玲奈が俺に言う。そして、彩加はいないのか?と言う雰囲気で、辺りに視線を配っている。
「亮君、あの子はいないの?」
玲奈が俺に怪訝な表情で言う。
「ああ」
彩加の事が心配だった俺は、短くそれだけを言った。俺の家にいる時には、元気になってはいたが、あんな事があった昨日の今日である。学校を休むのかも知れない。
「はっきり言って、私、あの子好きじゃないんだけど、ちょっと心配」
陽香が少しきつい表情で言った。きつい理由は彩加の事を思うと、腹立たしいからなのか、画びょうを置くと言う卑劣な行いが腹立たしいのかは俺には分からないが、陽香は何かに怒っているみたいだって事は分かった。
「ならさ、もし、今日学校休んでいたら、お前たち彩加の家に行って、元気づけてやってくれよ」
「亮、どうして私がいかなきゃいけないのよ」
「そうよ。亮君、どうして、そう言う話になるのか、分かんないよ」
「だって、心配だろ?」
「それと、これは別の話でしょ。
だって、あの子、変だと思わない?
転校してきたその日から、亮にべたべたして、普通あり得ないよ」
「そ、そうかなぁ」
それは俺に一目ぼれしたからだろ?俺はそう思ったが、そんな事口に出したが最後、二人からどんな目に合わされるか、分からない。俺はその言葉は心の中だけにした。
「あ、もしかして、亮。
自分がかっこいいからだろなんて、思ってんじゃないでしょうね」
「え、そうなんですか?
亮君、かっこいいですけど、水上さんの態度は何か変ですよ」
「お、思ってないって、そんな事」
俺は心が読まれてしまった事に少し狼狽しながら、答えた。
しかしだ、二人が言っている事も一理あるかも知れない。なんで、彩加は出会ったばかりの俺にあんなに積極的なんだろうか?
俺は首をかしげながら考えてみたが、一目ぼれ以外の答えは見つけられなかった。




