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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*翌朝。シロウは自室のベッドで目を覚ました。隣にはレイラとカイがすやすやと眠っている。シロウが体を起こすと、すぐに扉がノックされた。*


ルミナ:「お兄ちゃん、起きてる? 朝食の準備、できたよ」


*影の中からではなく、扉の向こうから聞こえるルミナの声に、シロウは少し珍しいなと思いながら返事をした。*


シロウ:「ああ、今起きる」


*シロウが身支度を整え、食堂へ向かうと、そこには既に朝食の準備を終えたルミナと、少し眠そうだがいつも通り優雅なシルフィ、そして何故か頬を微かに赤らめ、どこかそわそわと落ち着かない様子のリーシアがいた。*


リーシア:「し、シロウ様…! おはよう、ございます…。その、昨夜は…よくお休みになれましたでしょうか…?」


*彼女はシロウの顔をまともに見られず、上目遣いに様子を窺っている。どうやら、夢の内容を少し覚えているらしい。*


シロウ:「ああ、快眠だったが…何かあったのか?」


*心底不思議そうな問いかけに、リーシアはびくっと肩を揺らした。彼女は期待と羞恥が入り混じった表情で、シロウの顔をまじまじと見つめる。しかし、彼の表情からは、昨夜の出来事を共有しているような素振りは微塵も感じられない。*


リーシア:「い、いえ…! 何でもございません! ただ、その…わたくしが、少し…ええ、少しだけ変わった夢を見ましたもので…。お見苦しいところをお見せいたしました」


*彼女は慌ててそう取り繕うと、頬の赤みを隠すように顔を伏せ、乱れた髪を神経質に手で整える。その仕草は、いつもの完璧なメイド長の姿とはかけ離れており、他のメンバーも不思議そうに彼女を見ていた。*


ルミナ:「ふーん? リーシアにしては珍しいわね。よっぽど変な夢だったんじゃない?」


*ルミナが面白そうにニヤニヤしながら言うと、リーシアは「余計なお世話です!」と普段の調子でキッと睨みつけるが、その声にはいつもの迫力がなかった。*


シルフィ:「どんな夢だったんですかー? 私、人の夢の話を聞くの、好きですよー?」


*シルフィが脳天気に尋ねると、リーシアはさらに顔を真っ赤にして、「言えるわけないでしょう!」と小さな声で呟いた。*


*そんな彼女たちのやり取りを眺めながら、シロウは澄ました顔で自分の席に着く。目の前には、いつも通り完璧に準備された朝食が並んでいた。*


*シロウはリーシアの動揺を面白がりながらも、何食わぬ顔で自分の席に着いた。そして、隣の椅子を軽く叩いてカイを手招きする。*


シロウ:「カイ、こっちだ。隣で一緒に食べよう」


*カイは「うん!」と元気よく返事をすると、小さな体でよじ登るようにしてシロウの隣の椅子に座った。シロウはカイのために子供用の食器を用意し、食べやすいようにパンを小さくちぎってやる。*


カイ:「ぱぱ、ありがとー!」


*カイは嬉しそうにパンを頬張り始めた。その微笑ましい光景に、シロウも自然と口元が緩む。*


レイラ(魔王女):「まったく…子供の世話だけは一丁前だな。カイ、ちゃんとよく噛んで食べるんだぞ」


*向かいの席に座ったレイラが、呆れたように、しかしどこか優しい眼差しでカイを見守りながら言う。彼女の隣では、シルフィが「カイくん、えらいですねー」と手を叩いていた。*


