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ソラの向こう側は、ユウ闇に煌めく  作者: 乙希々


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14/20

打ち上げ花火。

 ──小刻みに響き渡る太鼓の音。


 優しく奏でる笛の音色が、連なる提灯ちょうちんの橙色に照らされながら、私は祭りの喧騒を一人、歩いていた。


 カラン、コロン。


 足元で、軽やかに下駄がなる。紫陽花あじさい柄の浴衣が夜風に揺れた。


《……嬉しい》


 じゅうじゅうと、出店から香ばしいソースのいい匂いがする。お腹がぐるぐると鳴った。


「ほら、お嬢ちゃん」


 夜店をぐるりと回っていると、屋台のおじさんから大きな綿飴わたあめを貰った。美味しそう。私は自然と笑顔になる。


《何でだろう? 私……お祭り、大嫌いだったはずなのに──》



「──柊さん。こっちこっち」

「早く皆で遊ぼうぜ!」「柊さんの浴衣、かわいい」


《……あ、いけない。クラスのみんなが手招きしてる──》


 行かなきゃ。行かなきゃ。行かなきゃ。


 みんなに嫌われる。


 仲間はずれは嫌なの。


《──早く、あの輪に入らなきゃ……》



「──ソラっ、行っちゃ駄目だ!」



《……誰? 私の邪魔をしないで──》


「は、離してよ! 私はみんなのところに行くの、行かなきゃ嫌われちゃう……一人は嫌……だからお願い……この手を、」


 足掻あがいた。


 だけど、誰かに後ろから力強く右腕を引っ張って、これ以上前に進めない。


「大丈夫だから!」

「何が大丈夫なの? て、適当なこと言わないで!」

「ソラ……」

「離して!」

「離さないっ!」


 その声が、賑やかな祭りの音を打ち消す。


「……お願いだから、手を」

「絶対離すかよ! ボッチだからって、そんなの関係ねえ! 嫌われたって気にするな、ソラはソラだろ! 無理に他人と合わせる必要はねえよ!」


 「…………でも、私は、」


 そのとき、ドーンと大きな音を立てて、大輪の花火が上がった。


 夜空が七色に鮮やかに染まる。


 同時に、右手を思い切り引っ張られて、私はバランスを崩し転んでしまう。


 でも、痛くない。


 お尻に柔らかい感触が伝わる。

 

「う、うう……ソラさん。気持ちい、じゃなくて痛いから、早くどいてくれると助かる」

「ご、ごめんなさい!」


 私は慌てて、彼、ユウのお腹から離れた。


「あ、危ないっ!」

「へ?」


 ユウの焦った声につんのめりそうになる。再び花火が上がり、辺りを白昼のように照らす。目の前には、下が見えないほどの石段が続いていた。私はその場でへたり込んでしまう。


「もう慌てたよ。いきなりソラが階段に向かって走っていくから──」


 そう言って、ユウが私に手を差し伸べてきた。


「ユウ……ありがとう」


 私は震える指先で、彼の右手をつかみ立ち上がる。


「え……?」

「マジかよ!?」


 すると突然、周りが真っ暗になった。


 慌ててユウがスマホのライトを点灯させ、辺りを照らす。


「──嘘だろ……」


 そこにあったのは、見渡す限り静寂に包まれた神社の光景だった。


 そう。


 まるでお祭りなど最初からなかったかのように、昼間と変わらない、ひっそりとした神社の境内のまま。


 私は浴衣なんて着ていない。


 服も靴も、何も変わらず。


 綿菓子をくれたおじさん、それこそクラスメイトのみんななんて、どこにもいない。


 すべてが幻。


 まるで狐につままれた気分。


 だけど。


 あの打ち上げ花火、本当に綺麗きれいだった──。


 それだけは、幻でも構わない。




「……ソラ。戻ろうか」

「うん」


 私たちは、会話らしい会話もなく冷たい石畳を歩く


 今度は、離れ離れにならないように、お互い手と手を繋いで。


 ユウの手は、ずっと温かかった──。

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