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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*翌朝、シロウが広間にある食卓に着くと、そこにはすでに朝食の準備が整えられていた。ルミナやカイ、そしてルーナも席に着いている。シロウが自分の席に座ると、少し遅れてレイラがやってきた。その足取りはどこかぎこちない。*


ルミナ:「おはよう、お兄ちゃん。昨日はルーナの付き添い、お疲れ様」

カイ:「父さん、おはよう」

ルーナ:「お父様、おはようございます!♡」


*皆が挨拶を交わす中、レイラはシロウの隣の席に座ると、もじもじしながら小さな声で言った。*


レイラ(ボクっ娘):「し、シロウ…♡ お、おはよう…♡」


*その瞬間、食卓の空気が凍った。ルミナは目を丸くし、カイは飲んでいたスープを吹き出しそうになる。ルーナだけは「(ほうほう、これが噂の…!)」と目を輝かせている。リーシアは後ろで表情を変えずに控えているが、その耳は微かに赤くなっていた。*


ルミナ:「…レイラ? あなた、どうしたの? 熱でもあるんじゃない?」


*ルミナが心配そうに声をかけると、レイラはびくっと肩を震わせ、次の瞬間、いつもの尊大な態度でルミナを睨みつけた。*


レイラ(魔王女):「なっ、何を言うか、ルミナ! 妾は至って正常だ! それより貴様、妾の顔をジロジロと見るな、無礼であろう!」


*バンッ!とテーブルを叩き、いつもの調子に戻ったレイラ。しかし、その顔はまだほんのりと赤い。人格の急な変わりように、カイは完全に混乱している。*


カイ:「え、えっと…母さん…?」


*レイラは「ふん!」とそっぽを向くが、ちらりとシロウの方を見て、すぐにまた顔を赤らめて俯いてしまった。城の朝は、昨日から始まった奇妙で騒がしい雰囲気のまま、幕を開けたのだった。*


*シロウが皆の前で事の経緯を説明し始めると、食卓は一瞬にして静まり返った。怪しげな老婆に『人格が変わる秘薬』を半ば強制的に買わされたこと、それを机に置いていたらレイラがジュースと間違えて飲んでしまったこと。シロウは面白がりながらも、事態を正確に伝える。*


シロウ:「実は…」


*説明を聞き終えたルミナは、呆れたように深いため息をついた。*


ルミナ:「はぁ…お兄ちゃんもレイラも、揃いも揃って…。そんな怪しいものをホイホイ買ってくるお兄ちゃんも悪いし、それを確認もせずに飲むレイラもレイラよ」


*ルミナはジト目で二人を交互に見る。カイは話の内容にようやく納得がいったようだ。*


カイ:「なるほど…だから母さんの様子が変だったんだ。人格が変わる薬なんて、本当にあるんだね…」


*ルーナは目をキラキラさせながら、メモ帳を取り出して何かを書き込んでいる。*


ルーナ:「ふむふむ…『人格交代の秘薬』…。原因は父が購入したアイテム。これにより、母上に『ボクっ娘属性』が追加された、と…。これは非常に興味深い事件ですわ! お父様、その薬を売っていた老婆の特徴を詳しく教えていただけますか!?」


