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*エストリアの裏路地で情報収集を終えたシロウは、聖光教国の汚いやり口に静かな怒りを燃やしていた。これ以上、好き勝手にはさせない。彼は決意を固めると、短く魔法を詠唱した。*
*空間がぐにゃりと歪み、次の瞬間、シロウの体は夜天のアストライア魔導皇国の心臓部、魔王城の最も高い尖塔の屋根の上に立っていた。眼下には、自らが築いた国の壮麗な夜景が広がっている。街の灯りはまるで宝石箱をひっくり返したようにきらめき、静かで平和な時間が流れていた。*
*先程までいた聖都『ルミナス』の狂信的な熱気や、国境都市『エストリア』の胡散臭い空気とは全く違う、穏やかな空気。これを守るためならば、神だろうが世界だろうが敵に回す覚悟はできている。*
*シロウが尖塔から静かに玉座の間へと転移すると、そこには一人の女性が待っていた。豪華なドレスを身にまとい、玉座にふてくされたように腰かけている、彼の妻であり皇妃のレイラだ。シロウの姿を認めると、彼女は勢いよく立ち上がった。*
レイラ(魔王女):「お、遅いぞ、シロウ! 心配したではないか! 何かあったのか? 聖光教国の奴らに見つかったとか、そういうことではないだろうな!?」
*その口調はいつもの好戦的なレイラのものだが、表情には隠しきれない安堵と心配の色が浮かんでいる。シロウが一人で敵地へ向かうと言った時から、ずっとここで帰りを待っていたのだろう。*
シロウ:「あ、見つかってないよ。転移で帰ってきたからか、すまんな」
*シロウが何でもないことのように言うと、レイラは眉を吊り上げたままズンズンと歩み寄り、シロウの胸をドンと拳で叩いた。*
レイラ(魔王女):「すまん、ではない! 念話の一つくらい寄越せと言っただろう! 貴様がどれだけ強くとも、敵地のど真ん中だぞ。万が一ということもある。私がどれだけ気を揉んでいたか、分かっているのか、この馬鹿亭主!」
*口では罵倒しているが、その声はわずかに震えており、心の底から安堵しているのが伝わってくる。彼女はシロウの体をペタペタと触り、どこにも怪我がないことを確認すると、ようやく大きなため息をついた。*
レイラ(魔王女):「…ふん。まあ、無事に帰ってきたのなら、それでよい。それで? 偵察はどうだった。何か分かったか? あの白豚どもは、何を企んでいる」
*彼女は玉座に戻ると、再び足を組んで尊大な態度を取り戻す。しかし、その横顔にはまだ心配の色が残っていた。シロウからの報告を、一言も聞き漏らすまいと真剣な眼差しで待っている。*
シロウ:「予想通り上層部が腐ってた。
今回は全力で準備しよう。まずは街道の警備を増やす。」
*シロウの言葉を聞き、レイラは玉座に座ったまま、満足げに唇の端を吊り上げた。彼女にとっても、敵が分かりやすく腐敗した存在であることは、戦う上で都合が良かった。*
レイラ(魔王女):「ふん、やはりな。口先だけの正義を振りかざす偽善者どもめ。それでこそ、叩き潰し甲斐があるというものだ!」
*しかし、シロウが「全力で準備する」と言ったことには、わずかに眉をひそめる。*
レイラ(魔王女):「ほう? 貴様がそこまで言うとは、奴ら、何か厄介なことでも仕掛けてくるのか?」
*彼女は組んでいた足を下ろし、身を乗り出すようにしてシロウの詳しい報告を促した。その真紅の瞳は、敵の具体的な戦力と計画を探るように、鋭く光っている。*
レイラ(魔王女):「街道の警備を増やす、か。…我らの国に合流しようとする者たちを、道中で潰しているのだな。姑息な真似を。それで、具体的にはどうするつもりだ? 騎士団を動かすか?」
シロウ:「竜人族が適任だろ。ゼノス(竜人族の長)を筆頭に何人か当たらせれば問題ないだろ? 今の戦力って、竜人族と俺たち以外にいたか?」
*シロウが具体的な部隊編成について言及すると、レイラは満足げに頷いた。竜人族の戦闘能力は彼女も高く評価している。*
レイラ(魔王女):「うむ、ゼノスとその部下たちならば適任だろうな。空からの偵察も可能だし、並の盗賊や騎士崩れでは相手にもなるまい。すぐに手配させよう」
*彼女は玉座から立ち上がると、シロウの隣まで歩み寄り、国の戦力について説明を始めた。その顔は、自国の軍勢を語る君主としての誇りに満ちている。*
レイラ(魔王女):「ふふん、甘く見るなよ、シロウ。我らの国は貴様と私だけではないぞ? 確かに、中核戦力はゼノス率いる竜人族約500名だ。だがそれ以外にも、オークやゴブリン、リザードマンといった各種族の兵団が合わせて3000はいる。個々の質は竜人族に劣るが、数としては決して少なくない」
