溺愛アルバム
わたしの名前は如月遥香。わたしには五つ年上の血の繋がらないお兄ちゃんがいます。
如月悠人。文武両道、眉目秀麗。弓道部の部長で成績も学年トップ。クールで優しいお兄ちゃんはわたしの自慢です。
そしてわたしは、そんなお兄ちゃんを見ていてあることが気になり始めました。
それは、ほんの出来心だったんです。超ウルトラスーパー完璧なお兄ちゃんでも、エロ本の一冊や二冊は持っているだろう、と思ったんです。女の人にモテモテなのにいつも告白を断ってるのを見て、ちょっと兄の性癖を心配したのも理由の一つです。
ともかくその日。お友達とお兄ちゃんが出かけるのを確認して、わたしはお兄ちゃんの部屋に潜入しました。
お兄ちゃんの部屋は綺麗に片づいていて余計なものが一つもない、殺風景な部屋でした。これならお母さんがわたしに掃除のたびに部屋を片付けなさい!と怒るのもうなずけます。わたしのもふもふクッションであふれた部屋とは大違いです。でもお兄ちゃんはわたしが怒られるのを見て、いつも庇って助けてくれます。それに片付けも毎回手伝ってくれて、ほんとうにやさしいのです。そして綺麗になったわたしの部屋を見て、「母さんには僕が手伝ったことは内緒にするんだよ」と笑って言うのです。
そのことを思いだし、すこし胸が痛みましたが好奇心には勝てません。やはり当初の予定通り部屋の捜索するをすることにしました。
まずはベット下から。「普通の男子はまずここにエロ本を隠すのよ」と親友のリンちゃんが教えてくれました。なのでがんばってベットの下に上半身をもぐり込ませ、見渡してみましたが埃ひとつありません。お兄ちゃんはベットの下も掃除するのでしょうか?そうだったらお母さんよりすごいです。
その次は本棚の奥。これもリンちゃんが「本棚の奥とか表紙が隠されてる本とかが怪しいのよ。つーかあの腹黒一体どんな妹萌えな本を持ってるかわかったもんじゃない見つけたらソッコー燃やしなさい!」と教えてくれました。後半部分の台詞がよくわかりませんでしたけど、リンちゃんの顔が怖かったので頷いておきました。
一生懸命大量の本を一冊ずつ調べてみましたが見つかりません。お兄ちゃんが持っていたのは参考書や小難しい専門書や辞書ばかり。さすがお兄ちゃんです。漫画の一冊すらありません。
わたしは感心しながらお兄ちゃんへの尊敬の念を急上昇させました。乙女ゲーでいう好感度はMAXです。
次に目をつけたのはお兄ちゃんの勉強机。これもリンちゃんが「本棚にもなかったら机の中しかないわ。鍵がかけられるところに隠すことが多いけど…ああでもやっぱり逃げなさいその部屋からすぐ逃げるのよあの男の情報収集能力をなめちゃいけない。もしかしたらわざと泳がせてそのままパックンてことも…。ありえるわ絶対ありえる。あのシスコンだったら友達と遊びに行くフリして遥香が部屋を物色してるうちに帰ってきて遥香を襲う算段でも考えてるんじゃ…」と教えてくれたのです。でもやっぱりわたしには後半部分の意味がよくわからなくて、聞き返そうにもリンちゃんは思考の渦にはまってしまっていたので諦めました。でも大丈夫!鍵がかかっていたら諦めろってことですよね!さすがにそろそろわたしの良心も痛んできたので鍵がかかっていたら潔く諦めようと思います。
わたしは、そうリンちゃんに決意しながら、ふう、とため息をつきました。
少し疲れました。なんだか喉が乾きましたし…。
そう思っていると、わたしはあることに気がつきました。勉強机の上にガラスのコップが置いてあります。お兄ちゃんが片付け忘れたのでしょうか?
透き通った茶色の液体。ウーロン茶かな?と思いながら手に取ります。
い、いいですよね?お兄ちゃんが片付け忘れたんだったら、残りをわたしが飲んでも。後でまた、ウーロン茶を入れておけばバレませんよね!
わたしはグビッと一気に飲み干しました。やっぱりウーロン茶のようです。時間がたちすぎたのか、少し苦いですが。
よし!これで大丈夫!
