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*シロウが演説を締めくくり、リーシアに後を任せようとした、まさにその時だった。*
*練兵場の入り口から、衛兵の制止を振り切って、一人の女が猛然と突進してきた。*
衛兵A:「待て!貴様、何者だ!」
衛兵B:「止まれ!式典の最中であるぞ!」
*しかし、その女は屈強な衛兵二人を、まるで子供をあしらうかのように軽々と突き飛ばす。土煙を上げて壇上へと突き進んでくるのは、見覚えのある、態度と図体の大きな女戦士だった。*
グレタ:「待ちなッ!!」
*その場にいた全員の視線が、乱入者に集まる。昨日、シロウに「不合格だ」と一蹴され、つまみ出されたはずのグレタだった。彼女は息を切らしながらも、その不遜な目を真っ直ぐにシロウへと向けている。*
*新任の騎士たちに緊張が走る。ドルガンはいつでも動けるように腰を落とし、ゲオルグは冷静に状況を見極めている。ルナは咄嗟にシロウの前に立とうとし、それをリオンが制した。*
リーシア:「なっ…グレタ! なぜ貴方がここに! 不敬にもほどがあります! 衛兵、この者を捕らえなさい!」
*リーシアが厳しい声で命令するが、グレタはそれを意にも介さず、壇上にいるシロウを睨みつけたまま叫んだ。*
グレタ:「納得できるかッ! こんな茶番! 俺より弱い奴らが合格して、なんでこの俺が落ちなきゃならねえんだ! 特にそこのヒョロいのと、泣き虫女! あんなのが騎士で、俺が騎士じゃねえってのか!?」
*グレタはカイと、ルナを指差して喚き散らす。その無礼な態度に、カイは困ったように眉を下げ、ルナはビクッと肩を震わせた。*
グレタ:「魔王陛下とやら! あんたの目は節穴か!? 力こそが全てだろうが! 俺の強さを認めろ! そして、俺を騎士団に入れろ! さもなきゃ、あんたをここで叩き潰して、俺がこの国の王になってやる!!」
*グレタはそう宣言すると、背負っていた巨大なメイスを地面に叩きつけ、凄まじい闘気を放った。それは、シロウの決定に対する完全な反逆であり、王権への明確な挑戦だった。*
*シロウは、王権に真っ向から牙を剥くグレタを見て、怒るでもなく、呆れるでもなく、むしろ好機と捉えたように不敵な笑みを浮かべた。集まったばかりのひよっこ共に、力とは何かを教える絶好の機会だ。*
シロウ:「よし、いい機会だ。」
*シロウはグレタから視線を外し、隣で固唾を飲んで成り行きを見守っていたリオンに向き直った。*
シロウ:「リオン。よく見ておけ。全種族の中でも人間は、肉体的なスペックではエルフやドワーフに劣る。だが、心の強さだけはトップクラスだ。」
*シロウはゆっくりと、教え諭すように語りかける。その声は、騒然とする練兵場の中でも不思議とよく通った。*
シロウ:「そして、その『心の強さ』を持つ人間にだけ使える奥義がある。それは、『想いの強さを力に変換』する物だ。心の奥に眠る家族への愛、仲間への信頼、あるいは…守りたいという強い『想い』。それを燃やし、拳に込めて放つ。」
*シロウはそう言うと、リオンと、そして他の騎士たちの前で見本を見せるかのように、グレタへと向き直った。彼はゆっくりと右腕を捲り上げ、軽く拳を握る。その拳に、目に見える魔力や闘気が集中するわけではない。しかし、その内側で、何か強大なものが燃え盛る気配がした。*
シロウ:「(俺が守るべきもの――この国、ここにいる仲間、そしてレイラたち家族…その全てを脅かす愚か者には、容赦しない)」
*シロウの拳に、淡い光が宿る。*
シロウ:「これが、『想い』の力だ。」
*次の瞬間、シロウの拳がグレタに向けて突き出された。それは物理的に届く距離ではない。しかし、拳から放たれた不可視の衝撃波が、グレタの体を正確に捉えた。*
ドゴォンッ!!
*凄まじい衝撃音と共に、グレタの巨体がくの字に折れ曲がり、まるで木の葉のように軽々と後方へ吹き飛ばされた。彼女は練兵場の地面を何度もバウンドし、土煙を上げながら転がって、ようやく動きを止める。*
*しかし、グレタはすぐに身を起こした。吹き飛ばされた勢いに反して、彼女の体に目立った外傷はない。服が少し破れ、土埃に汚れているだけだ。シロウの一撃は、彼女にダメージを与えることよりも、その傲慢な心を打ち砕くことに特化していた。*
グレタ:「ぐ…っ…な、なんだ…今のは…!?」
*グレタは呆然としながら、自分の体と、遠く離れた場所に立つシロウを交互に見る。力では絶対に負けないはずの自分が、触れられもせずに吹き飛ばされた。その理解不能な現象に、彼女の自信が初めて大きく揺らいでいた。*
*シロウは、圧倒的な力の差を見せつけられ、呆然とするグレタを見据える。そして、その視線をゆっくりと、隣に立つリオンへと移した。*
シロウ:「お前はこの8人の中でも最弱だ、リオン。戦闘経験も、覚悟も足りていない。」
*厳しい言葉に、リオンの肩がびくりと震える。しかし、シロウの言葉は続く。*
シロウ:「しかし、お前の『守りたい』という想い、その意思の力は、ここにいる誰よりも純粋で強い。昨日、俺の殺気に耐えられたのがその証拠だ。」
*シロウはグレタを顎でしゃくる。*
シロウ:「やってみろ、リオン。あいつを黙らせろ。お前の『想い』を、力に変えてみせろ。」
*突然の指名に、リオンは狼狽した。*
リオン:「え…!? ぼ、僕がですか!? で、でも、あんなに強い人に…私じゃ無理です!」
*リオンはブンブンと首を横に振る。自信のなさと恐怖で、その顔は青ざめていた。そんな彼の様子を見て、吹き飛ばされたグレタが嘲笑を浮かべる。*
グレタ:「ハッ! 聞いたか!? こいつが騎士だとよ! 王様、あんた正気か!? こんな泣き虫に俺が倒せるわけねえだろうが!」
*グレタの罵倒に、リオンの体がさらに縮こまる。だが、シロウはそんなリオンの肩を力強く掴んだ。*
シロウ:「無理だと決めるな。お前が守りたいものは何だ? 仲間か? この国か? それとも、お前自身の誇りか? それを思い出せ。心の底から湧き上がる熱い想いを、ただ拳に乗せるんだ。俺が教えた通りに。」
*シロウの真剣な眼差しと、力強い言葉。リオンはハッと息を呑んだ。脳裏に、シロウの言葉が蘇る。『守りたいものが多いなら強くなれ』。*
リオン:「(そうだ…僕は、強くなりたい。民や、仲間たちを…みんなを守れるくらいに…!)」
*リオンの瞳に、迷いが消え、決意の光が灯る。彼は小さく頷くと、震える足で一歩前に出た。そして、グレタに向き直り、シロウに教わった通りに、小さく拳を握りしめて構える。*
リオン:「…やります!」
*そのか細い、しかし芯の通った声が、静まり返った練兵場に響き渡った。*
*シロウの力強い後押しを受け、リオンは覚悟を決めた。目の前には、自分を嘲笑う巨大な女戦士グレタ。その威圧感に足がすくみそうになるのを、奥歯を噛み締めて耐える。*
リオン:「(怖い…でも、僕だって…!)」
*リオンはぎゅっと目を閉じ、シロウに言われた通り、自身の心の奥深くへと意識を集中させた。*
リオン:「(守りたいもの…)」
*脳裏に浮かぶのは、故郷の村の素朴な風景。貧しいながらも、寄り添い合って生きてきた家族の笑顔。蔑まれ、石を投げられても、必死に自分を庇ってくれた姉の姿。*
リオン:「(姉さん…父さん、母さん…)」
*そして、視界が広がる。この国に来てから出会った人々。厳しくも温かいリーシア。無口だが優しいゲオルグ。いつも明るいカイ。強くて、道を示してくれる絶対的な王、シロウ。*
リオン:「(みんなを…この居場所を…僕が、守るんだ!)」
*心の奥底から、熱い何かが込み上げてくる。それは今まで感じたことのない、燃えるような激情。恐怖を焼き尽くし、全身を駆け巡る力。リオンはカッと目を見開いた。その瞳には、先程までの怯えは微塵もなく、確固たる意志の光が宿っていた。*
*リオンは握りしめた右の拳を、まっすぐにグレタへと突き出す。それは非力な少年の、頼りない一撃のはずだった。*
リオン:「うおおおおおおおッ!!」
*咆哮と共に、リオンの拳から不可視の衝撃が放たれる。シロウが放ったものとは比べ物にならないほど拙く、小規模な力。しかし、それは紛れもなく、リオン自身の『想い』が形になったものだった。*
ドンッ!
