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ソラの向こう側は、ユウ闇に煌めく  作者: 乙希々


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幕間【現代編①】九条葉月の思惑

「──ねぇ〜、れい。今度の土曜日、予定を今から空けといてね」

「嫌です。私を巻き込まないでください。迷惑です。どうか一人で勝手に呪われてください。このオッ◯イお化け……、四ね」

「お、いきなりのディスり? もうセンパイ、悲しくて泣いちゃうよ〜。本当に本当に泣いちゃうんだからね〜。えーんえーん(ウソ泣き)。やーい、礼の貧乳……って、ちょちょちょちょちょ──へぶしっ!?」


 

 ジメジメとした小雨が鬱陶うっとうしいある日の放課後。


 とある地方の進学校、私立春日坂高等学校。


 その一角、ドシンと構える今は使われていない旧校舎二階の備品倉庫──いいえ、由緒正しきミステリ研究室にて。


 そう。私、ミステリ研究会初代会長を務める九条葉月くじょうはづきは、サラリと長い黒髪を優雅に流し、唯一無二の会員である一年生……いえ、我が右腕である副会長、三國礼みくにれいに野外調査活動の参加要請を促していた……が、まさかの参加拒否(言語)。あと強烈な顔面ヘッドバッド(物理)。


「う、う、う、痛いよ〜(箱ティッシュでダラダラ流れる鼻血を拭きながらのマジ泣き)」

「仕方ないですね。そこでセンパイに泣かれるとマジウザいので、いちおうお聞きしますが、その野外活動とやらは、一体いつ何時どこで何をなさるつもりですか?」


 ペラリと分厚い本をめくりながら礼が言う。おや、たった今、目の前にいる超絶美少女を流血沙汰にした事案は、まさかのスルーだったりするのかな?


 だが、そこがまた良い。


 身長150センチも満たない黒髪おかっぱの幼女……こほん、かわいい後輩女子だし、実に最高だよね。部室の片隅で体育座りをしている姿なんて、どこの座敷わらしなの? きっと我らミス研を幸運に導いてくれるに違いない。何卒、今年こそ部への昇格をお願いします。南無南無南なむ──。


「そこ、変顔でわたしを拝まないでください。心底キモいです。これから変態さんとして通報します」


 昔ながらの黒カバンからゴソゴソとスマホを取り出す礼。


「いやいやちょっと待って!? それより課外活動の件よね! 副会長、よくぞ私に聞いてくれました」

「勝手に自分を副会長に任命しないで欲しいです。それよりも早くってください」

「言っての〝言〟の漢字きっと違うよね? それよりも〜聞いて聞いて──」


 今回、私が企画した野外活動。


 それはずばり、あらゆる都市伝説サイトで必ずと言っていいほど噂になっている、


『あの世と繋がる公衆電話ボックス』についての検証だ。


 スマホ全盛の令和の時代、もはやその存在自体を維持するのも困難となった昭和の遺物──公衆電話。設置台数はピーク時の九十年代に比べ、現在では約九分の一まで減少しているらしい。


 私たちが住む街も例外ではなく、この周辺でも滅多に見かけなくなった公衆電話だが、市内の現在数を検索したところ、数えるほどしかないリストの中に、とっておきの場所を見つけてしまった。


 街から遠く離れた郊外。人気のない橋のたもとに、世間に忘れられたかのようにポツンと佇む寂れた電話ボックス──うーん、これって絶対何かあるって感じだよね。


 しかもしかも〜、意味深に電話ボックスの全体像がオカルト掲示板に大きく貼られてるし、これ絶対に「入り口」に決まっているでしょ! 


「──ってことで、私たちミス研の出番だよ!果たしてその電話ボックスは霊界との橋渡しなのだろうか? 勇気ある我々の運命は如何に──早速、今週の土曜日の夜から日曜日の明け方まで張り込みするよ! 何ならたくさんのお菓子を持ち込んでアツアツな恋バナで盛り上がっちゃう? それでそのまま二人で熱い夜を……ゲフンゲフン、ええっとね〜、名付けて心霊女子会〜♪」



「嫌です」



「ええ〜、なんでかな? ねぇねぇ、だったら第二プランの心霊キャ……」

「うるさいです」

「んもう、こうなったら第三プランの〜」

「いっぺん◯んでください」





「──そっか〜。心霊女子会は、誠に遺憾いかんながら中止ということで、じゃあ次の企画なんだけど、礼これは知っ」

「知りません」

「だよね、ポリポリ…………、校舎四階にある大鏡の前で男女が告白すると二人とも鏡に吸い込まれて異世界に迷い込んじゃうみたい」

「どうでもいいです。興味ありません、ポリポリポリポリ──」


「もう、礼ったらいけず〜」と、私が塩分補給としてたしなんでいたじゃ◯りこサラダ味をカップごと奪い去る我が腹心。


 って、私のじゃ◯りこが……。



「……うーん、でもさ、実際はどうなんだろね──」


 じゃ◯りこは礼に強奪されてしまったので、カバンから取りだしたキッ◯カット(イチゴ味)をサクサク頬張りつつ、私は天井を仰ぐ。



 学校の七不思議。


 それは大抵の小中学校──高校において噂される怪綺談のたぐいだ。


 理科室の人体模型が夜な夜な校舎を徘徊するとか、美術室の肖像画が笑うとか……まぁ、うちの学校でも似たような話がチラホラと、大体が同じような怪談話──というか与太話だったりするので、まぁ私としては、特に興味を抱かなかったのだけど……ここ最近うちの学校に新たに加わった七不思議の一つが変なんだよね。


