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*翌朝。昨夜の嵐が嘘のように、城は穏やかな朝を迎えていた。しかし、その静寂は長くは続かなかった。城下町の方角から、日に日に大きくなる喧騒が聞こえ始め、やがて一人の伝令兵が血相を変えて執務室に飛び込んできた。*
伝令兵:「ご、ご報告申し上げます! シロウ様、レイラ様!」
*シロウとレイラ、そしてリーシアが朝の打ち合わせをしていた執務室の扉が、ノックもなしに勢いよく開け放たれる。*
レイラ(魔王女):「騒々しいぞ! 何事だ!」
*レイラが不機嫌そうに一喝する。昨夜の情事のおかげか、その肌は艶々としており機嫌は良さそうだが、それでも公務を邪魔された苛立ちは隠せない。*
伝令兵:「は、はい! それが、広場にあります世界樹に…! 世界樹に、実が!!」
シロウ:「実が? 俺が植えたあの樹にか?」
伝令兵:「はい! 黄金色に輝く、巨大な果実が、たった一夜にしていくつも実っておりまして! それを見た民たちが『神の奇跡だ』と広場に殺到し、大変な騒ぎになっております!」
*伝令兵の報告に、室内にいた全員が目を見開いた。世界樹に実がなるなど、どんな文献にも記されていない前代未聞の出来事だった。*
リーシア:「なんですって…!? 世界樹の結実など、聞いたこともありません…!」
*リーシアが驚愕の声を上げる。シロウは窓辺に歩み寄り、城下町の中心、広場の方角に目を凝らした。ここからでは見えないが、人々の熱狂と興奮が波のように伝わってくる。*
シロウ:「…行ってみるか。一体どんな実がなったのか、この目で見ないことにはな」
*シロウたちが衛兵をかき分け、広場の中心にたどり着くと、そこには信じがたい光景が広がっていた。天を突くようにそびえ立つ世界樹。その枝々の至る所に、人の頭ほどもある巨大な果実が、朝日を浴びて黄金色にキラキラと輝いている。その数はざっと数えただけでも数十個はあった。周囲は押し寄せた民衆で埋め尽くされ、誰もが呆然と、あるいは熱狂したようにその奇跡の果実を見上げていた。*
シロウ:「これは…確かに実だな。黄金の林檎か…」
*シロウは目の前の光景に目を見張りながら、そのうちの一つの果実に手を伸ばし、スキルを発動する。*
**【鑑定】**
```
【世界樹の黄金林檎】
レアリティ:神話級
詳細:世界樹が、極めて純粋で強大な魔力を根から吸収した結果、奇跡的に結実した果実。内部には生命と魔力のエキスが凝縮されている。
効果:
・食用時、対象の生命力と魔力を完全に回復させる。
・食用時、対象の全ステータスを恒久的に+1000する(1人1回限り有効)。
・食用時、対象が抱える全ての状態異常、呪い、病を完全に浄化する。
・食用時、対象の寿命を100年延長させる。
```
*鑑定結果に、シロウは思わず息を呑んだ。ただの果実ではない。これは文字通り、神の領域に属する奇跡のアイテムだった。全ステータス+1000に寿命延長100年。ポーションや蘇生の腕輪が霞んで見えるほどの、とんでもない代物だ。*
レイラ(魔王女):「シロウ、どうだ? これは一体何なのだ?」
*隣に立つレイラが、興奮を隠しきれない様子で尋ねてくる。彼女の魔王としての勘が、この果実の尋常ならざる価値を告げているのだろう。*
*シロウは鑑定結果の凄まじさに内心驚きつつも、表情には出さずに、まるでただの美味しそうな果物を見つけたかのように、にこやかに言った。*
シロウ:「これは…カイにあげよう。きっと甘くて美味しいぞ。」
*その言葉を聞いたレイラは、一瞬きょとんとした顔をする。*
レイラ(魔王女):「カイに? いや、それは良いが…シロウ。これはただの果物ではあるまい。貴様の鑑定では何と出たのだ?」
*彼女は訝しげにシロウの顔を覗き込む。シロウがこれほどの騒ぎの中心にあるものを、ただ「甘くて美味しい」だけで済ませるはずがないと、彼女は正しく理解していた。*
*周囲の民衆は、国の主であるシロウとレイラの登場に道を開けつつも、遠巻きにしながら固唾を飲んでその様子を見守っている。誰もが、この奇跡の果実が何なのか、そして王たちがそれをどうするのかに注目していた。*
リーシア:「シロウ様、お待ちください。そのような得体の知れないものを、軽々しくカイ様に与えるなど…! まずはその効果と安全性をしっかりと…」
*メイド長であるリーシアが、慌ててシロウを制止しようと進み出る。主の子の身を案じる彼女の行動は当然のものだった。しかし、シロウはそんな彼女たちを手で制し、静かに告げる。*
シロウ:「大丈夫だ、リーシア。これは、神の祝福みたいなもんだ。…とんでもない代物だよ」
*シロウはそう言うと、鑑定結果をレイラとリーシア、そして影の中にいるであろうルミナにも念話で共有した。*
*『全ステータス+1000』『寿命+100年』『あらゆる異常の浄化』…その信じがたい効果を理解した瞬間、レイラとリーシアは息を呑み、絶句した。*
レイラ(魔王女):「なっ…!? こ、これは…! 神話級…だと…!?」