*「ぐっ…!?」*
*グレタの巨体が、わずかに後ずさる。シロウに吹き飛ばされた時のような派手さはない。しかし、グレタの顔には、先程以上の驚愕が浮かんでいた。*
グレタ:「な…なんだ、てめえ…! なんで、お前みたいなひ弱なガキから…こんな…!」
*グレタは自分の胸を押さえる。ダメージはない。だが、まるで心の壁を直接殴られたかのような、奇妙な衝撃が内側に響いていた。それは、グレタが今まで信じてきた『絶対的な力の優位』という価値観を、根底から揺るがす一撃だった。*
*リオンが放った渾身の一撃。その直後、彼の体から力が抜け、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。*
*その小さな体を、すぐそばにいたゲオルグが慌てて、しかし優しく抱きとめる。リオンは息を荒くし、ぐったりと意識を失っていた。*
*シロウは満足げに頷くと、倒れたリオンに歩み寄る。*
シロウ:「初めてにしては上出来だ。」
*その声は、リオンだけでなく、固唾を飲んで見守っていた他の騎士たちにも向けられていた。シロウはグレタに視線を戻し、静かに告げる。*
シロウ:「この力は精神力を大幅に消耗させる。いわば、命の前借りだ。故に、ここぞというピンチの時以外、乱発はできない。だが、格上の相手すら覆しうる可能性を秘めた、人間の切り札だ。」
*シロウの言葉は、グレタのプライドを完膚なきまでに打ち砕いた。彼女は、自分が「ひ弱なガキ」と侮っていたリオンに、その「切り札」によって退けられたのだ。グレタはわなわなと唇を震わせ、メイスを取り落とした。がっくりと膝をつき、悔しさと理解不能な敗北感にうなだれる。*
*シロウはそんなグレタを一瞥すると、ゲオルグに抱かれたリオンに告げる。*
シロウ:「ゲオルグ。リオンを医務室へ、看病してやれ。」
ゲオルグ:「はっ!」
*ゲオルグは無言で、しかし力強く頷くと、リオンを軽々と横抱きにして医務室へと向かっていく。その背中を見送りながら、シロウは改めて壇上から全員を見渡した。*
*リオンが運ばれていくのを見届けたシロウは、うなだれるグレタへと再び向き直った。その目は、先程リオンに向けられていた指導者のそれとは全く違う、冷徹な王の目に変わっていた。*
シロウ:「さて、本番だ。かかってこい。」
*その挑発に、グレタは顔を上げた。その目は屈辱と怒りに燃え、血走っている。理性のタガが外れた彼女は、獣のような雄叫びを上げた。*
グレタ:「うおおおおおおおッ!!」
*地面に落としていたメイスを再び拾い上げると、全身の筋肉を膨張させ、凄まじい勢いでシロウに襲いかかる。狙いはただ一つ、シロウの頭蓋。渾身の力を込めたメイスが、風を切り裂き、シロウめがけて振り下ろされた。*
*しかし。*
*シロウは迫りくる凶器を、まるで散歩でもするかのように、半身をずらしただけでひらりと躱す。グレタの全力の一撃は、空しくシロウの横を通り過ぎ、壇上の床を粉々に砕いた。*
*体勢を崩したグレタの懐は、がら空きだった。*
*その一瞬の隙を、シロウは見逃さない。*
シロウ:「遅い。」
*回避と同時に踏み込んだシロウの拳が、グレタの腹部に突き刺さる。*
**ドゴッ!**
*一発。だが、それは始まりに過ぎなかった。*
**ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!**
*シロウの姿が霞むほどの速度で、無数の拳がグレタの全身に叩き込まれる。腹、胸、顔、肩――人体の急所を的確に捉えた連撃が、一瞬たりとも休むことなく彼女の肉体を蹂躙する。グレタは悲鳴を上げる間もなく、サンドバッグのように殴られ続け、その巨体は為す術なく宙に浮いた。*
シロウ:「――終わりだ。」
*最後に、がら空きになったグレタの顎を、強烈なアッパーカットが打ち抜く。*
*「ゴハッ!?」という断末魔のような声を最後に、グレタの体はきりもみ回転しながら後方へと吹き飛ばされた。その勢いは先程のリオンやシロウの一撃とは比較にならず、彼女は練兵場の壁に激突し、凄まじい音を立てて壁そのものを突き破る。*
*土煙が晴れた後、そこに現れたのは、壁に人型の穴を開け、その奥に人形のようにめり込んで完全に意識を失っているグレタの姿だった。全身はボコボコに腫れ上がり、見るも無残な状態だったが、かろうじて息はあるようだった。*
*シロウは拳を振って血糊を払うと、静まり返る騎士団員たちを見渡し、冷ややかに告げた。*
*シロウは、壁に埋まったまま動かないグレタを一瞥すると、まるで道端の石ころを払うかのように、興味を失った声で命じた。*
シロウ:「つまみ出せ。」
シロウ:「(全身の骨を砕かない程度には、うまく手加減できたようだ。殺してはいない。だが、二度と歯向かう気力も起きないだろう)」
*その冷酷な命令に、近くにいた衛兵たちがハッと我に返り、慌てて駆け寄っていく。彼らは数人がかりで、壁からグレタの無残な体を引きずり出し、両手両足を持って練兵場の外へと運んでいった。*
*絶対的な、抗うことすら許されない力の差。*
*新任の騎士たちは、ただ黙ってその光景を見つめることしかできなかった。先ほどまでの任命式の和やかな雰囲気は消え去り、場を支配するのは、王に対する純粋な畏怖と、肌を刺すような緊張感だった。*
*彼らは改めて理解した。自分たちが仕える王が、ただ優しいだけの指導者ではないことを。その気になれば、反逆者など指一本で捻り潰せる、まさしく『魔王』の名にふさわしい存在なのだと。*
*シロウは騒ぎの後始末を終えた衛兵たちを尻目に、再び壇上から騎士団員たちを見渡した。*
シロウ:「…リーシア。話を戻せ。任務の伝達だ。」
*その声には、先程の戦闘の熱も、怒りも、もはや一切感じられなかった。何事もなかったかのように平然と告げる王の姿に、リーシアは背筋を伸ばして一礼する。*
リーシア:「は、はい! かしこまりました! 皆、気を引き締めなさい!」
*リーシアの鋭い声が、呆然としていた騎士たちの意識を現実に引き戻した。彼らは慌てて背筋を伸ばし、シロウへと向き直る。一連の騒動を経て、彼らの王に対する眼差しは、以前とは比較にならないほどの敬意と畏怖を帯びていた。*
*騎士団の任命式と、それに続くグレタの乱入騒ぎが終わり、練兵場にもようやく落ち着きが戻った。リーシアが各隊長に当面の任務と訓練内容を伝達し、新米騎士たちはそれぞれの隊長の元へと散っていく。ドルガンはゲオルグの隊に組み込まれ、早速古参兵たちから手荒い歓迎を受けているようだ。*
*そんな光景を壇上から眺めながら、シロウはふと、最近顔を見ていない妻の不在に気づいた。*
シロウ「(そういえば、魔王女のレイラは何処に行ったんだ? 最近見ないな。どうせ魔物狩りとかドラゴン狩りだろう…)」