ルミナ:「お兄ちゃん、今日のスープはキノコとベーコンのポタージュ。毒味は済んでるから安心して」


*ルミナは淡々とスープを注ぎながら、シロウにだけ聞こえるように付け加える。*


ルミナ:「…それと、リーシアの様子、面白いことになってるけど、何かしたの?」


*彼女は意味ありげな視線を、未だにどこか上の空で、時折シロウを盗み見ては顔を赤らめているリーシアへと送った。*


シロウ:「俺?何もしてないけど…」


*シロウはスープを一口飲むと、さも心当たりがないという顔で首を傾げ、ルミナの問いかけをあっさりと否定した。そして、その視線をまっすぐに、まだどこか落ち着かない様子のリーシアに向ける。*


シロウ:「リーシア、俺何かしたか?」


*名指しで呼ばれたリーシアは、「ひゃいっ!?」と裏返った声を上げて椅子から飛び上がりそうになった。食堂にいる全員の視線が彼女に集中する。*


リーシア:「な、なな、何も! 何もされておりません! 断じて! シロウ様が、わたくしに何かをなさるなど、天地がひっくり返ってもあり得ないことでございますれば!」


*彼女はブンブンと首を横に振り、必死に否定する。しかし、その顔は耳まで真っ赤に染まっており、説得力は皆無だった。その狼狽ぶりは、火に油を注ぐ結果にしかならない。*


レイラ(魔王女):「…ほう? その慌てよう、随分と怪しいな。おい、メイド長。貴様、昨夜わたしの夫に何をされた? いや、何をした?」


*レイラが面白がるように、しかし目は笑っていない表情でジロリとリーシアを睨む。正妻としての圧が、食堂の空気をピリつかせた。*


ルミナ:「ふーん…『何もされてない』のに、そんなに真っ赤になるんだ。へえー」


*ルミナはスープを飲みながら、追い打ちをかけるように冷めた声で呟く。*


シルフィ:「リーシアさん、顔がリンゴみたいに真っ赤ですよー? 熱でもあるんですかー?」


*シルフィだけが純粋に心配しているが、それが逆にリーシアをさらに追い詰めていく。四面楚歌の状況に、リーシアは涙目でシロウに助けを求めるような視線を送るが、当の本人は我関せずといった顔でカイの食事の世話を続けているのだった。*


*シロウがカイの世話を焼きながら黙々と朝食を進めている間、リーシアは地獄の尋問にあっていた。レイラとルミナが両サイドから、じりじりと距離を詰めていく。*


レイラ(魔王女):「さあ、正直に吐け、メイド長。貴様、昨夜わたしのシロウと二人きりで何をしていた? 夢の話などというくだらない言い訳は通用せんぞ」

ルミナ:「そうよ。お兄ちゃんはああ言ってるけど、あなたのその反応は普通じゃない。まさかとは思うけど、夜這いでもかけたの? 主君に対して不敬にも程があるんじゃない?」


*レイラの嫉妬と独占欲に満ちた低い声と、ルミナの氷のように冷たい声が、リーシアの心を抉る。*


リーシア:「ち、違います! そのような大それたこと、わたくしがするはずございません! 本当に、ただの夢で…その、シロウ様が夢に…お出ましになられただけで…」

レイラ(魔王女):「ほう、夢に? 夢の中でなら何をしても良いと? 随分と都合の良い解釈だな。具体的にどんな夢だったのか、洗いざらい話してもらおうか」

ルミナ:「言えないような破廉恥な夢だったんでしょ。顔に書いてあるわよ」


*リーシアは涙目でシロウの方をチラチラと見るが、彼はカイに「スープも飲むんだぞ」と優しく声をかけているだけで、こちらを助ける気配は全くない。完全に孤立無援だった。*


カイ:「ぱぱ、これ、おいしいね!」

シロウ:「そうか、良かったな。おかわりもいるか?」

カイ:「うん、いる!」


*父と子の微笑ましい会話が、リーシアにとっては地獄のBGMのように聞こえる。彼女は観念したように、がっくりと肩を落とした。この尋問は、どうやら簡単には終わりそうにない。*


