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ソラの向こう側は、ユウ闇に煌めく  作者: 乙希々


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6/20

行商。

◇◇◇


 僕、南雲悠一なぐもゆういち改め──ユウは、柊美空ひいらぎみそら──ソラと二人で、途中、おじさん夫婦から頂いた旅人の乾パン(仮称)とペットボトルに詰め込んだ水で昼食を挟んだものの、ひたすら田舎道のような自然の街路をひたすら歩き、早六時間以上が過ぎた。


 そろそろ目的地らしき場所に着いてもよいのだが、歩けど歩けど先は見えず、ただ前だけをみて進むしかなかった。


 道中に出会った生き物といえば、草むらからひょっこり顔を出したウサギとネコをフュージョンさせたような小動物、遠くの空に見えた変な鳴き声の鳥ぐらいだ。


 異世界ファンタジー物のテンプレであるゴブリンやオーク──そんな物騒な魔物には一切遭遇していない。当然、ドラゴンのようなレアモンスターに強襲されることもなく、実に平和な道中だった。


 現実、僕ら二人にとって、それがザコモンスターの一匹だったとしても、万が一襲われた瞬間、対抗する手段もなく即全滅だ。平和の日本で生活していた高校生に一体何ができる。


 そもそもこの辺りはファンタジー特有のヨーロッパの自然というより、どちらかといえば日本の田舎風景のようだ。さすがに田園こそはなかったが、どこか遠くで川が流れる水音が聞こえて来たし、遠くにみえる山だってまるで富士山みたいな形をしている。


(……もしかして、ここは日本のどこか? それはさすがに無理があるか……)


 歩きつつ物思いにふけっていると、後ろを歩いていたソラの息遣いが荒くなっていた。


「ご、ごめんっ! 歩くスピードが早かったかも、ちょっとペースを落とすよ」


 気をつけていたつもりだったが、油断してると、焦りからなのか、ついつい早足になってしまう。そもそも男子の僕と女子のソラとでは、明確に体力の差がある。それは自然の摂理であり、僕がか弱い女子のペースに合わせるのは当然だ。


「はあはあ──ごめん。でも、大丈夫。私、頑張ると決めたから。だからこのままユウのペースで歩いて」


 肩で息をしながらソラが言う。さてどうしたものかと考える。このままソラを無理させるわけにもいかないし、かと言って、僕があからさまに彼女の歩幅に合わせると、ソラの頑張りを否定することになってしまう……よし決めた。


「じゃあ、僕もペースを落とすよ」

「だから落とさなくていいって!」


 ふむ。やはりソラはかなりの頑固者とみた。一度口にした事は、頑固として曲げないタイプだ。その難儀な性格が災いして今までかなり無理してたんだろうな。


「いやいや、実は僕もかなり無理してたというか、正直焦ってたんだよね」

「焦ってた?」

「ほら、こんな状況でしょ。一刻も早くそれを打開したかったというか、居ても立っても居られなかったというか……ま、そんな感じ?」

「それ、ちょっと分かるかも……」


 ソラは何か思うことがあるのか、目線を下げボソッと呟く。


「だったらお互い無理するのはヤメない? これから先、二人してこんなんじゃ、身体がもたないよ? とりあえず僕はもっと焦らずゆっくり歩くよ。その方が疲れないし、ソラも無理しないで僕を注意してよ。そんなに焦って歩くなってね」

「うん。分かった……アリガトゥ」

「え? 最後なんか言った?」

「べ、別に何も言ってないし!」

「そ、そう、ならいいけど」


 何だかソラがツンデレヒロインみたいな口調になってるけど……ま、これで取りあえずは納得してくれたみたいだし、これで良かった、のかな?


 

 それから一時間ほどかけてゆっくりと歩を進めていると、前方から音を立てて何かが近づいてきた。


「ユウ……」

「分かってる……ソラは僕の後に」

「うん」


 背中にソラを隠し、警戒態勢を取る。その際、ごく自然に彼女のほっそりとした手を握った……が、決してやましい気持ちはない。何かあったときにお互いが離れ離れにならないように、その一心だ。だからソラさん、そんなに強く握り返さないで……。


「……ソラ」

「な、なに?」

「多分あれ、大丈夫……だと思う」


 僕の言葉に目を細め、よくよく前方を見据えるソラ。そして、さり気なくつないでいた僕の手を離し表情を和らげた。


 やがて前方から時速5キロもみたないノロノロ運転でやってきたそれは、道の端に避けていた僕らの横で止まる。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 奇妙な謎言語で話しかけてきたのは、リアカーを引いた自転車のような乗り物にまたぐ割烹着かっぽうぎ姿のアライグマだった。某名作アニメのマスコットを子供ぐらいの大きさで、何だか愛嬌があって憎めない。