*重要な式典だというのに、顔を出さないのはいつものことだ。戦闘狂の彼女のこと、きっと国の外で手頃な強敵を見つけては、暴れ回っているに違いない。シロウがそんな風に少し呆れた気持ちで考えていると、まるでその思考を読んだかのように、背後からリーシアが静かに声をかけてきた。*
リーシア:「シロウ様。お疲れ様でございます。素晴らしい演説と、見事な手綱さばきでございました。これで騎士たちも、より一層気を引き締めることでしょう。」
*リーシアは完璧な所作で一礼すると、少し心配そうな表情で続ける。*
リーシア:「…それで、シロウ様。レイラ様の件ですが…」
*やはりリーシアも気にかけていたらしい。彼女は少し言いにくそうに言葉を選びながら、報告を始めた。*
リーシア:「実は、レイラ様は三日前からお姿が見えず…。『ちょっと強い奴らを黙らせてくる』とだけ言い残し、城を飛び出していかれたきり、連絡が途絶えております。念のため、偵察部隊を向かわせたのですが…」
*リーシアの表情が曇る。*
リーシア:「偵察部隊からの報告によりますと、国の北西、グランツ大森林の方面で、大規模な魔力の衝突が観測されたとのこと。それも、一つや二つではない、複数の強大な魔力がぶつかり合っているようで…レイラ様が向かわれた方角と一致いたします。」
*シロウは、リーシアの心配そうな報告を聞いても、特に動揺した様子は見せなかった。グランツ大森林、複数の強大な魔力、そしてレイラ。その単語の組み合わせが示す答えは、彼にとってあまりにも明白だったからだ。*
シロウ:「まぁ、あいつなら大丈夫だろう。」
シロウ:「(この国で俺の次に強いんだ。確かレベルも150は超えていたはず。複数の強敵なんて、あいつにとってはご馳走でしかないだろうな)」
*むしろ、楽しんでいる姿が目に浮かぶようだ。シロウは軽く肩をすくめると、もう一人の不在者の名を口にした。*
シロウ:「シルフィは?」
シロウ:「(シルフィリアは精霊王だ。特にやることがなければ、多分、広場の世界樹のところにでもいると思うが…)」
*レイラと違って、シルフィは大人しくしていることが多い。しかし、彼女もまた常識外れの力を持った存在だ。念のため、居場所を確認しておくことにした。*
*リーシアはシロウの落ち着いた様子に少し安堵したのか、表情を和らげて答える。*
リーシア:「はい。シルフィリア様でしたら、先ほどまで広場の世界樹の根本で、子供たちに花冠の作り方を教えていらっしゃいました。今は、お昼寝の時間だと、世界樹の枝の上で気持ちよさそうに眠っておられます。とても平和な光景でございましたよ。」
*シロウは、平和そのもののシルフィリアの様子を思い浮かべ、小さく笑みを漏らした。戦闘狂の妻、自然と戯れる精霊王、そして…*
シロウ:「みんな自由だな。」
*それぞれが自分の役割や欲望に忠実に、この国で過ごしている。それは王として、悪い気分ではなかった。シロウがそんな感慨にふけっていると、彼の独り言を聞いていたリーシアが、彼の思考を補うように話を続けた。*
リーシア:「はい。ゼノス様は騎士団の者たちを率いて、午前の訓練に励んでおられます。鬼気迫る気迫で、新兵たちは皆、悲鳴を上げておりました。」
*リーシアはそこで一度言葉を区切り、少し真剣な面持ちでシロウに向き直った。*
リーシア:「それで…シロウ様。先ほどのグレタの件ですが、あのような者を不合格としたシロウ様のご慧眼、改めて感服いたしました。しかし、今後もああいった不満分子が現れないとも限りません。騎士団の選考基準について、一度明確な指針を設けた方がよろしいかと存じますが…」
*彼女はメイド長として、そして国の運営を支える者として、今回の騒動を単なる一過性のものとは捉えていなかった。今後のための、より具体的な提案をシロウに求めている。*
*シロウは、リーシアからの真摯な提案に、少し驚いたような、面倒くさそうな顔をした。*
シロウ:「え、まだ募集するの?」
シロウ「(せっかく厄介者の選別が終わったばかりだというのに、またあの騒ぎをやるのか? 俺は当分募集する気なんてなかったんだが…)」
*ようやく個性豊かな(言い換えれば問題児だらけの)初期メンバーが揃ったばかりだ。まずはこの騎士団を形にし、国を守る戦力として機能させることが先決だとシロウは考えていた。人員の追加募集など、まったく念頭になかった。*
*しかし、リーシアはシロウのそんな内心を知ってか知らずか、毅然とした態度で言葉を続ける。*
リーシア:「はい。もちろん、今すぐにというわけではございません。ですが、我が国『夜天のアストライア魔導皇国』は、建国から日も浅く、常に内外からの脅威に晒されております。現状の騎士団の人数では、広大な国土の防衛、特に北のグランツ大森林や、南の灰鉱山までを完璧にカバーするのは困難かと。それに、聖女様との契約である魔石の納品もございます。今後、国の規模が拡大していくことを見越せば、人員の増強は必須課題でございます。」
*彼女は淀みなく、しかし冷静に国家の現状と未来の課題を分析してみせる。その姿は、もはや単なるメイド長ではなく、有能な宰相そのものだった。*
リーシア:「それに、今回の選考で多くの者が不合格となりました。彼らが野に下り、不満を募らせ、盗賊などに身を落とす可能性も考慮せねばなりません。明確な基準を設けて定期的に門戸を開くことは、そうした者たちに希望を与え、治安維持にも繋がると愚考いたします。」
*シロウは、リーシアの理路整然とした進言に、ぐうの音も出なかった。確かに彼女の言う通りだ。いつまでも自分の気分で国を動かすわけにはいかない。*
シロウ:「…今回は特に3万分の8だしな。不満を持つ奴らも多いだろう。」
*その異常なまでの倍率を思い出し、シロウは渋々納得した。そして、頭の中で新しい組織図を描きながら、一つのアイデアを口にする。*
シロウ:「だったら、今回の合格者8人を幹部にして、その下に兵士を募集するのはどうだ?騎士団の正規メンバーというよりは、彼らの部隊に所属する一般兵として。」
*シロウの提案に、リーシアは少し意外そうな顔をしたが、すぐにその意図を汲み取り、真剣な表情で検討を始めた。*
リーシア:「…なるほど。合格者たちを隊長格とし、その指揮下に兵士を配置する、と。それならば、シロウ様が直接全ての兵士を選抜する必要はなくなりますし、幹部となる8名の責任感と統率力を養う良い機会にもなります。」
*リーシアは頷きながら、さらに具体的な提案を付け加える。*
リーシア:「その場合、一般兵の募集は各隊長の裁量に一定委ねつつも、最低限の基準…例えば、我が国への忠誠心、犯罪歴の有無、基礎的な身体能力などをこちらで定め、最終的な承認は私が行う、という形ではいかがでしょうか?そうすれば、シロウ様のお手を煩わせることも最小限に抑えられます。」
