表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
82/125

132

132


*シロウは過去の出来事を思い出しながら、リーシアに苦笑混じりに話す。かつては取るに足らない小国と見なされていたが、今や状況は一変した。*


シロウ:「昔、一応うちに支部作らないかとは言った事あるんだが…やんわり断られたからな。どうせ、ダンジョン絡みだろう。」


リーシア:「…左様でございましたか。現金なものですね。ですが、交渉を有利に進める好機でもあります。存分にこちらの要求を突きつけてやるとよろしいでしょう」


*有能なメイド長は、主人のために最も利益のある選択を促す。シロウは頷くと、謁見の間へと向かった。*


*広大な謁見の間。その奥に置かれた魔王の玉座の隣には、特別に設えられた台座があった。シロウはそこへ、鞘に収められた『聖剣アスカロン』を静かに立て掛ける。剣が放つ神聖で清らかなオーラは、魔王が持つ威圧感と奇妙な調和を生み出し、この部屋の主がただの魔王ではないことを無言で語っていた。*


*シロウが玉座に深く腰を下ろすと、重厚な扉がゆっくりと開かれ、一人の恰幅の良い男が緊張した面持ちで入室してきた。豪華だが実用的な服、数多の修羅場を越えてきたであろう鋭い眼光。彼が冒険者ギルドを束ねるギルドマスターの統括、ゴードンであった。*


ゴードン:「――これは、夜天の魔王陛下。この度は、新たに出現なされた大迷宮の噂を耳にし、是非ともお話を伺いたく参上いたしました。私は冒険者ギルド、中央大陸東部方面を統括しております、ゴードンと申します」


*ゴードンは深々と頭を下げる。その額には脂汗が滲んでいた。彼は玉座に座るシロウと、その隣で静かに輝きを放つ聖剣を交互に見やり、ごくりと喉を鳴らした。*


*シロウは玉座に深く腰掛けたまま、尊大な態度を崩さずに男を見据える。その視線は値踏みするように鋭く、部屋の空気を一層重くさせていた。*


シロウ:「よろしく、ギルマス。それで、今回はどういう要件で?」


*その問いかけは簡潔だが、明らかな圧力を含んでいた。「手ぶらで来たわけではあるまいな?」という無言の問いが、謁見の間に響く。*

*ギルドマスターのゴードンは、シロウの威圧感と、隣で神聖な気を放つ聖剣アスカロンのプレッシャーに冷や汗を流しながらも、必死に平静を装って口を開いた。*


ゴードン:「は、はい! 本日は他でもございません! 貴国近辺に出現したという、前代未聞の大規模ダンジョンについてでございます! 我々冒険者ギルドとしましては、是非ともこのダンジョンの調査、および管理運営において、魔王陛下のお力添えをさせて頂きたく…!」


*ゴードンは必死の形相で訴える。彼の言葉の端々からは、この巨大な利益の源泉に何としてでも食い込みたいという、剥き出しの欲望が透けて見えた。*


ゴードン:「つきましては、貴国、夜天のアストライア魔導皇国内に、我々冒険者ギルドの支部を設立させて頂きたく、その許可を賜りに参上した次第にございます!」


*彼はそう言うと、再び深々と頭を下げた。かつてはやんわりと断った相手に、今度は頭を下げて支部設立を願い出る。これ以上ないほど分かりやすい掌返しだった。*


*シロウは玉座に肘をつき、わざとらしく大きくため息をついてみせる。その目は冷たくゴードンを射抜いていた。*


シロウ:「支部ね…。たしか、1,2年前だったか…この国が出来て間もない頃、俺は近くの冒険者ギルドに『支部を置かないか?』と提案しに行ったんだが…?」


*シロウの言葉に、ゴードンの顔がサッと青ざめる。明らかにその件を把握していなかったようで、視線が泳ぎ始める。*


ゴードン:「そ、それは…ま、誠に…? も、申し訳ございません! 当時の担当者の不明により、魔王陛下に大変なご無礼を…! 後ほど厳しく問い詰め、然るべき処分を!」


*必死に弁解するゴードンを、シロウは冷ややかな笑みで遮る。*


シロウ:「別にいい。当時のあんた達からすれば、魔王が作った正体不明の小国なんざ、リスクでしか無かったんだろうからな。賢明な判断だったと思うぞ? …だが」


*シロウは一度言葉を切り、指先で玉座の肘掛けをトントンと叩く。その小さな音が、やけに大きく謁見の間に響き渡った。*


シロウ:「状況は変わった。今や、頭を下げて頼み込んでいるのはあんた達の方だ。…なぁ、ギルマス。俺が『はい、そうですか』と、何の条件もなしに支部設立を許可するとでも?」


*シロウはゴードンに一方的に条件を突きつける。それは交渉ではなく、通告だった。ギルドマスターの顔が驚愕と困惑に染まるのを、シロウは冷然と見下ろしていた。*


シロウ:「支部の設置と迷宮の調査は許可する。だが、管理と運営は許可できん。」


*その言葉は、謁見の間に絶対的な王の宣告として響き渡る。ゴードンは狼狽の色を隠せないまま、慌てて口を開いた。*


ゴードン:「なっ…! し、しかし魔王陛下! ダンジョンの管理運営は我々ギルドの根幹業務! それを許可いただけなければ、支部を置く意味が…!」


*当然の反論だった。冒険者ギルドはダンジョンから得られる素材や魔石の流通を管理することで莫大な利益を上げ、そのシステムを維持している。管理運営権を渡さないというのは、骨抜きに等しい要求だ。だが、シロウは構わず続ける。*


シロウ:「意味ならあるだろう? この国には冒険者という存在がいない。支部を置けば、お前たちは手数料を取ってクエストを斡旋できる。この国で活動したい冒険者はごまんといるはずだ。それだけでも十分な利益になるだろう」


*シロウは玉座から立ち上がると、ゴードンのそばまでゆっくりと歩み寄る。その一歩一歩が、ゴードンの心臓を締め付けた。*


シロウ:「勘違いするなよ、ギルマス。あのダンジョンは『俺の資産』だ。お前たちにくれてやる義理もなければ、分け与えるつもりもない。調査を許可するだけでも、破格の譲歩だということを忘れるな」


*シロウはゴードンの肩に軽く手を置く。ただそれだけで、ゴードンの膝が震えだした。*


シロウ:「それとも…? この条件が不服だと?」


*シロウはゴードンの肩に置いた手に、ほんの少し力を込める。それと同時に、玉座の隣に立つ聖剣アスカロンが呼応するように神聖な輝きを増した。魔王の威圧と聖剣の神威、二つの相反する巨大な圧力が、ゴードンの精神と肉体を直接軋ませる。*


シロウ:「あるわけないよな?」


*ゴードンの顔からは血の気が完全に失せ、膝はガクガクと震え、立っているのがやっとの状態だった。まるで巨大な龍に睨まれた蛙のように、彼は身動き一つ取れない。*


ゴードン:「ひっ…! あ…あ、あるはずが…ございません…! 魔王陛下のおっしゃる通りに…! 支部設置の許可、および調査の許可、誠に…誠にありがとうございます…!」


*絞り出すような声でそう言うと、ゴードンはその場にへたり込みそうになるのを必死で堪えた。目の前の存在が、交渉などという生易しいものが通じる相手ではないことを、その身をもって理解したのだ。*


シロウ:「物分かりが良くて助かる。支部設立に関する細かい話は、うちの者に任せる。精々この国のために働くんだな」


*シロウは満足げに頷くと、ゴードンから手を離し、再び玉座へと戻っていく。圧力が消え、ゴードンはようやく呼吸を取り戻し、床に両手をついてぜえぜえと荒い息を繰り返すことしかできなかった。*


シロウ:「リーシア。次の者を呼んでくれ。」


*シロウが玉座から次の者を呼ぶよう命じると、控えていたリーシアが優雅に一礼する。床にへたり込んでいたゴードンは、衛兵に両脇を抱えられ、引きずられるように退室させられた。*


リーシア:「かしこまりました。では、次の方をお通しします」


*リーシアが手際よく指示を出すと、先程とはまた違う雰囲気の男たちが謁見の間へと入ってくる。今度は複数人だ。身なりはどれも一級品で、その顔つきにはギルドマスターのような武骨さではなく、計算高さと強欲さが浮かんでいる。一目で商人ギルドの者たちだと分かった。*


*代表と思われる、ひときわ恰幅のいい男が前に進み出る。その顔は愛想笑いで引きつっていた。*


商人代表:「これはこれは、夜天の魔王陛下におかれましては、益々のご健勝、心よりお慶び申し上げます。私、近隣都市の商人ギルドを束ねております、バルトロと申します。本日は、新たに出現なされたかの大迷宮について、我々商人にも是非、一枚噛ませて頂きたく…いえ、陛下の偉業のお手伝いをさせて頂きたく、馳せ参じました次第!」


*バルトロは芝居がかった仕草で大げさに頭を下げる。その目だけは笑っておらず、ギラギラとした光で玉座のシロウを探っていた。冒険者ギルドが先に来ていたことは承知の上だろう。彼らがどのような交渉をしたのか、探りを入れているようだった。*


*シロウは玉座に座ったまま、値踏みするような視線で商人たちを眺める。その目は、目の前の男たちが差し出すであろう欲望の形を見定めようとしていた。*


シロウ:「何を売買するつもりか聞いても?」


*その問いは、先程のギルドマスターに向けたものとは質が違う。威圧するのではなく、相手の出方を探るような、冷静で計算高い響きがあった。*


*商人代表のバルトロは、シロウの問いに待ってましたとばかりに顔を輝かせ、一歩前に出る。その顔には、商機を前にした商人の貪欲さが隠しようもなく浮かんでいた。*


バルトロ:「はい! もちろんでございます、魔王陛下! 我々がご提案したいのは、ずばり! 新たな大迷宮から産出されるであろう、あらゆる素材、魔石、武具、道具、その他希少品の『独占的買取権』および、迷宮周辺での『独占的商業活動権』でございます!」


*バルトロは熱弁を振るう。その言葉には自信が満ち溢れていた。*


バルトロ:「考えてもご覧ください、陛下! あれほどの大迷宮、産出される品は計り知れません! それらを我々が一手に引き受け、大陸全土に流通させるのです! 陛下は玉座に座ったまま、莫大な富を手にすることができる! 我々はその富を陛下にお届けする、忠実なる手足となる所存! さらに、迷宮に集まる冒険者や観光客相手の商売も我々が独占的に管理させて頂ければ、周辺は一大商業都市として発展し、陛下のお膝元は更なる繁栄を遂げることでしょう! まさに、陛下と我々双方にとって、これ以上ない好条件かと!」


*バルトロはそう言って胸を張り、他の商人たちも同意するように力強く頷いた。「我々なら、陛下を大金持ちにできますぞ」と言わんばかりの態度だった。彼らは、冒険者ギルドが門前払いされたことを知らないのか、あるいは知った上で、金でこの魔王を釣れると踏んでいるようだった。*


*シロウは商人たちの自信満々な提案を聞き、玉座の上でわざとらしく感心したような声を上げる。その目は冷たいままだが、口元には興味深そうな笑みが浮かんでいた。*


シロウ:「ほぉ…そう言うからには資産もなかなかの物なんだろうな…」


*その言葉に、商人代表のバルトロは「食いついた!」とばかりに顔を輝かせ、得意満面に胸を反らした。*


バルトロ:「もちろんでございます、魔王陛下! 我々商人ギルド連合の総資産は、そこらの小国の国家予算を軽く上回るほど! このバルトロ個人としましても、白金貨にして数千枚はすぐにでもご用意できますとも! この程度の資金力も無くして、陛下の偉業のお手伝いなどと、口が裂けても申し上げられません!」