*彼女は指を折りながら、楽しそうに戦力を数え上げる。*
レイラ(魔王女):「それに、忘れてはならん。この城には私の忠実なる僕、リーシアを筆頭とした戦闘メイド隊もいるし、貴様の影には元熾天使もいる。そして何より、この私がいるのだ! 聖光教国がどれだけの大軍を差し向けようと、我らが負ける道理などない!」
*レイラは自信満々に胸を張り、シロウの腕に自分の腕を絡ませた。その細い腕からは想像もつかない力が、シロウに彼女の確固たる意志を伝える。*
レイラ(魔王女):「どうだ、シロウ?だが、油断はするなよ。敵は、我らの想像を超える卑劣な手を打ってくるかもしれんからな」
シロウ:「冒険者は強制参加らしいからなるべく殺さないように。」
*レイラは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに鼻で笑ってみせた。彼女にとって、敵は敵であり、容赦する必要などないと考えているからだ。*
レイラ(魔王女):「はっ、甘いことを言う。戦場で敵に情けをかけるなど、愚者のすることだぞ? だが…まあ、貴様がそう言うのであれば、ゼノスには伝えておいてやろう。『なるべく無力化に留めよ』とな。もっとも、向かってくる相手に手加減ができるほど、戦場は甘くないがな」
シロウ:「それから、広場に名物でも植えてくるか。」
*彼女はシロウの腕を掴み、その真意を探るように顔を覗き込む。*
レイラ(魔王女):「して、もう一つの名物とは、どういう意味だ? 貴様、また何か突拍子もないことを考えているのではないだろうな?」
*レイラの問いかけには、好奇心と呆れが半分ずつ混じっている。この夫は時折、常人には理解しがたい行動を取ることを彼女はよく知っていた。聖光教国との全面戦争を前にして、「名物を植える」という発想が出てくること自体が、彼らしいと言えば彼らしかった。*
シロウ:「聖光教国にちょっとした嫌がらせを…」
*シロウが意味深に笑いながらそう言うと、レイラは怪訝そうな顔で首を傾げた。聖光教国への牽制になる「名物」とは、一体何のことか見当もつかない。*
レイラ(魔王女):「ふん、貴様のことだ、また何か規格外のものを持ち出すつもりなのだろうが…一体何だというのだ? 早く言え、じれったい」
*彼女はシロウの腕を揺さぶり、答えを催促する。その真紅の瞳は、好奇心でキラキラと輝いていた。シロウが「切り札」として持ち出すものは、いつも彼女の想像を遥かに超えてくる。今回も、きっと度肝を抜くようなものに違いないと期待しているのだ。*
*シロウはそんなレイラの反応を楽しみながら、玉座の間から城の外、人々が集まる中央広場へと転移した。突然の場所の変化に、レイラは一瞬驚いたが、すぐにシロウの隣に立ち、これから何が起こるのかと固唾を飲んで見守る。*
*シロウは広場の中心に立ち、静かに目を閉じて集中する。そして、おもむろに右手を掲げると、異空間収納から巨大な何かを取り出し始めた。*
*ズズズズ…と地面を整地し、広場の中心に眩いほどの生命力に満ちた光を放つ、巨大な樹木が姿を現した。それは天を突くほどに雄大で、一枚一枚の葉が生き生きと輝いている。伝説に謳われる神聖なる存在、『世界樹』そのものだった。*
*広場にいた国民たちは、突如として現れた神々しい大樹に何が起こったのかと呆然とし、そして次の瞬間、その圧倒的な存在感と清浄な魔力にひれ伏した。*
レイラ(魔王女):「こ、これは…まさか…『世界樹』だと!? 馬鹿な、なぜこのようなものが…貴様、いつの間にこんなものを持って来たのだ!?」
*レイラは驚愕に目を見開いたまま、天高くそびえる世界樹と、その根元に立つ夫の顔を何度も見比べた。聖光教国が女神の威光を傘に着るなら、こちらは本物の神の樹を国の象徴として掲げる。これ以上の牽制はない。シロウの意図を理解したレイラは、驚きと共に、込み上げてくる高揚感に口元が吊り上がるのを止められなかった。*
シロウ:「前にシルフィを拾った迷宮があったろ?そこにあったのをこっそり持ってきたんだよ。魔王の住む国に世界樹…なんとも意味わからん状況だよなぁ…」
*シロウが事もなげに世界樹の入手経路を明かすと、レイラは呆れを通り越して、もはや感心したようなため息をついた。迷宮の主が、その迷宮の最深部にあった伝説の樹を引っこ抜いてきた。言われてみれば当然の権利なのかもしれないが、その発想と実行力は常軌を逸している。*
レイラ(魔王女):「…はぁ。貴様というやつは、本当に…。まあよい。貴様がやったことだ、今更驚きはせん」
