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ラッキーナンバー! 【2011.09.18.】

『女子高生』が主人公の、『トリップ体質』ものです。初めて書いてみました。数字が重要な意味をもつ、ある異世界の大陸へトリップ!

 あたしはため息をひとつついた。

 目の前には、玄関のドア。入りたくないけど、仕方がない。

 ドアノブをつかみ、ゆっくりひねる。思った通り、鍵はかかっていなかった。


 中に入ると、短い廊下の先が開けてリビングになっている。この、リビングを通らないと他の部屋に行けない作りになっている家が、あたしは大嫌いだった。

 だって、リビングにはやっぱり――あいつがいたから。


 あいつはこちらを振り返った。細いフレームのメガネが光る。

 あたしはその視線を無視して、リビングの奥にある二階への階段に向かった。


「『ただいま』くらい、言ったらどうだ」

 あいつの声。寒気がする。

 階段に足をかけたとたん、腕をつかまれた。

「ミナ」

「……触んないで」

「『ただいま』は?」

「ここ、あたしの家じゃないから」

「それはわかってるけど。でも、戻って来たじゃないか」

「だってここからじゃなきゃ、日本に帰れないんだからしょうがないでしょー!!」


 初めて異世界トリップというものを経験したのは、十四歳の夏だった。

 七月三十日、家で夏休みの宿題をしていただけなのに、気がついたらこの家のリビングにいた。

 目の前には、驚いた顔のアラサー男。混乱するあたしに、自分は数学者で、名前はジェニウスだと名乗った。

 短い焦げ茶の髪に、同じ色の瞳の、まあまあイケてる顔立ちだった。


 説明してもらったところによると、ここはヤオヨ・ローズという大陸で、あたしが住んでいる世界とは全く別の次元にあるらしい。

 他に行く場所もないので、数日この家でお世話になっていたら、ある日突然リビングの真ん中に魔方陣のようなものが出現した。

「定点存在値が一定量に達したのか……!」

 アラサー男は、意味不明なことを言った。


 この世界では、人間が一つの場所にとどまることで、その人間のパワーと土地のパワーが影響し合って、不思議な力を生みだすらしい。だから、血族婚を繰り返す王家の人間が住んでいる王城なんかは、もはや神の領域なんだって。

 ジェニウスの家も、それなりに歴史のある旧家なので、パワーがたまりやすいらしい。

 まあ詳しいことはどうでもいいけど、そんなこんなで、あたしはその魔方陣の力で、無事に日本に帰ることができた。

 めでたし、めでたし。


 とは行かないのが困ったところで。

 十五歳の七月三十日、あたしはまたヤオヨ・ローズ大陸にトリップしてしまった。その時にあたしが出現したのは、ある海辺の町だった。

 この時は、通りがかりの親切な人がジェニウスの名前を知っていて、ジェニウスの家から前回と同じように日本に帰ることができた。

 めでたし、めでたし。


 んなわけはない。

 十六歳の七月三十日、再びヤオヨ・ローズ大陸にトリップするにあたって、あたしは自分が『トリップ体質』だと認めざるを得なかった。

 あたし、フルネームを「八月十五日(あきなか) 三七(みな)」という。ヤオヨ・ローズ大陸では数字が重要な意味を持つそうで、数字のいっぱい入ったあたしの名前は、どうやらこの大陸と呼び合ってしまうらしい。

 その時はとある山の中に出現したあたしは、山を降りてジェニウスを探すまでに大変な苦労をした。

 あーもう、三七なんて名前をつけた親父を呪うわ! 何が、「七が三つ揃うとラッキーな感じがするだろ?」よ! このパチスロ狂め!


 しかも、困ったことに! 一年ごとにあたしと再会するジェニウスの、あたしを見る目が、何だかだんだん変ってきてるのよっ。

「綺麗になったな」

とか言いながら髪を弄んだりとか、

「ここに残らないか?」

とか言いながら肩を抱いたりとか!

 どうにかこうにか貞操を守ったまま、『定点存在値』とやらがたまる数日間をジェニウスの家で過ごして、あたしは無事に日本に帰ったのだけど。


 話は冒頭に戻る。

「ミナ……十七歳の誕生日おめでとう」

「何よ取ってつけたように!」

「だって、やっと結婚できる年齢になったじゃないか」

「こっちは十七歳が成人だからって、あたしには関係ないからね!」

「俺と結婚してずっとこっちにいれば、もう夏休みの宿題なんか気にしなくていいんだよ?」

「あたしは日本の大学を受験するんだー!」

「照れるなよ、どうせ十八歳の夏にもこっちに来るくせに。君はカモメ、俺は君の帰る港……」

「演歌か! それにあたしは遠洋漁業の漁師じゃなーい!」


 とか言いながら、今回もちゃっかり夏休みの宿題を持って来ているあたしだった。

 数学苦手で、困ってたんだよね。


【ラッキーナンバー! 完】

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