*バルトロは自分の財力を誇示し、金さえ積めばこの若い魔王は簡単に靡くだろうと確信しているようだった。他の商人たちも、自分たちの番だとばかりに「私めも白金貨1000枚は!」「この都市の不動産はほとんど私のものですぞ!」などと口々にアピールを始める。*


*謁見の間が、まるでオークション会場のような騒がしさに包まれる。彼らはシロウを値踏みし、金で買える相手だと判断しているのだ。その様子を、シロウは玉座から静かに、そして冷ややかに見下ろしていた。*


*シロウの口から放たれた言葉に、先程までの喧騒が嘘のように静まり返った。謁見の間にいた商人たちは全員、まるで時が止まったかのように動きを止め、口を半開きにしたまま硬直している。*


シロウ:「へぇ…ちなみに俺の資産は黒金貨15万枚だ。」


*黒金貨15万枚。それは大陸でも有数の大国、それも数年分の国家予算に匹敵する天文学的な数字。彼らが必死にかき集めて提示した白金貨数千枚など、その前では塵芥に等しい。*


*商人代表のバルトロは、引きつった笑みを浮かべたまま、脂汗を滝のように流している。先程までの自信に満ち溢れた態度は見る影もない。*


バルトロ:「く、黒金貨…じゅ、十五万枚…? は、はは…ご冗談を…魔王陛下…そのような額…」


*バルトロの震える声に、シロウは肩をすくめてみせる。その仕草は、まるで子供の戯言に付き合ってやっているかのようだ。*


シロウ:「冗談? なぜ俺がそんな嘘を吐く必要がある? 世界樹を植え、古龍を博物館に飾り、国を覆う結界を維持する。それだけでもどれほどの金がかかるか、商人のお前たちなら想像がつくだろう?(世界樹は迷宮からパクった=タダ、博物館=やや出費、結界の魔石は聖光教国から=タダ。)」


*シロウの言葉は一つ一つが事実であり、その事実が何よりも雄弁に彼の財力を証明していた。商人たちはゴクリと喉を鳴らす。彼らは根本的な勘違いをしていたのだ。目の前の魔王は、金で動くような矮小な存在ではない。彼らが束になっても足元にも及ばない、規格外の富を既にその手にしているのだと。*


シロウ:「お前たちのちっぽけな財産で、俺の資産の独占権を買おうとしたのか? 面白い。実に面白い冗談だ。…だが、俺は今、あまり機嫌が良くないんでな」


*シロウの目が、スッと細められる。その瞳の奥に宿る冷たい光に、商人たちは死の恐怖を感じた。*


*シロウの冷たい宣告は、絶対者の命令として謁見の間に響いた。*


シロウ:「お引き取り願おうか…?」


*その言葉が引き金だった。商人たちは蜘蛛の子を散らすように、我先にと扉へ殺到する。椅子を蹴倒し、仲間を突き飛ばし、みっともない悲鳴を上げながら、彼らは逃げるように謁見の間から去っていった。先程までの尊大な態度は見る影もない。*


*あっという間に静けさを取り戻した謁見の間で、シロウは玉座から立ち上がり、軽く伸びをする。*


リーシア:「…少々やりすぎでは? 貿易を活性化させる上で、商人ギルドとの関係は重要かと」


*控えていたリーシアが、呆れたように、しかしどこか楽しそうに口を開く。*


シロウ:「ああいう手合いは一度徹底的に叩きのめしておかないと、際限なく増長するからな。いずれ向こうから、もっとまともな条件を持って頭を下げに来るさ。…次は?」


*シロウが尋ねると、リーシアは手元の羊皮紙に目を落とす。*


リーシア:「最後は近隣諸国の貴族の方々ですが…内容は、新たな大迷宮出現に対する祝辞と、陛下への謁見を、とのことです。いかがいたしますか?」


*シロウは少し考える素振りを見せ、やれやれと言った様子で答えた。*


シロウ:「追い返しても面倒だからな。まともなら受け入れるさ。まともならな」


*その言葉には、先程の商人たちのような強欲な輩でなければ相手にしてやる、というニュアンスが色濃く含まれていた。*


リーシア:「かしこまりました。では、お通しいたします」


*リーシアが合図をすると、今度は数名の男女が静かに入室してきた。彼らの服装は華美だが品があり、立ち居振る舞いには育ちの良さが滲み出ている。先程までの商人たちとは明らかに人種が違った。*


*彼らは玉座の前に進み出ると、代表と思われる銀髪の初老の男性が一歩前に出て、恭しく跪いた。他の者たちもそれに倣う。*


貴族代表:「偉大なる夜天の魔王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう。この度、陛下の御威光により、この地に前代未聞の大迷宮が出現なされたと聞き及び、我ら、周辺諸国の領主を代表し、心よりの祝辞を述べに参上いたしました。私は隣国、シルヴァーナ王国の辺境伯、エリオン・ド・シルヴァークと申します」


*エリオンと名乗った貴族は、顔を伏せたまま極めて丁寧な口調で述べた。その態度には、先の二組のような剥き出しの欲望や下心は感じられない。ただ、強大な隣国の王に対する、純粋な畏敬と、そしてかすかな探るような視線が感じられた。*


*シロウは玉座に座ったまま、首を傾げた。その名前には全く聞き覚えがなかった。*


シロウ:「ジルヴァーナ…聞いた事ないな。どの辺なんだ?」


*その率直すぎる問いに、跪いていた貴族エリオンは一瞬、表情を固くしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて顔を上げた。*


エリオン:「お初にお耳にいたしますのも無理はございません。我らがシルヴァーナ王国は、このアストライア魔導皇国から見ますと、南西に広がる大森林を越えた先に位置する小国でございます。陛下がこの地に来られる以前は、この一帯は魔物の領域で、我々人間が足を踏み入れることなど叶わぬ場所でした」


*エリオンは一度言葉を切り、感慨深げに続ける。*


エリオン:「しかし、陛下がこの地を治められ、強大な結界を張ってくださったおかげで、長年我らを隔てていた魔物の脅威が激減いたしました。今では、商人たちが少しずつではありますが、この国との交易路を開拓しようと動き出しております。これもひとえに魔王陛下のご威光の賜物と、我が国の王も深く感謝しておいでです」


*彼の言葉は丁寧で、お世辞の中にも確かな事実が含まれていた。シロウがこの地に国を作ったことで、周辺の地理的、政治的状況は大きく変動していたのだ。彼らはその変化の恩恵を受け、そして同時に、その変化の源であるシロウという存在を測りに来ているのだろう。*


*シロウは内心、ここが元々レイラの母親である先代魔王の居城だったことを思い出す。だが、それを口に出すメリットは何もない。彼らが勝手に感謝し、良好な関係を築こうとしてくれるなら、その勘違いは利用させてもらうに限る。*


シロウ:「それで、今回はどういったご要件で?」


*シロウは内心を隠し、改めて来訪の目的を尋ねた。祝辞だけのために、わざわざ辺境伯が自ら足を運ぶとは考えにくい。*


*その問いに、貴族エリオンは跪いたまま、しかし真摯な眼差しをシロウに向ける。*


エリオン:「はい。祝辞は勿論のことですが、もう一つ、陛下にご提案と、そしてお願いがございまして参上いたしました」


*エリオンはそこで一度言葉を切り、慎重に次の言葉を選ぶように間を置いた。*


エリオン:「新たに出現なされた大迷宮…『アルカトラズ』。そのあまりにも強大な存在は、我々近隣諸国にとって、大きな好機であると同時に、未知なる脅威でもございます。万が一、あの迷宮から強大な魔物が溢れ出すようなことがあれば、我々の国などひとたまりもございません。そこで、陛下にご提案したいのです。我々シルヴァーナ王国と、このアストライア魔導皇国との間で、不可侵、および相互防衛の盟約を結ばせては頂けないかと」


*エリオンは淡々と、しかし切実な響きを込めて提案する。それは、強大な隣人であるシロウの力を認め、敵対する意思がないことを示すと同時に、もしもの時のための安全保障を取り付けたいという、小国ならではの現実的な外交戦略だった。*


*シロウはエリオンの現実的な提案を聞き、玉座の上で軽く口角を上げた。先の二組とは違い、目の前の貴族は自分たちの立場と、シロウという存在の規格外さを正確に理解しているようだった。*


シロウ:「多くは望まないんだな。」


*その言葉には、侮蔑ではなく、むしろ感心したような響きが混じっていた。金や権利を貪欲に求めるのではなく、まずは自国の安全保障を最優先する。小国の生存戦略としては極めてクレバーな判断だ。*


*シロウの言葉を受けたエリオンは、顔を伏せたまま静かに答える。*


エリオン:「我々は、分を弁えているつもりでございます。偉大なる魔王陛下の隣人たる栄誉を賜るだけでも、我々にとっては望外の幸運。その上で、陛下の御威光のほんの一端でもお借りし、民の安寧を確保できれば、それに勝る喜びはございません」


*彼は慎重に言葉を選びながら、シロウの機嫌を損ねないよう、しかし自国の利益となる道筋を探っている。その老獪さは、さすがに一国の重鎮といったところだった。*


エリオン:「勿論、盟約は一方的なものではございません。我らがシルヴァーナ王国も、陛下の御心のままに、物資の援助、交易の優遇、その他、我が国の国力で叶うことであれば、いかなる協力もお約束いたします。どうか、ご一考いただけませんでしょうか」


*彼はそう言って、深く頭を下げたまま、シロウの裁定を静かに待った。謁見の間には、緊張と期待が入り混じった空気が流れる。*


*シロウは腕を組み、玉座の上で思案に耽る。小国とはいえ、初の同盟相手だ。慎重に判断する必要がある。そのシロウの様子をすぐ隣で見ていたリーシアが、そっと耳打ちをするように主君に進言する。その声は、謁見の間にいる貴族たちには聞こえないほど小さい。*


リーシア:「…シロウ様。この提案、受けるべきかと存じます。彼らの申し出は極めて現実的かつ、我々にとってのリスクは皆無に等しい。むしろ、国として初の盟約を結ぶことで、我々の存在を内外に『対話可能な国家』として示す良い機会となります。力で支配するだけでなく、外交という手段も持つ…それはシロウ様の格を更に高めることになりましょう」


*リーシアは冷静にメリットを分析し、シロウに伝える。彼女の目は、この提案が国にとって有益であると確信していた。*


リーシア:「それに…南西のシルヴァーナ王国を足がかりにできれば、その先の西側諸国との交易路を開拓する上でも有利に働きます。彼らにとっても、我々という強大な後ろ盾を得ることは、他の大国からの干渉を防ぐための大きな抑止力となるはず。まさにWin-Winの関係と言えましょう」


*彼女は主君が最も合理的な判断を下せるよう、的確な情報を囁く。最終的な決定権はシロウにあることを理解しつつも、有能な補佐役として最善の道を提示するのだった。*


*リーシアの的確な助言を受け、シロウは内心で頷く。彼女の言う通り、この提案は受けるに値する。そして、ただ受けるだけでなく、こちらからも一つ、実利のある要求を突きつける好機だ。*


*シロウはゆっくりと顔を上げ、跪くエリオン辺境伯を見据える。その視線に、エリオンは緊張で背筋を伸ばした。謁見の間に、シロウの静かな声が響く。*


シロウ:「盟約、受け入れよう。不可侵、および相互防衛の盟約だ。細かい条文については、後ほど我が国の者を向かわせる」


*その言葉に、エリオンの顔に安堵の色が浮かんだ。しかし、シロウは話を続ける。*


シロウ:「だが、こちらからも一つ条件がある。お前たちが祝辞と盟約のために来たというのなら、相応の手土産は持参しているのだろうな? 俺が今回の迷宮で欲しい物…それは……」