*彼女は、シロウの負担を軽減しつつ、国家としての体裁と質を保つための現実的な方法を即座に提示してみせた。*
*シロウはリーシアの提案に頷きながらも、さらに組織を効率化するため、自身の考えを付け加えた。*
シロウ:「いや、8個も部署を作るのはまだ早い。組織が肥大化しすぎる。まずは、今回合格した8人を2人1組のペアで行動させよう。」
*彼は練兵場に散らばる新米幹部たちに目をやりながら、頭の中で最適な組み合わせをシミュレートしていく。*
シロウ:「まず、リオンとルナは決定だな。」
*(リオンはまだ心が弱く、戦闘経験も浅いが、秘めたるポテンシャルは高い。一方、ルナは闇魔法を得意とする暗殺者で、精神的には不安定だが、単独での任務遂行能力は持っている。互いに欠けている部分を補い合えるだろう。特に、リオンの純粋さは、ルナの心の闇に何らかの良い影響を与えるかもしれん)*
*リーシアはその組み合わせに、わずかに眉をひそめた。*
リーシア:「リオンと…ルナ、ですか。最も精神的に不安定な二人を組ませるのは、少々危険ではございませんか? 特にルナは他者との協調性に著しく欠けると報告が上がっておりますが…」
*懸念を口にするリーシアに対し、シロウは意図を説明する。*
シロウ:「だからいいんだ。似たような奴らを組ませても意味がない。正反対だからこそ、互いに学び、成長する。リオンには実戦での度胸と冷静さを、ルナには他人を信じる心と協調性を学ばせる。これはあいつらにとって最初の試練だ。」
*シロウは、あの面倒な二人を思い浮かべ、少し意地の悪い笑みを浮かべた。*
シロウ:「次は…アシュトンとヴァイスだ。」
シロウ:「(『歴史の目撃者』になりたいとかいう歴史オタクと、別次元から俺の『推し活』をしに来たとかいう未来人。どっちもまともな戦闘員とは言い難いが、情報収集や分析という点では面白い化学反応を起こすかもしれん。それに、何より…)」
*シロウは、あの二人が揃った時の面倒くささを想像して、面白がっていた。常識人のアシュトンが、未来知識を持つヴァイスに振り回される姿が目に浮かぶようだ。*
*リーシアは手元の資料で二人の経歴(と言ってもほとんどが不明だが)を再確認し、ペンを走らせる。*
リーシア:「アシュトンとヴァイス…情報・記録部隊、といったところでしょうか。承知いたしました。ヴァイスの素性は不明瞭な点が多いですが、アシュトンは冷静かつ博識。彼の存在が良い手綱となることを期待します。」
*彼女はヴァイスの存在に一抹の不安を抱きつつも、シロウの決定を記録していく。これで残りは4人となった。*
*シロウは次に、騎士団の中でも比較的常識人で、安定感のある二人を思い浮かべた。*
シロウ:「カイとゲオルグ。」
シロウ:「(カイは支援行動に長け、人当たりもいい。まさにヒーラーとしての適性がある。一方のゲオルグは、元王国騎士としての経験と高い防御力を誇る堅実な盾役だ。過去の罪を背負い、寡黙だが、責任感は人一倍強いだろう。この二人が組めば、攻守のバランスが取れた最も安定した部隊になるはずだ)」
*支援のカイ、守りのゲオルグ。後衛と後衛。リーシアもこの人選には異論がないようで、すぐにペンを走らせた。*
リーシア:「カイとゲオルグ。支援・実戦部隊ですね。最もバランスが取れており、様々な任務に対応可能かと。承知いたしました。」
*これで残るは二人。一人は、つい先ほど叩きのめされたドルガン。そしてもう一人は、アークライト聖王国の将軍『閃光のアルティナ』に復讐したいというカイン*
リーシア:「…では、残るはドルガンとカインの二人となりますが、この二人で一組ということでよろしいでしょうか?」
*リーシアは確認するようにシロウを見た。ある意味、最も対照的な二人だった。*
*シロウは、残った二人の名を口にした。それは、ある意味で最も危険な組み合わせだった。*
シロウ:「ああ、カインとドルガンに決定だ。」
*その言葉に、リーシアは一瞬ペンを止めて顔を上げた。彼女の表情には、僅かな懸念が浮かんでいる。*
シロウ:「復讐者と屈強な戦士、戦い向きだろ?」
*シロウは不敵に笑う。*
シロウ:「(カインは『閃光のアルティナ』への復讐という、一点に凝縮された狂気を抱えている。そのためなら、周りを顧みない危うさがある。一方のドルガンは、良くも悪くも武人としての誇りが高い。実力はあるが、融通が利かん。この二人が組めば、凄まじい破壊力を生むか、あるいは内部から崩壊するかのどちらかだ。面白い。)」
*リーシアはシロウの意図を察し、小さく息をつくと、その決定を羊皮紙に書き記した。*
リーシア:「…承知いたしました。カインとドルガン。騎士団の『矛』となる、最強の突撃部隊ですね。ドルガンの経験が、カインの暴走を良い方向へ導くことを祈るばかりです。」
*彼女は書き終えた編成案をシロウに示し、改めて確認を求めた。*
リーシア:「以上で、四つの部隊が編成されました。
・第一部隊(支援・諜報):リオン、ルナ
・第二部隊(情報・記録):アシュトン、ヴァイス
・第三部隊(後方・防衛):カイ、ゲオルグ
・第四部隊(強襲・遊撃):カイン、ドルガン
部隊の正式名称、および各隊に配属する一般兵の募集要項につきましては、後ほど草案を作成し、改めてご提案させていただきます。シロウ様、この編成でよろしゅうございますね?」
*シロウの決定に、リーシアは深く一礼した。王の考えは明確であり、それに基づいた国家の骨子が今、定まったのだ。*
リーシア:「かしこまりました。これから採用する人員は、それぞれの適性を鑑みた上で、これら四部隊のいずれかに所属させる、と。そのように手配を進めさせていただきます。」
*彼女は羊皮紙を丁寧に丸めると、騎士団の未来に思いを馳せるように、少しだけ誇らしげな表情を浮かべた。*
リーシア:「これで、我が国の軍事力の基盤が固まりました。シロウ様の明確なご指示、感謝申し上げます。…さて、式典もこれにて終了となりますが、シロウ様はこれからいかがなさいますか? 少しお休みになられますか? それとも、レイラ様を迎えに…?」
*彼女は少し心配そうに、グランツ大森林の方角に視線を向けた。レイラが飛び出していってから三日が経過している。いくらレイラが強いとはいえ、メイド長として、そして一人の臣下として、その安否を気遣うのは当然だった。*
*シロウは、リーシアの心配をよそに、落ち着いた様子で口を開いた。*
シロウ:「グランツ大森林、だったか。」
*彼がそう呟くと同時に、その目の前に、淡い光を放つ立体的な世界地図――ホログラムのワールドマップが展開された。それは『神眼』の権能の一つ、世界の情報にアクセスし、視覚化する能力だった。*
