第四話「ダンジョンには大抵ろくでもないものがいる」
第四話「ダンジョンには大抵ろくでもないものがいる」
通路はずいぶん昔のもののようだ。
そこら中で天井が崩落したりしてひどく傷んでいた。
微かな明るさは壁に生えている苔のようなものが発光しているらしい。
よく見ると苔のように見えるものから細い根が出て網目のように壁や床を覆っている。
「ここは・・・もしかして古代の・・・」
サイリが不安そうに呟く。
「そうだな。 おそらく古代文明の遺跡だ」
古代文明の遺跡は世界中にある。
そのほとんどは壊れて風化していて何も動くものは無いか魔獣共の住み家になっている。
以前、一度だけ親父に連れられて行ったことがある。
その時の遺跡は完全に死んでいて、明かりも動くものも無かった。
そして、そこから帰った時・・・
おぞましい記憶が蘇りそうになった。
辺りを警戒しながら暫く行くと通路は行き止まりになっていた。
目の前には台形の扉と思われるものが立ち塞がっている。
これは開くのか?
表面を触ってみるがまったく動きそうもない。
これは一発、魔導力で突破するしかないか・・・
そう考えて思念を集中しようとした時、目の前に人の姿が現れた。
扉が開いて出てきたわけではない。
何の予兆もなく突然現れたその男は奇妙な姿をしている。
浅黒い肌に金髪、見たことのないデザインの服を着ているがなんだか変だ。
よく見ると体の所々が透けて、後ろが見えている。
何者だか分らないが、すぐに攻撃できるように間をとって構えた。
男が何か喋った!
なにか問いかけているようだが、聞いたことが無い言葉だ。
何を言っているのか全然分からない。
とりえず敵意が無さそうなので、こちらから話しかけてみる。
「あんた、誰だ? どこから出てきた?」
一瞬の沈黙ののち男が口を開いた。
「この言葉で解りますか?」
「ああ、分かるぜ」
「警戒は不要です。 私はあなた方の敵ではありません」
落ち着いた柔和な口調。
確かに敵意は感じられない。
「申し遅れました。 私はこの施設に常在する人工知能です。
正式な名称はあなた方の言葉では発音しにくいので“シグ”とお呼びください」
「じんこうちのう? 何だそれは?」
手を延ばして触ろうとすると何も無いように手がすり抜けてしまった。
「今ご覧にっている私の姿は“ほろぐらふぃ”という幻のようなものです。
触ることはできません」
何だかよく分からない。
まあ幽霊のようなものだと思っておこう。
「私はこの時代には無い機械の知能ですが、気になさらないでください。
私はあなた方が『古代文明』と呼んでいる時代から七千百十二年の間ここを管理しています」
「七千年も!」
サイリが驚いたように言う。
「そうです。 お待ちしていました。
あなたがサイリさんですね」
俺にとってもサイリにとっても本日一番の驚きだ!
こいつはなぜサイリの事を知っているんだ?!
「なぜ? なぜ私の名前を知っているのですか?!」
サイリも驚きを隠せず、混乱しているようだ。
「今はそれを説明する時間がありません。
しかし、あなたには生まれた時からの使命があります」
「使命! それは何ですか?」
「それはいずれ、判ります。 その時まで・・・」
シグは俺の方を見て言った。
「クロン殿、あなたがサイリさんを守って下さい。
・・・この世界のために・・・」
「おい! それはどういう意味だよ?」
「私がお伝えできるのはここまでです。
ここから出る最短の経路を教えますので、この通りに進んでください」
そう言ってシグはサイリをじっと見つめた。
サイリがはっとした表情になる。
「・・・解りました。 ありがとうございます。
その通りに行ってみます」
何かをサイリに伝えたのか?
「私は機能のほとんどを喪失して、ここから先にはご一緒できません。
しかし、お二人の未来をここから祈っております」
シグがそう言った途端、目の前にあるドアがゆっくりと左右に開いた。
「ここから先には人工生命体、あなた方の言葉で言う魔獣が多く生息しています。
ここにいる魔獣は光に弱いのでそれをうまく使えば必ず倒すことが出来ます。
では、お気をつけて!」
そう言った途端、シグの体が妙にぶれて透けている箇所が増えた。
「シグ・・・」
サイリが何か言いかけたが、シグは無言で微笑んでから消えた。
さて、こうなったら先に進むしかない。
サイリの顔を見る。
サイリは無言で頷いた。
何事も起きぬまま通路は延々と続いてゆく。
薄暗い通路の所々に出入口と思われるくぼんだ箇所がある。
しかし、ドアノブなどは無く、どいうすれば開くのかは分からない。
よく見ると壁面や扉と思われるところに文字のようなものが書いてある。
これは昔、親父の資料の中にあった古代の文字のようだが、意味は全く解らない。
慎重に歩を進めると、扉が半分くらい開いた場所が見つかった。
中を覗いてみると、同じような通路が続いているようだが、完全に闇になっている。
近づいて知覚を集中してもなにかいるような気配はない。
こういう時は妙に道を変えない方がいい。
半分開いたドアから離れて歩いてゆくと、急にサイリが立ち止まった。
「クロン様、あれは!」
俺も先ほどから気が付いていた。
前方の床に何かが転がっている。
近づいてみると何やら人の形のように見えるものが転がっている。
しかし、人間の死体ではない。
「これは機人でしょうか?」
サイリは意外なことを知っている。
機人というのは古代の文明が作り出した人の形をした機械だ。
俺は一度も見たことはない。
「機人を見たことがあるのか?」
「いえ、見たことはありません。
でも、そういうものの伝説を聞いたことがあります」
近づいてみると、確かに人間に似た姿だが明らかに生き物ではない。
朽ちてはいないが全体がひどく劣化して、埃が積もっているようだ。
人間の頭蓋骨に似た頭部に触ってみると、埃の下から金属の光沢が現れた。
錆びない金属なのか?。
これは錬金術師たちに見せたら大喜びだろう。
壊れた機人から離れて更に奥へ進んでゆく。
結界を張っているので何かがいればすぐに分かる。
今のところは何も感じないので歩を進めると通路は突然二方向へ分岐していた。
さて、どちらに行くか?
