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ソラの向こう側は、ユウ闇に煌めく  作者: 乙希々


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3/20

暗闇の中で。

◇◇◇


「──ごご、ごめんなさい……」


 消えるようなか細い声でそう呟き、ひいらぎさんは僕の背中からそっと離れた。


「柊、さん……?」


 一瞬の出来事に、僕もどう反応していいのか分からず、言葉が続かない。


 仮にも彼女は僕のことをフったんだぞ……それもコテンパンに。なのにどうしていきなり背中に抱きついてくる? ホント訳わからん。


「虫……」

「ムシ?」

「そう。そこに大きな虫がいたから、びっくりして……その……驚かせてごめんなさい……」


 なるほど、そういうことか。今になって僕の魅力に気付いたとか、そんな胸キュン展開ではないらしい。


「そうか、虫かぁ……って、のわっ!?」


 何か下半身がむずむずすると思って脚を見たら、本当に虫がいた。それも今まで見たことのない、こぶし大の甲羅を背負った黒く光るイモムシのような昆虫だ。


 そいつは僕のあしを通り越し、股間の辺りまでい上ってくる。


「わ、わ、わ、ちょちょちょちょい──っ!?」


 地面に尻もち、それでも気合一発でそのグロテスクな虫を叩き落とした。虫はカサカサと木の隙間に逃げて見えなくなる。


「ふう……」


 ここでやっと一息。デカい虫といい、柊さんに抱きつかれた事といい、己の心臓はよく耐えきったとめてあげたい。


「……大丈夫、だった?」


 大きな虫が去って安心したのか、柊さんが僕の隣に戻って来る。


「あ、うん。大丈夫……」


 さっきまで、マンガのような擬音しか発してなかったので、歯切れ悪い台詞しか言えない。


 にしても、彼女は意外と落ち着いたものだ……と思ったら。


「うっうっ──」


 訂正。ちっとも冷静じゃなかった。また泣き出しそうになっている。


「ほ、ほらほら泣かないで、大丈夫だからさ」


 ここにきて、学校では常に優等生であった柊美空さんの意外な姿のオンパレードだ。僕は自然と優しい言葉遣いとなる。


「そうだ、飴食べる?」

「うん。食べる」


 今の彼女はまるで小さな子どもだった。




 ──いよいよ本格的に辺りが真っ暗になってしまった。


 スマホのライトで暗い森を照らしつつ、どこか屋根付で安全に休める場所がないかと探してみたけど、そんな都合のよい場所は皆無で、しかも足場が悪くて歩きづらいし、そもそも周りが暗くて良く見えないし、辛うじて二人で座れる大きな平たい石を見つけたので、半ば強制的にそこで休むことに。


「ほら、スカートが汚れるよ」


 直に石の上に座ろうとする柊さんを止めて、僕はササッと彼女の下にハンカチをひく。


「あ、ありがとう」

「どういたしまして」


 ちなみに自分は石の上にそのまま座った。お尻が冷たい。


 スマホのライトを点灯させたまま膝の上に置き、リュックからカントリー◯ァムを取り出し袋を開けた。ちなみにファミリーサイズである。


「これ食べて、お腹が空いてるよね?」

「え、私も食べていいの?」

「当たり前でしょ」


 そう言うと彼女は、僕が差し出したすべての包みを受け取った。


「それにしても南雲君すごいよね。いつもそんなに沢山お菓子を持ち歩いてるんだ」

「いやいやたまたまだよ。今日は僕がお菓子当番で……ほら、男子らの雑談会で皆でワイワイつまむやつ? その余りがこれ」


 嘘である。野郎どもにそんな頬笑ましい馴れ合いはない。例えあったとしてもそのような光景はただ単にキモいだけだ。


「ゴホっゴホっ──」


 気づけば隣でモソモソお菓子を食べていた柊木さんがせていた。僕は慌ててペットボトルを彼女に渡す。これは告白の際、カラカラに喉が乾くと思い、あらかじめ用意していた500ミリサイズのお茶だ。貴重な水分なので、今の今まで我慢して温存していたのだが──。


「ゴクゴクゴク──」

「へ……」


 よほど喉が渇いていたのか、柊さんはそれを一気飲みした。


「あ……」


 そこでやっと気づいたのか、ペットボトルの中身がほとんど空になるころ、彼女の暴走が止まった。


「……ぁ、あの、南雲君も飲む?」

「うん」


 僕は柊木さんから譲り受けたほんの僅かなペットボトルのお茶をチビチビと味わいながら飲み干した。


 そこでふと、ある重大な事実に気づく。


(──これって、間接キスじゃね?)