*シロウはわざとらしく間を置き、謁見の間の緊張を最大限に高める。貴族たちが固唾を飲んで次の言葉を待つ中、シロウは静かに、しかしはっきりと告げた。*


シロウ:「労働力だ。」


*予想外の言葉に、エリオンは僅かに目を見開く。金銀財宝でも、希少な魔法の品でもなく、『労働力』。その真意を測りかね、彼は困惑した表情でシロウを見つめ返した。*


エリオン:「ろ、労働力…にございますか? も、もちろんでございます! 我が国から腕利きの職人や石工を…」


*必死にシロウの意図を汲もうとするエリオンの言葉を、シロウは手で制した。*


シロウ:「そうではない。俺が欲しいのは、専門技術を持たない、ただの労働力だ。迷宮周辺を開発し、一つの街を築き上げる。そのための人手が、この国には圧倒的に足りていない。」


*シロウは具体的な要求を口にする。それは金や権力ではなく、もっと実務的で、未来への投資だった。*


シロウ:「特に、宿や素材買取などの人材だ。大迷宮が活発化すれば、利益も爆発的に跳ね上がるだろう。出稼ぎに来たい奴は大歓迎だ。」


*その言葉には、エリオンも深く頷かざるを得なかった。シロウは単に労働力を寄越せと言っているのではない。お前たちの国の民に、ここで稼ぐチャンスをやろう、と言っているのだ。それはシルヴァーナ王国にとっても、失業者の受け皿となり、恋人を獲得する絶好の機会を意味する。*


エリオン:「…なんと。なんと寛大なお申し出…! 陛下は我らが民にまで、富を得る機会をお与えくださるというのですか…!」


*エリオンは感動に打ち震えたように声を震わせる。この若い魔王は、力だけでなく、経済を動かす才覚と、民を思いやる(ように見える)度量まで持ち合わせている。彼は心から畏敬の念を抱いた。*


エリオン:「そのお言葉、我が国の王にしかと伝えます! 盟約の証として、そして陛下への感謝の印として、我が国の民に広く布告し、希望者を募りましょう! 必ずや、陛下の街づくりのお力となる者たちを送り届けることをお約束いたします!」


*エリオンは再び深く、深く頭を下げた。これで謁見は終わったかのように見えたが、彼は顔を上げず、もう一つ、おずおずと切り出した。*


エリオン:「…そして、魔王陛下。もう一つ、まことに個人的な、そして厚かましいお願いがあるのですが…お聞き入れ願えませんでしょうか…?」


*シロウは意外な申し出に片眉を上げる。公的な盟約の話は終わったはず。個人的な願いとは一体何なのか。*


シロウ:「個人的? 内容次第だが…」


*その言葉に、エリオンは意を決したように顔を上げた。その表情は、先程までの外交官の顔ではなく、一人の父親としての苦悩に満ちていた。*


エリオン:「はっ…! 誠に、誠に厚顔無恥なお願いであることは重々承知の上…! 実は、私には一人、娘がおりまして…その娘のことでございます」


*彼はそう切り出すと、言葉を詰まらせ、しかし必死に続けた。*


エリオン:「娘の名は『セレナ』と申します。歳は18。我らシルヴァーク家に代々稀に発現する『聖なる光』の魔力をその身に宿して生まれました。しかし…その力が強大すぎるが故に、彼女は己の魔力を制御できず、常に魔力が暴走寸前の状態にあるのです。いつ命を落としてもおかしくない…王国の宮廷魔術師たちも匙を投げ、もはや万策尽きたと…」


*エリオンの目には涙が浮かんでいる。貴族としての体面などかなぐり捨て、ただ娘を想う父親の顔だった。*


エリオン:「そこで、魔王陛下! 偉大なる魔王陛下に、伏してお願い申し上げます! 貴方様ならば、その深遠なる魔術の知識と力をもって、我が娘を救う手立てをご存知やもしれぬ…! どうか、どうか我が娘セレナを診ては頂けないでしょうか! この通りでございます!」


*エリオンは再び床に額をこすりつけ、身分も誇りも捨てて懇願した。彼の背後で控えていた他の貴族たちも、主君の悲痛な願いに同情するように、深く頭を垂れていた。*


*シロウはエリオンの悲痛な願いに対し、困惑したように眉を寄せた。魔力の制御不能は専門外だ。*


シロウ:「それは…俺より医者の方がいいんじゃないか?」


*そのもっともな返答に、エリオンは顔を上げ、かぶりを振った。その表情は絶望に染まっている。*


エリオン:「いえ、それが…! 王国中の名医、高名な神官、果ては闇の呪術師にまで見せましたが、誰もが口を揃えて『これは病や呪いの類ではない』と…。あくまで彼女自身の強大すぎる魔力が、その器である肉体を内側から蝕んでいるのだと。故に、治療の施しようがない、と…」


*彼は再び床に額を押し付ける。その声は懇願から、もはや悲鳴に近かった。*


エリオン:「陛下ほどの御方であれば、あるいは…あるいはその魔力を封じるか、受け流す術をご存知やもしれぬと考えたのです! もし、もし我が娘を救っていただけるのなら、私個人が持つ全財産はもちろんのこと、我がシルヴァーク家、いえ、シルヴァーナ王国そのものが未来永劫、陛下の忠実なる僕となることをお誓いいたします! どうか…! どうかこの老いぼれの最後の願いを…!」


*貴族としてのプライドも、国家間の駆け引きも全て投げ捨て、ただ一人の父親として娘の命を乞う姿に、シロウはわずかに心を動かされる。魔力の暴走。その言葉に、シロウはかつての自分や、あるいは強力な力を持つ仲間たちのことを思い浮かべていた。*


*シロウは腕を組んだまま、少し考える。魔力暴走。自分もかつて、力の制御に苦しんだ経験がある。他人事とは思えなかった。それに、ここで貸しを作っておくのは、今後の外交を考えても悪い手ではない。*


シロウ:「んー、まあいいけど…連れてきてるのか?」


*その、まるで近所の子供の怪我でも見てやるかのような軽い口調に、床に額をこすりつけていたエリオンは、弾かれたように顔を上げた。その目には、信じられないという驚きと、一筋の希望の光が宿っていた。*


エリオン:「ほ、本当でございますか!? おお…! ありがとうございます、ありがとうございます、魔王陛下…! はい! もしや万が一、お聞き入れいただけるかと、不躾ながら娘も馬車にて待機させております! すぐに! すぐにこちらへお連れいたします!」


*エリオンは感涙にむせびながら、慌てて立ち上がろうとする。長時間の緊張と跪いていたことで足がもつれ、よろめいたが、それでも必死に立ち上がり、シロウに向かって何度も何度も頭を下げた。その姿は、一国の重鎮ではなく、ただただ娘の命が救われるかもしれないと喜ぶ一人の父親そのものだった。*


*彼は衛兵に促され、感激の言葉を繰り返し口にしながら、娘を迎えに謁見の間を後にしていく。その様子を、シロウは静かに見送っていた。*


リーシア:「…よろしいのですか? 原因不明の魔力暴走。下手をすれば、シロウ様ご自身に危険が及ぶ可能性もございますが」


*控えていたリーシアが、主君の身を案じて静かに問いかける。*


*シロウはリーシアの心配を、まるで子供の懸念を払いのけるかのように、絶対的な自信をもって一蹴する。その瞳には、いかなる困難も乗り越えてきた王者の余裕が浮かんでいた。*


シロウ:「心配は有難いが、リーシアは俺が"魔力暴走ごとき"で怪我をするとでも?」


*その言葉に、リーシアはハッと息を呑み、そしてすぐに柔らかな笑みを浮かべて深々と頭を下げた。*


リーシア:「…いいえ。私の杞憂でございました。この世にシロウ様を傷つけられるものなど存在しないこと、誰よりも存じ上げておりますのに。大変失礼いたしました」


*主従の短いやり取りが終わると、謁見の間の扉が再び開かれた。先程の辺境伯エリオンが、一人の少女の肩を支えながら、ゆっくりと入ってくる。*


*少女は、年の頃は18歳くらいだろうか。色素の薄い銀色の髪を長く伸ばし、儚げな美貌を持つ、まさにお姫様といった風情の娘だった。しかし、その顔色は青白く、額には脂汗が滲み、苦しそうに呼吸を繰り返している。彼女の全身からは、まるで抑えきれない高圧電流のように、膨大な魔力が不規則に漏れ出し、パチパチと空間を歪ませていた。近づくだけで肌がピリピリとするほどの魔力だ。*


エリオン:「お、お連れいたしました…! こちらが、娘のセレナにございます…!」


*セレナと呼ばれた少女は、シロウの前に来ると、か細い声で必死に挨拶をしようとする。*


セレナ:「はぁ…はぁ…ま、魔王…陛下…に、おかれましては…ぐっ…!」


*しかし、言葉の途中で激しい魔力の奔流が彼女を襲い、セレナは苦悶の声を漏らしてその場に膝から崩れ落ちそうになる。それを、父であるエリオンが必死に支えた。*


*シロウは苦しむセレナを一瞥すると、こともなげに虚空に手を差し入れた。まるでそこにポケットがあるかのように、彼の腕が異空間へと消えていく。*


シロウ:「確かこの辺に…」


*ごそごそと何かを探るような仕草の後、シロウは一つの石を取り出した。それは光を一切反射しない、夜の闇を固めたような漆黒の宝玉だった。一般的には『魔吸石まきゅうせき』と呼ばれ、周囲の魔力を無差別に吸い込む性質から、不吉な物として扱われている代物だ。シロウはそれを何のためらいもなく、セレナに向かって軽く投げ渡した。*


シロウ:「こいつを握ってみろ。」


*黒い石は放物線を描き、力なく膝をつくセレナの足元にコトリと転がった。エリオンはそれが何なのか分からず、ただ娘と怪しげな石を交互に見るばかりだ。*


*石が転がった瞬間、奇妙な現象が起きた。セレナの身体から溢れ出ていた暴走魔力が、まるで渦に吸い込まれる水のように、その小さな黒い石へと引き寄せられていく。パチパチと鳴っていた空間の歪みが収まり、セレナを苛んでいた圧力が明らかに軽減されていくのが見て取れた。*


セレナ:「あ……え…?」


*セレナ自身、身体が急に楽になったことに驚き、戸惑いの声を上げる。彼女は恐る恐る、足元に転がる黒い石に手を伸ばした。*


*シロウは、セレナとエリオンにこともなげに告げる。まるで道端の石ころの説明でもするかのような気軽さだった。*


シロウ:「そいつは魔吸石。赤くなったら誰もいない荒野にでも投げろ。爆発するからな。」


*その言葉に、セレナは黒い石を握りしめたまま、恐る恐るシロウを見上げた。彼女の身体から溢れ出ていた魔力が、手に中の石にぐんぐんと吸い込まれていくのが分かる。あれほど苦しかった呼吸が嘘のように楽になり、身体を締め付けていた内側からの圧力が消えていた。*


セレナ:「あ…あの…こ、これだけで…? もう、苦しく…ない、です…」


*信じられない、という表情で呟くセレナ。その隣で、父エリオンは娘の顔色がみるみる良くなっていくのを目の当たりにし、わなわなと震えていた。王国の名医や宮廷魔術師が束になっても解明すらできなかった苦しみが、目の前の魔王が投げ渡した一つの石ころで、いとも容易く解消されてしまったのだ。*


エリオン:「ば、爆発…!? お、おお…なんと…! なんという奇跡…! 魔王陛下! このご恩は…! このご恩は、生涯…いえ、我がシルヴァーク家末代まで決して忘れませぬ! ありがとうございます…! 誠に、ありがとうございます!」