「ええと……」

「〜〜〜〜〜〜〜〜?」


 さらに自転車(仮)からおりて、また何か言っている。当然僕には通じてない。さてどうしょうと困っていると、横にいたソラが僕の脇腹をツンツンとつついてきて。


「ほら……あの薬」

「あ、そうか」


 僕は肩掛けリュックから小瓶を取り出し中から黒玉を一粒取り出して飲み込んだ。


「こ……こんにちは?」

「あれ、やっと通じたの〜。よかった〜。それでお兄さんたちこれからどこに行くの〜?」

「ええと……僕らはその、ナカビトゾク? の住んでいた街に向かっているというか──」


 さすが異世界謎技術の薬だ。大きなアライグマさんとの会話が成り立っている。小さなおじさんに薬を分けてもらってて、本当に助かった。


「ナカビトゾクの住んでた街〜? う〜んと、ここからだと……カモガワ跡地のことかな〜?」

「カモガワアトチ? ……ええと、多分そこです。 ちなみにここからだと、後どのくらいかかります?」

「そうだね〜。お兄さんたち歩きだと、1時間〜?」


 今1時間と言った!? 自動翻訳間違ってないよな? 良かった思ったより早く着きそうだ。思わず笑顔になる僕に対し、ソラはポカンとした顔をしている。そうか、薬を飲んだのは僕だけなので、ソラはアライグマさんとの会話内容がさっぱりなのか。僕たちの会話がどんなふうに聞こえてたのか、後でソラに聞いてみよう。


「でもね〜。お兄さんたちそんなところに今さら行ってどうするの〜。あそこ、今じゃな〜んにもないよ〜」

「え、そうなんですか?」

「家はほとんど取り壊されてるし〜。そもそも誰もいないよ? でも〜神殿はいくつか残ってるかも〜?」


(神殿!? それっていかにも怪しくない? そこに僕ら異世界転移の手がかりがあるかもしれない。もしかして案外早く元の世界に帰れるかも!?)


 思わずソラの顔を見やる。そんな僕をみて彼女は眉をひそめた。僕からのアイコンタクトはソラに通じてないらしい。


「ありがとうございます! 僕たちその、カモガワ跡地ってところに行ってみます!」

「そうなの? だったら止めないけど〜。それよりもお兄さんたちこれ買ってくれない?」


 と、ここでアライグマさんは、自転車(仮)につながっているリアカーの荷台をゴソゴソとあさる。


「服?」

「そうなの〜。アタシね、今この辺りで行商をやってるのね〜。でもここらには、あんたらみたいなナカビトゾクが少なくてね〜、在庫がかなり余ってるのよ〜。良かったら見ていって〜」


 言いながら、道端で小さな手で器用にゴザを広げるアライグマさん。そこに大小さまざま、デザインこそ変わってはいたが、何とか今の僕らが着れそうな上着、シャツ、ズボン等が並べられた。


 正直助かる。


 今僕とソラの着衣は、この世界に来たときのまま──つまり学校の制服だ。しかも夏服。さらに汗臭い。当然着替えなどない。男の僕はともかく、女子であるソラにとっては、それこそ死活問題だろう。


 今まで蚊帳の外だったソラは、並べられた色とりどりの服を早速物色し始めた。心なしか顔がキラキラしている。僕も負けずに服を求め、さらに下着はあるかとアライグマさんに注文。さすがにブラ……いや、女性下着こそはなかったが、男女兼用の肌着が(トランクス、タンクトップ的なもの)が用意された。ソラが布当てみたいなものを数枚選んでいたが、それを何に使うか聞くのは野暮だと思った。



「──本当にありがとうね〜。こんなに沢山買ってもらって〜」

「いえいえ、こちらこそ助かりました」


 別れの挨拶はそこそこ、アライグマさんは自転車(仮)にちょこんと器用にまたがり、僕たちとは別方向に去っていった。


 服の代金は小さなおじさんから受け取った数枚の紙幣から払った。正直、これで足りるか心配だったが、売れ残り商品だったためか、全く問題なく支払えた。お金が十分残ったので、大きなカバンを2つと水筒、加えて食料を購入し、僕たちの旅支度も若干潤った。


 それとアライグマさんに聞いたところ、このあたり周辺には、危険な野生動物はほとんど生息しないらしい。何でもこの地域の気候があまり大型動物には適していないらしく、ここよりもっと寒い場所には、ヤバい生き物が沢山いるらしいが──普通は逆だろ。ホッキョクグマや南極のペンギンじゃあるまいし……異世界あるあるなのかな? 


「──ところでユウ……あのアライグマさんは男の人だったの?、それとも女の人?」

「……え? ああ、どっちだろう? ちょっとわからない。言葉の感じからはメスというか、女の人ぽい感じだったけど……」

「そうなんだ。私は見ていて男の人にみえたけど……」

「うわ、マジで!?」


 オネエ言葉を話すアライグマ……ちょっと勘弁して──なんて二人で話しながら道中をしばらく歩くと、やがてひらけた石の街路に差し掛かり、さらに真っ直ぐ進むと。


「ユウ……あそこじゃないかな」

「うん、多分そうだ……」


 ソラが指さした先。


 そこには、城壁のような高い石の壁に囲まれた街の入口らしき、大きな門がみえた。

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