 噂の出どころというか、元ネタが全くもって不明だし──。


(……うーん。異世界に通じる鏡かぁー、私としては、ちょこっと興味があるんだよね)


 これは一度検証するしかないかな? と思い部屋の隅っこで私から搾取したじゃが◯こをリスのようにポリポリ頬張っている礼を見る。


「ねぇ〜、礼。これか、」

「嫌です」


 ふむ。やはり無理か……。


 だがしかし、今回のミッションは副会長の協力が必要不可欠だし。となるとここは最終兵器を投入すべきだよね。


「ふふん。じゃあ、これならどうだっ!」


 ジャジャーンと、カバンから取り出したのは、ネット通販で極秘に仕入れたご当地限定ポ◯キー◯張メロン味である。通常の1.5倍サイズのポ◯キーに濃厚なメロンチョコクリームをたっぷりコーティングした至高の一品。これにはさすがの礼も本のページをめくる指がピタリと止まった。


「し、仕方ないですね。今回は特別に私も同行するとしましょう」


(よし、勝った!) 


 ということで、我がミス研の総出で〝異世界に通じる大鏡〟の調査に向かうのであった。



 

 学びやである新校舎は、我が拠点の木造建て旧校舎とは違い、立派な造りの近代建物だ。


 一階から三階までは各学年の真新しい教室が連なり、私たちがこれから向かう四階棟は、充実した設備を備えた特別教室や準備室が大半を占めている。


 普段から移動教室で度々足を運ぶ四階だが、放課後になると特に用もなければ訪れる機会はない。ここには文化系の部室も多くあるわけだが、今は私と礼以外の姿は皆無だった。


 新校舎に空きが無いって事で、わざわざ活動の場を旧校舎に追いやられた我らミス研の立場はどうなの? と思い悩みつつ、私は階段の踊り場から廊下へと進む。


 そして、その明かりの乏しい長い廊下を抜けた先にそれはあった。


「ええっと……、この姿見の鏡、だよね?」

「…………」

「……ちょっと礼、聞いてる? センパイ無視されると悲しくて今すぐ泣いちゃうよ?」

「しっかり聞こえてます。それとここで無闇に泣かないでください。ウザいです」


 とまあ、ここに来てまでしれっと毒舌を吐く副会長のことは、今後ゆっくりと論破することにして、私は正面の壁に立て掛けてある古い大鏡と改めて向き合ってみる。


 薄暗闇の中、長袖ブレザー姿の私が鏡に浮かび上がった。鏡に映る我が身はどこか生気がなく、少し不気味だ。ちなみに礼なんて音もなく私の背後でボォーと佇んでいるので、何も知らずに見たら卒倒ものである。


「結構、年季が入った鏡だよね……」


 一見すると、ただ大きいだけの汚れた鏡だが、よくよく見れば西洋アンティークを思わせる立派な装飾が施されていた。学校の備品としてはあまりにも豪華すぎる。


 誰かの寄贈品? うーん、今までこの場所にあった記憶がないな。


「──でもまあ、とりあえず検証を始めるとしますか」


 スカートのポケットからスマホを取り出し、時間を確認する。只今の時刻は16時40分。私は4分後の16時44分44秒にアラームをセットした。


 こういう怪異の検証には、何事もゾロ目に限るからね。午前4時と午後4時との差なんて、誤差の範囲ってことで。


「それじゃ礼、アラームが鳴ったら私に愛の告白をしてね」


「嫌です」


「いやいや、もちろん副会長が私のことを大好きだってことは前から気づいてるつもり……ううん、わかってる、そんなに恥ずかしがらないで。それにね、私、百合……ゲフンゲフン、女の子どおしの恋愛は理解があるつもりだよ? 今だったら礼の気持ちを真っ向から受け入れられると思うの。だからね、ハアハア、副会長、ほらほら素直になって、ハアハアハアハア、私に接吻、ぽわぁ、思い切って、愛の告白をしましょう♡」


「嫌です嫌です嫌ですっ! ち、近寄らないで近寄らないでくださいっ!」


「ほらほら礼、デヘヘ、ペロペロ──」


 次の瞬間、スマホのアラームがピロロ──と鳴り響く。


 私は全力で礼に抱きついたままの体制でその時を待つ。しばらくするとアラームが止み、静寂が辺りを包みこむ。


 ──けど、何も起らない。


 鏡にも異常なし。当然、未知なる異世界への扉は開かず──。


 つまり、これにて鏡の検証は終了、でいいのかな? ……まぁ、こんなもんか。所詮マユツバな噂だったしね。

 

「んじゃ、副会長、そろそろ撤収しましょ──っんごっ!?」

「会長最低ですっ! キモいですっ! いっぺん◯んでくださいっ!」


 副会長にガチギレされてしまった。


 そのまま礼は脱兎だっとのごとく鏡の前から……、いいえ、恥ずかしげに私の前から逃げていく。


「──んも、冗談だってば〜。礼ったらしょうがないな〜」


 愛しの副会長から全力で頭突きされ、流血した鼻にティッシュを詰めながら、今も尚、私の姿を鮮明に映す大鏡を背に、一人トボトボと立ち去る私、九条葉月であった。



 ──そして。


 これは、しばらく過ぎた後日の話なのだが──。


 私たちの高校で、男女二人の生徒が、同時に行方不明となる事件が、勃発した。

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