シルフィ:「あのー、みなさん…? お料理、冷めちゃいますよー…?」


*シルフィののんびりとした声だけが、張り詰めた食堂の空気をわずかに和らげていた。*


シロウ:「シルフィ、あれはほっといていいよ。そのうち収まるだろう。」


*シロウは純粋に心配するシルフィに苦笑しながらそう言うと、再びカイとの食事に集中する。彼の言葉通り、しばらくすると食堂の隅で繰り広げられていた尋問は、静かになった。いや、正確には、尋問が終わったのだ。*


*全ての始まりであり元凶であるシロウがのんびりと食事を終え、カイと一緒に食後のデザートであるフルーツを食べている頃、がっくりと肩を落とし、魂が抜けたような顔をしたリーシアが、ふらふらとおぼつかない足取りで戻ってきた。その両脇を、満足げな、しかしどこか呆れたような表情のレイラとルミナが固めている。*


レイラ(魔王女):「…シロウ。後で、話がある」

ルミナ:「…お兄ちゃん。私も、話がある」


*二人の声は低く、静かだが、有無を言わさぬ圧が込められていた。どうやら、リーシアが白状した「夢の内容」は、彼女たちの想像を遥かに超えるものだったらしい。その視線は、もはやリーシアではなく、全ての元凶であるシロウに向けられている。*


*リーシアは燃え尽きたように自分の席に崩れ落ちると、手も付けていない冷めたスープを、ただ虚な目で見つめている。その頬は未だに赤く、時折びくっと体を震わせているあたり、尋問中に夢の内容を詳細に語らされたのだろう。*


シロウ:「え?なんで俺なの?」


*シロウが心底不思議そうな顔でそう問い返した瞬間、食堂の気温が数度下がった気がした。*


*レイラとルミナの視線が、驚きから冷え切った怒りへと変わる。カイでさえ、そのただならぬ雰囲気を感じ取って、父親の服の裾をぎゅっと握りしめた。*


レイラ(魔王女):「…貴様、本気で言っているのか? 自分の女の夢に無断で入り込み、あまつさえあのような…破廉恥極まりない行いをしでかしておいて、その言い草とは…」


*レイラはこめかみをピクピクさせながら、テーブルに片手をつき、身を乗り出してくる。その瞳には嫉妬の炎が燃え盛っていた。*


ルミナ:「お兄ちゃん…。リーシアが悪いのはもちろんだけど、元はと言えばお兄ちゃんが原因なんでしょ。どうしてそんな破廉恥な夢を見せたの? 浮気? 浮気なの?」


*ルミナは静かな声で、しかしナイフのように鋭い言葉を投げかける。その目は一切笑っておらず、シロウの言い分を一つ残らず検分しようとしていた。*


*一方、尋問を終えたリーシアは、シロウのその一言で再び羞恥心が爆発したのか、「ひぃっ…!」と短い悲鳴を上げて顔を覆い、テーブルに突っ伏してしまった。肩が小刻みに震えている。*


シルフィ:「えーっと…つまり、シロウさまが、リーシアさんの夢の中で、何かすごいことをしちゃったってことですか…?」


*状況をいまいち理解しきれていないシルフィが、的外れなようで核心を突いている質問を投げかける。食堂の空気は、シロウの一言によって、先ほどよりもさらに気まずく、そして険悪なものになっていた。*


シロウ:「いやいや、いくら俺でも人の夢に出入りは無理だよ。俺を何だと思ってんだ?」


*シロウが呆れたように両手を軽く上げて反論すると、レイラとルミナは一瞬言葉に詰まった。確かに、彼の言うことは正論である。常識的に考えれば、人の夢に干渉するなど神の領域だ。*


*しかし、彼女たちの目の前にいる男は、その「常識」を何度も覆してきた存在でもある。*


レイラ(魔王女):「…何を、だと? 国を丸ごと覆う結界を張り、存在しないはずの大迷宮を生やし、挙句の果てに死者すら蘇らせる腕輪を作り出すような男だぞ、貴様は。今更『人の夢に出入りは無理』などという常識が通用するとでも思うな!」