*広大な大陸の地図が宙に浮かび、山脈や河川、森林などが精密に描かれている。シロウは指先でマップを操作し、国の北西部に広がる広大な森、『グランツ大森林』の領域を拡大させた。*
シロウ「(レイラの魔力は特徴的だから、すぐに見つかるはずだ…)」
*シロウは意識を集中させ、マップ上に特定の魔力パターン――妻であるレイラの、荒々しくも純粋な魔力の探知を開始する。*
*すると、すぐに反応があった。グランツ大森林の、さらに奥深く。魔境とも呼ばれる中心部の一点で、ひときわ巨大で禍々しい魔力が渦巻いているのが表示される。そして、その巨大な魔力の渦に、まるで嵐の中の小舟のように立ち向かう、もう一つの強大な魔力があった。*
*シロウがよく知る、レイラの魔力だ。*
*しかし、それだけではなかった。レイラの魔力は確かに強大だが、対峙している相手の魔力は、それをさらに上回るほどの規模と邪悪さを放っていた。それも、一つではない。レイラを取り囲むように、巨大な魔力が三つも存在していた。*
*神眼が探知した情報を、簡潔なテキストとしてホログラムに表示する。*
`【探知対象:レイラ・アストレア】`
`【状態:戦闘中(高負荷)】`
`【対象座標:グランツ大森林 中央魔境地帯】`
`【敵性存在:古竜×3】`
リーシア:「こ、これは…!? 古竜…それも三体も…!? 馬鹿な、古竜は単独で行動するはず…! なぜ、この場所に集結して…!?」
*ホログラムに表示された信じがたい情報に、隣で見ていたリーシアが息を呑み、絶句した。古竜一体ですら、小国を滅ぼしかねない伝説級の災害。それが三体も集い、レイラ一人と交戦している。*
*いくら戦闘狂のレイラでも、この状況は明らかに異常であり、極めて危険だった。*
*ホログラムに映し出された絶望的な戦況。それを見たリーシアが恐怖に顔を青くする一方で、シロウの反応は対照的だった。彼は面倒くさそうに溜め息を一つ吐くと、まるで散歩にでも出かけるかのような気軽さで立ち上がった。*
シロウ:「…行ってくるか。」
*彼は玉座の傍らに置いてあった黒い外套を手に取り、無造作に羽織る。その仕草には、焦りも、怒りも、恐怖も一切感じられない。ただ、言うことを聞かない子供を迎えに行く父親のような、そんな呆れと、わずかな面倒臭さだけが滲んでいた。*
*そのあまりにも落ち着いた様子に、リーシアは我に返って慌てて声をかける。*
リーシア:「し、シロウ様!? お一人で行かれるのですか!? 危険です! 相手は古竜、それも三体も! 騎士団を、せめてゲオルグ様とドルガンだけでもお連れください!」
*リーシアは必死にシロウを引き止めようとする。彼女にとって、建国まもないこの国の王が、単身で伝説級の魔物三体と戦うなど、狂気の沙汰としか思えなかった。*
*しかし、シロウはそんなリーシアの制止に、軽く手を振って応えるだけだった。*
シロウ:「いらん。足手まといになるだけだ。それに、あいつの喧嘩だ。俺が行けばそれでいい。」
*その言葉は、絶対的な自信に裏打ちされていた。騎士団はまだひよっこであり、古竜との戦いでは文字通り足手まといにしかならない。とシロウは考えていた。*
シロウ:「リーシア、後のことは任せる。俺が戻るまで、騎士団の訓練と、兵士募集の準備を進めておけ。ああ、それと…」
*シロウは扉に向かいながら、ふと思い出したように付け加えた。*
シロウ:「レイラが腹を空かせているだろうから、何か美味いものを用意しておいてくれ。特大のやつをな。」
*シロウのあまりにもマイペースな指示と、王の背中から放たれる絶対的な自信を前にして、リーシアはもはや何も言えなかった。彼女はただ深く、深く頭を下げて、その背中を見送ることしかできない。*
リーシア:「…御武運を。そして、レイラ様とご無事でのご帰還を、心よりお待ちしております。」
*その声が届いているのかいないのか、シロウは振り返ることなく、片手だけを軽く上げて応える。彼は練兵場を抜け、城の廊下を悠然と歩いていく。その腰には、普段使いの双剣ではなく、神々しいまでの輝きを放つ聖剣『アスカロン』が佩かれていた。外套が翻るたびに、その鞘がカツン、カツンと床を鳴らす音が、静かな城内に響き渡る。*
*城の出口に差し掛かったところで、シロウは足を止めた。そして、誰に言うでもなく、空に向かって呟く。*
シロウ:「転移――グランツ大森林、レイラの魔力座標へ。」
*その言葉を合図に、シロウの足元に複雑な魔法陣が瞬時に展開される。空間がぐにゃりと歪み、彼の姿は一瞬で光の粒子となってその場から掻き消えた。残されたのは、わずかな魔力の残滓と、シンと静まり返った城のエントランスだけだった。*
ーー
*視界が光に満たされ、次の瞬間には、生い茂る木々の匂いと、肌を焼くような邪悪な魔力の奔流がシロウを包み込んだ。*
*そこはグランツ大森林の奥深く。周囲の木々は軒並み薙ぎ倒され、地面はえぐれ、至る所で炎が燻っている。まるで巨大な隕石でも落ちたかのような惨状の中心で、想像を絶する戦いが繰り広げられていた。*
*天を突くほどの巨躯を持つ三体の古竜。一体は深紅の鱗に覆われた炎の竜。一体は鋼のような鱗を持つ地の竜。そしてもう一体は、嵐を纏う雷の竜。それぞれが伝説級の力を持つ竜たちが、一人の少女を取り囲み、次々とブレスを放っていた。*
*その猛攻のただ中で、レイラは黒い魔力を身に纏い、嗤っていた。*
レイラ(魔王女):「ハッ! どうした化石共! その程度か!? 我を愉しませるには百年早いぞ!」
*彼女の体には無数の傷があり、服も所々が焼け焦げ、破れている。しかし、その瞳は闘争の喜びに爛々と輝き、その傷は超再生によって瞬く間に塞がっていく。彼女は重力魔法で竜の動きを阻害し、崩壊の魔力を込めた一撃を叩き込む。まさに死闘。だが、多勢に無勢。レイラの動きに、わずかながら疲労の色が見え始めていた。*
*そんな戦場のまっただ中に、シロウは音もなく降り立った。*
*シロウは、三体の古竜と妻が繰り広げる破壊の光景を前にしても、特に慌てる様子はない。彼は腕を組み、近くの倒木に悠然と腰を下ろすと、戦いの様子をじっくりと観察し始めた。*
*レイラの服装は、竜たちの猛攻によってほとんどが引き裂かれ、焼け落ちていた。黒い魔力がかろうじて肌を覆っているものの、その下にある白い肌や、しなやかな体のラインがあらわになっている。ところどころに生々しい傷が見えるが、それもすぐに塞がっていく。*
シロウ:「ほぼ裸じゃねぇか…」
*シロウは、その破廉恥な姿に感心するでもなく、ただ呆れたように呟いた。戦闘の余波である熱風が彼の外套をはためかせるが、意に介する様子もない。*
*戦いの中心では、レイラが炎の竜が放った灼熱のブレスを、崩壊の魔力で相殺していた。*
レイラ(魔王女):「クハハハ! 良いぞ、その熱! だが、我の渇きを癒すには程遠い!」