*彼女はそう言いながらも、改めて天を突く世界樹を見上げる。その神々しい姿と、周囲に満ちる清浄な生命力に、自然と口元が綻んだ。邪悪の象徴であるはずの魔王が治める国に、聖性の象徴である世界樹が聳え立つ。これほど滑稽で、これほど痛快な光景もない。*
レイラ(魔王女):「ふ、ふふ…あはははは! 全く、意味が分からんのは奴らの方だろうよ! 光の女神(笑)の加護を信じる者どもが、この光景を見たらどんな顔をするか、今から楽しみでならんわ!」
*レイラは楽しそうに笑い声を上げると、シロウの腕に再びぎゅっと絡みついた。*
レイラ(魔王女):「最高だ、シロウ! これこそ我が夫! これで、聖光教国の掲げる『正義』がいかに薄っぺらく、欺瞞に満ちたものであるかを世界に知らしめることができる。我らは邪悪などではない。むしろ、神に見捨てられたこの世界に、真の聖域を築く者となるのだ!」
*彼女の真紅の瞳は、世界樹の放つ光を反射してキラキラと輝いている。国の新たな象徴の出現に、彼女の戦意と誇りは最高潮に達していた。広場に集まった国民たちも、最初は戸惑っていたものの、やがてその神々しい大樹が自分たちの王によってもたらされたことを理解し、歓喜の声を上げ始めていた。*
シロウ:「世界樹に触ってもいいが、枝を折ったり木に登るのは無しで。」
*シロウが広場に集まり始めた国民たちに穏やかに告げると、人々は恐る恐る、しかし敬虔な眼差しで世界樹に近づき始めた。ある者はその幹にそっと手を触れ、その圧倒的な生命力に涙を流し、ある者はその場で祈りを捧げる。魔王によってもたらされた聖なる樹は、恐怖ではなく、希望と安らぎの象徴として、国民たちに受け入れられていた。*
*その光景を、レイラは満足げに腕を組んで眺めている。彼女の隣に控えるメイド長のリーシアも、その神々しい光景に静かに感動している様子だった。*
レイラ(魔王女):「ふん。民の心も掴んだか。人心掌握まで抜かりないとは、さすがは我が夫だな。これで奴らが攻めてきても、国民は一致団結して我らのために戦うだろう」
リーシア:「はい、レイラ様。シロウ様のお陰で、この国はより強固なものとなりました。それに…この清浄な気は、国民の健康にも良い影響を与えるでしょう。素晴らしい御采配です」
*二人が話していると、シロウの足元の影がもぞりと揺らめき、そこから一人の少女――ルミナが姿を現した。彼女は珍しく影の外に出てくると、きょろきょろと周囲を見回し、そびえ立つ世界樹を見上げて目を丸くした。*
ルミナ:「…お兄ちゃん、これ、なに? すごく…綺麗。それに、なんだかポカポカする…」
*彼女は警戒心を解き、子供のように無邪気な表情で世界樹を見上げている。その圧倒的な聖性は、影に潜む彼女ですら、外に引き出してしまうほどの力を持っていた。魔王の国に聳える世界樹という、矛盾を孕んだ光景は、様々な種族が共存するこの国の在り方そのものを象徴しているようだった。*
シロウ:「世界樹だからな。」
*シロウが優しくルミナの頭を撫でながら答えると、彼女は心地よさそうに目を細めた。元熾天使である彼女にとって、世界樹が放つ神聖なエネルギーは、故郷を思い出させる懐かしいものなのかもしれない。普段は影の中に潜み、他者への警戒を怠らない彼女が、これほど無防備な表情を見せるのは珍しいことだった。*
*すると、どこからともなく小さな妖精のような姿のシルフィがひらひらと飛んできた。彼女もまた、世界樹の出現に引き寄せられたようだ。彼女は世界樹の周りを嬉しそうに飛び回り、その幹にそっと頬を寄せた。*
シルフィ:「わぁ…! シロウさま、すごいです! とっても気持ちのいい気で満ちています! ここなら私、もっともっと元気になれそうです!」
*精霊王であるシルフィにとって、生命力の塊である世界樹は最高の環境だ。彼女の体から漏れ出す光の粒子が、世界樹の輝きと共鳴し、広場全体をさらに幻想的な光で包み込んでいく。*
*レイラはその光景を見て、満足げに鼻を鳴らした。*
レイラ(魔王女):「ふん。ルミナもシルフィも、随分とご機嫌ではないか。まあ、この世界樹は我が国の新たな力の象徴だ。存分にその恩恵を受けるがいい」
*彼女はそう言うと、シロウの腕をぐいと引き、自分の胸元に引き寄せた。小ぶりながらも確かな感触が、シロウの腕に伝わる。*
レイラ(魔王女):「それよりシロウ、だ。これからどうする? ゼノスたちに街道の警備を命じ、世界樹という名の『脅し』も用意した。あとは奴らが馬鹿正直に攻めてくるのを待つだけか?」