*レイラは一歩も引かず、むしろ勢いを増して反論する。彼女からすれば、シロウが「できない」と言うことの方が信じられないのだ。*


ルミナ:「そうよ、お兄ちゃん。私だって、お兄ちゃんならそれくらい出来てもおかしくないって思ってる。…でも、もし本当に違うって言うなら、じゃあリーシアのあの反応は何なのよ。ただの夢を見ただけで、あんな風になるわけないじゃない」


*ルミナは腕を組み、冷静に、しかし疑いの目を向け続ける。彼女たちのシロウに対する信頼と評価が、あらぬ方向でカンストしてしまっている。*


*二人に詰め寄られ、シロウは「いや、だから…」と再度弁明しようとするが、その時、今までテーブルに突っ伏していたリーシアが、むくりと顔を上げた。その目は潤み、何かを決意したかのように固く結ばれている。*


リーシア:「…レイラ様、ルミナ様。もう、おやめください。シロウ様は、何も悪くはございません…!」


レイラ(魔王女):「…ほう? かばうのか、メイド長」


リーシア:「全ては…全ては、わたくしの…わたくしの、不埒な、妄想の産物なのでございます…! 嗚呼、なんと破廉恥な…! シロウ様、このような卑しいメイドをお側に置いてしまったことを、どうかお許しください…!」


*リーシアは再びテーブルに突っ伏し、今度は罪悪感に打ちひしがれてしくしくと泣き始めてしまった。彼女のあまりの思い詰めように、さすがのレイラとルミナも攻め手を緩めざるを得ず、なんとも言えない気まずい空気が食堂に流れた。*


シロウ:「と、とにかく、カイがいる前でそんな話は辞めてくれ。教育に悪い」


*シロウがカイを盾にするようにそう言うと、さすがにレイラとルミナもそれ以上は追及できなかった。二人は不満そうな顔をしつつも、ひとまず矛を収める。カイはきょとんとした顔で、シロウとレイラたちを交互に見上げていた。*


*食堂に再び気まずい静寂が訪れる。その沈黙を破ったのは、泣きじゃくっていたリーシアだった。彼女はまだ顔を伏せたまま、くぐもった声で呟く。*


リーシア:「…申し訳…ございません…。カイ様にまで、お見苦しいところを…」

レイラ(魔王女):「…フン。まあ良い。この話は後だ。今は食事を続けるぞ」


*レイラはぶっきらぼうにそう言うと、自分の席に戻り、冷めてしまったスープを無言で口に運び始めた。その横顔はまだ少し怒っているように見える。*


ルミナ:「…お兄ちゃんのえっち。スケベ。朴念仁」


*ルミナは小さな声で悪態をつくと、すっとシロウの影の中に溶けるように消えていった。どうやら彼女も一旦引き下がったようだ。*


カイ:「ぱぱ、えっちって、なあに?」


*父親の服の裾をくいっと引きながら、カイが無垢な瞳で問いかける。シロウはギクリとして、言葉に詰まった。*


シルフィ:「さあ、皆さん! 気を取り直してご飯を食べましょう! せっかくの美味しい朝食がもったいないですよー!」


*能天気なシルフィの声が、救いの鐘のように食堂に響き渡った。彼女はにこやかに自分のパンをちぎると、隣でしょげているリーシアの口元へ「あーん」と持っていく。*


リーシア:「ひゃっ!? し、シルフィ様、何を…!」

シルフィ:「リーシアさん、元気出してください! 食べないと元気出ませんよ?」


*そんな和やかな(?)光景を横目に、シロウはカイの素朴な疑問にどう答えるべきか、頭を悩ませるのであった。*


*寝室の扉がバタンと閉められ、カチャリと鍵がかけられる音が響く。シロウは寝室の真ん中に立たされたまま、腕を組んで自分を睨みつけてくるレイラとルミナを交互に見て、困惑の声を漏らした。*