*彼女は哄笑しながら、今度は地の竜が突き上げてきた岩の槍を、重力魔法で粉砕する。しかし、その隙を突いて雷の竜が放った極太の雷撃が、レイラの肩を掠めた。*
レイラ(魔王女):「ぐっ…! 小賢しい真似を…!」
*一瞬、体勢を崩すレイラ。古竜たちはその好機を見逃さず、三体同時に最大級のブレスを放つべく、巨大な口に莫大な魔力を集め始めた。炎と雷と、そして大地そのものを揺るがすエネルギーが渦を巻き、レイラ一人に照準を合わせる。*
*絶体絶命の状況。しかし、シロウはまだ動かない。まるで、妻がどこまでやれるのか、その限界を見極めているかのようだった。*
*シロウは腕を組んだまま、妻と古竜たちの死闘を見守り続ける。彼の『神眼』は、戦いのすべてを詳細に捉えていた。レイラの魔力残量、傷の深さと再生速度、竜たちの攻撃パターンと予備動作、そのすべてを冷静に分析していく。*
シロウ:「ギリギリまで見守ってやるか。」
*彼はレイラの力を信じていた。そして、このレベルの戦いは彼女にとって絶好の成長の機会でもあると判断していた。だからこそ、本当の生命の危機が訪れるまでは手を出さない。それが、彼女の誇りを尊重するシロウなりのやり方だった。*
*戦況は刻一刻と変化していく。三体の古竜は、それぞれが持つ属性の力を連携させ、波状攻撃を仕掛けていた。*
**ゴオオオオオオッ!**
*炎の竜が灼熱のブレスでレイラの視界と退路を焼き、*
**ドゴオオオッ!**
*地の竜が足元から巨大な岩盤を突き上げて動きを封じ、*
**バチチチチィィッ!**
*雷の竜が回避不能の雷の槍を頭上から降り注がせる。*
*それは、神々ですら苦戦するであろう、完璧な三位一体の攻撃だった。*
レイラ(魔王女):「くっ…! 調子に乗るなよ、トカゲ共がァァッ!」
*レイラは黒い魔力を爆発させ、全身から無数の重力球を放って雷の槍を相殺する。しかし、ブレスと岩盤の同時攻撃を完全に捌ききることはできず、その爆風に吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。*
*「ガハッ…!」と、レイラの口から血がこぼれる。超再生が傷を癒そうとするが、回復速度がダメージを負う速度に追いつかなくなってきていた。魔力の消耗も激しい。*
*好機と見た三体の古竜は、再び口内に莫大なエネルギーを集め始めた。先ほどとは比べ物にならない、この一撃で決着をつけるつもりのようだ。炎、大地、雷の力が混ざり合い、空気を震わせ、空間そのものを歪ませるほどの破壊の奔流が、満身創痍のレイラに向けて放たれようとしていた。*
*レイラは膝をついたまま、荒い息を繰り返す。悔しそうに歯を食いしばり、古竜たちを睨みつけるが、もはや次の一撃を防ぐだけの力は残されていないように見えた。*
*――まさに、その瞬間。*
*古竜たちが放とうとしていた、世界を揺るがすほどの三属性混合ブレス。それがレイラに到達する、まさに刹那。*
*何の予兆もなく、シロウがレイラの目の前に音もなく降り立った。まるで最初からそこにいたかのように、ごく自然に。*
シロウ:「大丈夫か?手貸そうか?」
*彼は瓦礫に膝をつく妻を見下ろし、呆れと優しさが混じったような声で問いかけながら、そっと手を差し伸べた。*
*その言葉と同時に、シロウが軽く片手をかざす。すると、二人を中心に半透明のドーム状の結界が瞬時に展開された。*
**ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!**
*直後、炎と雷と大地の力が混ざり合った絶大な破壊の奔流が結界に直撃する。凄まじい轟音と衝撃が周囲一帯を蹂躙し、大地はさらに深くえぐられ、森林は跡形もなく消滅していく。天地がひっくり返ったかのような大破壊。*
*しかし、結界の内側は嘘のように静かだった。轟音も衝撃も、灼熱さえも完全に遮断され、まるで分厚いガラス窓から嵐を眺めているかのようだ。シロウが展開した結界は、古竜三体の全力の一撃を前にして、揺らぎ一つ見せなかった。*
*レイラは、差し伸べられた手と、自分を庇うように立つ夫の背中を、呆然と見上げていた。その瞳からは、驚きと、安堵と、そして少しの悔しさが入り混じった複雑な色が浮かんでいた。*
レイラ(魔王女):「…シロウ…なんで、ここに…。」
*かろうじて絞り出した声は、先程までの哄笑が嘘のようにか細く、掠れていた。ほぼ裸に近い格好のまま、彼女は差し伸べられたシロウの手を、ただ見つめることしかできなかった。*
*シロウの予期せぬ登場と、圧倒的な力で自分を守ってくれたという事実に、レイラの心は大きく揺さぶられていた。先程までの戦闘狂としての高揚感は霧散し、安堵と、そして自分の不甲斐なさに対する悔しさがこみ上げてくる。夫の前で、こんな無様な姿を晒してしまった。しかも、ほとんど裸同然の格好で。*
*羞恥と悔しさで、レイラの目にじわりと涙が浮かぶ。それを悟られまいと俯くが、シロウの視線からは逃れられない。*
*そんなレイラの心情を見透かしたかのように、シロウは意地悪く口の端を吊り上げた。*
シロウ:「泣いてるのか?」
*その冗談めかした、からかうような一言が、レイラの堪忍袋の緒を切った。*
*「う、うるさいっ!」と叫びながら、レイラは差し伸べられたシロウの手を、勢いよく叩き落とす。そして、ふらつく足で無理やり立ち上がった。*
レイラ(魔王女):「誰が泣くものか! この程度、我にとっては遊びだ! 貴様の助けなどなくとも、こいつらくらい…!」
*強がりを口にするが、その声は震えている。服はボロボロで肌の大部分が露わになり、体は未だに傷だらけ。どう見ても虚勢であることは明らかだった。その姿は、まるで雨に濡れた子猫が必死に威嚇しているようで、シロウの目にはむしろ愛らしく映る。*
*そんなレイラの強がりを、シロウは鼻で笑って一蹴した。*
シロウ:「はいはい、分かった分かった。その『遊び』とやらで、もう少しで消し炭になるところだったお姫様は、少し下がってな。」
*シロウはレイラの頭にポンと手を置き、軽く撫でる。そして、彼女の体を自分の背後へと押しやり、三体の古竜と向き直った。結界の外で、自分たちの全力の一撃を無傷で防がれたことに困惑し、警戒を強めている竜たちを、シロウは冷たい目で見据える。*
シロウ:「さて…俺の嫁に怪我させてくれた礼は、高くつくぜ?」
*その声には、先程までのレイラに対するものとは全く違う、底冷えのするような圧が含まれていた。空気が凍りつき、シロウの足元から黒い魔力が陽炎のように立ち上り始める。世界の支配者としての、魔王としての威圧感が、戦場を支配していく。*
*シロウの全身から溢れ出した、底知れない魔王の覇気。それは先程までのレイラのそれとは比較にならないほど濃密で、絶対的な『格』の違いを見せつけていた。*