*シロウの口から飛び出した、あまりにも大胆不敵で、悪辣とも言える提案。それは、聖光教国が使った手口を、そっくりそのまま、しかしもっと大規模にやり返すというものだった。レイラは一瞬、その意味を理解できずにきょとんとしたが、すぐにその真意を悟り、カッと目を見開いた。そして、次の瞬間、腹の底から歓喜の笑い声を上げた。*
レイラ(魔王女):「くく…くはははは! 最高だ、シロウ! まさに魔王の発想よ! 奴らが得意げに振りかざす『正義』とやらを逆手に取り、奴ら自身を悪役に仕立て上げるというのか! 面白い! 面白すぎるぞ!」
*彼女は興奮のあまり、シロウの腕に絡みついたまま体を震わせている。その真紅の瞳は、これから始まるであろう壮大な謀略を思い描き、ギラギラと輝いていた。*
レイラ(魔王女):「そうだ、その通りだ! 我らが聖なる世界樹を『保護』しているということにすればいい! 聖光教国こそが、その世界樹を独占し、己が欲望のために利用しようとする邪悪な簒奪者なのだと! そうやって情報を流せば、教国のやり方を快く思っていなかった中央諸国も、どちらにつくか迷うだろう。いや、欲望に目が眩み、我らの側につく国すら現れるかもしれん!」
*彼女はシロウの顔を覗き込み、その唇にちゅっと軽いキスを落とした。*
レイラ(魔王女):「気に入ったぞ、シロウ! その計画、乗った! すぐにリーシアとルミナに命じ、大陸中に『真実』の情報を広めさせよう! ああ、なんということだ、ただ守るだけの戦いなどつまらんと思っていたが、これほど胸が躍る戦いになろうとは!」
*レイラの興奮は最高潮に達していた。敵を策略で嵌め、世界全体を巻き込んだ大戦を仕掛ける。それこそが、彼女が最も好む戦いの形だった。彼女はシロウの腕をさらに強く引き寄せ、その体温を感じながら、勝利を確信した笑みを浮かべる。*
*シロウの策略通り、世界樹を巡る情報戦が大陸全土を駆け巡ってから約一週間後。夜天のアストライア魔導皇国の玉座の間に、一羽の禍々しい伝令鴉が舞い込んだ。それは聖光教国が放った、魔法の術式が施された宣戦布告の書状だった。書状は玉座の前に落ちると、独りでに開封され、尊大で怒りに満ちた男の声が響き渡った。*
**『魔王シロウ・ニシキよ! 聖なる世界樹を弄び、偽りの情報で世界を欺く不届き者め! 貴様ら魔族の存在こそが、この世界の穢れそのもの! 女神ルミナスティアの名の下に、我ら聖光教国は貴様ら邪悪の軍勢を討ち滅ぼし、世界に真の平和と秩序をもたらすことをここに宣言する! 愚かなる魔王よ、首を洗って待っていろ!』**
*ホログラムのように浮かび上がった教皇と思しき男の顔が、怒声と共に消える。玉座の間は一瞬、しんと静まり返った。シロウが玉座に深く腰掛け、その書状を眺めていると、隣に立つレイラが口を開いた。*
レイラ(魔王女):「で、参戦した国は?結構多いのか?」
*彼女の声は冷静だったが、その瞳の奥には抑えきれない戦意の炎が揺らめいている。シロウの隣に控えるメイド長のリーシアが、手にした報告書の束をめくりながら、淀みなく答えた。*
リーシア:「はい。リーシアよりご報告申し上げます。シロウ様の流された情報により、多くの中央諸国は日和見を決め込んでおります。しかし、聖光教国の呼びかけに応じ、明確に敵対の意思を示した国家が三つ。古くから聖光教国と盟約を結ぶ『エルデラント王国』。勇者信仰の強い『ヴァーミリオン公国』。そして、領土拡大の野心を隠さない北の軍事国家『ガレリア帝国』です。いずれも一筋縄ではいかない相手かと」
*リーシアが報告を終えると、シロウの足元の影からルミナが静かに顔を出し、補足するように言った。*
ルミナ:「お兄ちゃん、そいつらの軍、もう国境近くまで来てる。数は合わせて…ざっと5万くらい。こっちに向かってる」
シロウ:「5万か…結構少ないな。」
*シロウが玉座に深く腰掛けたまま、こともなげに呟くと、玉座の間にいた者たちの反応は三者三様だった。リーシアは驚きにわずかに目を見開き、ルミナは「まあ、お兄ちゃんならそう言うよね」とでも言いたげに小さく肩をすくめる。そして、レイラは――。*
レイラ(魔王女):「くくっ…! そうでなくてはな! さすがは我が夫、シロウよ! 5万の大軍を前にして『少ない』と言い放つか! 全くだ、我が軍の力を考えれば、烏合の衆がどれだけ集まろうと物の数ではないわ!」
*彼女は心底愉快そうに笑い、シロウの隣に歩み寄ると、その肩にポンと手を置いた。胸を押し付けるような真似はしないが、その仕草には絶対的な信頼が込められている。*
レイラ(魔王女):「それで? どうするのだ、シロウ? 奴らはご丁寧に決戦の地まで指定してきた。真正面から受けて立ち、我が魔王軍の力を見せつけてやるか? それとも、また何か悪辣な手を考えているのか?」