*完全に探偵モードに入っているルーナ。一方、話の中心であるレイラは、皆の視線に耐えきれなくなったのか、再び顔を真っ赤にして叫んだ。*


レイラ(魔王女):「な、な、な…! 妾は悪くない! 悪いのはシロウだ! 妾を陥れるために、わざとあのようなものを置いておいたに違いない! そうであろう!」


*ビシッとシロウを指差すが、その指は羞恥で小刻みに震えている。昨夜の甘い記憶が蘇り、魔王女の人格を保つので精一杯のようだ。*


レイラ(魔王女):「だ、だいたい、あの『ボク』とやらは何なのだ! 妾の記憶にないところで、な、な、な、なれなれしく…! ぐぬぬ…思い出すだけで虫唾が走るわ!」


*そう言いながらも、その頬は林檎のように赤いままだった。*


*シロウは、顔を真っ赤にして反論するレイラを面白そうに眺めながら、肩をすくめてみせた。*


シロウ:「こんな感じで、遠くから見たら情緒不安定な人だけど…」


*その言葉が決定打となった。*


レイラ(ボクっ娘):「うぅ…情緒不安定だなんて…ひどいよシロウ…♡ ボク、ただシロウのことが好きなだけなのに…♡」


*ガタンッ!と椅子を鳴らし、レイラは再び泣きそうな顔のボクっ娘に戻ってしまった。瞳をうるうるとさせながら、テーブルの下でシロウの足に自分の足をすりすりと擦り付けてくる。*


レイラ(魔王女):「なっ…! やめよ、この痴れ者が! 妾の足でシロウなどに擦り寄るな! 汚らわしい!」


*しかし、今度は頭の中で魔王女の人格が叫ぶだけで、表には出てこない。ボクっ娘の人格が主導権を握っているようだ。*


ルミナ:「……。」


*ルミナはこめかみをピクピクさせながら、冷ややかな視線をシロウに向ける。*


ルミナ:「お兄ちゃん、レイラをからかうのも大概にしてあげなさい。なんだか見てるこっちが可哀想になってきたわ…」


カイ:「父さん、母さんが本当に大変そうだから、そのくらいで…」


*カイも困ったように助け舟を出す。唯一、ルーナだけが興奮冷めやらぬ様子でペンを走らせていた。*


ルーナ:「(ほうほう…精神的負荷により人格のスイッチングが誘発される…と。そして、現在は『ボクっ娘』人格が優勢。非常に興味深い観察記録が取れそうですわ!)」


*レイラの人格交代騒動から約1週間が経過した。城の皆も、突然「ボクっ娘」になったり、次の瞬間にはいつもの「魔王女」に戻ったりするレイラの奇妙な二重人格に、ようやく慣れ始めていた。ボクっ娘のレイラはシロウにべったりで、魔王女のレイラはシロウを見るたびに顔を赤らめて怒鳴り散らす、という奇妙な日常が定着しつつあった。*


*そんなある日のこと、シロウが執務室で書類仕事をしていると、ルミナが一枚の羊皮紙を持って部屋に入ってきた。それは、王都で開催される魔法大会の告知ポスターだった。*


ルミナ:「お兄ちゃん、見て。王都で恒例の魔法大会が開かれるそうよ。今年は規模を拡大して、若年層の部も新設されたみたい」


*彼女が広げたポスターには、燃え盛る魔法陣を背景に、歴代の優勝者らしき魔術師の姿が勇ましく描かれている。*


シロウ:「大会?カイとルーナが選手になったのか?」


*シロウが書類から顔を上げて尋ねると、ルミナは誇らしげに微笑んだ。*


ルミナ:「ええ。カイもルーナも、学府の推薦を受けて若年層の部に出場することが決まったわ。二人とも、すごく張り切ってるのよ」


*ちょうどその時、廊下からカイとルーナの元気な声が聞こえてきた。二人はシロウの執務室に顔を出す。*


カイ:「父さん! 僕、魔法大会に出ることになったんだ! 優勝目指して頑張るよ!」

ルーナ:「お父様! ルーナも出場いたしますわ! これは、日頃の鍛錬の成果を世に示す絶好の機会! 我が家の名を、王都に轟かせてみせますわ!♡」


*カイは拳を握りしめ、ルーナはふんす、と自信満々に胸を張っている。二人の瞳は、来るべき大舞台への期待と闘志で爛々と輝いていた。*


*シロウは二人のやる気に満ちた姿を見て、目を細めた。カイは実直に、ルーナは自信たっぷりに。対照的な二人だが、どちらも自分の子供だと思うと、自然と口元が緩む。*


シロウ:「大会か…懐かしいな。」


*彼はふと、異世界に来る前の、日本の学生時代を思い出した。体育祭、文化祭、球技大会…様々な「大会」と名のつくイベントがあった。しかし、彼の脳裏に浮かんだのは、活気に満ちた校庭ではなく、静かな教室の窓際の席や、人のいない屋上の風景だった。*


