祭り。
ゆさゆさ──、と身体が揺れる。
「……う〜ん」
ゆっさゆっさゆっさ──、揺さぶりが止まらない。
土埃の匂いが鼻につき。
「ユウ……起きて」
「ううっうん……あ、あれ、ひ、柊さん!? なな、何で、ぼぼ、僕の部屋にいる──」
「しーっ、寝ぼけないで……」
「ご、ごめん」
目が覚めた。
どうやら僕は、納屋の隅で早々に眠りこけていたらしい。顔を近づけ起こしにくるソラに記憶が混乱し、壁に仰け反ってしまった。
周りの様子からして、まだ夜だよな……ライトの光で目がチカチカする。
「そ、それで、どうしたの……あ、トイレ?」
「バカっ!」
なぜかキレられた。理不尽だ。
「ち、違うの……外で太鼓、太鼓の音が聴こえたから」
「太鼓?」
ドン、ドン、ドン──
「うん……確かに聴こえる」
耳を澄まさなくとも、小刻みなリズムを刻んだ太鼓の音が響いてくる。
それに。
ピーヒャララ〜♪
笛の音色、が混じる。
「……まるで、お祭りみたい……」
「…………だよな」
不安そうに震えるソラを横目に、僕は枕代わりに使っていたカバンを漁り、刃渡り20センチほどのナイフを取り出し確認する。
ソラが目を見開く。
構わずナイフを鞘にしまいズボンの腰に差し込む。
「あまり使いたくないけど、一応ね」
「うん……」
(いざという時は、何としてでもソラを守らないと……絶対に)
すぐさまスマホのライトを消す。僕とソラは暗闇の中、そっと息を潜める。
ドン、ドン、ドン、ピーヒャラララ──、
深夜に太鼓と笛の音。
昼間は人の気配すらなかった。
これは絶対にヤバい。自然とナイフの柄を握る拳に力が入る。
出来ればこのまま何事もなく朝を向かえれば良いのだが──と思った、
次の瞬間。
ガラガラ──、
「────っ!?」
「!?」
突如、何の前触れもなく正面の扉が勢いよく開いた。さっきまで使っていたスマホの明かりが外に漏れていたのかも知れない。クソっ! 迂闊だった。
「ソラ……僕の後ろへ」
「で、でも──」
「早くっ!」
咄嗟に僕はソラを庇いつつナイフを両手で構える。夜なのに何故か外が明るい。だからまだ目が追いつかなくて、突然の訪問者が一体、『なにか』確認できない。
もうこうなったら相手が誰であろうと正面からタックルを喰らわせ、敵が怯んだ隙にソラの手を引いて正面突破をする。もうこれで行くしか──、
「コン」
(……え? コン? って何?)
「コンコン」
ようやく目が、外の明かりに慣れてきた。
逃走のタイミングを完全に逃した僕は、ソラを背にし、目の前で淡い光を掲げて突っ立っている『なにか』と改めて対峙する。
「……キツネさん」
後ろで、ソラが呟いた。
うん……、確かに、『狐』っぽいのがいる。
しかも、実際にいるリアルな狐よりも、もっと馴染みがある、というか、アニメや漫画で登場してそうなデフォルメされたキツネが器用に二本足で立っている。
おおよそ90センチほどの、愛嬌たっぷりの真っ白な狐が……。
「こん!」
「かわいい……」
気づけば、ソラがしゃがんでキツネの頭をなでなでしていたりするので、僕は「おいおい危ないって!」と止めようとしたけど 当の二頭身狐は何をするでもなくされるがままでいる。
拍子抜けした。
強張っていた肩の力が抜ける。握りしめていた抜き身のナイフを鞘に戻し、一旦戦闘態勢を解除する。無防備なソラの様子を気にしつつ、怪しげな狐の動きにも目を離さず、僕はチラリと、視線を開かれた扉の外に移す。
ドンドン、ドンドン、ドンドコドン──、
ピーヒャラ、ピーヒャラ──、
祭囃子。
寂れたはずの神社の境内が、賑やかい。
連なる提灯の明かりが闇夜を紅く照らし、祭りへの道を示しているようだ。
「……あ、れ、なんで、身体が、ゆう、ことき、」
──そして。
僕とソラは、白いキツネに導かれるまま、ゆらり、ゆらゆらと歩いていった。




