【年賀状】とかけて【馬の耳に念仏】と解く、その心はーー。
隣の家に住む彼は、高校三年の同級生で腐れ縁だった。
私が彼を意識し始めたのはいつか、悔しいが覚えていない。
高校の終わりには進路は違えるものだ。
そう気づいてから早三年。
神様仏様で祈っても、直球で誘っても、どこ吹く風か反応なし。
もう別れまで時間がない。
だから今年の年賀状にはこう書いた。
『元日、玄関で5分間だけでも、耳を貸して。
声が聞けなくなって終わるのは嫌だから』
年賀状の余白って、いつも少なくなるから、想いは全部書ききれない。
だから思い切って、対面で話すことにした。
これで駄目なら、ただの腐れ縁だ。
ピンポーン。
扉を開けると、白い息を吐きながら佇む彼がいた。
「……おう。あけおめ」
「あ、あけ……おめ」
緊張で言葉が舌の上でもつれる。
「年賀状見た。お前、耳手術するの?
もし聴力失うんならその前に、俺、もう一度伝えたいことがあって」
「えっ? いや、手術なんてしないけど……」
確かに私は補聴器なしでは、まともに言葉を拾えないが、手術をする程ではない。
「はあ、何だよあの文面……紛らわしい」
「ご、ごめん。私が言いたかったのは、全然違くてーー」
「待って。俺から言わせてくれ」
彼は深く息を吐き、私に向き直る。
「お前は耳が悪くて、肝心なことはいつも届かない。
聞こえてるフリして誤魔化すから、勘違いに気づくのは、いつもぬか喜びした後だ」
「ごめん」
「ちがっ、そうじゃなくて!
つまり俺が言いたいことは、……は……がーー」
彼は言いづらそうに下を向いて喋り出した。
口元がマフラーに隠れて、良く聞き取れない。
冷気にあてられてお互い鼻も耳も赤くなっている。
……もう時間切れだろう。ただの腐れ縁だ。
そう認めた瞬間、頬を涙が伝う。
その様子を見て、彼は表情がパッと明るくなる。
「その涙は、つまりOKってことだよな!?」
「えっ……うん」
「……お前、また聞こえてるフリしただろ。
今回は分かったぞ」
謝ろうと口を開きかけた私の言葉を遮って、彼は口の動きがはっきり見えるように真正面から言葉を被せる。
「俺はお前のことが好きだ!
例え耳が聞こえなくなったって、今後も俺が拾って届けていく。
だからーー俺と付き合ってください!」
言葉の終わりと同時に彼の胸へと飛び込む。
強い抱擁と共に、見計らったかのように雪が舞い降りた。
『年賀状』とかけて『馬の耳に念仏』と解く。
その心は『心に届くのが大事』。
だから私は、もう、聞こえてるフリをしない。
Happy new year!