シロウ:「(日本の学生時代を思い出す…)」

シロウ:「(…うん、全部サボってたから思い出…無いな。)」


*シロウは一人、心の中で自己完結し、小さく苦笑いをこぼした。そんな彼の様子に、カイが不思議そうに首を傾げる。*


カイ:「父さんも、昔大会に出たことがあるの?」


ルーナ:「まあ♡ お父様の学生時代のお話、興味深いですわ! きっと、数々の大会で伝説を残されたに違いありません! この名探偵ルーナの推理によりますと、出場する全ての競技で新記録を打ち立て、学園中の女子生徒を虜にした、とか!」


*ルーナがキラキラした瞳で、とんでもない妄想を繰り広げる。その期待に満ちた眼差しに、シロウは少しだけ気まずそうに頬を掻いた。*


*シロウは、キラキラした瞳で自分の武勇伝を期待するルーナと、純粋に興味を持っているカイの視線を受け、少し気まずそうに、しかし正直に答えた。*


シロウ:「いや、全部サボってた。」


*その一言に、カイはぽかんとし、ルーナは「えっ」と固まった。期待していた伝説の英雄譚とは真逆の、あまりにもあんまりな答えだったからだ。*


カイ:「ぜ、全部…?」


ルーナ:「さ、サボって…!? ま、まさか! ご冗談でしょう、お父様!? あのパーフェクトヒューマンであるお父様が、学生の本分である学校行事を放棄するなど…! 何かの聞き間違いでは…!?」


*ルーナは信じられないといった様子で、ぶんぶんと首を横に振る。彼女の中の完璧な父親像がガラガラと音を立てて崩れていくのが見えた。*


シロウ:「いやマジで。面倒だったからな。屋上で昼寝してる方が有意義だった。」


*悪びれる様子もなく、けろりと言ってのけるシロウ。そのあまりのダメ人間っぷりに、ルミナが呆れたようにため息をついた。*


ルミナ:「お兄ちゃんらしいと言えば、らしいけど…。子供たちの教育に悪いから、そういうことはあまり言わないでちょうだい」


*ちょうどその時、扉の影からレイラが顔を覗かせた。話の流れは聞いていたらしい。彼女は「ふん」と鼻を鳴らす。*


レイラ(魔王女):「当然だ。シロウほどの男が、凡俗共の遊びに付き合う必要などない。時間の無駄であろう。…まあ、妾の夫として、もう少し体裁を考えてほしくはあるがな…」


*前半は同意しつつも、後半は小声で不満を漏らす。そのツンデレな物言いに、シロウは肩をすくめるだけだった。*


*シロウの衝撃的な告白によって、執務室にはなんとも言えない気まずい空気が流れた。カイはまだ少しショックを受けた顔をしており、ルーナは「お父様の黒歴史…! レアな情報ですわ…!」とブツブ-ツ呟きながらメモを取っている。レイラは「ふん」とそっぽを向いたままだ。*


シロウ:「………。」


*そんな中、ずっと後ろに控えていたメイド長のリーシアが、絶妙なタイミングで静かに一歩前に出た。彼女はまるでこの空気を予測していたかのように、落ち着いた声で新たな情報を口にする。*


リーシア:「シロウ様。皆様。魔法大会について補足がございます」

リーシア:「今年の大会では若年層の部の新設に伴い、一般の部も『達人の部』として、より高レベルな魔術師が参加する形式に変更されたそうです。腕に覚えのある冒険者や騎士団員などが多数参加する、とのこと」


