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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*数えきれないほどの情交の末、ようやく満足したレイラを抱え、シロウが城の自室に転移で戻ったのは、月が空高く昇った真夜中のことだった。当然、二人のただならぬ様子と、三日ぶりに帰還した主の姿に、城はすぐさま騒がしくなった。*


*案の定、駆けつけてきたメイド長のリーシアは、シロウの腕の中でぐったりとしているレイラの姿(と、その破れ果てたドレス)を見るなり、雷を落とした。*


リーシア:「レイラ様! あなたというお方は! 一体どれだけ皆に心配をかけたと思っているのですか! しかもそのお姿は一体…! シロウ様まで巻き込んで!」


*リーシアの鋭い声が、静かな廊下に響き渡る。その怒気は凄まじく、普段は不遜な『魔王女』でさえ、思わずびくりと体を震わせたほどだ。しかし、彼女が何か反論するよりも先に、静寂を破る可愛らしい音が響いた。*


**ぐぅぅぅ~~…きゅるるるる…。**


*音の発生源は、リーシアに説教されているレイラのお腹だった。激しい戦闘と、その後の『運動』で、彼女のエネルギーは完全に底をついていたのだ。*


*その盛大な腹の音に、リーシアの説教はぴたりと止まる。彼女はこめかみをピクピクさせながら、深いため息をついた。*


リーシア:「…まずは、お食事と湯浴みが先ですね。お話は、それからたっぷりと聞かせていただきます。よろしいですね、レイラ様?」


*その有無を言わせぬ低い声に、レイラはバツが悪そうに顔をそむけ、小さくこくりと頷くことしかできなかった。シロウはそんな二人のやり取りを、疲れ切った体でただ黙って見ているのだった。*


*シロウは自室の豪華な風呂で、古竜との戦いで付着した汚れと、その後の情事でかいた汗を洗い流した。さっぱりとした体でバスローブを羽織り、一息つく。一方、隣のバスルームから出てきたレイラは、リーシアに捕まり、そのまま食堂へと連行されていった。空腹だったレイラは、出された大量の料理を夢中で平らげた後、ついに年貢の納め時とばかりに、リーシアの待つ応接室へと連れて行かれた。*


*シロウは自室のソファでくつろぎながら、スキル『隠匿神』を発動。意識を応接室へと飛ばし、壁と同化するように気配を完全に消して、中の様子を伺うことにした。*


*応接室では、ふかふかのソファにちょこんと座らされたレイラが、仁王立ちするリーシアの前に正座させられていた。風呂上がりのため、今はいつもの破れたドレスではなく、清潔なネグリジェ姿だ。*


リーシア:「…それで? 言い訳はありますか、レイラ様」


*リーシアの静かだが、有無を言わせぬ圧のこもった声が響く。*


レイラ(臆病):「うぅ…その、ですね…古竜の素材が国の役に立つかと、思いまして…」


*人格は臆病な方に戻っているらしい。彼女は両手の指をもじもじさせながら、上目遣いでリーシアの顔色を窺っている。*


リーシア:「その結果、三日も音信不通になり、あまつさえシロウ様自らが出向く事態になった、と? シロウ様がどれほどご心配なさったか、お分かりですか!?」


レイラ(臆病):「ひゃっ!? も、申し訳、ありません…!」


*リーシアに一喝され、レイラはびくっと肩を震わせ、小さな体で縮こまる。その様子は、まるで母親に叱られる子供のようだ。*


シロウ:「(まあ、自業自得だな)」


*シロウは心の中で呟きながら、面白半分にその光景を見守り続けることにした。*


*シロウが面白半分に説教の様子を眺めていると、リーシアが深いため息をついた。*


リーシア:「…はぁ。あなただけにお話しても埒が明きませんね。もう一人の方にも、しっかりとお灸を据えねばなりません」


*そう言うと、リーシアはレイラの額に指をそっと当て、静かに目を閉じた。リーシアの指先から、淡い光が放たれる。*


レイラ(臆病):「ひゃっ!? り、リーシア…? なにを…」


*臆病なレイラが戸惑いの声を上げたのも束の間、彼女の体の力がふっと抜け、次の瞬間、その瞳に好戦的で傲慢な光が宿った。*


レイラ(魔王女):「…何の用だ、リーシア。私は疲れているのだが」


*人格を強制的に引きずり出された『魔王女』は、不機嫌さを隠そうともせずにリーシアを睨みつける。しかし、メイド長は全く動じない。*


リーシア:「お疲れのところ申し訳ございません、レイラ様。ですが、あなた様が引き起こした後始末について、きっちりとお話をさせていただきたく。古竜三体を相手に単独で戦闘を仕掛けるなど、いくら魔王女といえど無謀にもほどがあります。万が一のことがあれば、この国は、そして何よりシロウ様はどうなっていたとお考えです!」


レイラ(魔王女):「ふん。余計な世話だ。私は私の力で戦っていた。貴様やシロウに助けを求めた覚えはない」


リーシア:「その結果が、シロウ様の手を煩わせることに繋がったのではありませんか! そもそも、あなたはシロウ様の妻であり、この『夜天のアストライア魔導皇国』の王妃なのですよ! 個人の武勇を誇る前に、そのお立場を少しは自覚なさってください!」


*リーシアの烈火の如き説教に、さすがの魔王女もぐっと言葉に詰まる。正論で真正面から殴りつけられ、反論の余地がないようだ。傲慢な彼女がたじたじになっている珍しい光景に、シロウは思わず口元が緩むのを抑えきれなかった。*


*『魔王女』を相手にしても一歩も引かないリーシア。正論で追い詰めた彼女は、ついに最後の一撃を放つために、深く、静かに息を吸った。その目は、憐れむようでもあり、突き放すようでもあった。*