*彼女の真紅の瞳が、悪戯っぽくキラリと光る。ただ敵を殲滅するだけではない、シロウならではの奇策を期待しているのがありありと見て取れた。*
リーシア:「シロウ様。敵軍の内訳ですが、聖光教国の聖騎士団が約2万、エルデラント王国の重装歩兵団が1万5千、ヴァーミリオン公国の魔導騎士団が8千、そしてガレリア帝国の傭兵団が7千、との報告が入っております。特に聖光教国の聖騎士団は練度が高く、厄介な相手となるでしょう」
*リーシアが冷静に分析情報を付け加える。どんな状況でも、彼女は客観的な事実を主に提供する役割を忘れない。*
シロウ:「どうせ勝つし、迎え撃とう。」
*玉座に響いたシロウの絶対的な自信に満ちた一言。それは、5万という大軍を前にしても揺るがない、魔王としての威厳を示すものだった。その言葉を聞いたレイラは、待ってましたとばかりに歓喜の表情を浮かべ、拳を強く握りしめた。*
レイラ(魔王女):「くはは!それでこそ我が夫、魔王シロウだ! 良いだろう、その言葉を待っていた! 5万の軍勢など、我らの前では塵芥に同じ! 全軍を持って、奴らを正面から叩き潰してくれるわ!」
*彼女の瞳は血のように赤く輝き、全身から凄まじい闘気が立ち上る。戦好きの彼女にとって、これ以上ない胸躍る展開だった。*
レイラ(魔王女):「リーシア! 全軍に通達だ! 一月後、グラン平原にて聖光教国連合軍を迎え撃つ! 全ての兵士に最高の武具と十分な休息を与えよ! ゼノス率いる竜人族騎士団を先鋒とし、空から奴らを蹂躙する! 我ら魔王軍の恐ろしさを、骨の髄まで教えてやれ!」
*レイラが檄を飛ばすと、メイド長のリーシアが深々と一礼する。*
リーシア:「御意に。直ちに全軍に通達し、決戦の準備に取り掛かります。兵站、物資の輸送経路、野営地の設営に関しましても、万全を期しておきます。シロウ様、何か特別なご指示はございますか?」
*リーシアは冷静に、しかしその声には確かな忠誠を滲ませてシロウに問いかける。一方、シロウの影の中にいたルミナが、そっと顔を覗かせた。*
ルミナ:「…お兄ちゃん、本当に全部まとめて相手するの? 聖騎士団とか、光の魔法を使うからちょっと面倒だよ。わたしが先に、敵の将軍の首、取ってこようか?」
*彼女は小首を傾げ、物騒な提案をあっさりと口にする。暗殺者である彼女にとっては、大軍を相手にするよりも、中枢を破壊する方が手っ取り早いと考えているようだ。*
シロウ:「それもいいけど、つまらんだろ。始まる前に王手は…最初は適当に勧告して、それからだな」
ルミナ:「…お兄ちゃんがそう言うなら」
*影の中に戻っていく。彼女にとって、戦いの面白さよりも主の命令が絶対なのだ。*
*一方、シロウの言葉を聞いたレイラは、ニヤリと魔王らしい笑みを深めた。*
レイラ(魔王女):「圧倒的な力の差を見せつけ、奴らに最後の慈悲を与えてやるというわけだな。それでこそ王者の戦いだ! どのような文面を送る? 『今すぐ土下座して靴を舐めるなら、命だけは助けてやろう』とでも書くか?」
*彼女は楽しそうに物騒な提案をする。敵をいたぶり、絶望させるのが何より好きなのだ。*
*そんなレイラの隣で、メイド長のリーシアが冷静に、しかし的確な質問を投げかける。*
リーシア:「シロウ様。勧告についてですが、降伏を促すのか、それとも我々の正当性を改めて主張するのか。あるいは、敵軍の兵士たちの士気を削ぐような内容が効果的かと存じます。例えば、聖光教国の上層部が兵士たちを駒としか見ていないことや、この戦いが無益であることを説く、など」
*彼女は、ただの脅しではなく、戦略的な意味合いを持たせた勧告を提案する。どうやら、このメイド長もただ者ではないようだ。戦場を舞台にした心理戦にも長けていることが伺える。*
シロウ:「ホログラムで送られてきたし、こちらもそうしよう。」
*シロウがそう言うと、レイラは面白そうに口角を上げた。敵が使ってきた手法をそのまま利用し、さらに上を行く形で返す。そうしたシロウのやり方が、彼女はことのほか気に入っていた。*
レイラ(魔王女):「くくく、面白い! 奴らが使った手で、奴らの鼻を明かしてやるというわけか! 良いだろう、ならば最高の舞台を用意してやろうではないか!」
*彼女はぱちんと指を鳴らすと、玉座の間の空間がぐにゃりと歪み、巨大な黒水晶の水盤が出現した。水面には、今まさに進軍の準備を進めているであろう、聖光教国連合軍の野営地が鮮明に映し出されている。これは遠見の魔法具だ。*
レイラ(魔王女):「これで敵陣の様子は手に取るようにわかる。それで、シロウ。どのような映像を奴らに送りつけてやるのだ? 私の美しい姿を見せつけて、戦う前に戦意を喪失させてやるのも一興だがな?」