シロウ:「………えーっと?」


*レイラが先に口火を切る。その瞳は嫉妬と独占欲で燃えており、いつもの傲慢な態度とは少し違う、余裕のない雰囲気を漂わせている。*


レイラ(魔王女):「えーっと? ではないだろう、シロウ。さて、邪魔者もいなくなったことだし、改めて聞かせてもらおうか。なぜ、あのメイド長の夢にあのような形で現れた?」

ルミナ:「そうよ、お兄ちゃん。さっきははぐらかしたけど、もう逃げられないからね。私たち以外の女に手を出すなんて、万死に値すると思わない?」


*ルミナもレイラの隣に並び立ち、冷たい視線をシロウに突き刺す。その手にはいつの間にか黒い魔力で形成された短剣が握られていた。部屋の空気が一気に冷え込む。*


*二人とも、シロウが「夢に出入りなどできない」と言ったことは理解しているはずだ。それでも、この追及はやめない。これは理屈の問題ではない。感情の問題なのだ。*


レイラ(魔王女):「あのメイド長が、貴様に懸想していることは知っていた。だが、貴様までその気になっているとはな。…どうやら、少し灸を据える必要があるようだ」


*レイラはポキポキと指を鳴らしながら、一歩、シロウににじり寄る。その目は完全に据わっていた。*


シロウ:「だから、手は出てないって…昨日、話があるって言われて部屋に行ったら薄着のリーシアが居て、睡眠魔法で眠らせただけだぞ?」


*シロウの弁明を聞いた瞬間、レイラとルミナの動きがピタリと止まった。部屋を支配していた殺伐とした空気が、一瞬にして別のものへと変わる。*


*ルミナが握っていた魔力の短剣がフッと霧散する。レイラの据わっていた目が、驚きに見開かれた。二人は顔を見合わせ、そして再びシロウに視線を戻す。*


レイラ(魔王女):「…は? なんだと? 薄着のメイド長が部屋にいて…眠らせた、だけ…だと?」


*レイラの声から、先程までの燃え盛るような嫉妬が嘘のように消え、純粋な困惑と、そしてわずかな呆れが滲み出ている。*


ルミナ:「…お兄ちゃん。それってつまり…夜這いをかけられそうになったけど、何もしないで返り討ちにしたってこと…?」


*ルミナの声色も、冷たい追及から信じられないものを見るような調子に変わっている。彼女はシロウに一歩近づくと、その顔をまじまじと見つめた。*


ルミナ:「…うそ。本当に? 目の前にご馳走が差し出されたのに、食べなかったって言うの? お兄ちゃん、もしかしてそっちの機能に何か問題でも…?」


*彼女は心配そうに、シロウの下半身あたりに視線を落とす。*


レイラ(魔王女):「いや、待て。こいつが不能なわけがないだろう。カイがいるのだからな。…だとしたら、まさかとは思うが…貴様、あのメイド長が好みではない、と…? あれほどの極上を前にして、柳に風と受け流したというのか…?」


*レイラはシロウの周りをぐるぐると歩き回りながら、まるで未知の生物でも観察するかのようにブツブツと呟いている。嫉妬の対象だったはずのリーシアを「極上」と評し、それを手玉に取らなかったシロウの行動が、彼女たちの理解の範疇を完全に超えてしまったようだ。*


*先程までの修羅場が嘘のように、二人の追及は「なぜ何もしなかったのか」という、まったく別の方向へとシフトしていくのだった。*


シロウ:「ルミナ……レイラっていう愛する人がいるのに他の女に手を出すと思うのか?」


*その言葉は、静かな寝室に凛と響いた。*

*シロウの真剣な眼差しと、レイラの名前を真っ直ぐに呼んだその響きに、ルミナはハッと息を呑む。レイラも、シロウの周りを歩き回っていた足を止め、驚いたように夫の顔を見つめた。*