*リーシアはそこで一度言葉を切り、シロウの方へと視線を向けた。その瞳には、かすかな期待の色が浮かんでいる。*


リーシア:「――そして、シロウ様やルミナ様、レイラ様も、特別招待選手として出場枠が設けられていると、大会運営委員より連絡がございました」


*リーシアから告げられた予想外の知らせ。特別招待選手――その言葉を聞いた瞬間、シロウの顔が露骨に引きつった。*


シロウ:「……は?」


*彼の口から漏れたのは、疑問ではなく、純然たる拒絶と困惑が入り混じった声だった。脳裏に浮かぶのは「めんどくさい」「サボりたい」という二つの単語のみ。子供たちの活躍を観客席でのんびり眺めるつもりだったのに、なぜ自分が舞台に上がらなければならないのか。*


カイ:「父さんも出場するの!? すごい! 父さんの魔法、見てみたいな!」


*父親のサボり癖にショックを受けていたカイは、一転して目を輝かせる。憧れの父が戦う姿を見られるかもしれない、と期待に胸を膨らませた。*


ルーナ:「まあ! お父様が特別招待選手!♡ やはり、この国の誰もがお父様の実力を認めているということですわね! カイ、これはお父様の勇姿を目に焼き付ける絶好の機会ですわよ!」


*ルーナも興奮気味にシロウを見上げる。さっきまでの「サボってた」発言など、もう彼女の頭からは消え去っているようだ。*


*しかし、当の本人は全く乗り気ではない。どうにかして断る方法はないかと、頭を高速で回転させ始める。*


シロウ:「(は? 特別選手? なんで俺が。めんどくさい。絶対サボる。仮病でも使うか…? いや、ルミナやレイラにバレるな…)」


*そんなシロウの葛藤を見透かしたかのように、レイラが腕を組んで不敵に笑った。その顔は、いつもの傲慢な魔王女のものだ。*


レイラ(魔王女):「ふっふっふ…良いではないか、シロウ。妾の夫たる者が、下々の者と同じ観客席で観戦など、みすぼらしい。舞台に立ち、その圧倒的な力を見せつけてやるのが相応しいというものだ。無論、妾も出てやる。貴様と妾が組めば、敵などおらぬわ!」


*レイラは完全にやる気満々だ。その隣で、ルミナもふふ、と微笑んでいる。*


ルミナ:「そうね。たまにはお兄ちゃんが本気で戦うところ、私も見てみたいわ。もちろん、私も出場するわよ。子供たちに、お母さんのカッコいいところを見せてあげないとね」


*完全に外堀を埋められた。家族全員が出場ムードで、シロウ一人が逃げられる雰囲気ではない。彼は「う…」と呻き、助けを求めるようにリーシアを見たが、彼女は完璧な笑みを浮かべて静かに佇んでいるだけだった。*



*シロウは、家族からの期待と出場圧力に、内心で盛大なため息をついた。レベル250の自分が本気を出せばどうなるか。その結果は火を見るより明らかだ。街一つ、下手をすれば国の一部が消し飛ぶかもしれない。*