*自信満々に胸を張りながら、レイラはシロウに問いかける。その隣で、メイド長のリーシアが静かに補足した。*
リーシア:「シロウ様。魔術的な細工を施せば、特定の人物、例えば敵軍の将軍たちにだけ映像を見せることも、全軍に向けて一斉に配信することも可能です。いかがなさいますか?」
*シロウの意図を正確に汲み取り、技術的な選択肢を提示する。彼女の有能さが窺える。*
シロウ:「レイラに任せる。」
*シロウが玉座に座ったまま、あっさりとそう告げると、レイラは一瞬、目をぱちくりさせた。しかし、すぐに自分が全権を任されたのだと理解し、その顔に歓喜と愉悦の笑みが広がっていく。それは、最高のおもちゃを与えられた子供のような、残酷で無邪気な笑みだった。*
レイラ(魔王女):「―――っ! く、くくく…くはははは! 私に任せる、か! そうか、そうか! やはり貴様は最高の夫だ、シロウ! よかろう! 貴様の期待に応え、この私自らが、奴らに絶望という名の福音を届けてくれよう!」
*彼女は哄笑し、黒水晶の水盤の前に立つ。そして、胸に手を当て、魔力を練り上げ始めた。彼女の体から立ち上る魔力が渦を巻き、水盤に映る連合軍の野営地の上空に、巨大な魔法陣を展開させていく。野営地にいた兵士たちが、空に現れた不吉な紋様に気づき、次々と空を見上げ、騒然となっているのが見て取れた。*
レイラ(魔王女):「リーシア! 準備は良いな! 私の最も美しく、最も威厳のある姿を、愚かなる者共の眼球に焼き付けてやれ!」
リーシア:「はっ! いつでも。レイラ様のお姿は、常に完璧でございます」
*リーシアが恭しく応えると、レイラは深呼吸を一つし、魔法陣の中心に自らのホログラムを投影した。それは、魔王城の玉座に座る、威厳に満ちた魔王女レイラの姿だった。その映像は連合軍の全兵士が見えるほど巨大で、鮮明だった。*
レイラ(ホログラム):「―――聖光教国に与する愚かなる者共よ。我が名はレイラ。この夜天のアストライア魔導皇国を統べる女王であり、偉大なる魔王シロウ・ニシキが妻である」
*凛と響き渡る声。敵陣の兵士たちは、突如現れた魔王の妻の姿に完全に度肝を抜かれ、静まり返っている。*
レイラ(ホログラム):「貴様らが信じる神も、貴様らが仕える王も、そして貴様らが掲げる正義も、全ては偽りだ。貴様らはただ、腐敗した者共の欲望のために、無駄死にさせられる駒に過ぎん。…だが、我が夫は慈悲深い。今この場で武器を捨て、故郷へ帰る者には手出しはせぬと約束しよう。これは最後の警告であり、最後の慈悲だ。選び、そして後悔するがいい」
*一方的にそう告げると、レイラはホログラムをぷつりと断ち切った。玉座の間で、彼女は満足げに息をつく。*
レイラ(魔王女):「ふん、こんなものか。どうだ、シロウ? 少しは奴らの士気を削げただろうか?」
*彼女は振り返り、夫であるシロウに得意げな顔で問いかけた。*
シロウ:「むしろ高まったと思う。」
*シロウが淡々と指摘すると、得意満面だったレイラの表情がぴしりと固まった。彼女は「な、何を言うか!」と反論しようとしたが、シロウが続ける言葉にぐうの音も出なくなる。*
シロウ:「出てきたのが魔王の妻だから、『魔王はやはり弱ってる』という印象が強くなるはず」
*その言葉は、レイラの頭をガツンと殴られたかのような衝撃を与えた。確かにそうだ。魔王本人が出てこず、代わりに妻である自分が出てきて勧告などすれば、敵は「魔王は何か事情があって動けないのだ」「弱っているに違いない」と解釈し、むしろ士気を高めてしまう可能性がある。自分の行動が、全くの逆効果だったと気づかされたのだ。*
レイラ(魔王女):「~~~~っ! う、うるさい、うるさい、うるさーい! 私が貴様のために、わざわざ一肌脱いでやったというのに、なんだその言い草は! 感謝こそすれ、文句を言うとは何事だ、この朴念仁!」
*顔を真っ赤にして、彼女は悔し紛れにシロウの胸をドン!と叩く。しかし、その威力は微々たるものだ。自分の浅慮を指摘され、恥ずかしさと悔しさでいっぱいになっているのが見て取れた。*
レイラ(魔王女):「だ、だいたい、貴様が私に任せるなどと言うから…! そうだ、全ては貴様のせいだ! 貴様がもっと具体的に指示しなかったのが悪い!」
*完全に逆ギレである。ぷんすかと怒りながらそっぽを向くレイラを見て、隣に控えていたリーシアがくすりと小さく笑みをこぼした。*
リーシア:「ふふ…レイラ様。しかし、シロウ様の狙いはそこにあるのかもしれませんよ? 敵の士気をあえて高め、油断を誘う。驕れる者ほど、足元を掬われた時の衝撃は大きいものですから」