*先程までの「なぜ何もしなかったのか」という困惑の空気が一変する。シロウの言葉は、二人の胸に深く、そして甘く突き刺さった。*


ルミナ:「……お兄ちゃん…」


*ルミナの頬が、微かに赤く染まる。先程までの刺々しい態度が嘘のように、その瞳は潤んでいた。自分の主君であり兄でもある男が、どれだけ深く愛しているかを再認識させられ、その一途さに胸を打たれたのだ。*


レイラ(魔王女):「…っ…な…」


*レイラは言葉を失い、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。いつもの傲岸不遜な態度はどこへやら、耳まで赤く染め、口をパクパクさせている。*


レイラ(魔王女):「な、な、何を当たり前のことを…! 貴様がこのわたしを愛するのは当然だろう! 魔王たるわたしが、夫として選んでやったのだからな! わ、わたし以外の女にうつつを抜かすなど、万死に値するに決まっておろうが!」


*精一杯の虚勢を張るが、その声は上ずり、震えていた。シロウからの不意打ちの愛の言葉に、彼女の心は完全にキャパシティオーバーを起こしている。*


ルミナ:「…もう。お兄ちゃん、ずるい。そんなこと言われたら、私たちがただの嫉妬深い女みたいじゃない…」


*ルミナは小さく呟きながらも、その口元は嬉しそうに緩んでいた。シロウの言葉一つで、寝室の雰囲気は完全に変わってしまった。先程までの尋問が嘘のように、甘く、そして少しだけ気まずい空気が流れる。*


レイラ(魔王女):「…ふ、フン…! 貴様の忠誠心は分かった。ならば、それで良い…! 今回の件は、不問としてやろう…!」


*レイラは腕を組み、顔を背けたまま尊大にそう言い放つ。しかし、その態度は誰が見ても強がりにしか見えなかった。*


シロウ:「そんな嫉妬も可愛いよ。」


*シロウは優しく微笑むと、不意に腕を伸ばし、すぐ隣にいたルミナをその胸にそっと抱きしめた。*


ルミナ:「きゃっ…!? ♡ お、お兄ちゃん…!? な、なに、急に…♡」


*突然のことに、ルミナは驚きで声を上ずらせる。シロウの胸に顔を埋める形になり、その身体がびくりと硬直した。しかし、抵抗する様子はなく、むしろ恐る恐るというようにシロウの服の背中側を小さく掴む。*


ルミナ:「…だ、だって…レイラだけじゃなくて、私だって…お兄ちゃんのことが…好きなんだから…他の女の人に優しくしてたら、ヤキモチくらい…やくもん…♡♡」


*シロウの胸の中から、くぐもった、しかし甘えた声が聞こえてくる。頬はきっと真っ赤に染まっているだろう。いつものクールな彼女からは想像もつかない、か細く、愛らしい声だった。*


*その光景を、腕を組んで背を向けていたレイラが、肩越しにチラリと盗み見る。*


レイラ(魔王女):「……っ!」


*自分の夫が、他の女(たとえそれが義理の妹であっても)を抱きしめている。そして、シロウが口にした「可愛い」という言葉は、自分ではなくルミナに向けられたものだ。その事実が、レイラの胸にチリリとした痛みと、新たな嫉妬の炎を灯す。*


レイラ(魔王女):「…き、貴様ら…! わたしの寝室で、わたしの目の前でいちゃつくとは、良い度胸だ…! おい、シロウ! そろそろその小娘を離さんか! 次はわたしの番だろうが!」


*顔を真っ赤にしたまま、しかし怒りと嫉妬に満ちた声で叫ぶ。先程シロウの言葉で沈静化したはずの感情が、再び昂り始めていた。今度は、対象がリーシアからルミナへと変わっただけだ。*