リーシア:「…レイラ様。あなたのその無鉄砲な行動が、いつかシロウ様を本当に危険な目に遭わせるかもしれない。いえ、それだけではありませんわ」


*リーシアは一旦言葉を切り、レイラの目をまっすぐに見つめる。*


リーシア:「これ以上、ご自身の立場をわきまえずに勝手な行動を繰り返されるのであれば…シロウ様は、あなた様に愛想を尽かしてしまうかもしれません。あなたのことを、嫌いになってしまうかもしれませんよ?」


*その言葉は、どんな物理的な攻撃よりも鋭く、レイラの心を抉った。『魔王女』の強気な表情が、凍り付いたように固まる。シロウに嫌われる。その可能性は、彼女のプライドも、傲慢さも、すべてを粉々に打ち砕くのに十分すぎた。*


レイラ(魔王女):「なっ…! そ、そんなこと…あいつが、私を嫌うなど…あるはずが…」


*声が、震えている。強がってはいるものの、その瞳は激しく動揺していた。リーシアの一言は、二つの人格に共通する最大の弱点を的確に突き刺したのだ。*


*『隠匿神』で様子を伺っていたシロウは、思わず「おっと、それは効きすぎるだろ」と心の中で呟いた。リーシアの説教は、もはやただの叱責ではなく、レイラの精神を根底から揺さぶるカウンセリングの域に達していた。*


*シロウはリーシアの容赦ない追撃に、心の中で拍手を送っていた。まさに鬼のメイド長。彼女の前では、魔王女の威厳など紙切れ同然だった。*


*シロウに嫌われる、というリーシアの言葉は、二つの人格両方に致命的なダメージを与えたようだ。魔王女はすっかり意気消沈し、うつむいて唇を噛み締めている。リーシアはその様子を冷静に見つめ、さらに言葉を続けた。*


リーシア:「シロウ様は寛大な方です。ですが、その寛大さにいつまでも甘えていてはなりません。王妃という立場は、ただシロウ様の隣にいるだけではないのです。国を支え、民を守り、そして何より、王であるシロウ様をお支えするということ。その覚悟がおありならば、二度とこのような軽率な行動は慎んでいただきたい」


*リーシアの言葉は、もはやただの説教ではなかった。それは王妃としての心構えを説く、臣下から主君への真摯な諫言だった。*


レイラ(魔王女):「……わ、わかっている…」


*ようやく、レイラが絞り出すような声で呟く。その声にはもう、いつもの傲慢さは欠片も残っていなかった。*


リーシア:「分かっていただけましたか。…では、お二方とも、もう一度お聞きします。今回の件、深く反省していただけますね?」


*リーシアはそう言うと、今度は臆病な方のレイラを再び引きずり出す。二つの人格は、リーシアの前ではなすすべもなく、二人そろってしょんぼりと俯いた。*


レイラ(臆病):「は、はい…」

レイラ(魔王女):「……あぁ」


*二つの声が、小さな、しかしはっきりとした肯定の返事を返した。深夜に始まった長い長いお説教は、ようやく終わりを迎えようとしていた。*


ーー


*朝の柔らかな日差しが、王城のバルコニーに降り注ぐ。シロウはそこに立ち、アイテムボックスから一体の巨大な古竜を取り出していた。レイラとの戦闘で石化したそれは、翼を広げたまま威嚇するようなポーズで固まっており、芸術品のような迫力がある。*


シロウ:「うーん、何処に飾るか…やっぱり外だな。観光名所用に博物館でも作るか?」


*国の新たなシンボルとして、そして魔王としての威光を示すために、この石像をどう活用するか。シロウがそんな壮大な構想を練っていると、背後から静かな足音が近づいてきた。*


リーシア:「シロウ様、おはようございます。そのような場所で何をなさっているのですか?」


*現れたのは、いつも通り完璧な身のこなしのメイド長、リーシアだった。彼女はシロウの隣に立ち、巨大な古竜の石像を見上げても眉一つ動かさない。その冷静さには、いつもながら感心させられる。*


*シロウは古竜の石像を指し示し、名案を思いついたとでも言うようにリーシアに問いかけた。リーシアは巨大な石像を冷静に見つめた後、シロウに視線を戻し、いつものように丁寧な口調で答える。*


リーシア:「博物館、でございますか。素晴らしいお考えかと存じます、シロウ様」


*彼女は少し間を置いて、思案するように続ける。*


リーシア:「公園に設置するのも民の憩いの場となり良いかと存じますが、博物館として専門の建物を建設すれば、国の威光を示すだけでなく、入場料による新たな財源の確保、さらには古竜の研究施設を併設することで、我が国の魔法技術の発展にも大きく貢献するでしょう。また、天候に左右されず、貴重な石像の維持管理も容易になります」


*リーシアは完璧なプレゼンテーションで、博物館案のメリットを淀みなく列挙する。*


リーシア:「建設場所としましては、城下町の中心広場、世界樹様の近隣に設けるのがよろしいかと。多くの民の目に触れますし、世界樹様と古竜の石像が並び立つ様は、まさに我が国の象徴となるでしょう」


シロウ:「そうするか。ついでに使わなくなった武器や素材なんか飾れば、客引きにピッタリだな。」


*シロウの提案に、リーシアはにこりと完璧な微笑みを浮かべた。主の柔軟な発想に、彼女もまた感心したようだった。*


リーシア:「それは素晴らしいアイデアでございます、シロウ様。古竜の石像だけでなく、シロウ様がこれまでの冒険で手に入れられた伝説級の武具や、貴重な魔物の素材を展示すれば、世界中の冒険者や研究者がこぞって訪れることでしょう。まさに、生きた伝説の博物館。我が国の名を世界に轟かせる、またとない機会となります」


*リーシアは胸の前で手を組み、その瞳はすでに未来の博物館の成功を幻視しているかのように輝いていた。*


リーシア:「早速、国一番の建築家とドワーフの工匠たちに声をかけ、設計の準備に取り掛からせます。予算に関しましては、国庫から捻出いたしますのでご安心ください。ああ、展示品のリストアップもしなければなりませんね。シロウ様のアイテムボックスの中身を一度、整理させていただいてもよろしいでしょうか?」