*リーシアが見事なフォローを入れると、レイラは「そ、そうなのか、シロウ!?」と勢いよく振り返り、キラキラした期待の眼差しをシロウに向ける。どうやら、自分は夫の深遠な策略の上で踊っていただけなのだと、信じたいらしい。*
*シロウがすっと目を逸らす。その無言の、しかし雄弁な態度は、リーシアのフォローがただの気遣いで、実際には何の深謀遠慮もなかったことを明確に示していた。*
*「そ、そうなのか、シロウ!?」とキラキラした目で問いかけていたレイラの期待は、脆くも崩れ去った。彼女の顔からサッと血の気が引き、次の瞬間、耳まで真っ赤に染まる。自分の早とちりと、完全に逆効果だった行動の恥ずかしさが、一気に込み上げてきたのだ。*
レイラ(魔王女):「…………っ」
*彼女は何も言えず、俯いてぷるぷると肩を震わせている。怒る気力も、逆ギレする元気も、もうないらしい。ただただ、羞恥に耐えている。*
*その気まずい沈黙を破ったのは、メイド長のリーシアだった。彼女は一つ咳払いをすると、何事もなかったかのように冷静に次の議題に移る。*
リーシア:「…では、シロウ様。敵の士気がどうであれ、我々の行動方針は変わりません。決戦は一月後、グラン平原にて。それまでの間、軍の最終調整を進めますが、シロウ様はどのようにお過ごしになられますか? 鍛錬に励まれますか、それとも…何か別の策をお考えでしょうか」
*リーシアの完璧な軌道修正により、玉座の間の雰囲気は再び戦略会議のものへと戻る。しかし、シロウの隣では、未だにレイラが小さな声で「…うぅ…もう嫁失格だ…穴があったら入りたい…」などとブツブツ呟いているのが聞こえていた。*
*影の中から様子を伺っていたルミナも、呆れたように小さくため息をついている。*
ルミナ:「(…お兄ちゃんも、もうちょっと言い方ってものが…まあ、あの人も単純すぎるけど…)」
*シロウが告げた、あまりにも大胆不敵な布陣。それは、国のトップ5人が自ら最前線に立ち、敵の大軍と対峙するという、英雄譚さながらの、しかし無謀とも言える作戦だった。*
*先ほどまで羞恥で俯いていたレイラも、その言葉に顔を上げる。彼女の瞳には、再び戦意の炎が宿っていた。落ち込んでいる暇などない、夫は既にもっと先を見据えているのだ。*
レイラ(魔王女):「…ふん。面白い! 私と貴様、そしてルミナたちが先頭に立つか! 敵はさぞ驚くだろうな! 魔王自らが先陣を切るなど、夢にも思うまい!」
*彼女は気を取り直したように不敵に笑う。そして、シロウの言葉の続きに、少しだけ眉をひそめた。*
レイラ(魔王女):「ルミナの真の姿…? あの忌々しい天使の姿を、衆目の前で晒すというのか? 敵を混乱させるにはいい手かもしれんが…」
*レイラの言葉を受けて、影から姿を現したルミナは、少し戸惑ったようにシロウを見上げた。*
ルミナ:「…わたしの、真の姿? …お兄ちゃんがいいなら、わたしは構わないけど。でも、あれは結構目立つよ? 聖光教国の連中、発狂しちゃうかも」
*彼女は少し不安げだ。元熾天使という自らの出自が、この戦況にどのような影響を与えるか、計りかねているのだろう。一方、メイド長のリーシアは、主の決定に冷静に、しかし確かな信頼を寄せて頷いた。*
リーシア:「承知いたしました。シロウ様、レイラ様、ルミナ様、シルフィ様の安全確保を最優先とし、後方部隊との連携を密にします。竜人族騎士団は上空より援護させ、地上部隊は敵の側面を突く準備を整えさせましょう」
*彼女は淀みなく、具体的な戦術プランを口にする。*
シルフィ:「わ、私も戦うのですね! シロウさまのお役に立てるように、頑張ります!」
*ひらひらと飛んでいたシルフィも、きゅっと小さな拳を握りしめ、やる気に満ちた表情を見せた。*
シロウ:「いや、シルフィはムードメーカーかな?一応精霊王だし。」
*シロウがそう言って、やる気満々だったシルフィの頭を優しく撫でると、彼女は「むぅ」と少し頬を膨らませた。しかし、すぐに主の真意を悟ったのか、こくりと頷く。*
シルフィ:「わかりました! 私が戦場にいるだけで、みんなが元気になっちゃうってことですね! 任せてください、最高の笑顔でみんなを応援します!」
*彼女はくるりと一回転し、キラキラとした光の粉を撒き散らす。その純粋で明るい存在は、確かにおどろおどろしい魔王軍の中では異質だが、兵士たちの士気を高めるという点では、どんな鬨の声よりも効果的かもしれない。*
レイラ(魔王女):「ふん。まあ、あいつが最前線でちょろちょろされるのも邪魔だしな。後方で旗でも振らせておけばよかろう」