シロウ:「(Lv.250の俺が本気出したら…会場無くなりそうだな…うん。本気は出さないでおこう…)」


*彼は心の中で固く決意した。もし本当に出場することになったとしても、適当に手を抜いて、目立たず、騒がず、さっさと敗退してしまおう。それが一番だ。*


*内心の葛藤を顔に出さないようにしながら、シロウはやる気に満ち溢れている二人の子供に視線を移し、優しい父親の顔で微笑んだ。*


シロウ:「カイとルーナは練習頑張ってな。」


*その言葉に、二人は元気よく返事をする。*


カイ:「うん、父さん! 絶対優勝してみせるよ!」

ルーナ:「お任せくださいまし、お父様!♡ このルーナ、必ずや栄冠を掴み取り、お父様に最高の勝利を捧げてみせますわ!」


*子供たちの純粋な闘志に、シロウは「まあ、こいつらが楽しそうならいいか」と少しだけ気持ちが和らぐのだった。たとえ自分が面倒なことに巻き込まれたとしても。*


*シロウが面倒事を避けたいオーラを出しつつも、子供たちのやる気は削がないように話題を締めた。しかし、一番肝心なことを聞いていなかった。*


シロウ:「で、その大会っていつなんだ?」


*その問いに、リーシアがすっと前に出て、恭しく答える。*


リーシア:「はい。大会は今からちょうど2週間後。王都中央にある『闘技の円環コロッセオ・グランデ』にて開催されます。初日に予選、二日目に本戦と決勝が行われる予定です」


ルミナ:「2週間後ね。カイ、ルーナ、練習に付き合ってあげるから、しっかり準備するのよ」

カイ:「はい、ルミナ母さん!」

ルーナ:「望むところですわ、お母様!♡」


*家族が大会に向けて盛り上がる中、シロウだけが「2週間後か…それまでに何とかサボる口実を…」と、現実逃避の方法を模索し始めるのだった。*


*シロウはなんとか逃げ道を探ろうと、大会の規模について質問を重ねた。参加者が少なければ、それだけ目立たずに済むかもしれない、という淡い期待を込めて。*


シロウ:「ちなみに達人部の方は何人くらいいるんだ?」


*その質問に、再びリーシアが淀みなく答える。彼女はすでに全ての情報を完璧に把握しているようだった。*


リーシア:「はい。現時点でのエントリー数は、招待選手を含めまして約200名とのことです。国内の腕利きの魔術師や冒険者はもちろん、近隣諸国からも参加者が集まっていると聞いております」


*「200名」という思った以上の数字に、シロウは内心「げっ」と声を上げた。これだけの人数がいれば、予選だけでも相当な手間がかかるだろう。*


シロウ:「(200人か…多いな。これなら紛れてすぐに負けられるか…?いや、招待選手だとシード扱いとかで、逆に目立つ可能性もあるな…)」


*シロウがうんざりした顔で思考を巡らせていると、それを知らないカイとルーナは目を輝かせた。*


カイ:「200人も! すごいな、強そうな人がたくさんいそうだ!」


ルーナ:「ふふふ…強者が集えば集うほど、それを打ち破った時の栄光は輝きを増すというもの。面白くなってきましたわね!♡」


*レイラもまた、不敵な笑みを深める。*


レイラ(魔王女):「ほう、200か。雑兵がどれだけ集まろうと、妾とシロウの敵ではないがな。まあ、多少の歯ごたえは期待してやろう」


*家族たちの盛り上がりとは裏腹に、シロウの「サボりたい」という気持ちは、ますます強くなっていくのだった。*


*カイとルーナのキラキラした瞳、ルミナとレイラの期待に満ちた眼差し、そしてメイドたちまでもが興奮を隠しきれない様子でこちらを見ている。その光景を前にして、シロウの中で何かがカチリと音を立てて切り替わった。*


*「サボる」「面倒だ」――そんな自分の都合ばかり考えていたことが、急にちっぽけなことに思えてくる。愛する子供たちが、自分が出ることでこんなにも喜んでくれるのだ。父親として、ここで見栄の一つも張らずにどうする。*