*彼女は手にしたメモ帳にサラサラとペンを走らせながら、矢継ぎ早に計画を進めていく。その仕事の速さと手際の良さは、まさに万能のメイド長そのものだった。シロウがただ「飾ろうかな」と考えただけのものが、彼女の手にかかれば数分で壮大な国家プロジェクトへと昇華していく。*


シロウ:「あ、そうか…まずは異空間収納の整理か…」


*シロウの脳裏に、今まで無造作に放り込んできた雑多なアイテムの山が浮かぶ。倒したモンスターのよくわからない部位、性能が微妙で使わなくなった剣、とりあえず剥ぎ取った素材、食べかけの干し肉、どこかの遺跡で手に入れた用途不明のガラクタ…。それらが渾然一体となって、異次元空間の一角を占めているはずだ。*


シロウ:(大丈夫だろうか…?今まで何でも入るゴミ箱のように色々使わなくなった素材や武器、防具、食料なんか大量に入れまくってたからな…)」


*シロウが顔を引きつらせていると、リーシアはそんな彼の内心を見透かしたかのように、にこりと優雅に微笑んだ。*


リーシア:「ご心配には及びません、シロウ様。どのような状態であろうと、このリーシアが責任を持って、完璧に整理・分類してみせます。宝の山を掘り当てるようで、むしろ楽しみなくらいですわ」


*彼女の目は全く笑っていない。むしろ、散らかったものを完璧に整頓できるという喜びに打ち震えているようにすら見える。*


リーシア:「さあ、シロウ様。早速取り掛かりましょう。まずは中身を全て、この中庭に広げていただけますか? 私が一つ一つ鑑定し、要るもの、要らないもの、展示するもの、売却するもの、レイラ様のおやつになるものに仕分けいたしますので」


*そう言ってリーシアはどこからともなく純白の手袋を取り出し、ぱんっ、と小気味よい音を立ててはめた。やる気満々である。逃げ場はない。シロウは観念して、おそるおそるアイテムボックスを開くしかなかった。*


シロウ:「あ、そ、そう?まずは広い場所に…訓練所とかでいいかな?」


*シロウの提案に、リーシアは一瞬考え込むそぶりを見せた後、すぐに完璧な笑顔で頷いた。*


リーシア:「訓練場でございますね。確かに、中庭では他の者の往来もございますし、その方がよろしいでしょう。では、わたくしの方で早速手配を」


*リーシアはそう言うと、どこに連絡したのか、すぐさま数人のメイドたちが現れ、一糸乱れぬ動きで訓練場へと向かっていく。シロウが彼女の後について訓練場に到着する頃には、広大な敷地の大部分に巨大な白い布が何枚も隙間なく敷き詰められ、鑑定と仕分けのための準備が完璧に整えられていた。その手際の良さは、もはや魔法の域である。*


リーシア:「お待たせいたしました、シロウ様。準備は整いましたわ。いつでも結構でございます」


*白い布の中央に立ち、純白の手袋をはめたリーシアが、女王のような風格でシロウに促す。その背後には、記録用の書記官や荷物運びの者まで控えている。もはや、ただのアイテム整理ではなく、国家事業の様相を呈していた。*


*シロウはごくりと喉を鳴らし、この恐ろしく有能なメイド長の前で、長年溜め込んできた混沌のゴミ箱…もとい、異次元収納を開帳する覚悟を決めるのだった。*


*シロウは観念したように息をひとつ吐くと、リーシアに促されるまま、訓練場の中央に立った。そして、スキル『異空間収納』を発動させる。*


シロウ:「まずは、お金からで。」


*彼がそう言うと、目の前の空間が淡く光り、異次元収納の入り口が開いた。シロウはそこに無造作に腕を突っ込むと、持ってきた巨大な籠に向かって、掴み取った硬貨をジャラジャラと流し込み始めた。*


*カラン、ジャラジャラジャラーッ!*


*黒金貨、白金貨、金貨、銀貨、銅貨、そして大量の鉄貨。様々な価値を持つ硬貨が滝のように流れ出し、あっという間に一つの籠を満たし、また次の籠へと注がれていく。その光景は、まるでドラゴンの宝物庫をひっくり返したかのようだ。メイドたちは驚きに目を見張りながらも、リーシアの指示に従って次々と新しい籠を用意していく。*


*リーシアはその様子を冷静に見守り、書記官に何かを指示している。*


リーシア:「金種ごとに重量を計測し、正確な枚数を算出してください。誤差は許しませんよ。これらは全て、我が国の貴重な資産なのですから」


*シロウが何気なく溜め込んでいたお金は、リーシアの手によって、瞬く間に国家予算として計上されようとしていた。シロウはただ黙々と、底が見えない異次元収納から、硬貨を出し続けるのだった。*


*硬貨の滝がようやく止まり、訓練場の一角には金種ごとに分けられた貨幣の小山がいくつも築かれていた。その額は、小国一つを余裕で買い取れるほどだろう。リーシアが書記官たちに厳密な計算を命じている中、シロウは次のカテゴリへと移る。*


シロウ:「それから、武器と防具を…」


*シロウは再び異次元収納に手を突っ込むと、今度は武具の類を取り出し始めた。まず現れたのは、星屑のようにきらめく神聖な輝きを放つ『聖剣アスカロン』。次に、夜の闇そのものを固めたかのような『星屑の外套』。そして、禍々しいオーラを放つ二本の短剣、『ステラヴェノム』と『ナイトファング』。シロウはそれらを丁寧に布の上に並べていく。*


シロウ:「あ、短剣の刃先に触れないでね。多分死ぬから」


*シロウが何気なく付け加えた一言に、武器を記録しようと近づきかけたメイドたちが凍り付く。特に『ステラヴェノム』の刃先から放たれる、見るからに危険な毒のオーラは、触れずともその致死性を物語っていた。*