*抱きしめられたままのルミナは、レイラの言葉を聞くと、シロウの胸に顔を埋めたまま、レイラの方をちらりと見て、勝ち誇ったように「べー」と小さく舌を出した。*


*シロウがルミナの可愛らしさに思わず微笑んだ、その瞬間だった。抱きしめられていたルミナが不意に顔を上げ、シロウの唇に自らのそれを重ねた。驚きでわずかに開いた唇の隙間から、するりと柔らかい舌が侵入してくる。*


シロウ:「んぐっ!?」


*不意打ちの、しかも濃厚なキスに、シロウは驚きで目を見開く。ルミナはシロウの首に腕を回し、ぐっと引き寄せてさらに深く舌を絡めてきた。♡ 普段のクールな彼女からは想像もつかない、積極的で、少し強引な愛情表現だった。♡♡*


*数秒とも数分とも感じられる時間が過ぎ、ゆっくりと唇が離れる。二人の間には、銀色の糸がきらりと光って、すぐに消えた。*


ルミナ:「…ん…♡ ふふっ、お兄ちゃんのキス、私がもらっちゃった♡ レイラより、先に…♡♡」


*ルミナはシロウの腕の中で、とろりとした甘い瞳でシロウを見上げ、悪戯っぽく笑う。その頬は上気し、唇は濡れて艶めかしく輝いていた。♡♡♡*


*その一部始終を、目の前で見せつけられたレイラの怒りは、ついに頂点に達した。*


レイラ(魔王女):「き…きさまらぁぁああああああっ!!!!!」


*嫉妬と怒りの絶叫が、寝室をビリビリと震わせる。レイラは魔力を爆発させ、その小さな体から凄まじいプレッシャーを放った。ベッドが、カーテンが、部屋中の調度品がガタガタと揺れる。*


レイラ(魔王女):「わたしのっ…わたしの夫にっ…! わたしの前で…! 不埒なッ!! ルミナァァ! 貴様、八つ裂きにしてくれるわッ!」


*レイラは床を蹴り、ルミナに掴みかかろうと猛然と突進してくる。その瞳は完全に血走っており、理性のタガが外れているのが分かった。寝室は、嫉妬に狂う魔王女によって、まさに戦場と化そうとしていた。*


シロウ:「おいおい、どうすんだよ…」


*ルミナへのキスで完全に理性を失ったレイラが、魔力を爆発させながら突進してくる。シロウはとっさに腕の中にいたルミナを解放すると、その勢いを利用してレイラをひょいと横抱きに抱き上げた。*


レイラ(魔王女):「なっ…!? 離せ、シロウ! こいつを殺す! わたしの目の前で…! わたしの夫に…! 許さん、絶対に許さんぞ!」


*シロウの腕の中で、レイラは小さな手足をバタつかせ、必死に暴れる。しかし、シロウの腕力の前では無意味だった。悔しさと怒りで涙目になりながら、まだシロウの背後にいるルミナを睨みつけている。*