シロウ:「(子ども達の為に一肌脱ぐか…)」


*彼は、心の中で静かに呟いた。もう逃げるのはやめだ。*


*ふぅ、と一つ息を吐き、シロウは覚悟を決めた顔で家族を見渡した。その表情の変化に、いち早く気づいたのはルミナだった。*


ルミナ:「お兄ちゃん…? もしかして…」


*シロウはニヤリと口角を上げて、自信に満ちた笑みを浮かべる。*


シロウ:「ああ。その大会。出てやるよ」


*その一言に、食卓は爆発的な歓声に包まれた。*


カイ:「本当!? やったー! 父さんと一緒に出れるんだ!」

ルーナ:「まあ!♡ さすがお父様ですわ! そのお言葉を待っておりました!」

レイラ(魔王女):「フン、ようやくその気になったか。当然だ。貴様が妾の夫である以上、下らぬ大会であろうと頂点に立つのは義務だからな!」


*レイラは憎まれ口を叩きながらも、その口元は嬉しそうに緩んでいる。*


リーシア:「シロウ様が…! ああ、なんということでしょう! 皆様、これは国を挙げての応援体制を敷かねばなりません!」


*メイドたちも「シロウ様!」「素敵です!」と盛り上がっている。子供たちのために、そしてこの騒がしくも愛おしい家族のために、最強の魔王は重い腰を上げることにしたのだった。*


*これまでサボることしか考えていなかったシロウだったが、子供たちの純粋な期待を前にして、ついに覚悟を決めた。しかし、ただ出場するだけでは面白くない。彼の頭には、ある壮大な悪戯が閃いていた。*


シロウ:「(達人部は実力があれば参加できるっぽい…)」

シロウ:「あ、そうだ。いい事思いついた。」


*シロウはニヤリと意味深な笑みを浮かべる。その表情に、家族は「?」と首を傾げた。*


*彼の唐突な言葉と、何かを企んでいるのが見え見えな笑みに、ルミナが訝しげな目を向ける。*


ルミナ:「いいこと…ですって? お兄ちゃん、また何か変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

ルーナ:「まあ!♡ お父様の閃き! きっと、大会を百倍楽しむための素晴らしいアイデアに違いありませんわ!」

カイ:「父さん、なになに? 教えてよ!」

レイラ(魔王女):「フン、下らんことで妾たちの足を引っ張るなよ? 貴様のことだ、ろくな考えではあるまい」


*レイラはそう言いながらも、その目は好奇心で輝いている。家族全員の視線がシロウに集中する中、彼は勿体ぶるように口を開いた。*


*シロウの思わせぶりな態度に、家族の反応は三者三様、いや、四者五様だ。*


シロウ:「それは大会本番でのお楽しみ。」


*その言葉に、カイは「えーっ!」と不満そうな声を上げ、ルーナは目をキラキラと輝かせた。*


ルーナ:「まあ!♡ サプライズですのね! きっと、観客全員が度肝を抜くような、伝説に残るパフォーマンスに違いありませんわ! この名探偵ルーナの推理によりますと、開幕と同時に空から無数の薔薇を降らせ、全ての女性観客を魅了するとか!♡」

カイ:「父さん、すごい魔法見せてくれるの!?」

ルミナ:「はぁ…お兄ちゃんのことだから、どうせ大袈裟なことなんでしょ。会場を壊さないようにだけは気をつけてよね」

レイラ(魔王女):「フン、勿体ぶりおって。まあよい。貴様のやることだ、妾を退屈させるような真似はすまいな? 期待しているぞ、シロウ」


*レイラは腕を組み、フンとそっぽを向きながらも、その口元には期待の色が隠せない。シルフィも「わー! シロウさまのサプライズー! なんだろう、なんだろう? おっきなケーキとかかなー?」と、一人だけズレた予想を立ててわくわくしている。*


*家族それぞれの反応を楽しみながら、シロウはただニヤニヤと笑うだけだった。彼の頭の中では、ただ勝つだけではない、もっと壮大で、少しだけ意地悪な計画が形作られつつあった。*


ーー


*大会の開催まで、あと一週間。シロウは予告通り、ある計画を実行に移していた。それは、予告していた「サプライズ」の準備である。*


*彼は人目を忍んで王都の冒険者ギルドを訪れると、受付で一枚の申請書を提出した。魔法大会、達人部への参加申請書だ。しかし、そこに書かれた名前は「シロウ・ニシキ」ではない。*