*リーシアは眉一つ動かさず、シロウの出した品々を鑑定の目で冷静に見つめる。*


リーシア:「聖剣アスカロン、星屑の外套…いずれも神話級、あるいはそれに匹敵するアーティファクト。そしてこの短剣は…超高密度の麻痺毒と腐食呪詛が付与されていますね。確かに、素手で触れれば即死は免れないでしょう」


*彼女は淀みなく鑑定結果を述べると、近くのメイドに命じる。*


リーシア:「あなたたち、これらの武具には決して素手で触れないように。専用の魔力遮断クロスを用意しなさい。シロウ様の伝説の一端…これは博物館の目玉になりますわ」


*リーシアの瞳は、まるで最高の宝石を見つけた鑑定家のようにきらきらと輝いていた。シロウのゴミ箱整理は、国家的な宝物庫の棚卸しへと完全に姿を変えていた。*


*伝説級の武具の山に、リーシアとメイドたちが畏敬の念を抱いているのを横目に、シロウは気まずそうに次の品々を取り出し始めた。*


シロウ:「えー、古竜は一旦大きいから置いといて…」


シロウ:「(昨日倒した3体の内の2体がまだ入ってるんだよな…)」

*手探りで次のカテゴリのものを掴み、布の上に置いていく。*


*ごとり、と置かれたのは、食べかけで歯形がついた干し肉。ぱさぱさになったパンの耳。革袋に入っているが、明らかに数日は経っていそうな飲み残しのスープ。そして、ところどころ茶色く変色したリンゴなど…。*


*先ほどまでの神話級アイテムの輝きとはあまりにも対照的な、生活感あふれる、というか、はっきり言ってゴミ寸前の食料品だったものの山が築かれていく。*


*訓練場に、なんとも言えない空気が流れた。先ほどまでキラキラした目で宝物を鑑定していたリーシアの眉が、ぴくりと動く。*


リーシア:「……シロウ様。こちらは?」


*その声は、完璧なポーカーフェイスを保ってはいるものの、先ほどよりもワントーン低くなっている。*


シロウ:「あー、異空間収納を手に入れた時って…その、何でも入って便利だなーって…」


*シロウは気まずそうに視線を泳がせながら、しどろもどろに言い訳をする。要するに、便利なゴミ箱代わりに使っていた、ということだ。*


*神話級の武具が並ぶ隣に、無造作に置かれた食べかすの山。そのシュールな光景に、周りのメイドたちはどう反応していいか分からず、固まっている。*


*リーシアは完璧な微笑みを崩さないまま、ゆっくりと食べかすの山に近づいた。そして、純白の手袋をはめた指で、食べかけの干し肉をそっとつまみ上げる。*


リーシア:「……なるほど。異次元収納は時間の流れが停止するため、腐敗こそしませんが…」


*彼女はそこで言葉を止め、完璧な笑顔のまま、ゆっくりとシロウの方を振り返った。その目は、全く笑っていない。むしろ、絶対零度の輝きを宿している。*


リーシア:「シロウ様。王たる者、ご自身の持ち物は常に整理整頓を心掛けるべきです。ましてや、神聖なる収納空間をゴミ箱扱いするなど、言語道断。このリーシア、メイド長として、そしてシロウ様にお仕えする者として、大変悲しく思います」


*その声は静かだが、先ほどのレイラへの説教を彷彿とさせる、底知れない圧が込められていた。*


リーシア:「これらは後ほど、わたくしが責任を持って『処分』させていただきます。…さて、シロウ様。気を取り直して、次はどのような『お宝』が出てくるのかしら?」


*『処分』と『お宝』という単語を妙に強調しながら、リーシアはにっこりと微笑む。シロウは背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、震える手で再びアイテムボックスに手を突っ込むしかなかった。*


*リーシアの冷たい視線に晒されながら、シロウは恐る恐る次のアイテムを取り出していく。先ほどのゴミとは違い、今度はまともな(?)ものが出てきた。*


*どさり、と重い音を立てて置かれたのは、霜降りが美しい高級オーク肉の巨大な塊。続いて、艶やかな皮に覆われたコカトリスの極上もも肉。さらに、鱗付きのままのワイバーンの尻尾肉、そして巨大なクラーケンの足が数本、ぬるりとした感触と共に現れた。*


*どれも一級品の食材ばかりだが、いかんせん調理前の生々しい姿のままである。先ほどのゴミの山から一転、今度は精肉市場のような光景が訓練場に広がった。*


*メイドたちは悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえている。リーシアは、先ほどの絶対零度の表情から一転、今度はこめかみをピクピクと引きつらせながら、完璧な営業スマイルを浮かべていた。*


リーシア:「……シロウ様。これらはまた、見事な食材ですこと。高級オークにコカトリス、果てはクラーケンまで…いずれも市場に出せば高値で取引される希少部位ばかり。素晴らしい『コレクション』ですわね」


*彼女は『コレクション』という単語に、ありったけの皮肉を込めて言った。その目は「なぜ調理もせずにこんなものを溜め込んでいるのですか」と雄弁に物語っている。*


リーシア:「これらは厨房に運ばせ、料理長に最高の料理に仕立てさせましょう。今宵の晩餐は、シロウ様の『コレクション』を祝したフルコースとさせていただきます」


*その言葉は一見丁寧だが、シロウにとっては公開処刑の宣告に等しかった。*


リーシア:「さあ、皆様、手早く運びなさい!血抜きと下処理が必要ですわ!それから…シロウ様?まだ何か『忘れ物』はございませんか?」


*リーシアはてきぱきとメイドたちに指示を飛ばしながら、笑顔でシロウに次のアイテムを促す。その有無を言わせぬ圧力に、シロウはもはや逆らうことができなかった。*


*希少食材の山がメイドたちによって手際よく片付けられていく中、シロウはもはや無心で異次元収納から物を取り出し続ける。*


*がちゃん、と軽い音を立てて、使い古された剣や穂先が欠けた槍、凹んだ盾が次々と地面に置かれていく。かつての冒険で使っては捨て、そのまま収納に放り込んでいたのだろう。続いて、擦り切れた皮の鎧や、酒場で使ったであろうギャンブル用のカードセット、さらにはインクが滲んで読めなくなった古い依頼書などが雑多に現れる。*