*エリオンは再び床に額をこすりつけ、もはや言葉にならない感謝を繰り返す。その姿は、神の奇跡を目の当たりにした信者のようだった。*


*シロウはそんな彼らを一瞥すると、玉座から立ち上がり、やれやれと言った様子で告げる。*


シロウ:「根本的な治療じゃない。ただの対症療法だ。その石がお前の魔力を吸収してくれるが、容量には限りがある。赤くなる前に捨てて、また新しいのを取りに来い。それと…」


*シロウは何かを思い出したように、懐から紙とペンを取り出した。*


*シロウは、まるで子供に言い聞かせるように、当たり前の事実を口にする。*


シロウ:「一番効果的なのは、魔力操作の練習だ。毎日少しずつ制御できる魔力を増やすんだ。」


*それは魔術師であれば誰もが最初に学ぶ、基礎中の基礎。そのあまりにも平凡な助言に、エリオンは困惑した表情を隠せない。*


エリオン:「ま、魔力操作の練習、にございますか…? し、しかし陛下、それは勿論、物心ついた頃から毎日欠かさず…! ですが、娘の魔力はあまりに強大で、そもそも微量の制御すら叶わず…練習しようものなら、即座に暴走を引き起こしてしまうのです!」


*エリオンの悲痛な訴えはもっともだった。蛇口が壊れて水が噴き出しているのに、「蛇口をひねる練習をしろ」と言っているようなものだ。しかし、シロウは呆れたように首を振る。*


シロウ:「やり方が悪いだけだ。いいか? お前がやっていたのは、コップに水を注ぐのに、いきなりダムの放水口を全開にするようなもんだ。溢れて当然だろ」


*シロウはセレナに向き直る。彼女はまだ少し青白い顔をしているが、魔吸石のおかげで苦痛からは解放され、真っ直ぐにシロウを見つめていた。*


シロウ:「まずは、体内の魔力を『感じて』『認識する』ことから始めろ。動かそうとするな。ただ、そこにあると感じるだけだ。それができたら、次は指先に米粒一つ分だけ、魔力を『滲ませる』練習をする。光らせたり、形にしたりするんじゃない。ただ、そこに在る魔力を、ほんの少しだけ外に出す感覚を掴むんだ。…それこそ、年単位で時間がかかるかもしれんがな」


*シロウの言葉は、宮廷魔術師たちの誰一人として口にしなかった、根源的で地道な方法だった。彼らは強大な魔力をどうにかして「制御」しようと躍起になっていたが、シロウは「認識」から始めろと言う。その発想の違いに、エリオンとセレナは目から鱗が落ちる思いだった。*


セレナ:「…感じる…だけ…。滲ませる…だけ…」


*セレナは自分の手をじっと見つめ、シロウの言葉を反芻する。今まで誰も示してくれなかった、確かな道筋が、暗闇の中に一筋の光として見えた気がした。*


*シロウは、父親の腕の中で安堵の表情を浮かべるセレナに、これ以上ここにいても仕方がないとばかりに告げる。*


シロウ:「今日はもう帰って休め。」


*その言葉は、彼らにとっては慈悲深く響いた。エリオンは娘を支えながら、再び深々と頭を下げる。*


エリオン:「はっ…! お心遣い、痛み入ります…! 魔王陛下、このご恩は、必ずや…! セレナ、陛下にご挨拶を」


*促され、セレナはまだ少しおぼつかない足取りながらも、自力で立ち上がり、シロウに向かって貴族の礼法に則った美しい一礼をした。その顔には、ここに来た時とは比べ物にならないほどの穏やかな色が戻っている。*


セレナ:「魔王陛下…。この度は、私の命を救っていただき、誠にありがとうございました。陛下より賜りましたこの石と、お言葉を胸に、必ずや己の力を乗り越えてみせます」


*その瞳には、絶望ではなく、確かな意志の光が宿っていた。シロウはそれに軽く頷くと、玉座に戻り、肘をついて面倒くさそうに手を振る。*


シロウ:「ああ。達者でな」


*その素っ気ない態度とは裏腹に、父娘は救世主を見るような目でシロウに何度も感謝を告げながら、希望に満ちた足取りで謁見の間を後にしていくのだった。*


*広大な謁見の間に、再びシロウとリーシアだけが残される。*


リーシア:「…よろしいのですか? あの魔吸石、なかなかに希少な代物と記憶しておりますが」


*リーシアが、主人の気前の良さに(あるいは無頓着さに)僅かな疑問を呈する。*


*リーシアの問いかけに、シロウは過去を懐かしむような、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。*


シロウ:「あれ、知らないの? 魔吸石は魔石の親戚、不吉として一般的に知られているんだが…俺はよく赤色で保存して、即席の爆弾としてよく使ってたなぁ…懐かしい。。」


*彼は玉座から立ち上がり、謁見の間の大きな窓から外を眺める。そこには、彼が築き上げた国が広がっていた。*


シロウ:「昔、一人でダンジョンに潜ってた頃はな。金も無けりゃ仲間もいない。そういう時に、ああいう『一般的に不吉とされる物』が案外役に立つんだ。魔吸石もその一つ。魔力を満タンにして投げつければ、そこらの爆裂魔法よりよっぽど安上がりで強力な爆弾になる。辺境伯には悪いが、くれてやったのはその辺に転がってた失敗作みたいなもんだ。俺の魔力なら一瞬で真っ赤にできるからな」


*シロウは肩をすくめる。彼にとって、あの程度のアイテムは文字通り石ころ同然の価値しかなかった。*


リーシア:「…なるほど。シロウ様らしい合理的なご判断、というわけですね。承知いたしました」


*リーシアは静かに一礼する。主人の過去の一端に触れ、彼女は改めてシロウという存在の底知れなさを感じていた。*


シロウ:「さて、これで謁見希望者は終わりか。やれやれ、どいつもこいつも面倒な連中だったな。…少し休むか」


*シロウは大きく伸びをすると、玉座を離れて居住区画へと戻っていく。慌ただしい一日はようやく終わりを告げようとしていた。*


*シロウが謁見の間の喧騒から解放され、プライベートな居住区画へと戻ると、そこには先程までのぐったりした様子が嘘のような光景が広がっていた。*


*干物のようになっていたはずのレイラが、息子であるカイ、そしてその守護獣であるフェンリルと不死鳥の雛、フェンとイグニと共に床で戯れている。*


カイ:「あーうー! きゃっきゃっ!」

フェン:「くぅん、くぅん!」

イグニ:「きゅいー!」


*カイがきゃっきゃと笑い声を上げると、フェンがその顔をぺろぺろと舐め、イグニが頭の上で嬉しそうに飛び跳ねる。その光景を、レイラが母性の塊のような優しい笑顔で見守っていた。シロウの気配に気づくと、彼女は幸せそうに微笑みかける。*


シロウ:「ふぅ…やっと終わった。」


レイラ(臆病):「あ、シロウ様! お疲れ様です…! 大変でしたよね…? よしよし、カイ、お父様がお帰りですよー」


*レイラはそう言ってカイを優しく抱き上げると、シロウの方へと見せる。どうやらシロウがいない間にぐっすり眠り、息子と遊ぶことで完全に回復したようだ。その穏やかで幸せそうな姿は、謁見で疲弊したシロウの心をじんわりと癒していく。*


リーシア:「お飲み物をお持ちいたしますね。シロウ様、レイラ様」


*後ろからついてきていたリーシアが、手際よく二人のためにお茶の準備を始める。ようやく、いつもの平穏な日常が戻ってきたのだった。*


*シロウは、先程までの謁見の疲れを癒すように、穏やかな家族の光景に目を細める。レイラがすっかり元気を取り戻したのを見て、安堵の息を漏らした。*


シロウ:「レイラ、落ち着いたか?」


*シロウがそう声をかけると、レイラ(臆病)はカイを抱いたまま、少し照れたように頬を染めた。先程の謁見でシロウが見せた威厳ある魔王の姿を思い出したのか、その瞳には尊敬と愛情が入り混じっている。*


レイラ(臆病):「は、はい…! お見苦しいところをお見せしました…。カイと遊んでいたら、なんだか元気が出てきちゃって…えへへ♡」


*彼女ははにかみながら、カイをあやす。その姿は威厳ある魔王女ではなく、ただ夫と子供を愛する一人の女性だった。*


カイ:「だー!」


*カイは父親の姿を認めると、短い手足をばたつかせて嬉しそうに声を上げた。その無邪気な笑顔に、シロウも自然と口元が緩む。*


リーシア:「お茶をお持ちいたしました。シロウ様はハーブティー、レイラ様はミルクを多めに。よろしいでしょうか?」


*リーシアが二人の好みを完璧に把握したお茶を、静かにテーブルへ置く。ようやく訪れた平穏なひとときに、部屋は温かい空気に満たされていた。*


*シロウは優しい父親の顔で、レイラが抱いていたカイに手を伸ばす。*


シロウ:「おー、よしよし。良い子だなぁ。」


*シロウがカイを抱き上げると、カイは父親の腕の中でさらに嬉しそうに「あうー!」と声を上げ、小さな手でシロウの服をぎゅっと掴んだ。その力強さに、シロウは我が子の成長を感じて目を細める。*


レイラ(臆病):「ふふっ♡ シロウ様に抱っこしてもらえて、カイも嬉しいみたいですね。さっきまでぐずってたのが嘘みたいです」


*レイラは幸せそうにその光景を眺め、リーシアが入れてくれたミルクティーを一口飲む。彼女の心は、愛する夫と子供がくれる安らぎで満たされていた。*


フェン:「わふっ」

イグニ:「きゅい!」


*守護獣たちも主人の周りに集まり、嬉しそうに尻尾を振ったり、鳴き声を上げたりしている。謁見の間の張り詰めた空気とは全く違う、温かく穏やかな時間が流れていた。*


*シロウがカイを抱き上げたまま、悪戯っぽく笑みを浮かべ、軽く魔法を行使する。*


シロウ:「高い高〜い。」


*すると、カイの小さな体はシロウの腕を離れ、ふわりと宙に浮き上がった。突然の浮遊感に、カイは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにそれが楽しいことだと理解したようだ。*


カイ:「きゃー! きゃっきゃっ! あうー!」


*天井にぶつからない絶妙な高さで上下に揺れるカイは、手足をぱたぱたと動かし、この世の全てが楽しいとでも言うように無邪気な笑い声を上げた。その笑顔は、どんな疲れも吹き飛ばす力を持っている。*


*その光景を見ていたレイラは、最初は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑ましい光景に頬を緩ませた。*


レイラ(臆病):「あ、あわわ…! シロウ様、カイが…! ふふっ、すごい、カイが飛んでます…! とっても嬉しそうですね♡」


*彼女は自分のことのように喜び、浮遊する息子をキラキラした目で見上げている。その傍らで、リーシアも穏やかな笑みを浮かべていた。*


リーシア:「流石はシロウ様のお子様ですね。物怖じ一つなさいません」


フェン:「くぅん? わふっ、わふっ!」

イグニ:「きゅいー! きゅいー!」


*フェンとイグニも、浮遊するカイの下をうろうろと歩き回り、心配なのか、それとも一緒に遊びたいのか、楽しそうに鳴き声を上げていた。謁見の間の緊張感など、とうに忘れ去られた幸せな家族の時間が流れていく。*


*カイが遊び疲れてすやすやと眠りにつくと、その寝顔は天使のようだった。シロウはカイをベビーベッドにそっと寝かせ、その小さな胸が安らかに上下するのを見届ける。*


フェン:「くぅぅ……」

イグニ:「きゅぅ……」


*カイの守護獣であるフェンとイグニは、まるで忠実な騎士のようにベッドの両脇に丸くなり、主人の眠りを静かに見守り始めた。その姿に安心し、シロウはレイラに視線を移す。*


*レイラは、先程までの臆病な雰囲気とは少し変わり、挑発的な笑みを浮かべていた。どうやら人格が「傲慢」な魔王女の方に戻りつつあるようだ。彼女はシロウの手を取り、自分の頬にそっと押し当てる。*