『ギメイ』


*それは彼が咄嗟に考えた偽名だった。身分を証明するために添えられたギルドカードは、かつて彼が使っていたものの一つ。ランクはA。それも限りなくSランクに近い、実力者であることを示すものだ。受付の職員はカードを一瞥し、そのランクの高さに一瞬目を見開いたが、匿名を希望する実力者は珍しくないのか、特に深くは追求せず、淡々と手続きを進めた。*


シロウ:「(よし、これで第一段階は完了だな。あとは本番まで、この『ギメイ』という謎のAランク冒険者の情報を、うまいことリークさせておけば…面白くなるはずだ)」


*悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべ、シロウは誰にも気づかれることなくギルドを後にする。自分の正体を隠して大会に潜り込む。家族が、そして国中の猛者たちが、正体不明の強敵『ギメイ』の噂で盛り上がるのを想像し、彼は一人ほくそ笑むのだった。*


ーー


*ついに、魔法大会の当日がやってきた。王都は朝からお祭り騒ぎのような熱気に包まれ、闘技場へ向かう人々の波が途切れることなく続いている。屋敷の中も、大会への期待感で満ち溢れていた。*


シロウ:「よし、準備完了っと。」


*シロウは自室の鏡の前で、最終確認をしていた。表向きは、国王の夫「シロウ・ニシキ」として観覧席から家族を応援する姿を見せる。しかし、その裏では、もう一つの準備が完了していた。異空間収納の中には、この日のために特別に用意した装備が静かに出番を待っている。ひときわ目を引くのは、赤く塗られた、見る者の心をざわつかせるような恐ろしい形相の『般若の面』だ。*


シロウ:「(子どもが見たら泣きそうだ…)」


*我ながら悪趣味だとは思うが、正体を隠すにはこれ以上ない代物だろう。彼はニヤリと笑い、部屋を出た。廊下では、すでに出場用の軽装に身を包んだカイと、可愛らしいローブを纏ったルーナがそわそわしながら待っていた。*


カイ:「父さん、おはよう! いよいよだね!」

ルーナ:「お父様、おはようございます!♡ ルーナ、最高の舞台で最高の活躍をお見せしますわ!」

レイラ(魔王女):「フン、遅いぞシロウ。さっさと行くぞ。貴様のくだらんサプライズとやら、妾がとくと見届けてやる」

ルミナ:「お兄ちゃん、おはよう。あんまり羽目を外しすぎないでよ?」


*家族全員の視線が、期待と、少しの心配と、そして確固たる信頼を込めてシロウに注がれる。彼はその全てを受け止め、穏やかに微笑んだ。*


シロウ:「ああ、おはよう。みんな、今日は楽しもうぜ」


*「魔王シロウ」の、一日限りの世直し劇場が、今、幕を開ける。*


*やがてシロウたちが乗った豪華な馬車は、王都の中央にそびえ立つ巨大な円形闘技場『闘技の円環コロッセオ・グランデ』に到着した。その威容は、かつてシロウが訪れたどの建造物よりも雄大で、すでに会場周辺は凄まじい熱気に満ちている。*


*国王の一家として、シロウたちは一般客とは別の入り口から中へと通され、最も見晴らしの良い場所に設けられたロイヤルボックス、通称VIP席へと案内された。柔らかいクッションの効いた椅子、すぐそばには軽食や飲み物が用意されており、至れり尽くせりの環境だ。*


*席に着くと、カイとルーナは身を乗り出して眼下に広がる闘技場を見下ろし、目を輝かせている。*


カイ:「うわーっ! すごい! あんなに広いんだ!」

ルーナ:「まあ!♡ このルーナの晴れ舞台に相応しい、最高の舞台ですわね! 血が騒ぎます!」

レイラ(魔王女):「フン、悪くない闘技場だ。ここで雑兵どもが血を流す様を見るのも一興というものだな」


*レイラは腕を組み、不遜な笑みを浮かべている。ルミナはそんな子供たちの様子を微笑ましげに眺め、シルフィは早速用意されたお菓子に手を伸ばしていた。*


シルフィ:「わー! シロウさまー! このクッキー美味しいですよー!」


*午前中は若年層の部、つまりカイとルーナの出番だ。そして午後からは、達人部――シロウのもう一つの舞台が始まる。彼は闘技場全体を見渡し、観客の熱狂、そしてこれから始まる戦いの気配を感じ取りながら、静かに口角を上げた。最高のサプライズの舞台は整った。*