*そして…。*


*ごとり、と乾いた音を立てて、最後に転がり出たのは、目を見開き、苦悶の表情を浮かべたままの盗賊の生首だった。時間停止の効果で、生々しさは失われていない。*


シロウ:「……………。」


*訓練場が、先ほどまでとは比較にならない静寂に包まれた。*


*メイドの一人が小さく「ひっ」と悲鳴を漏らし、その場にへたり込む。他の者たちも顔面蒼白だ。*


*リーシアは、完璧な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと、本当にゆっくりと生首の方へ歩み寄る。そして、その前に屈むと、まるで珍しい花でも観察するかのように、じっとそれを見つめた。*


リーシア:「…………シロウ様」


*静寂を破ったのは、地を這うような、恐ろしく低いリーシアの声だった。*


リーシア:「これは…一体、どういう『思い出の品』でしょうか…? よろしければ、このリーシアに詳しくお聞かせ願えませんでしょうか?」


*彼女は顔を上げない。しかし、その背中から放たれるオーラは、先ほどの比ではなかった。それは純粋な怒り、そして呆れを通り越した、何か別の感情のようにも見えた。訓練場の気温が、物理的に数度下がった気がした。*


*盗賊の生首がもたらした衝撃的な静寂の中、シロウは悪びれるでもなく、むしろ開き直ったかのように淡々と異次元収納から物を取り出し続ける。まるで「まだこんなものがあるぞ」とでも言いたげに。*


シロウ:「すまない…忘れてた。」


*その言葉をBGMに、シロウの足元には新たなガラクタの山が築かれていく。*


*ごそごそと取り出されたのは、用途不明の錬金術素材の数々。次に、古びて変色した羊皮紙の巻物――『失われた流派の製作書』。かと思えば、どさり、と生々しい音を立てて落ちてきたのは、どこかの誰かの『片腕』。続いて、カラカラと乾いた音を立てて転がる『スケルトンの骨』と、腐敗はしていないものの、見るからに邪魔な『ゴブリンの死体』。そして最後に、禍々しいオーラを放つ装丁の『禁書』が数冊、無造作に投げ出された。*


シロウ:「仕方ないだろ…異空間収納を獲得したのは随分昔の事なんだから…」


*悪びれる様子もなく、むしろ「昔のことだから仕方ない」と開き直るシロウ。*


*その言葉を聞いた瞬間、屈んで生首を観察していたリーシアが、ゆっくりと、本当にゆっくりと立ち上がった。完璧な微笑みは崩れていない。しかし、その背後には、黒いオーラのようなものがゆらりと立ち昇っているのが見える。*


リーシア:「……シロウ様」


*声は、鈴が鳴るようにクリアだが、一切の感情が抜け落ちている。*


リーシア:「『昔のこと』。ええ、そうでしょうとも。貴方様が数多の伝説を打ち立ててこられた、その永い時間の積み重ね…素晴らしいことですわ」


*彼女は一歩、また一歩と、無表情のままシロウに近づいてくる。メイドたちは恐怖のあまり、後ずさることもできずに固まっている。*


リーシア:「ですが、シロウ様。王となり、夫となり、一国の主となられた今もなお、その『ゴミ箱』を放置されていたご自覚はありますでしょうか? もし、わたくしやレイラ様、シルフィやルミナに何かあった時、この中から慌ててポーションを探すのですか? この生首や死体の中から?」


*リーシアの言葉は、静かだが鋭い刃のようにシロウの胸に突き刺さる。彼女はシロウの目の前でぴたりと止まった。*


リーシア:「メイド長として、そして、貴方様の未来を誰よりも願う者として、申し上げます。―――今すぐ、ここで、全て出し尽くしなさい。一つ残らず。そして、わたくしの監督のもと、完璧に整理していただきます。これは、命令です」


*「命令」という言葉に、逆らうことのできない絶対的な意思が込められていた。メイド長の仮面を脱ぎ捨てた、一人の忠臣としての、魂からの懇願と叱責だった。*


*リーシアの有無を言わせぬ「命令」に、シロウは観念したように頷くしかなかった。*


シロウ:「わ、分かったよ…」


*半ばヤケクソになったように、シロウは再び異次元収納に手を突っ込み、中身をぶちまけ始めた。今度は、鉱石や宝石の類だ。*


*がらがら、ごろんごろん、と様々な大きさの石が、先ほどのガラクタの山とは別の場所に積み上がっていく。*


*まず、ありふれた『鉄鉱石』が小山を作る。次に、緑色に鈍く輝く『ミスリル鉱石』の塊。燃えるような赤色を帯びた希少な『アダマンタイト鉱石』。きらびやかな『銀鉱石』と『金鉱石』。そして、桜の花びらのような淡い色合いの、伝説級の金属『オリハルコン鉱石』が、ひときわ強い魔力を放ちながら転がり出た。*


*しかし、その合間合間に、ただの『石ころ』がいくつも混じっている。*


*さらに、神秘的な翡翠色に輝く超希少金属『ヒヒイロカネ』。また『石ころ』。『石ころ』。深紅に輝く大粒の『ルビー』。太陽の光を閉じ込めたような『トパーズ』。またしても『石ころ』。そして最後に、人の頭ほどもある巨大な『ダイヤモンド』の原石が、ごとりと音を立てて転がり出た。*