立ち止まって考えているとサイリが言葉を発した。
「クロン様、左です」
確信のある言い方だった。
これはシグに教えてもらった経路なのか?
まあ、どちらでもいい。
とりあえずサイリの言葉に従って左の暗い通路を行くことにした。
次第に破壊された機人の残骸が多くなっている。
場所によっては残骸化した機人が多数重なっている場所まである。
こいつらは何に破壊されたんだ?
何となく嫌な予感がしてきた。
そんな真っ暗な中でもサイリはなにか感じているのか分岐のたびに方向を示す。
やはりシグからなにかを伝えられたようだ。
ひょっとしてサイリも何かの魔導力を持っているのか?
いや、こいつはただの奴隷だ。
魔導力を持つ者が奴隷に堕ちるなどありえない。
サイリの指示に従ってゆくといきなり広い場所に出た。
その中央辺りになにかよく分からないものがある。
そしてその中央から一筋の光条が遥か上方まで伸びている。
「ここは何か忌まわしい感じがします」
「ああ、そうだな。 俺もなんだか嫌な感じがする」
壁際はいくつもの円柱が部屋の中央を囲むように円周状に並んでいる。
その一つに近寄ってみると円柱は中ほどで破壊されていた。
すぐ横にいたサイリがはっと息を飲む気配がした。
サイリの視線を追うとその先になにか丸いものが見える。
近寄ってみるとそれは人間の頭蓋骨だ。
先ほどの機人とは違う。
頭蓋骨の周りにはその他の骨と思われるものも散乱している。
ますます嫌な感じがして他の円柱もよく見ると全て同じように破壊されている。
そしてその周りにはおびただしい数の人骨。
「古代の遺跡は呪われていると聞きます・・・」
サイリが不安そうな表情でそう言った時、突然結界に何者かの接近を知らせる感覚が来た。
後ろだ!
すぐ後ろにある通路の暗闇の中から、何かが急速に迫ってくる。
こういうダンジョンには大抵ろくでもないものが棲み付いている。
今、迫ってきているのはまさにそういうろくでもないものだ!
サイリを後ろに回した途端、通路の暗闇からそいつが出てきた。
人の倍以上の大きさ。
黒光りする甲虫のような体と長い複数の脚以外、細部を観察する余裕は無い。
そいつはこちらに向かって信じられないような速度で走り寄ってくる。
速い!
「思念箭!」
突き出した右手の指から五本の輝線が走る。
黒い化け物は弾かれたように後ろに下がった。
思念箭は即時に打ち出せる衝撃波だが威力はさほどでもない。
真っ黒な化け物はすぐに起き上がって再び襲い掛かってくる。
しかし、このわずかな時間稼ぎが功を奏した。
「思念破!」
思い切り思念を込めて撃ち出す。
化け物は強烈な衝撃波を食らって吹き飛ばされ、バラバラになって床に落ちた。
しかし、これで終わりじゃない。
上か!
強烈な敵意が上方から襲ってくる。
サイリを抱えて横っ飛びにかわす。
ほぼ同時に、また同じような醜悪な姿の化け物が飛び降りてきた。
三角形の鋭そうな歯が二重に並んだ口を大きく広げて咆哮する。
さらにもう一匹が上から飛び降りてきた。
チッ、またこのパターンかよ!
ここはこいつらの巣みたいなものか。
とすれば一匹づつ倒してもきりがない。
サイリを抱えたまま脱出口を探すが入ってきた通路以外は全て扉が閉じている。
ふと見ると、先ほどバラバラにした魔獣の一部が近くの床に落ちている。
ひょっとして共食いするかも。
それを拾って投げつけてみる。
しかし目の前のやつはこれをはねのけて近づいて来る。
はねのけられた体の一部が部屋の中央にある光のところに跳ばされるとそこから上に上昇してゆく。
そうか、そういうことか!
よし! 他には逃げ場はなさそうだ。
一足飛びに光の元へ跳躍した。
途端に体が浮き上がる!
何だこれは!
最初はふわりとした浮遊感だった。
しかし、急激に加速度を増して上方へと舞い上がってゆく。
むしろ、上に向かって落ちてゆくという感じ!
周りは暗くてよく見えないがなにか複雑な形をしたものが何層も積みあがっているようだ。
しかし、それもすぐに分からなくなった。
・・・・・
--以下、第五話に続く--




