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チョコレイト・ブラウニイ

2013年バレンタイン小話。思いつきで一時間くらいで書いて推敲してないので、後から直すかもしれません。誤字脱字ありましたらぜひ教えて下さいませ!(※『チョコレイト・メイド』から改題』)

 ラフレーズ大陸のシュクレリア王国では、陽が沈み始めると皆が皆、寝支度を始めます。王様もお妃様も、王子様もお姫様も、兵隊さんも料理人も侍女も。もちろん街の人々も、そして農家の人も漁師さんも。大人も子どもも、誰もかれも。

 そして眠りにつく前に、台所のテーブルの上に、お菓子をたくさん置いておくのです。

 何のためのお菓子でしょう?


 月が高く昇り、皆が寝静まった頃。

 街の外れの蔦のからまる大きなお屋敷に、ぽっぽっぽっとランプの灯りがともりました。

「いい夜だね! いただきます!」

 ピンクの髪を逆立てた細身の少年が、突然空中から現れて台所の床に降り立ちました。茶色の革靴でぴょん、ぴょんとステップを踏んで、すとんと椅子に腰かけます。

「いい夜ね! 私も!」

 はちみつ色のふわふわの髪をした少女が、やはり空中から現れました。焦げ茶のワンピースに白いレースのエプロン姿で、テーブルの上の焼き菓子に手を伸ばします。

「椅子に座って食べろよ」

 すうっ、と気がついたらレンガ敷きの床に立っていたのは、薄い灰緑色の髪をひとつに結んだ、少し年かさの青年。白のシャツに焦げ茶のベスト、黒のズボンでテーブルに歩み寄ります。

「今日は木の実の入った焼き菓子だ! それに飴も!」

「果物の砂糖漬けもあるわ!」

「…………」

 三者三様に、それでも美味しそうに、テーブルの上のお菓子をつまみます。

 お皿が空になる頃には、彼らの肌は内側から光るように輝き、髪はつやめき、椅子から立ち上がると身体が浮かぶようでした。


「よーし、仕事だー!」

 ピンクの髪の少年が手を振り上げると、もうそこには箒が握られています。はちみつ色の髪の少女が、椅子から立ってくるりと回ると、手にはモップ。緑灰色の髪の青年はすでに台所の横の小部屋に向かい、いつの間にか持っていた布で銀食器を磨き始めています。

 星が瞬く夜空の下、温かなあかりに包まれたお屋敷の中を、彼らはあっという間に掃除しながら移動して行きました。

 お屋敷のご主人夫妻は、二階の一番奥の部屋のベッドで眠っていましたが、三人はその寝室にも入り込み、一瞬でカーテンの埃を取ってどこかへ消し、窓ガラスも手をかざしてスッスッとなでるだけの仕草で綺麗にして、部屋を出ました。夫妻はぐっすり眠っていて、ちっとも目を覚ましません。


「あら?」

 踊るように階段を降りていた少女が、ぴこんと顔を上げ、辺りを見回しました。

「……誰かの声がするわ」

「ええ? だって、皆寝てるだろ?」

 ピンクの髪の少年が、階段の手すりの上をお尻でつーっと滑って降りてきます。

「でも聞こえたの。女の子の声……泣いてるみたい」

「俺にも聞こえた。下だな」

 緑灰色の髪の青年が、二人のそばをすっと通り抜けて階段を降りて行きます。二人は急いで後を追いました。


 誰かの声は、一階の廊下の奥から聞こえてきます。廊下の奥からは半地下に降りられるようになっていて、煉瓦の階段の下には倉庫があります。その倉庫の木の扉が、少し開いていました。

 女の子の泣き声は、そこから聞こえてきます。

 扉の隙間から、三人がひょこん、と中を覗くと。

 食糧や炭などがたくさん置かれた戸棚がいくつも並んだ奥、大きな木箱の上に、あかり取りの窓から月光が差し込んでいます。木箱の上には毛布が敷かれ、そして黒髪の女の子が足を上げて座り、膝に顔をうずめていました。肩を震わせ、泣いているようです。