*もはや価値のあるものとないものがごちゃ混ぜになった、カオスな宝の山(と石ころの山)が訓練場の一角に出現する。*


*リーシアは、その光景を腕を組んで冷静に眺めている。彼女の鑑定眼は、その一つ一つがどれほどの価値を持つかを正確に見抜いていた。桜色のオリハルコン、翡翠色のヒヒイロカネ、そして巨大なダイヤモンド。どれも国宝級、いや、世界の歴史を揺るがしかねない代物だ。*


*しかし、それらと全く同じように、ただの石ころがゴロゴロ転がっている現状に、彼女のこめかみが再び引きつり始める。*


リーシア:「……シロウ様。なぜ、オリハルコンと石ころを同じ場所に? 素晴らしい。実に見事な『分別』ですこと」


*その声は氷のように冷たく、最高級の皮肉が込められていた。彼女はメイドたちにではなく、シロウ自身に命じる。*


リーシア:「さあ、シロウ様。ご自分で仕分けなさい。宝石、希少金属、汎用金属、そして…『石ころ』に。これも王としての務めの一つですわ」


*シロウはリーシアに命じられるがまま、うんざりした顔で鉱石と石ころの仕分けを始める。しかし、それもすぐに飽きたのか、再び異次元収納に手を突っ込み、次なる中身をぶちまけ始めた。今度は、膨大な数の武器だ。*


*カキン、ガシャン、と金属がぶつかり合うやかましい音が響き渡る。様々な形状の『短剣』、『長剣』、『槍』、『メイス』、『盾』、『大剣』、『杖』、『刀』、果ては『投擲器』や『弓』まで。そのほとんどは、冒険の初期に使っていたであろう、ありふれた量産品や、倒したモンスターが落としたドロップ品だ。先ほど出した神話級の武具とは比べ物にならない、まさにガラクタの山が築かれていく。*


*さらにその中から、古びた『魔道書』が数冊と、異質な金属の塊が出てきた。それはシロウが前世の知識を元に試作したという『銃』だった。*


*リーシアは、新たにできた武器の山を一瞥し、そして試作品の銃を興味深そうに手に取った。*


リーシア:「……ほう。これは興味深い構造ですわね。引き金を引くことで、内部に込めた魔力を指向性を持って射出する…と。なるほど、魔力弾の銃ですか」


*彼女は淀みなくその構造を看破すると、ふ、と優雅に微笑んだ。*


リーシア:「シロウ様。貴方様は時折、このような奇抜な発想でわたくし達を驚かせてくださいますね。素晴らしい才能ですわ。…ですが」


*彼女はそこで言葉を切ると、銃をそっと置き、ガラクタ武器の山を冷たい目で見下ろした。*


リーシア:「才能の無駄遣い、という言葉もご存知でしょうか? このようなガラクタを溜め込む時間がおありでしたら、その素晴らしい発明を一つでも形にする方が、よほど国のためになります。これらは全て溶かし、アストライアの新たな武具の礎とさせていただきます」


*リーシアは冷徹に言い放つと、疲れたように溜息を一つついた。*


リーシア:「…まだ、ございますか?」


*その問いかけは、もはや期待も呆れも通り越し、ただただ「早く終わらせてほしい」という純粋な疲労の色を帯びていた。*


*シロウはリーシアの疲労困憊な視線をものともせず、さらに異次元収納からアイテムを取り出していく。その内容は、もはや脈絡というものが完全に失われていた。*


*まず、神秘的な輝きを放つ蘇生アイテム『フェニックスの尾』。その隣に、ぽいと置かれたのは、食べかけの『クッキー』の袋。*

*続いて、何が書かれているか不明な魔法の『スクロール』の束と、高級そうなラベルが貼られた『年代物の赤ワイン』のボトル。しかし、その隣には乾いた『クラッカー』が数枚と、明らかに食べ頃を過ぎた『ローストビーフ』の塊が転がっている。*


*さらには、なぜか割れていない『卵』が数個、無造作に置かれ、その横には使い古しの『釣竿』が立てかけられた。かと思えば、どすんと重い音を立てて『原木』が数本現れ、その上には古びて端が破れた『宝の地図』がひらりと乗る。*


*そして、用途不明の輝きを放つ『何かの宝玉』、聖なる気配を纏う『何かの羽』。極めつけは、なぜかここに存在するトゲトゲした『サボテン』と、さらさらとこぼれ落ちる一握りの『砂漠の砂』…。*


*神話級のアイテムから、ただのゴミ、食材、素材、趣味の道具、そして意味不明なものまで、あまりにも混沌とした光景が訓練場に広がっていた。*


*リーシアは、もう何も言うまいと固く口を閉ざしている。彼女はただ、腕を組んだまま、静かに、じっと、新たにできたカオスの山を見つめていた。その表情は能面のように変化がなく、逆にそれが恐ろしい。*


*やがて、彼女はゆっくりと天を仰ぎ、深く、ふかーく息を吸い込んだ。そして、それを細く、ながーく吐き出す。まるで、溜まりに溜まった何かを全て吐き出すかのように。*


リーシア:「……シロウ様」


*絞り出すような、それでいてどこか諦観に満ちた声だった。*


リーシア:「もう…結構ですわ。わたくしの負けです。貴方様の『混沌カオス』は、わたくしの理解と常識を遥かに超越しておりました」


*彼女はふらり、とよろめき、近くにいたメイドに支えられた。その顔には、隠しようもない疲労の色が浮かんでいる。*


リーシア:「残りは…残りはもう、見たくありません…。後日、本当に後日、わたくしが万全の体調の時に、改めて…改めて、お付き合いさせていただきます…。今日は、もう、お休みなさいませ…」


*メイド長としての威厳も、叱責する気力も、皮肉を言う元気すらも、シロウの無限に出てくるガラクタに吸い尽くされてしまったようだった。彼女はメイドに支えられながら、力なくその場を後にしようとする。その背中は、歴戦の勇者が強大な敵に敗れた後のように、どこか寂しげだった。*