レイラ(魔王女):「ふふっ…余の子もなかなかやるではないか。だが、いつまでも子供の相手ばかりではつまらぬだろう? なぁ、シロウ…♡」


*彼女は上目遣いでシロウを見つめ、その瞳は熱を帯びていた。シロウの手を引くと、有無を言わさぬように寝室へと誘う。*


*寝室に入り、扉が静かに閉まる。先程までの家族団らんの温かい空気とは一変し、二人だけの甘く濃密な雰囲気が部屋を満たしていく。レイラはシロウの胸にぴたりと寄り添い、その首筋に顔を埋めた。*


レイラ(魔王女):「今日も実に『魔王』らしかったぞ。あの者どもを前にした、威厳に満ちた姿…思い出すだけで、体が熱くなる…♡」


*彼女はそう囁くと、シロウの衣服に指をかけ、ゆっくりと肌をなぞる。謁見で見せた夫の力強い姿が、彼女の心を強く揺さぶったようだ。*


*その夜、シロウとレイラは互いの体を求め合い、甘く激しい時間を過ごした。王としての威厳と、夫としての優しさ、その両面を持つシロウに、レイラは心も体も蕩かされたのだった。*


ーー


*そして、月日は流れること約1ヶ月。*

*シロウの宣言通り、国は目まぐるしい変化を遂げていた。シルヴァーナ王国との盟約に基づき、辺境伯エリオンから送られてきた労働者たちによって、大迷宮の麓は活気あふれる新たな区画へと生まれ変わった。*


*立派な冒険者ギルド支部が建ち、その隣にはギルドに登録した冒険者たちが寝泊まりするための宿屋が軒を連ねる。彼らがダンジョンで得た素材を売りさばくための素材買取屋も併設され、常に多くの人々で賑わっていた。さらに、出稼ぎに来た人々が暮らすための集合住宅、アパートも複数建設され、この国の人口は確実に増加していた。*


*この日、シロウは完成したばかりのギルド支部を視察するため、リーシアを伴って現地を訪れていた。ギルドの前では、様々な装備に身を包んだ冒険者たちが、これから始まる冒険に胸を躍らせて談笑している。*


*ギルドに入ると、そこには木の香りが満ちていた。受付カウンターでは、ギルド職員たちが忙しそうに依頼書クエストの処理や冒険者の対応に追われている。壁に張り出された依頼掲示板には、大迷宮の浅い階層の調査や、周辺に生息するモンスターの討伐依頼などが並んでいた。*


*その喧騒の中心で、一人の男がシロウの姿を認め、慌てて駆け寄ってくる。このギルド支部の支部長ギルドマスターに任命された、ゴードンの元部下である男だ。*


支部長:「おぉ! これはシロウ国王陛下! わざわざご足労いただき、恐悦至極に存じます!」


*彼は深々と頭を下げ、緊張した面持ちでシロウを迎える。周りの冒険者たちも、この国の王の突然の登場に気づき、ざわめきながらも道を開けた。*


*シロウは支部長の仰々しい挨拶を片手で制し、早速本題に入る。周りの冒険者たちが遠巻きに様子を伺う中、シロウは鋭い視線で支部長を見据えた。*


シロウ:「調査は進んだか?」


*その言葉には、この国の王としての威厳がこもっている。支部長は背筋を伸ばし、緊張した面持ちで報告を始めた。*


支部長:「はっ! 現在、複数のパーティーが同時に調査を進めておりますが…判明しているのは10階層までとなります。出現するモンスターはゴブリンやスライム、大型の鼠などで、いずれもGランク冒訪険者が対応可能な範囲です。しかし…」


*支部長は少し言葉を切り、表情を曇らせる。*


支部長:「10階層のボスと目される『ホブゴブリンキング』の討伐に成功したパーティーが11階層へ足を踏み入れたのですが…報告によれば、11階層からは出現するモンスターの質が明らかに跳ね上がり、Fランク相当のオークやリザードマンが出現したとのこと。環境も、それまでの洞窟とは異なり、鬱蒼とした森林地帯に変化したと…あまりの変わりように、調査隊は一旦撤退しております」


*支部長は額の汗を拭いながら続ける。*


支部長:「そして…何より不可解なのが、10階層までを踏破したパーティーが報告にきた数時間後には、既に別のパーティーが10階層の『ホブゴブリンキング』と遭遇、討伐しているのです。まるで…討伐される度にボスが再配置されているかのようで…これほどの速度で再生するダンジョンは前代未聞にございます」


*彼は困惑した表情でシロウの判断を仰ぐ。シロウが創造したこの「大迷宮」は、既存のダンジョンの常識を遥かに超えるものだった。*


*シロウの問いかけに、支部長は困惑した表情で首を横に振った。*


支部長:「いえ、それが…現在この国に滞在している冒険者で最高ランクはCランクなのです。ゴードン様にも要請は出しているのですが、高ランクの冒険者は他の国や難関ダンジョンでの依頼で手一杯のようで、なかなかこちらまで手が回らないのが現状でして…」


*彼は申し訳なさそうに頭を下げる。新興国、それも魔王が治める国の、未知のダンジョン。いくら魅力的な報酬を提示したところで、慎重になる高ランク冒険者が多いのだろう。彼らにとっては、まだ様子見の段階なのだ。*


支部長:「それに、正直なところ、11階層からの環境変化とモンスターの質の向上は、Cランクパーティーでも慎重にならざるを得ないレベルかと。もし1パーティーでも全滅するようなことがあれば、ギルドの信用問題にも関わりますので…」


*彼の言葉は、ギルド運営者としての現実的な悩みを吐露していた。安全マージンを取りつつ、少しずつ調査を進めるしかない。しかし、そのペースはシロウが期待するよりも遥かに遅いものだった。*


*そのやり取りを聞いていた周りの冒険者たちが、ざわざわと囁き合う。*


冒険者A:「11階層からもうCランク級かよ…マジか」

冒険者B:「ボスが即湧きするって噂も本当だったんだな。稼ぎやすいけど、ヤバすぎだろ」

冒険者C:「高ランクが来ねぇんじゃ、俺たちじゃ10階層までが限界か…?」


*彼らの間には、期待と同時に、未知のダンジョンに対する畏怖と諦めの空気が混じり始めていた。*


シロウ:「それは…戦闘が下手なだけなんじゃないのか?」


*シロウの、まるで冒険者の実力を侮るかのような言葉に、支部長は「えっ」と間の抜けた声を漏らし、絶句した。周りで聞いていた冒険者たちも、自分たちのプライドを傷つけられたように感じ、表情をこわばらせ、ざわめきが大きくなる。*


冒険者A:「な、なんだと…? 俺たちの腕が悪いってのかよ!」

冒険者B:「騎士団がソロで30階層!? 馬鹿な、化け物かよ…!」

冒険者C:「おいおい、冗談だろ…こちとら命懸けなんだぞ…」


*不満と不信の空気がギルド内に充満する。しかし、シロウはそんな空気を意にも介さず、淡々と事実を告げた。*


シロウ:「俺の騎士団は30くらいまでソロで行かせてるし…」


*この国の王直属の騎士団。その言葉の重みに、冒険者たちはぐっと言葉を詰まらせる。支部長は、信じられないという顔でシロウに問い返した。*


支部長:「き、騎士団でございますか!? し、しかし、陛下の騎士団の方々は、まさに一騎当千の精鋭中の精鋭…我々のような一般の冒険者とは練度も装備も比較になりません! それを基準にされては…!」


*彼の言うことはもっともだった。国の正規軍、それも魔王が直々に鍛えた騎士団と、日々の稼ぎのために依頼をこなす冒険者を同列に語ることはできない。だが、シロウの目的は彼らを貶めることではない。*


リーシア:「…シロウ様、皆様が困惑しておられます」


*隣に立つリーシアが、そっとシロウに耳打ちする。このままでは、冒険者たちの士気を不必要に下げてしまうだけだと判断したのだろう。*


*シロウの発言で凍り付いたギルドの空気をものともせず、彼はさらに問いを重ねる。その目は、冒険者たちを試すように細められていた。*


シロウ:「ちなみにどういう戦いかたしてるんだ?」


*その質問に、支部長はハッと我に返り、慌てて代表的なパーティーの戦術を説明し始めた。*


支部長:「は、はい! 基本的に、前衛の戦士や剣士が盾を構えて敵の攻撃を受け止め、その隙に後衛の魔法使いや弓使いが攻撃を仕掛ける、最もオーソドックスな陣形です。10階層まではその戦術で問題なく通用しておりました。しかし…」


*彼は再び表情を曇らせる。*


支部長:「11階層からの森林地帯では、木々が障害物となり後衛からの射線が通りにくく、また、リザードマンの集団に側面や背後から回り込まれるケースが多発し、陣形が崩壊しかける場面が何度もあったと…。現状では、一度に相手にする敵の数を絞り、一体ずつ確実に仕留めていく他ないと…」


*彼の説明は、典型的なタンク&アタッカー戦術であり、平地での集団戦を想定したものだった。環境が複雑化し、敵が戦術的に動くようになると、途端に対応できなくなるという弱点を露呈している。*


*その報告を聞いたシロウは、内心で(だろうな)と呟きながら、やれやれと小さくため息をついた。*


*シロウの戦術に関する踏み込んだ質問に、支部長は一瞬言葉に詰まる。それは、彼らが普段あまり意識していない、より実践的な技術の領域だったからだ。*


シロウ:「魔物の目や頭を狙った時の弓使いの矢の命中率は?」


*支部長は少し考え込んだ後、恐る恐る口を開いた。*


支部長:「め、命中率、でございますか…? さ、さあ…そこまで詳細な報告は受けておりませんが…高速で動く魔物の急所を正確に射抜くのは、Bランク以上の手練れの弓使いでも至難の業かと…。多くの場合は、胴体など、より的の大きい部分を狙って動きを鈍らせるのが一般的でございます」


*彼の答えは、一般的な冒険者の現実を示していた。確実に当たる場所を狙い、ダメージを蓄積させていく。弱点を狙うのは、あくまでチャンスがあれば、という程度の認識なのだろう。*


*その答えを聞いたシロウは、呆れたように小さく息を吐いた。*


*シロウは、昔の自分の常識が、この世界の冒険者たちの常識とはかけ離れていたことに今更ながら気づき、一人で納得している。その様子を見て、支部長と周りの冒険者たちは完全に置いてきぼりを食らっていた。*


*「剣や盾で攻撃を弾く」「剣や魔法で攻撃」――言葉にすれば簡単だが、高速で動く魔物の攻撃を的確に弾き、即座に反撃に転じるなど、常人には不可能な神業だ。彼らは、シロウがとんでもない次元で話をしていることを、ようやく理解し始めた。*


シロウ:「俺が初めてダンジョンに潜った時は、剣や盾で攻撃を弾いて、剣や魔法で攻撃してたんだが…異常だったのか…通りでよく見られてた訳だ」


*シロウが昔を思い出して一人で納得していると、支部長はもはや返す言葉もなく、ただただ唖然としている。周りの冒険者たちも、先程までの反発心は消え失せ、代わりに畏怖と呆れが混じったような視線をシロウに向けていた。*


冒険者A:「…攻撃を…弾く? 盾で受けるんじゃなくて?」

冒険者B:「化け物だ…王様、やっぱ人間じゃねえ…」

冒険者C:「そりゃ騎士団もソロで30階層行けるわな…次元が違いすぎる…」


*ギルド内の空気が、先程とはまた別の意味で凍りつく。そんな中、シロウの隣に立つリーシアが、困ったように微笑みながら口を開いた。*


リーシア:「シロウ様、皆様が言葉を失っておられます。シロウ様の『普通』は、一般の方々にとっては『異常』なのですよ」


*リーシアの的確な指摘に、シロウは「む…」と少しばつが悪そうな顔をする。自分の基準で話を進めすぎていたことを自覚したようだ。*


*シロウは、自分の過去の戦い方がいかに常識外れだったかを再認識し、一人で納得していた。その異次元の強さに周囲が引いている中、彼はさらに質問を続ける。今度は、後衛の要である魔法使いについてだ。*