 三人は無遠慮に、でも足音もなくふんわりと近づいて、女の子を四方八方から眺めまわしてから……

 声を揃えて、言いました。

「人間が起きてる!」

「きゃあ!?」

 女の子が悲鳴を上げて身体をほどき、また身体を縮めるようにして三人を見回しました。黒髪を背中の半ばまで垂らし、黒い瞳をした、十代半ばくらいの女の子です。

「あ……あなたたち、夜の小間使いさん?」

「そうだよ。君は誰? 夜は人間たちは眠ってるはずだよ」

「どうして起きていられるの? 誰? 誰?」

 少年と少女が珍しそうに女の子を眺めまわし、次々と質問します。緑灰色の青年は、黙って立って答えを待っています。


「わ……私、あんず」

 女の子はおずおずと答えました。

「この国の人たちって、夜になると皆ほんとうに、不思議な力で眠ってしまうのね……私の国ではそんなこと、なかったわ」

「他の国の人? だから起きていられるの? へええ」

「どこどこ? どこから来たの?」

「日本、っていうところ。今日、気がついたらこの近くの森で迷子になってて、このお屋敷の人に見つけてもらって泊まらせてもらったの」

 あんず、と名乗った女の子は、見たこともない丈夫そうな素材のズボンに、お尻まで隠れるひらひらしたシャツを着ています。傍らには、リボンのついた手提げかばんが置かれていました。

「明日には警備隊の所に連れて行くから、今日はここで眠れって……夜は小間使いさんが来るから、邪魔にならないようにここにって。あの……ここに通って来てるの?」

「そうさ! お菓子さえもらえれば、どこでも綺麗にするよ!」

「あなたもお菓子をくれたら、何かお手伝いしてあげるわ!」

 ピンクとはちみつの二人は、得意そうに胸を張ります。

 あんずは涙を拭くと、少し笑いました。

「いいわ、ここは私のおうちじゃないし……あ、でもお菓子ならあげる」


 あんずはかばんを開き、中から四角くて薄い箱を取り出しました。外箱から引き出しのように内箱を引っ張り出し、かぶせてあった波模様の紙をめくると――

 その下には、ぴかぴか光る、黒い宝石。

「何? これ何?」

「いい匂い!」

 二人につられて、後ろから緑灰色の青年もちょっとのぞきこんできます。あんずは何だか可笑しくなってきながら、全員に見えるように箱を持ちあげました。

「チョコレートよ。ブラックチョコだけど……どうぞ」


「チョコレイト!」

「チョコレイト!」

「…………」

 三人はそれぞれ、指でつまむと、口に含みました。

 まるで口の中でチョコレートが溶けるように、三人の表情が驚きから笑顔へとほどけて行きます。急に、倉庫の中が明るくなった気がしました。


「美味しい! 夜の色のお菓子!」

「夜のお菓子、私たちの時間のお菓子ね! 何だかものすごく元気が出たわ!」

 ふふっ、と笑ったあんずに、青年が話しかけました。

「俺たちはお菓子の力で、人間の手伝いをする。このチョコレイトは、俺たちの力を最大限に引き出すみたいだ。君が手伝って欲しいことは何?」

「言って言って!」

「何でも言って!」

 三人に言われ、あんずは困ったように、それでもウーン、と考えました。そして、ほろ苦いブラックチョコレートのように、苦笑いしました。

「おうちに帰るの手伝って、なんて……無理よね」


「おっけー!」

「りょーかい!」

「わかった。日本、だったね」

 三人はふわりと空中に浮かびました。

「え、え、え?」

 慌てるあんずの周りに降り立ち、三人は彼女を囲んで手をつなぎます。

「日本日本、にほん!」


 ――気がつくと、あんずは自分の通う高校の教室に立っていました。

 暗い教室の中、並んだ机と椅子に、蛍光灯のあかりが四角く落ちています。

「え……ええっ?」

 あんずは慌てて、かばんから携帯電話を出しました。自宅から、たくさんの着信が入っています。……電波が届いています。

「嘘みたい……帰って来れた」

 呆然とつぶやくあんず。


 すると。


「こっちには、チョコレイトたくさんある?」

「チョコレイト、どこ?」

「汚い建物だな……チョコレイトをもっとくれたら、ここも綺麗にしてやるぞ」

 あんずがおそるおそる振りかえると――

 三人が教室の中を、ふわふわと漂っていました。

「な、な、なんでいるのーっ!?」

「来ちゃった!」

「来ちゃった!」

「来てしまったようだな」


 その日から、あんずの生活する場所のあちらこちらは、不思議なことに夜の間にぴっかぴかになるようになったということです。



【チョコレイト・ブラウニイ おしまい】

誰か夜の間にお掃除してくれたらなー……(笑)

『小人の靴屋』みたいな存在が普通にいたら、という所からお話を考えたのですが、コメントでブラウニー(イギリス方面の伝承に出てくる茶色い姿の妖精。夜間に農作業や家事を手伝ってくれる)の存在を思い出させていただいたのをきっかけに、タイトル変えました。お菓子の方のブラウニーも思い出して、よりスイートでしょう♪ 市太郎さまありがとうございますー!

後付け設定・ピンクの髪が「ベリイ」

      はちみつの髪が「ハニイ」

      緑灰色の髪が「ティイ」

よし。(何が)

こちら短編シリーズになりました。「森」の中で食べ物の名前のつくタイトルを探してみて下さい。

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