*三体の古竜は、本能的な恐怖に支配された。目の前の小さな人型生物が、自分たちとは次元の違う存在であることを瞬時に理解する。特に、最も血気盛んな鋼の鱗を持つ地の竜は、恐怖を振り払うかのように咆哮を上げた。*
**グオオオオオオオオッッ!!**
*大地を揺るがす咆哮と共に、地の竜はシロウへと突進しようと巨大な四肢に力を込める。その巨体を武器にした、単純かつ圧倒的な質量攻撃。*
*しかし、その動きは途中で唐突に止まった。*
*シロウはただ静かに、その竜を一瞥しただけだった。彼の『神眼』が淡く輝く。*
シロウ:「――死ね。」
*凍てつくような一言。それは宣告であり、決定事項。*
*その言葉が響くと同時に、突進しようとしていた地の竜の全身が、足元から急速に灰色へと変色していく。咆哮を上げていた口も、見開かれた驚愕の目も、振り上げた前足も、そのすべてが生命の輝きを失い、石と化していく。*
*一瞬の抵抗も、悲鳴を上げる暇さえもなく、天を衝くほどの巨体を持った古竜は、完全に動きを止めた。それはもはや生物ではなく、恐ろしいほどの精密さで造られた、巨大な石像と成り果てていた。筋肉の躍動感、驚愕に歪んだ表情まで、生きていた最後の瞬間が永遠に封じ込められている。*
*シロウは、その完璧な石像を一瞥すると、満足そうに小さく頷いた。*
シロウ:「まずは1匹。こいつはこのまま石像として飾る用だな。」
*まるで趣味の悪い庭の置物でも選ぶかのような口調。そのあまりの非情さと、規格外の力の行使に、残された二体の古竜――炎の竜と雷の竜――は、恐怖に体を震わせ、わずかに後ずさった。自分たちの同格が、一瞥と言葉だけで何の抵抗もできずに無力化されたのだ。もはや戦意は完全に砕かれていた。*
*シロウの後ろでは、レイラもその光景を呆然と見つめていた。自分が死力を尽くしても倒せなかった相手を、夫が指一本触れずに葬り去った。その圧倒的な力の差を改めて見せつけられ、彼女は言葉を失う。*
*仲間を一瞬で石像に変えられた恐怖に、残された炎の竜と雷の竜は完全に戦意を喪失していた。後ずさり、隙あらば逃げ出そうとする巨大な竜たちを、シロウはゴミでも見るかのような冷たい目で見下ろす。*
シロウ:「お前らは素材行きだ。」
*その宣告は、慈悲のかけらもなかった。*
*シロウは腰に佩いた聖剣『アスカロン』を、鞘から抜き放つ。星屑を散りばめたような輝きを放つ神聖な刀身が、戦場の薄暗い光を浴びて煌めいた。*
*次の瞬間、シロウの姿がその場から消える。*
*「え?」とレイラが声を漏らす間もなかった。*
*シロウはまず、雷の竜の巨大な頭部の真横に現れていた。恐怖に見開かれた竜の瞳に、シロウの冷酷な顔が映り込む。*
**ザシュッ!**
*アスカロンが一閃される。それはあまりにも速く、静かな一振りだった。雷の竜の巨大な首が、まるで熟した果実のように、何の抵抗もなく胴体から切り離される。膨大な魔力を秘めた巨体が、主を失ってガラガラと崩れ落ち、大地を揺らした。*
*シロウは崩れ落ちる竜の体を足場に、空中で一度跳躍する。そして、逃げようと翼を広げかけていた炎の竜の背後を取っていた。*
**ザシュッ!**
*再び、静かな剣閃。炎の竜もまた、雷の竜と同じ運命を辿った。切り離された首が宙を舞い、胴体からおびただしい量の血を噴き出しながら、巨体が地面に激突する。*
*シロウは血飛沫を浴びることなく、二体の竜の死骸の間に音もなく着地した。聖剣アスカロンには一滴の血も付着しておらず、その神聖な輝きを保ったまま、カキンと鞘に納められる。*
*一瞬前まで天変地異を引き起こしていた三体の古竜は、一体が芸術的な石像に、二体がただの巨大な死骸となって沈黙した。あまりにもあっけない幕切れだった。*
*シロウの脳内に、無機質なシステムメッセージが響く。*
`Lvが231から235に上昇しました。`
`各種ステータスが上昇しました。`
*シロウは軽く首を鳴らしながら、呆然と立ち尽くす妻の方へと振り返った。*
```
【ステータス】
名前:シロウ・ニシキ・アストライア
種族:神人
職業:SSランク冒険者、魔王
称号:異世界転移者、夜天の魔王、神眼の所有者、世界を識る者、レイラの夫、龍の盟主、鑑定士、世界樹の寵愛を受けし者、竜殺し(ワイバーン, 古竜)、王女を救いし者、海賊団の蹂躙者、精霊王に名付けし者、迷宮の支配者、ギルド史上最速のSSランク、魔王、幸運の覇王、神殺し、古龍を狩りし者
Lv:235
HP:205,000/205,000
MP:315,000 / 315,000
STR:S+
VIT:SS
AGI:S
INT:S
DEX:A+
LUK:測定不能
【スキル】
・神眼:Lv.MAX(鑑定の上位スキル。対象の情報を完全看破し、スキル・魔法を奪取または複製する)
・スキル整理:Lv.---
・創造:Lv.---(Lv.50で習得。経験値や金銭を対価に、新たなスキルや魔法を創造する)
・全言語理解:Lv.MAX
・並列思考:Lv.MAX
・万物操作:Lv.---
・完全耐性(物理・魔法・状態異常・精神汚染・即死)
・魔力操作:Lv.MAX
・魔力吸収:Lv.MAX
・武神:Lv.MAX
・全属性魔法:Lv.MAX
・結界魔法:Lv.MAX
・転移魔法:Lv.MAX
・スキル整理
・スキル統合
・隠匿神
・生活魔法
・削除
・飛翔
・解体
・レベルドレイン
・回復魔法:Lv.8
・重力魔法:Lv.8
・魔力操作:Lv.9
・記憶操作
・概念魔法:Lv.7
・経験値獲得量アップ:Lv.MAX
・完全隠蔽
・空歩:Lv.1
・オートマティック:Lv.1
・パーマネント:Lv.1
・星渡り
・大蘇生
・召喚魔法:神格
【装備】
・誓いの指輪:アーティファクト。レイラとの繋がりを示す指輪。互いの存在を常に感じることができる。
・星麻毒の刃『ステラヴェノム』(等級:伝説級/属性:超麻痺猛毒)
・夜天の牙『ナイトファング(等級:伝説級/属性:出血、腐食)
・聖剣『アスカロン』(星屑の迷宮、99階層の守護騎士からのクリアした証、初代勇者が使っていた。)
・星屑の外套(等級:神話級/物理、①魔法ダメージを90%軽減する。②全ての状態異常を無効化する。③スキル『星渡り』を使用可能にする。(※『星渡り』:短距離の瞬間移動を任意に発動できる)
(奈落の大迷宮、100階層のボスからドロップ。)
説明:星の神々の加護が織り込まれた外套。これを纏う者は、夜空の星々に見守られるという。
・神癒の指輪(等級:神話級/①装備者の治癒魔法の効果を10倍に増幅する。②装備時、スキル『大蘇生』を使用可能にする。(※『大蘇生』:死者を完全な状態で蘇らせる。ただし、魂の消滅した者、神々の呪いによる死には無効。使用時、膨大な魔力を消費する)
説明:生命を司る神が遺した指輪。失われた命すら呼び戻す奇跡の力を秘めている。