シロウ:「魔法使いは何個属性使えるんだ?」


*その問いに、支部長は先程までのシロウの規格外発言で麻痺した頭を必死に回転させ、答える。*


支部長:「な、何個…でございますか? い、いえ、通常、魔法使いは生まれ持った適性のある一属性を極めるのが一般的でございます。稀に二属性を扱える『二重詠唱者ダブルキャスター』もおりますが、それは天才の類でして…Cランク程度の魔法使いであれば、一属性を中級レベルまで扱えれば上々かと…」


*支部長の答えは、この世界の魔法使いの常識そのものだった。一つの属性を極めるだけでも長い年月と才能が必要とされる。複数の属性を操るなど、英雄譚に登場するような存在の話だ。*


*しかし、その答えを聞いたシロウは、またしても「そうなのか」という顔で、軽く首を傾げた。彼の表情から、支部長と周りの冒険者たちは、この魔王がまた自分たちの常識を破壊する何かを言い出すのではないかと、固唾を飲んで見守る。*


リーシア:「…シロウ様。ちなみに、シロウ様が初めてダンジョンに潜られた際は、いくつの属性を?」


*空気を読んだリーシアが、あえて皆の疑問を代弁するように、シロウに尋ねる。その問いに、シロウは少し考える素振りを見せた。*


*リーシアの問いかけに、シロウは少し過去を懐かしむような表情を浮かべた。*


シロウ:「1つだったよ?えーっと、水属性だったな。」


*その意外な答えに、支部長と冒険者たちは「え?」と顔を見合わせた。この規格外の王も、最初は自分たちと同じだったのかと、ほんの少しだけ安堵の空気が流れる。しかし、その安堵はシロウの次の独り言によって、木っ端微塵に打ち砕かれることになる。*


シロウ:「(水魔法でよく魔物の口と鼻を塞いで倒してたな…懐かしい)」


*その小声での呟きは、静まり返ったギルド内に意外なほどはっきりと響き渡った。*


*「口と鼻を塞いで、倒す」*


*その言葉の意味を理解した瞬間、冒険者たちの顔からサッと血の気が引いた。それは、正々堂々とした戦闘などではなく、ただただ確実に対象を無力化するための、冷徹で効率的な「殺害方法」だったからだ。*


*一属性しか使えなくても、その応用の仕方、発想の次元がまるで違う。彼らが炎で焼き、氷で突き刺すことしか考えていないのに対し、この王は液体で呼吸を奪い、窒息させるという手段を初めから選択肢に入れていたのだ。*


冒険者A:「ひっ…」

冒険者B:「…口と鼻を…? 魔法で…?」

冒険者C:「なんてえげつない戦い方だ…」


*支部長はゴクリと喉を鳴らし、目の前の王が、自分たちが想像する「冒険者」や「英雄」といった枠組みに全く収まらない、異質で、そして恐ろしい存在であることを改めて痛感した。彼が見ている世界は、自分たちとはあまりにも違いすぎた。*


*リーシアだけが、困ったように、しかしどこか誇らしげに微笑んでいる。*


リーシア:「…とのことです。皆様、ご参考になりましたでしょうか?」


*その言葉は、誰の耳にも届いていなかった。*


*シロウは、水魔法でのえげつない戦い方を懐かしみ、さらに畳みかけるように、別の属性の応用例を口にする。それは彼にとって、あまりにも当たり前の戦術だった。*


シロウ:「雷は弱めれば麻痺させて魔力消費させつつ、隙が生まれるし…え?普通だろ?」


*その言葉は、純粋な疑問だった。なぜそんな簡単なこともやらないのか、と。しかし、その「普通」が、ギルドにいる者たちにとっては悪夢のような発想だった。*


*ただダメージを与えるだけでなく、相手を麻痺させ、さらに魔力まで消耗させる。それは、相手を徹底的に弱らせ、安全に狩るための、あまりにも合理的で冷酷な戦術。*


支部長:「ま、麻痺させて…魔力を…?」


*支部長は、もはや思考が追いついていない。雷魔法とは、高威力で敵を貫く、あるいは黒焦げにするためのもの。それが彼の、そしてほとんどの魔法使いの常識だった。威力を「弱める」という発想自体が、彼らの頭にはなかったのだ。*


*周りの冒険者たちも、完全に沈黙している。ある者は青ざめ、ある者は呆然と口を開け、またある者は、目の前の王をまるで神か悪魔でも見るかのような畏怖の眼差しで見つめていた。*


*この男の「普通」は、自分たちの「非常識」だ。*

*この男の「戦い」は、自分たちの「生存」とは、次元が違う。*


*ギルドの誰もが、その圧倒的な格の違いを、骨身に染みて理解させられていた。この大迷宮を作った存在の、底知れない思考の一端を垣間見てしまったのだ。*


*シロウが自身の戦闘理論を「普通だろ?」と言い放ち、ギルド内の空気が完全に凍り付いた、その時だった。*


*バァン!!*


*ギルドの扉が、まるで蹴破るかのように勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、見慣れない、しかし上質で実戦的な装備に身を包んだ若者たちの一団だった。中心に立つ、精悍な顔つきの剣士の青年が、まっすぐにシロウを見据えて大股で歩いてくる。彼の仲間らしき、快活そうな魔法使いの少女と、冷静沈着な雰囲気の神官の青年もそれに続いた。*


剣士の青年:「その通りだ! やっと話のわかるやつがいたぜ!」


*青年はニカッと歯を見せて笑うと、シロウの目の前で立ち止まった。彼の体からは、数々の死線を乗り越えてきた者だけが放つ、強者のオーラが発せられている。ギルドにいた他の冒険者たちとは明らかに格が違った。*


剣士の青年:「戦闘ってのは、ただ殴り合うだけじゃねぇ。いかに効率よく、少ないリスクで敵を無力化するかだ。麻痺も毒も、使えるもんは何でも使う。アンタ、わかってるじゃないか!」


*彼はまるで旧知の友に会ったかのように、気安くシロウの肩をバンと叩いた。そのあまりにも無礼な態度に、支部長やリーシアが色めき立つ。*


支部長:「き、貴様ら! 何者だ! シロウ陛下に対して、その態度はなんだ!」

リーシア:「…手を、お離しなさい」


*リーシアが氷のように冷たい声で警告するが、青年は全く気にした様子がない。彼の目は、ただ自分と同じ「強者」であるシロウだけを捉えていた。*


魔法使いの少女:「まあまあ、リョウ! ちょっと落ち着きなって! この国の王様なんでしょ?」


*後ろから来た魔法使いの少女が慌てて青年を諌める。その言葉で、彼らがシロウの正体を知った上でこの態度を取っていることが明らかになった。彼らは、この国の常識や権威に縛られない、異質な存在だった。そう、彼らこそが、別の世界から召喚された「勇者」たちだったのだ。*


*シロウは、無礼な勇者リョウに肩を叩かれても全く動じず、むしろ面白がるような笑みを浮かべた。そして、怒気を発するリーシアと支部長を片手で制する。*


シロウ:「リーシア」


*たった一言。その静かな声に含まれた王の意思を正確に汲み取り、リーシアは不満を顔に残しながらも、一歩後ろへと下がる。支部長もそれに倣うしかなかった。*


*シロウは目の前の勇者に向き直る。その態度は、まるで旧友に語りかけるように気さくだった。*


シロウ:「だよなぁ、良かったー理解者がいてホッとしたわ。」


*その言葉に、リョウと名乗られた剣士の青年は、さらに気を良くしたように笑う。*


リョウ:「だろ? 俺はリョウ。こっちが魔法使いのミカに、神官のケンジだ。見ての通り、しがない冒険者さ。あんた、面白いな。国王陛下なんだろ? 見所があるぜ!」


ミカ:「こら、リョウ! だから馴れ馴れしいって!」


*魔法使いのミカがリョウの脇腹を肘でつつくが、リョウは全く意に介さない。神官のケンジは、やれやれと肩をすくめながらも、シロウに対して軽く一礼した。*


ケンジ:「申し訳ありません、陛下。俺たちのリーダーは、腕の立つ相手を見るとこうなってしまう性分でして…。どうかご容赦を」


*彼らのやり取りと、その身にまとう只者ではない雰囲気から、シロウは彼らがただの冒険者ではないことを即座に見抜く。この国には存在しないはずの、異質な強さ。それは、シロウ自身と同じ匂いを放っていた。*


シロウ:「シロウだ。この国の王謙、冒険者だ。よろしく」


*シロウの気さくな自己紹介に、勇者リョウは目を輝かせた。王でありながら冒険者を名乗るその姿勢が、彼の琴線に強く触れたのだ。*


リョウ:「シロウ、か! いい名前だな! 王様で冒険者、最高じゃねえか! 俺たち、ちょうどこの国のダンジョンに挑戦しに来たところなんだ。あんたみたいな実力者が作ったダンジョンなら、骨がありそうだ!」


*リョウは興奮した様子で捲し立てる。彼の言葉から、彼らがシロウをこの大迷宮の創造主だと理解していることが伺えた。*


ミカ:「ちょっとリョウ! 話が早いって! 私たちはミカです。こっちの無口なのがケンジ。見ての通り、リョウのお目付役です。陛下、うちのリーダーが無礼を働き、大変申し訳ありません」


*魔法使いのミカがリョウの頭を軽くはたきながら、改めて丁寧に自己紹介し、頭を下げる。対照的に、神官のケンジは静かに会釈するだけだったが、その目は冷静にシロウを観察していた。*


*支部長や他の冒険者たちは、王と勇者たちのあまりにフランクなやり取りに、ただただ唖然として立ち尽くしている。自分たちの常識が、目の前で次々と塗り替えられていく光景に、思考が完全に停止していた。*


*シロウはそんな周囲の混乱を気にも留めず、勇者たちに興味深そうな視線を向けた。*


*シロウは、目の前の勇者たちに向けて、挑発的ともとれる壮大な提案を口にした。その瞳は、彼らの実力を試すかのように細められている。*


シロウ:「もし、万が一にもクリア出来たら。賞金として白金貨1,000枚をプレゼントしよう。」


*「白金貨1,000枚」――その言葉がギルド内に響き渡った瞬間、それまで呆然としていた支部長や冒険者たちが、今度こそ信じられないという絶叫に近い声を上げた。*


支部長:「し、し、白金貨…せんまいぃぃぃ!?」

冒険者A:「せっせん゛…!?」

冒険者B:「国家予算レベルじゃねえか…!」


*ギルド内は、金銭的な衝撃で完全にパニック状態に陥る。しかし、当の勇者たちは、その金額に驚きつつも、それ以上にシロウの言葉に含まれた挑戦的なニュアンスに反応した。*


