王妃様は逃亡中(短編Ver.) 【2011.09.09.】
せっかく異世界トリップしたのに、「王妃様、あなたの役目は終わった。元の世界に帰れ」? じょおっだんじゃない、日本に戻るのなんかまっぴらごめん! 長編「王妃様は逃亡中」の元になった短編です。
私は絶体絶命だった。
背後の床には、怪しい紫色の光を放つ魔法陣。
私が日本からこの世界に召還されてきたときの魔法陣とは、色が違うみたい。
そして目の前にはこの国の祭司長が、数人の僧兵を従えて不気味な笑いを浮かべていた。
くっそお、こいつ二年前に初めて会った時から、なんか怪しいと思ってたのよ!
ヤツは言った。
「王妃様、あなたの役目は終わった。さあ、元の世界にお戻りいただこう」
じょおっだんじゃない、もう日本なんかまっぴらごめん!
私がこの世界に召還されて、どんだけ喜んだと思ってんの!?
両親も健在、犯罪者でもない私が、なぜ日本脱出にそんなに喜んだのか。
それは、父が政治家で母は有名女優という生い立ちに原因がある。そう、私はいわゆる隠し子なのだ。
生まれてすぐに母方の祖母に預けられ、その祖母が亡くなるときに出生の秘密を聞かされて、私はグレにグレた。
しかも最近になって私の存在がマスコミにばれそうになり、ここ数年は名を変え仕事を変えの逃亡生活だったのだ。
フラ○デーされてグレてた頃の黒歴史が暴露されたら、私なんて風の前の塵に同じ、社会的に抹殺されてしまうわっ。
当の両親はどうしてるかって? 毎日テレビで見かけてたから、たぶん今も元気に生きてるんじゃないかしらね。
「ああ、今日も元気に汚職ってるな」「ああ、また新境地開拓したのねオメデトウ」って、まあそんな感じ?
そんな中、二年前にこの世界にいきなり召還されて、「この国の王様と結婚して子どもを産んでもらう」と言われたとき、私は小躍りして二つ返事でオーケーした。
ついに私にも、結婚して子どもを産んでっていう平凡で平穏な人生が! ハーイ、王妃でも国母でも何でもやりまーっす!
そして私は王様と結婚して王妃となり、ちょっと気弱でやや淡泊な王様を相手に、涙なしには語れない努力をした末やっと妊娠、子どもを出産した。
しかも跡継ぎの男の子。ほほほ、どんなもんよお義母さま!
地位安定、前途洋々、順風まんぱーん!
と思われた矢先、話は冒頭に戻るのだ。
「無事に王太子もお生まれになったことだ、あとは私が後見して立派な跡継ぎにお育て申し上げる」
祭司長はうっすらと笑みを浮かべた。
「国王陛下には、王妃様は産後ウツのために私を脅して魔法陣を発動させ、元の世界にお戻りになったと報告しておきます。後顧の憂いなくお発ち下さい」
ずい、と詰め寄ってくる祭司長。僧兵たちの槍が、私に一斉に向けられる。
王太子を操って、自分が実権を握るつもりね。ハッ、なんて分かりやすい悪役っぷりなの。
私はゆっくりと、魔法陣の方を向いた。紫色の光が、ゆらりと揺らめく。
「観念なされたか。さあ、どうぞ中央にお立ち下さい」
背中から祭司長の声がプレッシャーをかける。
私は軽く息を吸い込むと、数歩の助走をつけて――魔法陣を一気に飛び越えた。
ふん、これでも学生の頃(グレる前)は、幅跳びでインターハイ出場したんだからね!
一気に騒がしくなったヤツらを尻目に、私は祭壇の裏に走り込んだ。床の隠し扉を引き開け、飛び降りて扉を閉めて施錠する。
日本での逃亡生活をなめんなよ、この王城の中の王族用逃走経路はとっくに確認済み!
私は太股にベルトで巻いてあったジッポ(日本から持参した品の一つ。あ、こっち来てから禁煙したけど)に火をつけると、暗い石造りの通路を一気に駆け抜けた。突き当たりに用意しておいた平民服に着替え、非常用リュックを肩にひっかけると、頭上の上げ蓋を押し上げる。
そこは王城の裏手の森だった。夜空の星に方角を尋ね、私は走り出す。
祭司長め、絶対に王妃の座に返り咲いてやるから覚悟しとけ!
夫よ息子よ、少しは気合い入れて生きなさいよ!
……って、こっちの世界でも結局逃亡生活じゃん!!!
【王妃様は逃亡中 完】
思いつきで書き始めたら、シチュー煮てる間にできあがりました。