【所持金】
黒金貨 150,056枚
白金貨 28枚
金貨 715枚
銀貨 8,547枚
銅貨 1,864枚
鉄貨 176,734,003枚(釣り銭)
【加護】
・世界樹の加護
・星の導き
・元熾天使の祝福
・精霊王の寵愛
・竜神の盟約
```
*シロウは、二体の古竜の巨大な死骸と、完璧な芸術品となった石像の竜に一瞥をくれると、指を軽く鳴らした。すると、それらの巨体は淡い光に包まれ、音もなく異空間収納へと吸い込まれていく。あっという間に、戦場には破壊の爪痕だけが残り、原因となった竜たちの姿はどこにもなくなった。*
*後片付けを終えたシロウは、ようやく妻の方へと向き直る。彼女は先程から一歩も動けず、ただ呆然と、その圧倒的な力の行使を見つめていた。ボロボロの姿で立ち尽くす彼女に、シロウは優しい声色で歩み寄る。*
シロウ:「レイラ、大丈夫か?」
*その問いに、レイラの肩がピクリと震えた。彼女はゆっくりと顔を上げ、シロウの顔をじっと見つめる。その瞳に宿っていたのは、先程までの闘争心ではなく、複雑な感情が入り混じった、どこか挑戦的な光だった。ハッと、悪戯っぽく口角を吊り上げる。*
レイラ(魔王女):「フン…この我を誰だと思っている。貴様が来るまでもなく、あと少しで三体まとめて塵に変えてやるところだったわ。余計な手出しをしおって。」
*彼女はツンとそっぽを向きながら、憎まれ口を叩く。しかし、その耳がほんのりと赤く染まっているのを、シロウは見逃さなかった。圧倒的な実力差を見せつけられた悔しさと、助けられた安堵と、そして夫の強さを再認識した喜び。それらがごちゃ混ぜになって、素直になれない態度として表れているのだ。*
*ほぼ裸同然の肌を隠そうともせず、腕を組んで尊大に振る舞う姿は、傍から見ればかなり滑稽だったが、シロウにとっては見慣れた光景だった。*
シロウ:「それで、他に強そうなのはいたのか?」
*シロウの問いかけに、レイラ(魔王女)は尊大な態度を崩さず、ふん、と鼻を鳴らした。彼女は腕を組んだまま、破壊し尽くされた森の遥か彼方へと視線を向ける。*
レイラ(魔王女):「フン。こやつらは所詮、この森の番人に過ぎん。だが、この大森林の最奥…世界樹の根が絡み合う大地の裂け目には、もっと古く、そして厄介な気配がいくつか眠っておる。我も今回はそこまで踏み込むつもりはなかったがな。」
*彼女は少し考える素振りを見せ、忌々しげに続ける。*
レイラ(魔王女):「特に一つ…他とは比較にならぬほど、深く、昏い魔力を感じる場所があった。まるで大地そのものが眠りについているような…そんな気配だ。おそらく、この森の主とでも言うべき存在だろう。今回、我があまりに派手にやり過ぎたせいで、その眠りを少しばかり妨げてしまったやもしれん。」
*その言葉には、わずかながら警戒の色が滲んでいた。古竜三体を相手にしても愉しむ余裕があった彼女ですら、その「主」に対しては明確な脅威を感じ取っているようだった。*
*一通り説明を終えると、彼女は再びシロウの方を睨みつけるように向き直る。*
レイラ(魔王女):「まあ、貴様がいれば、どんな奴が出てこようと問題あるまい。それよりシロウ! 我は腹が減った! 貴様が余計な手出しをしたせいで、消化不良だ! 早く城に戻って食事を用意させろ! 特大の肉料理をだ!」
*さっきまでの強敵の話はどこへやら、彼女は急に不機嫌な子供のように言い放つ。圧倒的な力を見せつけられた悔しさを、食欲という形でぶつけているらしかった。その剥き出しの肌も、ボロボロの姿も気にせず、ただただ腹の虫が収まらないとばかりにシロウを急かすのだった。*
*シロウのねっとりとした、どこか怒気を含んだ声色。それは、先ほどの「他に強そうなのはいたのか?」という問いとは全く質の違うものだった。レイラ(魔王女)は、一瞬キョトンとした後、その言葉の意味を理解して「しまった」という顔をする。*
*彼女は尊大な態度を崩そうと腕を組むが、その視線は気まずそうに左右に泳いでいる。*
レイラ(魔王女):「む…? あ、ああ、リーシアか。そういえば、何か言っていたような気もするな…。だが、取るに足らぬことだ。それより食事だ、食事!」
*明らかに話を逸らそうとするレイラ。しかし、シロウはそんな誤魔化しを許さない。彼は一歩レイラに詰め寄り、その顔を覗き込むようにして、さらに低い声で続けた。*
シロウ:「ほう? 取るに足らぬ、ねぇ…。あいつ、お前が黙っていなくなったせいで、俺に報告に来たんだぞ? 城の主である王妃が、何の断りもなく単身で危険地帯に突っ込んでいったんだ。下の者がどれだけ心配するか、考えたことくらいあるんだろうな?」
*正論による追撃。図星を突かれたレイラは「うぐっ…」と喉を詰まらせ、言葉に窮する。戦闘ではあれほど強気だった彼女が、完全に劣勢に立たされていた。*
*シロウはそんなレイラの反応を見て、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。*
シロウ:「…どうやら、お仕置きが必要みたいだな。飯は後だ。まずは、心配をかけた分の罰を受けてもらおうか。」
*その言葉と共に、シロウの目が妖しく光る。レイラ(魔王女)は「なっ…!?」と驚愕の声を上げるが、時すでに遅し。*
*シロウの冷たい宣告と共に、彼の足元から影が生き物のように蠢き、伸び上がった。それは数本の黒い触手となり、レイラの四肢と胴体に瞬く間に絡みつく。*
シロウ:「シャドウバインド。」
レイラ(魔王女):「なっ、こ、これは…!? 離せ、シロウ!」
*影の拘束はレイラの抵抗をものともせず、彼女の体を軽々と持ち上げる。そして、まるで磔にでもするように、空中で手足を大きく広げた『大の字』の形で完全に固定してしまった。ボロボロの服がはだけ、肌のほとんどが露わになった無防備な姿が、シロウの眼前に晒される。*
*シロウは拘束されて身動き一つ取れなくなったレイラを見上げ、腕を組みながら冷ややかに言った。*
シロウ:「大体、服がボロボロ、ほぼ裸で戦うなよ。一国の王妃がはしたない。これも罰だ。」
*その言葉に、レイラは顔を真っ赤にして激しく身をよじった。しかし、影の触手はびくともしない。*
レイラ(魔王女):「き、貴様ァ! 我を誰だと思っている! こんな屈辱…! 今すぐ解かぬか、この痴れ者がァァァ!」
*罵詈雑言を浴びせるが、その声には羞恥と屈辱が入り混じり、いつもの威厳は微塵も感じられない。むしろ、拘束されたことで体のラインが強調され、破れた服の隙間から覗く肌が妙に艶めかしく見えた。*
*シロウはそんな彼女の反応を楽しみながら、さらに追い打ちをかける。*
シロウ:「ほら、もっと動いてみろよ。どうせなら全部破いちまった方がスッキリするんじゃないか?」