*リーシアがメイドに支えられ、疲れ果てた様子で去っていく。その背中を見送りながら、シロウはどこか申し訳ないような、それでいて肩の荷が下りたような複雑な気持ちで呟いた。*


シロウ:「あ、ああ。分かった…後は…変なものは無いから…多分?」


*(確実に変な物は全部出し切った)と心の中で付け加えながら、シロウは目の前に広がる、自身が生み出した混沌の山々を眺める。*


*神話級の武具、希少な金属や宝石、ガラクタ同然の武器、食べかけの食料、そして用途不明の品々…。訓練場はもはや巨大な蚤の市か、あるいはゴミ処理場のような様相を呈していた。*


*残されたメイドたちは、途方に暮れた表情で立ち尽くしている。主であるシロウの命令を待っているのか、それともあまりの惨状に思考が停止しているのか。*


*遠くからは、レイラがリーシアにこってりと説教されているであろう声が、微かに聞こえてくるような気がした。*


*とりあえず、この目の前の惨状をどうにかしなければならない。シロウは一つ溜息をつくと、まずは手近な鉱石の山に目を向けた。*


*数日後、城の執務室。シロウが書類仕事に追われていると、完璧な微笑みを浮かべたリーシアが、恭しく紅茶を差し出してきた。その顔色はすっかり元に戻っており、むしろ以前よりも活力に満ち溢れているように見える。*


リーシア:「シロウ様、お疲れ様です。少し休憩になさってください」


*シロウが紅茶に口をつけ、一息ついたのを見計らって、リーシアはにっこりと、しかし有無を言わせぬ圧力のこもった笑顔で切り出した。*


リーシア:「さて、シロウ様。先日の『お宝』の整理ですが、わたくしもすっかり気力、体力が回復いたしました。つきましては、本日、あの続きをさせていただきたく存じます。今度こそ、その収納の底が見えるまで、一つ残らず拝見させていただきますわ♡」


*その瞳の奥には、決して逃がさないという強い意志が宿っている。断るという選択肢は存在しないようだ。*


*そして、シロウは再びあの訓練場へと連れてこられた。前回の大混乱の後、メイドたちによって完璧に清掃され、分類されたアイテムはそれぞれの倉庫へと運び去られている。がらんとした訓練場に、リーシアとシロウ、そして数名の屈強な護衛騎士だけが立っていた。護衛騎士たちは、万が一「生首」や「動く死体」が出てきても動じないように選抜された者たちだろう。*


リーシア:「さあ、シロウ様。前回は確か…砂漠の砂、でしたかしら? さあ、その続きをどうぞ。今度は何が出てきても、わたくしは驚きませんから」


*腕を組み、仁王立ちするリーシア。その姿は、これから始まるであろう混沌を全て受け止めるという覚悟に満ちていた。*


ーー


*数日の休息を経て、精神的にも肉体的にも完全回復したリーシアに促され、シロウは再びがらんとした訓練場に立っていた。前回の大惨事の反省からか、今回は護衛騎士まで配置されている。*


*シロウは観念したように息をつき、再び異次元収納に意識を集中させた。*


*カラン、キィン、と澄んだ金属音が響き渡る。シロウの足元に、次々と剣が姿を現していく。*


*まず、神聖なオーラを放つ『聖剣』が一本。次に、禍々しい紫の光を放つ『魔剣』。また『聖剣』。かと思えば、刃こぼれし、赤錆が浮いた『錆びた剣』。再び『聖剣』。歴史の重みを感じさせる装飾の『伝説の剣』。また『魔剣』。そして、柄の革が擦り切れた『古びた剣』と、最後に異国のデザインが施された『希少な剣』が転がり出た。*


*あっという間に、訓練場の床には大小さまざまな剣が、まるで墓標のように突き刺さったり、転がったりしている。そのほとんどが、ただの剣ではなく、何らかの逸話や魔力を秘めていそうなものばかりだった。*


シロウ:「あー、剣集めにハマってた時のやつだ…」


*シロウはどこか遠い目をして、懐かしむように呟いた。その一言で、この剣の山が意図的なコレクションであったことが判明する。*


*リーシアは腕を組んだまま、その光景を冷静に見つめていた。彼女は一本の聖剣を鑑定の目で見つめ、次に隣の魔剣に視線を移す。*


リーシア:「…なるほど。聖剣と魔剣を隣り合わせに保管するとは。さすがはシロウ様、属性の反発など些細なこととお考えなのですね」


*その声は静かだが、チクリと棘が含まれている。*


リーシア:「これらも一本一本、来歴を調べ、博物館の目録に加えさせていただきます。…ですがシロウ様。コレクションも結構ですが、せめて種類ごとに布で包むなどの配慮はできなかったのでしょうか?」


*完璧な微笑みの裏で、彼女の眉がわずかにひくついているのを、シロウは見逃さなかった。*


シロウ:「さ、さぁーどんどんいこー。」


*シロウはリーシアの皮肉めいた視線から逃れるように、わざとらしく明るい声を上げると、目を逸らしながら次々と異次元収納から物を取り出していく。*


*しかし、次に出てきたのは、もはや「物」というより「素材の塊」だった。*


*ドサッ、ドサッ、と重く湿った音が連続して響き渡る。*


*まず、様々な獣の特徴が歪に組み合わさった『解体済みのキメラ』のパーツ。次に、岩のような鱗に覆われた『地龍』の分厚い皮と巨大な心臓。青い鱗が美しい『海龍』のヒレと肝。赤黒い鱗を持つ『炎龍』の翼膜と火炎袋。軽やかな白銀の鱗をした『風龍』の爪と喉の鳴管。そして、お馴染みの『ワイバーン』の肉塊が数体分。*


*生物の山はそこで終わらない。*


*ふわり、と実体があるのかないのか分からない、半透明の『幽鬼』が捕獲用の魔術結界に包まれたまま現れ、最後にアダマンタイトの甲羅を持つ巨大な亀、『アダマンタイマイ』の解体された甲羅と四肢が、ガシャンと音を立てて転がり出た。*


