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魔女の涙 孤独な魔女は嬉し泣きを知らない  作者: 駿河晴星
本編 魔女の涙

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2/7

本編 魔女の涙(2)

 大陸の西、国境の半分が海に面した小国・アルカンドラ王国には、とある噂がありました。


『魔女の涙は、百薬の長 どんな病も、たちどころに治る』


 ある人にとっては、絵空事。


 ある人にとっては、最後の頼みの綱。


 そして、ある人にとっては、とても興味を惹かれることでありました。



  ◆  ◆  ◆



 森の入り口に、真っ黒いローブで頭から足の先まで覆った人影がありました。


 唯一ローブから覗いているのは、これまた真っ黒な細身のブーツだけ。


 これでは、男性なのか女性なのかすら分かりません。


 分かるのは、子どもじゃない。そのくらいです。


 ローブの人は、木々の生い茂る森の中に足を踏み入れました。


 少しすると、前方から女性が走ってきました。顔色は悪いのに、そのブルーの瞳には光が満ちていました。


 女性は、大事そうに、胸に小瓶を抱えていました。


「ふむ」


 女性が、自分の来た方へ走り去っていくのを見ていたローブの人は、呟きました。その声は、低い、けれども澄んだ男性の声でした。


 ローブの青年は、森の奥へと足を進めました。


 踏みしめられた道を進んでいくと、一軒の小さな家が見えました。木造の家からは、オレンジ色の明かりが漏れています。


 青年は、家の扉を叩きました。


 トントン


 けれども、応答はありません。


 青年は、家の裏に回ってみることにしました。


 家の側面を歩いていると、なにやら可愛らしい声が聞こえてきました。


 どうやら歌声のようです。


 青年は、少し早足で家の裏へと向かいました。


 そこには、本を片手に小鳥たちと戯れる少女の姿がありました。シルバーホワイトのお下げ髪が、右に左に揺れていました。


 軽やかなステップで踊っていた少女は、ふいに青年の方を向きました。


「あら」


 ようやく青年の存在に気がついた少女は、途端に踊るのを止めてしまいました。


 青年は、もう少し隠れていればよかったと少し後悔をしました。


 美しい少女の歌声は、とても耳ごごちのいいものだったからです。


「わたしにご用ですか」


 少女は、本を小さな机に置き、青年に近づいてきました。


「ええ。あなたが魔女のソーニャさん、ですよね」


 男の問いかけに少女・ソーニャは頷ずきました。


 しかし、それと同時にソーニャは首を傾げていました。


 いつものお客さまとは、少し違う気がしたからです。


 顔を隠しているのは、いつものことです。


 ソーニャに名を尋ねるのも、いつものことです


 けれども、声が違いました。いつもは、震えて切羽詰まった声なのに、この目の前の人の声は、生き生きとしているのです。


 例を見ないことに、ソーニャは身を固くしました。


 ジェイドの瞳からの視線が厳しくなるのを感じたのでしょうか。


 青年は慌ててローブを脱ぎました。


「怪しいものではありません」


 ソーニャは息をのみました。


 青年の顔がたいそう美しかったから、それもあります。けれどもそれ以上に、彼のアッシュブロンドの瞳とワインレッドの髪に驚いたのです。その組み合わせは、アルカンドラ王家を象徴するものでした。


 世間に疎いソーニャでも、彼の正体が分かってしまいました。


「あ、貴方さまは……」


「申し遅れました。アルカンドラ王国第二王子フレン・ナシャータ・エルカ・アルカンドラです。どうぞフレンとお呼びください。ソーニャ」


 胸に手を当て、恭しく頭を下げる彼は、まさしく王子さまでした。


「フレン……さま。今日はどのようなご用件で? 王家の方がご病気になられたのですか」


 とても王子さまを呼び捨てにできなかったソーニャは、そっと敬称を付けて呼びました。


 青年・フレンは、少し不満げでしたが、何も文句は言いませんでした。


 代わりに、自分が訪ねてきたわけを話しました。


「王家の者はみな元気です。今日は、ソーニャ、貴女と話をしたくてやってきました」


「話、ですか?」


 ソーニャは前例のないことに戸惑ってしまいました。


 九歳の時に母を亡くしてからかれこれ八年間、ずっと一人で暮らしてきました。


 魔女は国の管理下にあるため、毎週日用品・食材が配給されます。


 この八年間で話した人といえば、配給を持ってくる人と『魔女の涙』を貰いにくる人だけ。事務的な会話しかありませんでした。


 ソーニャの話し相手は、本の中の登場人物、そして、森の動物たちでした。


「ずっと魔女について興味があったんです。この太陽の月(大体八月ごろ)から、森を抜けたところのバーナード領を治めることになりまして。つい先日王都からやってきたんですが、なにやら近くに魔女が住んでいるというじゃないですか。思わず来てしまいました」


 フレンは嬉しそうにアッシュブロンドの瞳を細めています。


 一方ソーニャは、ジェイドの瞳をまんまるく広げていました。


 魔女に興味がある人など聞いたことがありませんでした。


 みんなが興味をもつのは、『魔女の涙』の効果だけだからです。


 ソーニャは、胸がとくんと脈打つのを感じました。


 なんとも言えないむず痒さがありました。


 放っておけば、頬の筋肉が緩みっぱなしになってしまいそうでした。


 ソーニャはそれを避けるため、フレンを家の中へ案内します。


「立ち話では申し訳ないので、よろしければ家の中へ」


 フレンは、顔を綻ばせながら黙ってソーニャに着いていきました。

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