◇◇◇


 スマホのライトを消した。


 今更ながらこの森はネット回線に繋がっていない。かといってスマホ自体は、ライト、計算機等──今後何かと役に立ちそうなので、余分な電力消費は抑えたほうがよいだろう。


「暗くなっちゃったね」


 明かりを消したせいか、急に隣から声が聞こえてきて、少し驚いてしまった。でも周りが暗くてお互い顔がよく見えないので、僕の変顔はともかく、今隣に座る彼女の表情も一切わからない。


 そしていつしか会話が途切れて、暗闇の中、時間だけが過ぎていった。


 幸いなことに気候も、若干昼間より寒さは感じるが、このまま凍え死ぬほどでもない。加えて現状、獣、まして怪物等にも遭遇していないので、これがまた不幸中の幸いだった。


 とはいえ、先程のデカい虫の件もあるし、今夜はいざという時に備えて、このまま夜を眠らず過ごすべきかもしれない。ゲームで完徹すると思えばいいだけだ。


 それでも、柊さんは少しでも寝かせるべきだよな。隣から微かに伝わる吐息の感じから、多分今も起きてる。


「柊さん」

「え……南雲君、どうかしたの?」


 やはり起きてた。


「少し寝なよ。何かあったら起こすからさ」

「うん、ありがとう……でもその前にちょっとお願いがあるのだけど……」

「え、何?」


 お願い? なんだろう。


「……トイレ、行きたい」


 あ、そうか。僕はここにきて、あまり水分を取ってないけど、彼女はさっきペットボトルのお茶をがぶ飲みしたしな。


「じゃあ、行ってきなよ」


 僕がそう言うと、柊さんは真っ暗の中でも分かるくらい下半身をモジモジしている。我慢の限界らしい。


「……一緒についてきて欲しい、かも」




 遠くの草むらで、ガサガサと音が鳴る。柊さんがパンツを下ろす音である。


「……南雲君、耳を塞いでくれるかな」

「了解……」


 素直に両耳を塞いだ。それに伴い辺りは無音となる。これまで照らしていたスマホのライトも当然消した。


 こんな真っ暗闇の中、用をたす柊さんは、今一体どんな気持ちなんだろう、とか考えているうちに、ふと思う。


(……うーん、映画やドラマでこういう場面では決まって──)


「な、南雲君……」


 暗闇で柊さんが僕を呼ぶ。


「どうしたの……あ、紙?」

「バカっ!」


 なぜかキレられた。理不尽だ。


 ガサッ──


 その刹那、突然、正面から淡い光にさらされ、僕は思わず顔を背ける。


 そして明かりとともに何かが足音を立てながらこっちに近づいてきた──と同時、背中にドンと衝撃が走る。


 前につんのめりながらも、何事かと顔だけ後ろに視線を下げてみると、柊さんが前かがみで僕の腰にしがみついていた。


「柊さん……」

「……南雲君」


 徐々に近づいてくる淡い明かりに照らされながら、自然と僕らは名前を呼び合っていた。背中越しに彼女の心臓が早く脈打っているのを感じる。


「〜〜〜〜〜〜」


 そんな僕らに向かって、何かの影が言葉らしきものを発声していた。僕にはその声が何を言っているのか、まるでわからない。


 一応、僕の腰にしがみついたまま離さない柊さんに「何言ってるかわかる?」とジェスチャーをするが、彼女は上目遣いでブルブルと顔を振った。


「〜〜〜〜」


 もう目の前まで迫った影がまた何か言っている。もうこうなったら覚悟は決めた。どうせ逃げられない。後は運を天に委ねる。


 そして──、


「〜〜〜〜〜〜」


 何かの言葉を発しながら僕らの姿を明かりで照らし覗き込む《《おじさん》》が僕たち二人の目の前に現れた──

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