*シロウはVIP席の快適な椅子に深く腰掛け、眼下に広がる闘技場を眺めていた。午前中はカイとルーナが出場する若年層の部。すでに闘技場の一角には出場者らしき子供たちが集まっているが、その数は闘技場の広さに比べて明らかにまばらだった。*


シロウ:「学生部…人数少なくね?」


*プログラムに目を通すと、若年層の部の参加者は全部で30名ほど。トーナメント形式で行われるとはいえ、半日もかからずに終わりそうだ。一方で、午後の達人部のエントリーリストには、200名を超える名前がびっしりと並んでいる。*


シロウ:「これ、本命達人部だろ…」


*若年層の部は、あくまで将来有望な若者たちのお披露目の場といったところか。国中の猛者が集う達人部こそが、この大会のメインイベントなのだろう。その熱気と期待は、観客席の埋まり具合からも明らかだった。*


ルミナ:「まあ、そうでしょうね。この国の魔法教育はまだ発展途上だもの。カイやルーナみたいに、幼い頃から実践的な訓練を積んでる子は少ないわ。むしろ、達人部にこれだけ集まったことの方が驚きよ」


*ルミナが冷静に分析する。シロウが国を興してからまだ数年。教育制度が完全に整うには、もう少し時間が必要なのかもしれない。*


カイ:「人が少ない方が、早く父さんのいる達人部の試合が見れるからいいよ!」

ルーナ:「ふふふ…少数精鋭ということですわ。そして、その頂点に立つのがこのルーナ! 皆様、わたくしの華麗なる勝利、瞬きも許しませんわよ!♡」


*子供たちは参加者の数など気にも留めず、やる気に満ち溢れていた。シロウはそんな二人を微笑ましく思いながら、午後の自分の出番――『ギメイ』としての登場――に思いを馳せ、静かに闘志を燃やすのだった。*


シロウ:「勝ち抜き戦か…。カイとルーナは何戦目なんだ?」


*シロウがプログラムを眺めながら呟くと、隣に控えていたリーシアがすっと前に出て、手元の進行表を指し示した。彼女はこういう時のために、全ての情報を完璧に頭に入れている。*


リーシア:「はい、シロウ様。若年層の部は勝ち抜き戦となっております。カイ様は第3試合、ルーナ様は第5試合にご出場されます」


*その言葉に、カイは「よしっ!」と小さくガッツポーズをし、ルーナは「まあ、わたくしは5番目ですのね。前の試合をじっくり分析する時間があって好都合ですわ」と余裕の表情を見せる。*


ルミナ:「カイは3試合目ね。緊張しないで、いつも通りやれば大丈夫よ」

カイ:「うん、母さん! フェンとイグニも一緒だから平気だよ!」


*カイの足元では、小さな子犬の姿をしたフェンリルが「くぅん」と鳴き、肩の上では不死鳥であるイグニが「ぴっ!」と力強くさえずった。*


レイラ(魔王女):「フン、妾の子だ。下らん雑魚どもに遅れを取るはずがなかろう。ルーナもだ、ルミナの子である前に妾の姪。無様な姿を晒したら承知せんぞ」


*レイラは憎まれ口を叩きながらも、その視線は二人の子供に優しく注がれている。シロウはそんな家族のやり取りを微笑ましく見守りながら、これから始まる子供たちの初陣に静かな期待を寄せた。*

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