*訓練場の一角は、またたく間に神話級モンスター専門の解体処理場のような、凄惨かつ壮大な光景へと変貌した。血の匂いこそしないものの、その生々しいパーツの山は、屈強な護衛騎士たちでさえも顔を青ざめさせるには十分だった。*


*リーシアは、目の前に築かれていく伝説級モンスターの素材の山を、ただただ無言で見つめている。彼女の鑑定眼は、それらがどれほど希少で、天文学的な価値を持つ素材であるかを正確に捉えていた。地龍の心臓、各種龍の逆鱗や魔力器官、そしてアダマンタイマイの甲羅。一つ一つが国の至宝となりうる代物だ。*


*しかし、それらがまるで魚市場のマグロのように無造作に、解体された姿で山積みになっている。*


リーシア:「…………シロウ様」


*静寂を破ったのは、感情の読めない、平坦なリーシアの声だった。*


リーシア:「これらは…調理するでもなく、武具にするでもなく、ただ…解体して、保管を? なぜですの…?」


*その問いは、純粋な疑問だった。価値を理解しているからこそ、この杜撰な保管方法が理解できない。彼女の完璧な微笑みは崩れたまま、その表情には困惑と、ほんの少しの恐怖すら浮かんでいた。*


シロウ:「えーっと、コレクション? 確か、この時は経験値欲しさに狩りまくってた気がする。」


*シロウは悪びれる様子もなく、むしろ「レベル上げの副産物だ」とでも言いたげに、あっけらかんと言い放った。経験値稼ぎのついでに狩った伝説級モンスターの亡骸が、この無造作な山というわけだ。*


*その言葉を聞いた瞬間、リーシアの表情から困惑が消え、代わりに深い、深ーーい溜息が彼女の口から漏れた。彼女はこめかみを指で強く押さえ、天を仰ぐ。*


リーシア:「経験値…ですか。なるほど、貴方様にとっては、このアダマンタイマイも道端のスライムも大差ない、と…そういうことですね」


*その声には、もはや怒りや呆れを通り越した、一種の悟りのような響きがあった。常識で測ろうとした自分が馬鹿だった、とでも言いたげだ。*


リーシア:「承知いたしました。シロウ様の強さの秘訣、その一端が垣間見えた気がします。…ええ、貴重な体験ですわ」


*彼女は諦めたように言うと、近くに控えていた護衛騎士に向き直った。その顔には、先ほどまでの感情の揺らぎは消え、完璧なメイド長の無表情が戻っている。*


リーシア:「あなたたち、聞こえましたね。これらは全て、王がレベルアップの際に倒された『雑魚モンスター』の素材です。ですが、我々にとっては一級品の国宝です。ドワーフの鍛冶師たちと、王宮の料理長を総動員しなさい。一つ残らず、我がアストライアの血肉とします。丁重に運びなさい!」


*『雑魚モンスター』という単語をあえて強調し、騎士たちに檄を飛ばすリーシア。騎士たちは「はっ!」と力強く返事をすると、伝説の龍の亡骸を二人掛かりで運び始める。その光景はあまりにもシュールだった。*


リーシア:「…さあ、シロウ様。貴方様の『狩りの記録』、まだ続きがあるのでしょう? どうぞ、ご遠慮なく」


*彼女は再びシロウに向き直り、完璧なカーテシーと共に続きを促す。その瞳は、もはや何が出てきても動じないという、鋼の覚悟に満ちていた。*


*経験値稼ぎの副産物である神話級モンスターの素材の山を、騎士たちが懸命に運び出していく。そのシュールな光景を背に、シロウはどこか気まずそうに、しかし悪びれる様子もなく、次のアイテムを取り出した。*


*ごろん。*

*現れたのは、ただの石の塊だった。いや、よく見るとそれは自然の岩石ではなく、明らかに人工的な、そして尋常ならざる魔力を帯びた『ダンジョンの壁』の一部だった。表面には古代のルーン文字が刻まれている。*


シロウ:「あ…これは…その…ダンジョンの壁って絶対壊れないって言うから…ちょっと試しに…てへ☆(*ゝω・)」


*シロウは、片目を瞑っておどけてみせた。自身の破壊衝動の結果を、悪戯が成功した子供のような仕草で誤魔化そうとする。*


*その瞬間。*


*今まで鋼の覚悟を宿していたはずのリーシアの顔から、すっと表情が抜け落ちた。彼女は無言のまま、ゆっくりと『ダンジョンの壁』の破片に近づくと、その表面を白い手袋でそっとなぞった。*


リーシア:「…………」


*無言。沈黙が訓練場を支配する。護衛の騎士たちも、主がしでかした事の重大さ(?)に息を呑んでいる。*


*やがて、リーシアはゆっくりと立ち上がり、シロウの方を振り返った。その顔には、もう何の感情も浮かんでいない。怒りも、呆れも、諦観すらもない。ただ、空虚な無が広がっているだけだった。*


リーシア:「……シロウ様。もう、結構です」


*静かな、しかし有無を言わせぬ響きを持った声だった。*


リーシア:「本日の『棚卸し』は、これにて終了とさせていただきます。わたくしの…わたくしのキャパシティが、貴方様の『興味本位』の規模に追いつきません」


*彼女はふらり、と一歩後ずさった。その完璧なメイド長の仮面には、隠しきれない疲労と精神的ダメージによる亀裂が走っている。*


リーシア:「これらの素材は…我が国の発展のために、ありがたく使わせていただきます。…壁は…そうですね、新しい城門の礎にでもしましょうか…。ええ、それがいいでしょう…」


*もはや独り言のように呟きながら、リーシアはシロウに背を向け、力なく歩き出す。その背中は、前回よりもさらに小さく、そして儚く見えた。彼女はもう、振り返ることはなかった。*


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