プロローグ 破滅のくちづけ
まだプロローグだけです。
世界観や設定は後々書いていきます。
目標も何も無くただ茫然と人生を過ごしてきた。
いつもどっちつかずで自分の好きなものもやりたいこともわからない。
そんな夢も希望もない優柔不断な私は、高校を出たあとは、知り合いの配送業を紹介してもらってから三年が経っていた。
7月の下旬、街での展覧会で展示された作品、壺やら絵画を作家たちに返していく仕事内容だ。年寄りどもの自己満足で作られた作品を必死に届けるために、私は今日も汗水を垂らしている。
「灰野!この絵持っていけ!」
無駄に大きい声で叫ぶのは私の嫌いな上司だ。いつも無愛想でイライラしていてとっつきにくい。
「はいっ、今行きます」暑さで朦朧とした頭で空元気な返事をする。
依頼主のアトリエ?のような場所に、F100号という私の身長ぐらいの大きさのキャンバスを運び終えると、声をかけられた。
「ありがとねぇ、あの人の壺は重いから気をつけてね」
依頼主の奥さんだろうか。小さく分かりましたと一礼をしてトラックの荷台へと運び込む。
上司は何やら依頼主と話している。きっと依頼料についてだろう。
「あっつい...」
荷台に上がり、作家の名前が貼られた壺を確認する。壺は本来なら段ボールなどで厳重に梱包しなければならないのに、梱包材が足りず毛布を巻き付けてある。この会社大丈夫か?。
イライラが止まらない。暑さと他の人間のいいかげんさに、ぐるぐると頭で怒りを感じていると。
瞬間、手が滑って壺を落としかけている。脳みそが冷えて空に飛んでいくような感覚を刹那に感じ取る。
「ッあ.......」
毛布を巻き付けていたガムテープをとっさに掴み、壺が地面スレスレで止まったのを見て、嫌な汗と安心のため息が同時に出た。この時ばかりは自分の運動神経に感謝をした。昔からある程度は運動が得意なんだ。
上司は!...よかった誰も見てない。このことは黙っていよう。これから気をつけよう。
バレなきゃ問題はない。この世には知らなくていいことばかりなんだから。私が言えた口じゃないが。
そう己に言い聞かせて壺を回収すると「痛」
とっさに手を伸ばした時に小指の爪をぶつけてしまった。爪が割れて血が滲んでいる。作品につけたらすごく怒られそう。と思ったが血が滴るほどでも無く軽傷に近くて安心した。
とっとと終わらせよう。このあとにまだ10件以上、作家たちの宅を回り、作品を集めなければならないのだ。
1日かけて都市中を回り配送をして、気づけば午後19時。夕陽も沈み、青暗く光る空を窓から見つめている。
あのじじい。辺境に住みやがって、あいつのせいで往復二時間もかかったじゃないか。
上司のタバコの煙がこびりついたトラックの助手席で眉間にシワを寄せながら、最後の配達地へ向かう。
都市から少し離れるが、それでも人通りが多い繁華街が見えてきた。しかし帰宅ラッシュに巻き込まれ、前の車が動き出すのを待っている。
「最後ってあの繁華街の裏路地に届けるんですよね?トラック止められます?」
「あぁ、無理やな...俺ここに止めとくしお前ちょっと行ってこいや」
「え」
ここから歩いて普通に5分かかるんですけど?