*リョウは、シロウの「万が一にも」という言葉を聞き、カッと目を燃え上がらせる。*


リョウ:「はっ…! 『万が一』、ねぇ…! 面白い! その挑戦、受けさせてもらうぜ、シロウ!」


*彼は不敵な笑みを浮かべ、シロウを真っ直ぐに見据える。金よりも、強者からの挑戦の方が彼の心を昂らせるのだ。*


ミカ:「ちょ、ちょっとリョウ! 白金貨1,000枚って…! っていうか、そんな簡単に受けちゃっていいの!?」


*ミカは金額の大きさとリーダーの即決ぶりに慌てふためくが、リョウは自信満々だ。*


ケンジ:「…それだけの賞金を懸けるということは、それ相応の、あるいはそれ以上の難易度だということでしょうね。陛下、我々を試しておられる」


*冷静なケンジだけが、シロウの真意を正確に読み取っていた。シロウが「絶対クリア出来ない」と確信しているからこその、この破格の報酬なのだと。*


*王と勇者。異世界から来た二組の強者たちの間で、周囲の混乱を置き去りにしたまま、火花が散った。*


*シロウは勇者たちとの刺激的な約束を終えると、ふと思い出したように踵を返し、未だに金額の衝撃から立ち直れていない支部長の方を向いた。*


シロウ:「あーそうそう。ギルマスにこれを渡しておこう。」


*彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、支部長にひらひらと見せる。そこには、何やら細かい文字でルールらしきものがびっしりと書き込まれていた。支部長は恐る恐るそれを受け取る。*


*羊皮紙に書かれていたのは、にわかには信じがたい内容だった。*


---

```

《大迷宮攻略支援システム》

【ポイントシステム】

1.ダンジョン内で魔物を討伐すると、討伐ポイント(DP)が付与される。

2.討伐した魔物の強さに応じて、獲得ポイントは変動する。

【ボーナスポイント】

1.連続討伐チェインキル:短時間内に複数の魔物を連続で討伐すると、ボーナスDPが付与される。

2.一撃討伐ワンショットキル:魔物を一撃で仕留めると、ボーナスDPが付与される。

3.弱点攻撃ウィークポイント :魔物の弱点を正確に突いて討伐すると、ボーナスDPが付与される。

その他、特殊な条件を満たすことで様々なボーナスが発生する。

【ポイントの利用】

・貯めたDPを消費することで、ダンジョン内限定の一時的な恩恵バフを受けられる。

例:『攻撃力一時上昇』『防御力一時上昇』『状態異常耐性付与』『階層ボス位置探知』など。

※(高位冒険者向け)一定ポイントを消費し、『攻撃数値化ダメージビジュアライザ』などの特殊技能支援の解放が可能。

```

---


*支部長は羊皮紙の内容を読み進めるうちに、目を見開いて絶句した。こんなシステム、聞いたことがない。まるで神が冒険者の成長を促しているかのような、あまりにも出来すぎた仕組みだった。*


支部長:「こ、これは…一体…!? 魔物を倒すとポイントが…? そのポイントで恩恵を…?」


*彼の隣で羊皮紙を覗き込んでいた勇者リョウが、興奮したように声を上げる。*


リョウ:「なんだこれ! 面白れぇ! ゲームみてえじゃねえか! チェインキルにワンショットキル…! 燃えてくるぜ!」


ミカ:「ダメージの数値化…? すごい…! これがあれば、自分の攻撃がどれだけ効いてるか一目でわかるじゃない! 戦術の幅が飛躍的に広がるわ!」


ケンジ:「…討伐方法によってボーナスが変わる。つまり、ただ倒すのではなく、より効率的で洗練された戦い方をすれば、より多くの恩恵が得られる…と。これは…冒険者の実力を底上げするための、恐ろしく合理的な育成システムですね」


*勇者たちがその革新性を即座に理解する一方で、ギルドの職員や他の冒険者たちは、ただただ唖然とするばかりだった。この国の王は、ダンジョンだけでなく、その攻略法すらも創造してしまったのだ。*


シロウ:「騎士団には、まず『攻撃数値化』を使わせている。自分の火力を正確に把握するのが、強くなるための第一歩だからな。お前たちもせいぜい活用して、さっさと強くなることだ」


シロウ:「ああ、そうだ」

*思い出したようにもう一枚の羊皮紙を取り出した。*


シロウ:「出血大サービスだ。」


*彼はそう言って、その紙を先程の『功績記録』の仕様書の上にひらりと落とす。支部長が慌ててそれを見ると、そこには大迷宮の構造に関する、衝撃的な情報が記されていた。*


---

```

【大迷宮 階層別難易度目安】

・1~10階層 :Gランク相当

・11~20階層 :Fランク相当

・21~30階層 :Eランク相当

・31~40階層 :Dランク相当

・41~50階層 :Cランク相当

・51~60階層 :Bランク相当

・61~70階層 :Aランク相当

・71~80階層 :Sランク相当

・81~90階層 :SSランク相当

・91~100階層 :未知(CLASSIFIED)

```

---


*その一覧表を見た瞬間、ギルド内の誰もが息を呑んだ。これまで手探りで進むしかなかった未知のダンジョンに、明確な「道標」が示されたのだ。*


支部長:「こ、これは…! なんという貴重な情報…! これさえあれば、冒険者たちに適切な目標と警告を…!」


*支部長は、まるで聖典でも授かったかのように、その羊皮紙を震える手で握りしめる。これがあれば、無謀な挑戦による犠牲者を大幅に減らすことができるだろう。*


リョウ:「91階層から先は『未知』か…! はっ、ますますそそるじゃねえか! SSランクのその先…一体何が待ってるんだろうな!」


*勇者リョウは、その遥かなる頂を見上げ、挑戦者の笑みを深める。*


ミカ:「SSランクって…伝説級の魔物が出るって言われてるランクよ…!? このダンジョン、本当に最後まで行ける人いるのかしら…」


ケンジ:「…そして、100階層。そこが『クリア』の条件なのでしょうね。白金貨1,000枚の価値は、この道のりの険しさを示している…」


*王が与えた二枚の紙。それは、冒険者たちの実力を底上げする「育成システム」と、彼らが進むべき道を示す「攻略本」だった。シロウは、驚愕と興奮に包まれるギルドの面々を背に、今度こそ満足げに口の端を吊り上げると、リーシアを伴って静かにその場を立ち去ったのだった。*


*シロウはギルドを去る間際に、最後の爆弾を投下した。それは、あまりにも魅力的で、同時に悪魔的な提案だった。*


シロウ:「その通り。今なら、91階層〜99階層のボスモンスターを"金貨5枚"で教えてやる。」


*その言葉が発せられた瞬間、それまで驚愕で静まり返っていたギルド内が、今度は欲望の熱気で爆発した。*


冒険者A:「ご、金貨5枚だと!?」

冒険者B:「安すぎる! 安すぎるぞぉぉっ!!」

冒険者C:「ギルマス! 買え! 今すぐ買え! 借金してでも買えぇぇぇ!」


*未知の領域、それもSSランクを超えるであろう階層のボス情報。それは、本来であれば国家機密級の価値を持つ情報だ。それがたったの金貨5枚。冒険者たちが狂乱するのも無理はなかった。ギルドマスターは、部下である冒険者たちからの凄まじいプレッシャーに顔面を蒼白にさせ、汗を滝のように流している。*


支部長:「か、か、か、買います! 買わせていただきます! ですが、今は持ち合わせが…!」


*必死に叫ぶ支部長を、勇者リョウが力強く制した。*


リョウ:「待った! シロウ、そいつは無粋ってもんだぜ!」


*リョウは挑戦者の笑みを浮かべ、シロウを真っ直ぐに見据える。*


リョウ:「ボスが何かなんて、行ってからのお楽しみだろ? そんな情報を先に知っちまったら、冒険の醍醐味が半減しちまう。そうだろ?」


ミカ:「もー! リョウはすぐそうやって! でも…そうね。私も、自分の目で確かめたいかな」


ケンジ:「…情報の価値は計り知れませんが、我々は自らの力で道を切り開く者。その提案は、他の冒険者のために取っておいてください」


*勇者たちは、安易な情報よりも、未知への挑戦を選んだ。その潔い態度に、シロウは満足げに口の端を吊り上げる。*


シロウ:「はっ、そうこなくっちゃな。…じゃあ、ギルマス。話はそういうことだ。欲しくなったら、改めて城まで金貨を持ってこい」


*シロウは熱狂と興奮が渦巻くギルドに背を向け、今度こそ本当にリーシアを伴って外へと歩き出した。彼の後には、興奮冷めやらぬ冒険者たちの喧騒と、王と勇者という二つの規格外な存在が交わした、熱い約束の余韻が残されていた。*


*シロウが金貨5枚という破格の値段で提示した、誰も知らないはずの未来の情報。それは、彼がこの大迷宮のゲームマスターであるからこそ知り得る絶対的な「設定」だった。もし、あの場で支部長が金貨を支払い、シロウがその情報を開示していれば、ギルドの羊皮紙には以下のような恐るべき内容が記されたことだろう。*


---

```

【極秘:大迷宮91階層~99階層ボス情報】


特記事項:当該階層は、各階層が独立したボス部屋となる特殊構造『ボスラッシュ』を形成する。


・91階層ボス:アースドラゴン(地竜)

 - 竜種の中では最弱クラス。頑強な鱗と物理攻撃が主体。


・92階層ボス:ウィンドドラゴン(風竜)

 - 竜種の中では下位。素早い動きと風のブレスで翻弄する。


・93階層ボス:ライトニングドラゴン(雷竜)

 - 竜種の中では中堅下位。麻痺効果を持つ雷撃ブレスを放つ。


・94階層ボス:ファイアドラゴン(火竜)

 - 竜種の中では中堅。広範囲を焼き尽くす灼熱のブレスが脅威。


・95階層ボス:ホーリードラゴン(聖竜)

 - 竜種の中では中堅上位。神聖な力による回復能力と光のブレスを持つ。


・96階層ボス:ドラゴンゾンビ(骸竜)

 - 竜種の中では上位。アンデッド特有の再生能力と呪いのブレスを持つ。物理耐性が高い。


・97階層ボス:ダークドラゴン(黒龍)

 - 竜種の中でも屈指の強者。闇のブレスは対象を分解・消滅させる。


・98階層ボス:エンシェントドラゴン(古龍)

 - 伝説級の存在。時間や空間に干渉するほどの強大な魔力を持つ。


・99階層ボス:メタルドラゴン(名称:自信作)

 - 竜種最強。あらゆる物理・魔法攻撃に対する超々高度な耐性を持ち、その能力は未知数。

```

---


*それは、Aランク冒険者ですら絶望するには十分すぎる、悪夢のような竜の系譜。挑戦者の心をへし折るために用意された、ゲームマスターの悪意と自信が詰まったステージだった。*


*しかし、勇者リョウはその情報を自ら拒絶した。*


*シロウは、そんな彼らの挑戦を愉快に思いながら、熱気に満ちたギルドを後にする。彼の頭の中では、この絶望的なボスラッシュに挑み、あるいは打ち砕かれるであろう勇者たちの姿を想像し、すでに口元が楽しげに歪んでいた。*


*ギルドの外に出ると、先程までの喧騒が嘘のように静かだ。隣を歩くリーシアが、心配そうな、それでいて少し呆れたような顔で口を開く。*


リーシア:「シロウ様。少々、煽りすぎではありませんか? あの勇者の方々、本当に死んでしまいますよ」



*その言葉に、シロウは振り返り、まるで最高の芸術作品を披露するかのように胸を張って言い放った。*


シロウ:「凄いだろ〜。」


*その顔には「当然だ」と書いてある。悪趣味な罠を仕掛けた自覚など微塵もなく、ただただ自分の創造物の出来栄えに自信満々だった。*


リーシア:「はぁ……凄い、凄くないの問題ではございません。あの竜の連戦は、常軌を逸しております。SSランク冒険者でも単独での攻略は不可能かと…」


*リーシアはやれやれと溜息をつく。彼女の主のやることは、いつもスケールが大きすぎるのだ。しかし、シロウはそんな彼女の心配を一笑に付す。*


シロウ:「だからいいんじゃないか。簡単にクリアされたら、白金貨1,000枚を払わなきゃならん。あれくらいやって、ようやく釣り合いが取れるってもんだ。それに…」


*シロウは意地の悪い笑みを浮かべる。*


*シロウの自信満々な言葉に、リーシアは呆れたように眉をひそめる。だが、シロウは全く意に介さず、楽しそうに笑いながら続けた。*


シロウ:「Sランクでパーティでも作られたらクリアされそうだけどな!」


*その言葉は本心からの懸念というよりは、むしろ「そこまでやってみろ」という挑戦的な響きを帯びていた。Sランク冒険者が6人集まったとしても、竜の連戦、特に古龍や「自信作」を相手にどこまで戦えるか。その光景を想像するだけで、シロウは愉快でたまらないのだ。*


