打ち上げ花火。
──小刻みに響き渡る太鼓の音。
優しく奏でる笛の音色が、連なる提灯の橙色に照らされながら、私は祭りの喧騒を一人、歩いていた。
カラン、コロン。
足元で、軽やかに下駄がなる。紫陽花柄の浴衣が夜風に揺れた。
《……嬉しい》
じゅうじゅうと、出店から香ばしいソースのいい匂いがする。お腹がぐるぐると鳴った。
「ほら、お嬢ちゃん」
夜店をぐるりと回っていると、屋台のおじさんから大きな綿飴を貰った。美味しそう。私は自然と笑顔になる。
《何でだろう? 私……お祭り、大嫌いだったはずなのに──》
「──柊さん。こっちこっち」
「早く皆で遊ぼうぜ!」「柊さんの浴衣、かわいい」
《……あ、いけない。クラスのみんなが手招きしてる──》
行かなきゃ。行かなきゃ。行かなきゃ。
みんなに嫌われる。
仲間はずれは嫌なの。
《──早く、あの輪に入らなきゃ……》
「──ソラっ、行っちゃ駄目だ!」
《……誰? 私の邪魔をしないで──》
「は、離してよ! 私はみんなのところに行くの、行かなきゃ嫌われちゃう……一人は嫌……だからお願い……この手を、」
足掻いた。
だけど、誰かに後ろから力強く右腕を引っ張って、これ以上前に進めない。
「大丈夫だから!」
「何が大丈夫なの? て、適当なこと言わないで!」
「ソラ……」
「離して!」
「離さないっ!」
その声が、賑やかな祭りの音を打ち消す。
「……お願いだから、手を」
「絶対離すかよ! ボッチだからって、そんなの関係ねえ! 嫌われたって気にするな、ソラはソラだろ! 無理に他人と合わせる必要はねえよ!」
「…………でも、私は、」
そのとき、ドーンと大きな音を立てて、大輪の花火が上がった。
夜空が七色に鮮やかに染まる。
同時に、右手を思い切り引っ張られて、私はバランスを崩し転んでしまう。
でも、痛くない。
お尻に柔らかい感触が伝わる。
「う、うう……ソラさん。気持ちい、じゃなくて痛いから、早くどいてくれると助かる」
「ご、ごめんなさい!」
私は慌てて、彼、ユウのお腹から離れた。
「あ、危ないっ!」
「へ?」
ユウの焦った声につんのめりそうになる。再び花火が上がり、辺りを白昼のように照らす。目の前には、下が見えないほどの石段が続いていた。私はその場でへたり込んでしまう。
「もう慌てたよ。いきなりソラが階段に向かって走っていくから──」
そう言って、ユウが私に手を差し伸べてきた。
「ユウ……ありがとう」
私は震える指先で、彼の右手をつかみ立ち上がる。
「え……?」
「マジかよ!?」
すると突然、周りが真っ暗になった。
慌ててユウがスマホのライトを点灯させ、辺りを照らす。
「──嘘だろ……」
そこにあったのは、見渡す限り静寂に包まれた神社の光景だった。
そう。
まるでお祭りなど最初からなかったかのように、昼間と変わらない、ひっそりとした神社の境内のまま。
私は浴衣なんて着ていない。
服も靴も、何も変わらず。
綿菓子をくれたおじさん、それこそクラスメイトのみんななんて、どこにもいない。
すべてが幻。
まるで狐につままれた気分。
だけど。
あの打ち上げ花火、本当に綺麗だった──。
それだけは、幻でも構わない。
「……ソラ。戻ろうか」
「うん」
私たちは、会話らしい会話もなく冷たい石畳を歩く
今度は、離れ離れにならないように、お互い手と手を繋いで。
ユウの手は、ずっと温かかった──。