わたしは改めて、エロ本捜索を開始しました。
まずは、ちょっとドキドキしながら鍵がある引き出しに手をかけました。すると!なんと鍵はかかっておらず、開いたではありませんか!びっくりです。
そしてその引き出しの中には一冊の本がありました。表紙はカバーがかかっていて、いかにも怪しいです。
おそるおそる開けてみると、そこにはわたしの写真がはってありました。
「アルバム…?」
アルバムにしては見覚えのない写真ばかり。こんな写真、撮ったでしょうか?しかもわたしの写真しかありません。
疑問に思いながらページをめくります。
「きゃっ…!」
思わず、アルバムらしきものを投げ捨ててしまいました。そこには、わたしの着替え写真とお風呂で身体を洗ってる写真がありました。
顔を羞恥で真っ赤にしながら考えました。これはおかしい、と。
着替え写真やお風呂写真を撮られたら、さすがにわたしも恥ずかしいし、撮るのを拒否すると思います。それに、いまさら気づきましたが、この写真のわたしは、カメラ目線のものが一枚もないのです。
もしかしたら、と最悪な方向に想像が膨らみます。
さっきとは違う意味で、心臓がドキドキしてるし、冷や汗も出ます。それに真っ赤だった顔も真っ青になりました。いや。青を通り越して白かもしれません。
「…そんな…隠し撮り…?」
わたしは呆然と呟きました。
「正解だよ。ハル」
「!?」
後ろから、聞き覚えのある低い声。そんな…。まさか…。
わたしはおそるおそる震えながら振り向きました。
「お、にい…ちゃん…」
いつのまにか開いていたドア。
そこには、いつも通りの優しい笑顔で立っている兄がいました。
「お兄ちゃんの部屋に勝手に入るなんて…悪い子だね」
「あ…あ…」
お兄ちゃんが開いていたドアを閉め、こちらにやってくるのを黙ってみているしかありませんでした。これほどお兄ちゃんが怖いと思ったのは初めてで、恐怖で固まった足はびくともしません。
逃げなきゃ。逃げなきゃ。
そう思ってるのに、どうして。
「ハル、見た?」
わたしの目の前に来た兄は、わたしが握りしめてる本をチラリと見て、そう問いかけました。わたしは兄のいつも通りなはずの優しい、けど何かが違う笑顔にコクコクと頷くしかありません。
どうしよう。どうすれば、ここから逃げられる?
兄から、逃げられる?
「悪い子だね」
「!?」
わたしの思考が、読まれたのかと思いました。ですが、兄の言っている意味が違うことをさしているのは明白です。
「あ、あの!ご、ごめんなさい…お兄ちゃん。勝手に部屋入ったりして…」
そのまま謝って、許してもらおうと考えましたが、兄が手で止めるよう合図したので最後まで言えませんでした。
兄は相変わらずちぐはぐな笑顔のまま。
「これ、僕の大事な本なんだ。綺麗に撮れてただろう?あ、そうそう。お風呂とか着替えとかの写真は隠しカメラで遠隔操作しながら撮ったんだ。掃除のたびにつけたり、回収したり、大変だったんだよ。まあその分、力作だけどね。どれもハルの魅力を引き立ててると思わない?でも、本物には負けるね」
そうか。違うと思ったのは、兄が妹を見る目をしてるんじゃなくて。
「ハル…すきだよ。あいしてる。ずっと欲しかった…。写真のハルじゃなくて、本物のハルにふれたかった…」
男が女を見る目をしてるんだ。
愛おしげに、艶を滲ませて。やさしいふりをして、その奥にそっと欲望をかくす。
兄の手がわたしの頬にふれます。熱くて、とけてしまいそうなほど恍惚そうな歪んだ笑み。
「ハル…。ハル…!」
そのまま苦しいほど抱きしめられるます。さっきから、第六感が危険を知らせてくるのに逃げることができません。なすがままにされてしまいます。
いいえ、違います。逃げられないんじゃなくて、逃げない。
どうして。なんで。
わたしは、妹なのに。
どうして、彼を兄として見れないの?
ずっと気づいてた。自分の心。彼の視線だって、気づいていたけど知らないふりをして。
だめ。だってわたしたちは兄妹なのに。
「ハル…」
あれ?何を考えたのでしょう。思考がぼやけて、一体何を考えているのかもわからなくなっていきます。
「ハル」
うっとりとした表情を浮かべながら近づいてくる兄の端正な顔を見ながら、わたしはやっと自分の気持ちを素直に認めることにしました。
わたしは彼を愛しているのです。
なぜわたしはそれをはやく認めなかったのでしょう?こんなに満たされたような気持ちは初めてです。
顔中に降り注ぐキスを受けとめながら、わたしは幸せそうな表情を隠すことなく、兄に微笑んだのでした。
そうすると、お兄ちゃんもうれしそうに笑います。
すき。だいすき。
兄にベットに押し倒されながら、言った言葉は届いているかしら?
きっと、届いていますよね。
だってお兄ちゃんも、僕もだよって言ってくれましたもの。
あれ?わたし、なにを考えているのでしょう?
かんがえ、られない。
ギャグ風にしようとしたのにどうしてこうなった。
そして長い。長いよ短編なのに。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!心優しい読者さまに感謝です!
以下設定。
如月遥香。十六歳。
常に敬語な天然美少女。親の再婚でできた兄を尊敬してる。結構いいところのお嬢様。兄を家族として愛しているが、意識や思考を混濁させる薬を使われ、男して兄を愛していると錯覚する。
如月悠人。二十一歳。
常に笑顔の優等生腹黒美形。文句のつけようのない頭脳と容姿の持ち主。義妹に歪んだ愛情を向けている。たぶん、義妹が結婚できる歳になったので孕ませ…げふんげふん、ごにょごにょしようと企んでました。
リンちゃん。遥香と同い年。
この子だけは悠人の腹黒と狂愛を見抜いていた。親友の遥香を守ろうと奮闘してたけど経験値が足りなかったね…。
悠人の友人。悠人より二つ年上。
愉快犯。薬の手配とかした人。一緒に出かけるふりをしたのもこの人。ニヤニヤ笑いがデフォルト。あれだ。イメージは某池袋小説の某情報屋な某人間ラブな人。