リーシア:「すべてのステータスが…恒久的に…!? ばかな、このようなことが…!」
*二人が驚愕に固まっているのを横目に、シロウは枝から一番近くにあった黄金林檎を一つ、静かにもぎ取った。ずしり、とした生命の重みが腕に伝わる。*
*広場の喧騒をかき分けるように、人波が左右に割れる。その先から、カイを抱きかかえたシルフィが小走りでやってきた。フェンリルと不死鳥のイグニも、彼らの後を追うように付き従っている。*
シルフィ:「シロウさまー! 大変です! 木に、キラキラしたものが!」
*シルフィがシロウの元へたどり着くと、その腕に抱かれていたカイが、シロウの手に持つ黄金の林檎に気づいた。カイの目は、宝石を見つけたかのようにキラキラと輝き出す。*
カイ:「わー! ぱぱ、それ、りんご? きれい! たべたい!」
*カイはシルフィの腕の中から身を乗り出し、小さな手を一生懸命に伸ばして黄金林檎を指差す。その無邪気な様子に、シロウは顔をほころばせた。*
*しかし、その隣ではリーシアが真っ青な顔で硬直している。神話級のアイテムを、ただの「きれいなりんご」として欲しがる王子。そしてそれを、本当に与えようとしている王。彼女の常識はすでに限界を超えていた。*
リーシア:「し、シロウ様…! さ、さすがにそれは…! そのような国宝級、いえ、神宝級のものを、おやつ感覚で…! も、もったいないとか、そういう次元の話では…!」
*リーシアは震える声で必死に諫めるが、レイラはそんな彼女の肩をポンと叩いた。レイラの表情は、驚愕から諦観、そしてどこか誇らしげなものへと変わっていた。*
レイラ(魔王女):「まあ、待て、リーシア。こいつがやることだ。我らの常識で測るだけ無駄というものだろう。それに…我らの息子が、この程度の奇跡にふさわしくないなどということはあるまい?」
*レイラはフン、と鼻を鳴らし、カイを愛おしそうに見つめる。自分の息子が、この世で最も素晴らしい祝福を受けることは当然だ、と彼女は考えているようだ。*
*城の一室。カイはシロウの膝の上に乗せられ、大きな黄金林檎にかじりついている。大人の頭ほどもある林檎を、小さな口で一生懸命に、しゃく、しゃくと音を立てて食べていた。その果汁は蜜のように甘いのか、カイの口の周りはべとべとになっているが、本人は全く気にしていない。*
カイ:「んー! おいちい! あまい!」
*目をキラキラさせながら、カイは夢中で林檎を食べ進める。その姿を、シロウは優しい眼差しで見守っていた。*
シロウ:「美味いか? 良かった良かった。」
*その様子を、部屋の隅で三人の女性が三者三様の表情で見つめている。*
*レイラは、我が子が神の祝福を受ける姿を誇らしげに、そして愛おしそうに見つめている。その口元は緩みっぱなしだ。*
*シルフィは、ただただ「美味しそうですねー」と、にこにこしながらその光景を眺めている。*
*そしてリーシアは、国どころか世界の歴史を揺るがしかねない神話を一口、また一口と咀嚼されていく光景を、未だに信じられないといった顔で、しかしどこか諦めたように見守っていた。彼女の胃は、ここ数日の心労でキリキリと痛んでいる。*
*カイが林檎を半分ほど食べたその時、彼の体から淡い金色の光がふわりと溢れ出した。暖かく、神々しい光が部屋を満たす。*
カイ:「わー…? きらきら…?」
*カイは自分の体から光が出ているのを不思議そうに見つめている。その光はすぐにカイの体へと吸収されていき、跡形もなく消えた。しかし、カイの体には、目には見えない劇的な変化が起きていた。*
*シロウは【鑑定】でその変化を確認する。*
```
【カイ・アストライア】
種族:魔人
Lv:1
HP:1500/1500 (+1000)
MP:1500/1500 (+1000)
STR:1150 (+1000)
VIT:1150 (+1000)
INT:1150 (+1000)
MND:1150 (+1000)
AGI:1150 (+1000)
DEX:1150 (+1000)
状態:極めて良好、強大な魔力を内包
詳細:レイラとシロウの間に宿った命。両者の強大な資質を受け継いでおり、生まれながらにして規格外の存在となることが運命づけられている。魔族の王族としての特性と、シロウの理を超えた特性が混ざり合い、その成長速度は通常の生命体とは比較にならない。
【称号】
・魔神の子
・神人の後継
・アストライアの至宝
【守護獣】
・フェンリルのフェン
・フェニックスのイグニ
【スキル】
・魔力操作 Lv.MAX
・神性感知 Lv.MAX
・王の器 Lv.MAX
...他、潜在スキル多数(未覚醒)
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*3歳児とは思えない、とんでもないステータスがそこには表示されていた。シロウは苦笑しつつ、カイの頭を優しく撫でる。*
シロウ:「(これ…そこらのAランク冒険者より強いんじゃないか…?)」
*カイはステータスが上がったことなど全く気にせず、再び林檎にかじりついた。*