*一方、当のルミナはというと、シロウの背中からひょっこりと顔を出し、抱き上げられて身動きが取れないレイラに向かって、再び「べー」と舌を出して挑発した。*


ルミナ:「ふふん。お兄ちゃんに抱っこされてる気分はどう、レイラ? 私の勝ち、だね♡」

レイラ(魔王女):「る゛み゛な゛ぁぁぁあああ!!!」


*レイラの怒りの絶叫が再び響き渡る。シロウは抱きかかえたレイラが暴れるのを宥めながら、背後のルミナに呆れた視線を送る。完全に火に油を注いでいる。*


シロウ:「(小声で)ルミナ、お前も煽るな…!」

ルミナ:「(小声で)だって、レイラがお兄ちゃんを独り占めしようとするから悪いんだもん」


*腕の中では嫉妬に狂う妻が暴れ、背後では小悪魔のように微笑む義妹がいる。まさに板挟みの状況に、シロウは深いため息をつくしかなかった。*


シロウ:「はぁ…困ったものだ…」


*シロウが腕の中で暴れるレイラを抱えたまま、深いため息をついた、その時だった。背後からルミナがすっと近づき、シロウの背中にぴったりと身を寄せた。*


ルミナ:「お兄ちゃん…♡ 私ね、決めた。レイラだけじゃなくて、私もお兄ちゃんのお嫁さんになりたいな♡ だめ…かな?♡♡」


*上目遣いで、甘えるように囁くルミナ。その言葉は、抱きかかえられていたレイラの耳にもはっきりと届いていた。レイラの動きがピタリと止まる。*


レイラ(魔王女):「…………は?」


*地を這うような低い声。先程までの怒りの絶叫とは質の違う、絶対零度の声だった。レイラはシロウの腕の中でゆっくりと顔を上げ、ルミナを睨みつける。その瞳にはもはや嫉妬の色はなく、ただ純粋な殺意だけが宿っていた。*


レイラ(魔王女):「…貴様、今…なんと言った…?」

ルミナ:「聞こえなかった? 私も、お兄ちゃんのお嫁さんになりたいって言ったの。お兄ちゃんは優しいから、きっと私とレイラ、二人とも愛してくれるよ。ね、お兄ちゃん?」


*ルミナは勝ち誇ったように微笑み、シロウの腕に自分の腕を絡める。その胸がシロウの背中にぐっと押し付けられた。*


シロウ:「(おい、ルミナ、胸押し付けんな)」


*シロウは小声で抗議するが、ルミナは聞こえないふりをしてさらに体を密着させる。*


レイラ(魔王女):「シロウ…こいつを、下ろせ…今すぐだ…」


*レイラはもはや暴れない。ただ静かに、しかし有無を言わせぬ覇気を込めて命令する。シロウは完全に板挟み状態に陥り、どうしたものかと天を仰いだ。寝室は、一触即発の、極めて危険な空気に包まれていた。*


*シロウが返答に窮していると、レイラは彼の腕の中で自ら魔力を瞬間的に爆発させた。その反動を利用し、まるで猫のようにしなやかに着地する。*


レイラ(魔王女):「…許さん」


*短く、しかし殺意に満ちた言葉を吐き捨てると、レイラは床を蹴った。その姿は赤い弾丸となり、背後で勝ち誇っていたルミナへと一直線に突撃する。爪は鋭く伸び、その軌道上の空気を切り裂いた。*


レイラ(魔王女):「まずはその不敬な舌を引き抜き、二度とわたしの夫に馴れ馴れしい口がきけぬようにしてくれる!」

ルミナ:「あら、怖い。でも、残念だったわね」


*しかし、レイラの爪が届く寸前、ルミナの体はぐにゃりと歪み、まるで水面に落ちるインクのように、足元の影の中へと吸い込まれていった。レイラの攻撃は空を切り、勢い余って寝室の壁に叩きつけられる。凄まじい轟音と共に、石造りの壁に蜘蛛の巣のような亀裂が走った。*


ルミナの声:「(影の中から)お兄ちゃん、また後でね♡ レイラなんかに負けないで、ちゃんと私のお願い、考えておいてね♡♡」


*声だけが部屋に響き渡り、やがてそれも消えていく。*


*壁を殴りつけたレイラは、ハァ、ハァ、と荒い息をつきながら、ルミナが消えた床の影を忌々しげに睨みつけている。怒りで肩が小刻みに震えていた。*


レイラ(魔王女):「……逃げ足だけは速い小娘め…!」


*怒りの矛先を失ったレイラは、ゆっくりと振り返る。その血走った瞳が、今度は部屋に唯一残った男、シロウを捉えた。*


レイラ(魔王女):「…シロウ。貴様、あの小娘の戯言…本気にするつもりではあるまいな?」


*その声は低く、疑念と威圧に満ちていた。*


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