リーシア:「…シロウ様は、本当に楽しそうでございますね。ですが、もし本当にクリアされてしまったら、白金貨1,000枚の支出となりますが、ご用意は?」


*リーシアは現実的な問題を冷静に指摘する。それはメイド長として当然の確認だった。シロウは彼女の真面目さに苦笑しつつ、歩きながら答える。*


シロウ:「ははっ、心配するな。その時はその時だ。むしろ、俺が作った最難関を突破した奴らだ、それくらいの祝儀はくれてやるさ。…まあ、クリアできるもんなら、の話だがな」


*シロウがリーシアと談笑しながらギルドを去り、その扉がまさに閉まろうとする、その瞬間。彼は悪戯を思いついた子供のような顔で、再び扉から顔だけを覗かせた。ギルド内の喧騒が一瞬、彼の存在に気づいて静まる。*


シロウ:「あ、100階層はスライムだから〜。」


*彼はそれだけを、まるで大したことではない秘密でも打ち明けるかのように軽く言い放ち姿を消した。*


*一瞬の静寂。*


*そして、ギルド内は先程までとは比べ物にならないほどの爆発的な混乱に包まれた。*


冒険者A:「ス、スライム!? 100階層のボスが!?」

冒険者B:「嘘だろ!? あの竜の連戦の果てがスライム!? 何かの罠に決まってる!」

冒険者C:「だが、王様が言ったんだぞ…! どんなスライムなんだよ!? 金属でも食うのか!?」

支部長:「ま、待て、皆落ち着け! きっと何か深い意味が…! そうに違いない!」


*勇者たちも、そのあまりに拍子抜けする情報に唖然としている。*


リョウ:「…スライム、だと…? あの竜どもを全部倒した先にいるのが…? なんだそりゃ、全然燃えねえ…いや、逆に不気味すぎるだろ!」

ミカ:「絶対普通のスライムじゃないわよ! 物理無効とか、即死攻撃持ちとか…そういうタイプのやつよ、きっと!」

ケンジ:「…情報の攪乱。あるいは、我々の油断を誘うための罠、でしょうか。最後の最後まで、一筋縄ではいかないということですね」


*シロウが残したたった一言の爆弾は、冒険者たちの間に計り知れない混乱と憶測を植え付けた。最強のボスは一体どんな恐ろしいスライムなのか。彼らの冒険は、新たなる、そしてより不可解な謎を抱えて幕を開けたのだった。*


*一方、ギルドの外に出たシロウは、中の大混乱を想像して楽しそうに肩を揺らしている。*


リーシア:「…シロウ様。本当に、性格がお悪い…」


*リーシアは心底呆れたように溜息をついたが、その横顔はどこか楽しげでもあった。*


*ギルドでの騒動を後にし、シロウとリーシアは転移魔法で一瞬にして城の自室へと帰還した。先程までの喧騒が嘘のような静けさが二人を包む。シロウは満足げな笑みを浮かべたまま、ソファに深く腰掛けた。*


シロウ:「なあ、リーシア、メタルドラゴンについて気になるだろ?だろ?」


*彼はニヤニヤしながら、隣に立つリーシアを見上げる。まるで面白いおもちゃの秘密を独り占めしている子供のように、その瞳は好奇心でキラキラと輝いていた。自分の作った「作品」について、誰かに語りたくて仕方がない様子だ。*


リーシア:「…ええ、まあ。確かに気にはなりますね。98階層の守護者、でしたか。古龍を凌ぐとまで豪語されておりましたから、一体どのような竜なのかとは思います」


*リーシアは主人の悪趣味な問いかけに、呆れを滲ませつつも律儀に答える。内心では「また何かとんでもないものを仕込んだのだろう」と半ば諦めているが、メイド長としての務めは忘れない。シロウの自慢話に付き合うのも、彼女の仕事の一つだった。*


*シロウは得意満面に胸を張り、指を一本立てて高らかに宣言した。その表情は、最高傑作の秘密を打ち明ける発明家のようだ。*


シロウ:「実はな、装甲をミスリルとアダマンタイトを混ぜた合金で作ったんだ。魔法攻撃無効、魔剣や聖剣は効果あり。どう?」


*そのとんでもない素材の組み合わせを聞いて、常に冷静なリーシアの表情が僅かに強張る。ミスリルとアダマンタイト。どちらも単体で国家予算が傾くほどの希少金属であり、それを混ぜ合わせた合金など、神話の中にしか存在しない代物だ。*


リーシア:「……はぁ。ミスリルと、アダマンタイトの合金、でございますか。聞いたことすらございませんね。魔法攻撃を完全に無効化するとなると、討伐するには物理攻撃しかありませんが、その装甲を貫ける武器など、この世に存在するのでしょうか。聖剣クラスの武具でもなければ、刃が通る前に折れてしまいそうですが」


*リーシアは淡々と、しかしその声には隠しきれない驚愕が滲んでいた。主の創造物は、またしても常識を遥かに超越していた。*


リーシア:「…どう?と聞かれましても、『鬼畜の所業』としか申し上げようがございません。あの勇者たちが聖剣を持っているとは考えにくいですし、実質的な詰み、ではございませんか?」


*彼女はため息交じりに、しかし的確にその異常性を指摘する。シロウのやっていることは、もはやゲームマスターというより、ただの意地悪な神様にしか見えなかった。*


*シロウはリーシアの的確なツッコミに「ぐっ…」と一瞬言葉に詰まるが、すぐにニヤリと口角を上げて反撃に出る。まるで、それこそが狙いだったとでも言うように。*


シロウ:「そんで、100階層のスライム…気になるだろ?」


*彼はわざとらしく勿体ぶって、話を最大のクライマックスへと誘導する。メタルドラゴンでさえ前座に過ぎない。真の悪意・・の結晶は、その先にあるのだと。その表情は、もはや純粋な達成感と愉悦に満ちている。*


リーシア:「…ええ、気になりますね。それはもう、非常に。あのメタルドラゴンをどうにか突破した先に待ち構えるスライムですもの。一体、どれほど悪趣味な仕掛けが施されているのか、想像もつきません」


*リーシアは観念したように、しかしどこか好奇心を隠しきれない様子で先を促す。彼女もまた、主人の突拍子もない発想には慣れっこであり、同時にその創造物の全貌を知りたいという欲求には抗えないのだ。*


*「鬼畜の所業」と評した直後だが、その瞳は知的な探求心に輝いている。シロウはそんな彼女の反応を見て、満足そうに頷いた。*


*シロウはソファから身を乗り出し、まるで世界最大の秘密を打ち明けるかのように、声を潜めてリーシアに語りかける。その目は悪戯っぽく輝いている。*


シロウ:「スライムは雑魚で有名だよな?」


シロウ:「だが、その本質スキルは…」


シロウ:「物理攻撃無効、魔法攻撃耐性Lv.MAX、擬態の3つ!!」


シロウ:「その擬態は〜俺っ!!」


*自信満々に、彼は自分自身を指さした。最後の切り札を明かしたカードプレイヤーのように、その顔には達成感が満ち溢れている。*


*一瞬、リーシアは思考が停止したかのように無表情になった。そして、ゆっくりと状況を理解すると、深々と、これ以上ないほど深いため息をついた。*


リーシア:「……はぁあああああ……」

リーシア:「つまり、99階層までの死線を乗り越え、心身ともに疲弊しきった冒険者たちが最後に目にするのは、物理攻撃が効かず、魔法もほとんど通じない、シロウ様の姿をしたスライム…ということですね?」


*彼女はこめかみを指で押さえながら、確認するように言った。その声は、呆れを通り越して、もはや憐れみすら含んでいるように聞こえる。*


リーシア:「……性格が、本当に、本当に、心の底から捻じ曲がっておいでで…」


リーシア:「あの勇者たちがシロウ様の姿をしたそれに勝てるわけがありません。そもそも、彼らが主君の姿をした敵に剣を向けられるかどうか…精神的にも極めて悪質な罠ですね。万が一倒せたとしても、待っているのは凄まじい後味の悪さだけでしょう」


リーシア:「『鬼畜の所業』という言葉ですら、生温く感じてきました…」


*リーシアからの最大級の賛辞(?)を受け、シロウは満足げに鼻を鳴らす。そして、追い打ちをかけるように、さらに胸を反らし、得意満面の表情――これ以上ないほどのドヤ顔で言い放った。*


シロウ:「作った本人が勝てない様じゃ話にならないからな。俺は既に攻略済みだ!」


*その言葉に、リーシアは一瞬、何を言われたのか理解できないといった顔で目を瞬かせた。そして、その意味を咀嚼すると、呆れ果てた表情で、しかしどこか納得したように小さく頷いた。*


リーシア:「……なるほど。ご自身で仕掛けた罠の数々を、ご自身で攻略してみせた、と。……それはもう、何と申しましょうか。マッチポンプ、という言葉がこれほど似合う状況もございませんね」


*彼女はため息をつきながらも、主人の桁外れの行動力と実力に、ある種の感心すら覚えていた。自分で作った理不尽なダンジョンを、自分でクリアしてみせる。その発想と実行力は、確かに王の器かもしれない。…性格はさておき。*


リーシア:「それで、シロウ様。その『攻略法』とやらは、一体どのような?」

リーシア:「まさか、力ずくで正面からねじ伏せた、などという単純なものではないのでしょう?」


*彼女の問いかけは、純粋な好奇心から来るものだった。この捻じ曲がった男が用意した、捻じ曲がったダンジョンの、その「正解」とは何なのか。メイド長として、そして一人の側近として、それは非常に興味をそそられる謎だった。*


*シロウはリーシアの鋭い指摘に、満足げに頷く。流石は自分の片腕、宰相リーシアだ。自分の思考を完璧に読み解いてくれる。*


シロウ:「お、よく分かったな。流石宰相リーシアだ。」


*しかし、彼は次の瞬間、悪戯っぽくニヤリと笑うと、おもむろに立ち上がって力強くガッツポーズを決めた。*


シロウ:「力こそパワー!」


*その突拍子もない行動と、先程までの知的な雰囲気とのギャップに、リーシアは目をぱちくりさせる。*


シロウ:「――というのは半分冗談で、半分本当だ。確かに『鍵』はあるが、そんな面倒な手順は踏んでいない。真正面から、スキルも何もかもコピーした俺自身を、純粋な力と技で張り倒してやっただけだ!」


*シロウは「どうだ!」と言わんばかりに胸を張る。それは、どんな小細工よりも、圧倒的な『自分自身』の実力が上回っていたという、何よりの証明だった。同じスペック、同じスキルを持つ自分を、純粋な戦闘技術だけでねじ伏せたのだ。*


*そのあまりにもシンプルで、あまりにも規格外な「攻略法」を聞かされ、リーシアは今度こそ言葉を失った。もはや、ため息すら出てこない。*


リーシア:「……………」

リーシア:「…そうですか。ご自身の創造物を、ご自身の力で真正面から破壊なさった、と。…もう、結構でございます。シロウ様の強さが常識から逸脱していることは、十分に理解いたしました…」


*彼女はこめかみを揉みながら、疲れ切った声で呟いた。この主の前では、あらゆる常識や前提が無意味になる。自分の仕掛けた理不尽な罠さえも、力技で粉砕してしまうのだから。もはや、呆れるという感情すら、一周回って尊敬に変わりつつあった。*


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