「金はもらっとるし、とっとと運んでこい」
ふざけんな。ほとんど私に運ばせたんだからお前がいけよ。
「....はい。行ってきます」
何を言っても変わらないだろうと諦めて、荷台から1mぐらいの絵を下ろして、足早々に向かった。
最後の配達も終わり、ようやく今日の仕事が終わった。いつもなら重いまぶたを懸命に開きながら、明日の仕事を思って憂鬱になるが、明日は休日なのだ。本当に嬉しい。
裏路地は真っ暗で、映画とかだとこういう場所でなにかしら物騒な事件が起きてそうだ。
居酒屋が立ちならぶ繁華街、多くの人が賑やかに華の金曜を楽しんでいる。光を暗がりで感じながら遠くに聞こえるにぎやかな声を聞きながら、今日の夕飯のことを考える。
さっさと帰ろ。そう思い、振り返った瞬間。目の前に白い何かが飛び込んできた。
咄嗟のことで受け身が取れず、思い切り背中をコンクリートに打ちつけた。
「痛ぁ!」何事?!
心晴れやかな私のみぞおちにヘディングを決めてくれたのは、小さな女の子?
その子は私の胸に顔を伏しながらひどく息を切らしている。薄暗くてよく見えないが、ナイフのように白く輝く銀髪。ティッシュのような、ワンピース?そんな服を着ている。
「ちょっと、大丈夫?」
心にもない気遣いを込めて彼女に問いかけた。こちとら仕事で疲れてるんだから面倒に巻き込まないでほしい。
女の子の青い目がこちらを覗き込む。改めてよく見ると、絵画とかにいる天使のような可憐さに思わず見惚れる。
背丈も私より一回り小柄で、美しい髪と衣装がよく似合っている。純真無垢という言葉はこの子をためにあるのではないかと頭の片隅でぼんやり考えている。
少女もその青い瞳で私の目を覗き込みながら、目を見開いて、ぼんやりと何か考え事をしているかのように私を見ている。
ほんの数秒見つめ合ったあと、遠くから大人数が走る足音が響いてきた。
少女が怯えるよう体を震わせた。虐待?誘拐?嫌な単語が頭の中を駆け巡るのと同時に、面倒に巻き込まれたくないという気持ちがより一層高まる。
彼女を押し退けてここから立ち去ろうとしたその時。
「ごめんなさい」
掠れた声を震わせ、子供が悪いことをした時に泣きながら謝るように。私の唇にくちづけをした。
ほんの一瞬のことですぐに唇は離れた。
...いきなりなにすんだこの子は。キスをされたはずなのに冷静な自分を不思議に思いつつも、暗くぼやけた視界の中、流れている涙を拭いた。
涙?いつ泣いたっけ。そういえば仕事終わりとはいえマラソンを走ったかのように息切れて疲れている。
足は痛いし喉はカラカラ。急な体調不良にますます動揺する。
「本当に、ごめんなさい...」
どこか聞いたこともあって違和感のあるその声を発する人物に目を向けると、少女が黒髪で切長の目は涙ぐんでいて、見覚えのある作業服を着た女になった。
いや、間違えようがない、毎日鏡で見ている女。私だ。私が目の前にいる。
自分に起こったことを少しも理解できず茫然としていると、目の前の私が立ち上がった。
「ちょっと!待って!」
聞き覚えのない声色でそう言い終わるのと同時に私の姿をした誰かが裏路地の奥へ走り去っていく。
なんなんだ?意味がわからない。彼女に向かって手を伸ばしたとき、視界の端の自分の手に違和感がある。
いつも見ていたガサついた手ではなく。とても小さく、絹のような肌だ。昼間に怪我をした小指の傷もない。
信じたくない。夢であってほしい。
ひたすらに今の現状を否定し続けていると、背後に人の気配を感じた。
振り返ろうとすると、口元を覆われ脳が揺らされる感覚に襲われた。
そして目の前は真っ暗になり、私は深い眠りについた。
これは、私『灰野ザクロ』が不思議で理不尽な抗争に巻き込まれる、シンデレラストーリーには程遠い物語。
プロローグを読んでいただきありがとうございます。
こんなストーリーなら書いてみたいと思っていた作品を投稿しました。
昔からバトルファンタジーが大好きで自分で戦う能力を妄想することは日常茶飯事でした。
今後ともポツポツと投稿していくと思うのでよろしくお願いします。