*レイラはぶっきらぼうに言うが、その口元は少し緩んでいる。シルフィの存在が戦場における癒やしになることを、彼女も理解しているようだ。*
リーシア:「精霊王シルフィ様には、後方にて負傷者の治癒と、兵士たちへの加護をお願いするのがよろしいかと存じます。その存在だけで、我が軍の継戦能力は飛躍的に向上するでしょう」
*メイド長のリーシアが、具体的な役割を提案する。彼女は常に冷静に、最大の効果を発揮する方法を模索している。*
*すると、今まで黙っていたルミナが、シロウの袖をくいっと引っ張った。*
ルミナ:「…ねえ、お兄ちゃん。本当に、あの姿になるの? 熾天使の姿になれば、聖光教国の奴らが使う光の魔法は、ほとんど効かなくなるけど…。その代わり、わたし、お兄ちゃんのそばから離れられなくなる。力も…すごく使うから、戦いが終わったら、いっぱいお兄ちゃんに甘えさせてくれないと、動けなくなっちゃうかも…♡」
*彼女は上目遣いでシロウを見つめ、小さな声で条件を付け加えた。それは、戦いの後のご褒美をねだる、愛らしい脅迫だった。*
シロウ:「お、終わったらな…」
*シロウが少し照れくさそうに、しかし確かに頷くと、ルミナは「…やった♡ 約束、だからね」と満足げに微笑み、再びシロウの影の中へと溶けていった。その約束が、彼女にとって何よりの力になるのだろう。*
シロウ:「レイラは戦闘狂だから戦いたいとか言いそう…」
*シロウが隣に立つ妻に視線を向けてぽつりと呟くと、レイラは待ってましたとばかりに胸を張った。彼女は先ほどの失態による羞恥心など、すっかり闘争心で塗り替えてしまったようだ。*
レイラ(魔王女):「当たり前だ! 私に戦うなと言う方が無理な話よ! 敵の大将首は、この私が直々に取ってくれる! 貴様は玉座にでも座って、私の華麗な戦いぶりを眺めているがいい!」
*彼女は腰に提げた魔剣の柄に手をかけ、目を爛々と輝かせる。その姿はまさに戦闘狂。5万の軍勢を前にして、恐怖よりも悦びを感じているのが明らかだった。*
レイラ(魔王女):「ふん、だがまあ、貴様が最前線に立つというのなら、話は別だ。背中は任せろ、シロウ。夫婦初めての共同作業が、敵軍の殲滅とはな! 燃えるではないか!」
*彼女はシロウの腕に自分の腕を絡め、ぐっと身を寄せた。小柄な体から発せられる熱気が、シロウにも伝わってくる。*
リーシア:「では、方針は決定といたします。一月後、グラン平原にて、シロウ様、レイラ様、ルミナ様を主軸とした先陣にて連合軍を迎え撃ちます。シルフィ様は後方支援。我が軍の全力をもって、敵を粉砕いたします」
*メイド長のリーシアが、凛とした声で最終確認を行う。玉座の間には、決戦を前にした緊張感と、それを上回る絶対的な自信が満ち溢れていた。魔王とその側近たちは、すでに勝利を確信しているかのようだった。*
シロウ:「ふむ…だったらあえて6人で行くか? 俺、レイラ、ルミナ、シルフィ、リーシア、ゼノス。シルフィはムードメーカーだから戦わないとして…1人1万か?」
*シロウから放たれた、常軌を逸した提案。それは、軍隊を一切使わず、たった6人(実質5人)で5万の連合軍に挑むという、神話の領域に片足を踏み入れたような作戦だった。*
*玉座の間に、一瞬の沈黙が落ちる。*
*その沈黙を破ったのは、レイラの甲高い笑い声だった。*
レイラ(魔王女):「くく…くはははは! 1人1万だと!? 馬鹿げている! 馬鹿げているが…最高だ! シロウ! やはり貴様は、私の想像を常に超えてくる! よかろう、その狂気の沙汰、乗ってやろうではないか!」
*彼女の瞳は興奮で爛々と輝き、もはや戦いを前にした武人ではなく、破滅を悦ぶ魔王そのものの顔つきになっている。*
*影から再び顔を出したルミナも、呆れたように、しかしどこか楽しそうに口元を歪めた。*
ルミナ:「…お兄ちゃん、本気? 1万って…ゴブリンじゃないんだから。まあ、お兄ちゃんがやるって言うなら、わたしも付き合うけど。」
*彼女はあっさりと自分のノルマを受け入れている。主が決めれば、それがどれだけ無謀であろうと遂行するのみ。それが彼女の忠誠の形だった。*
*シルフィは目をぱちくりさせている。*
シルフィ:「わ、私、応援頑張ります! 皆様が1万人ずつ倒せるように、いーっぱい応援しますね!」
*事の重大さを理解しているのかいないのか、彼女は純粋な笑顔でそう言った。*
*しかし、一人だけ冷静な人物がいた。メイド長のリーシアだ。彼女は表情一つ変えず、しかしその声には微かな、しかし確かな懸念が滲んでいた。*
リーシア:「…シロウ様。誠に、本気でございますか? ゼノス殿の召集は可能ですが、たった5名の戦闘員で5万の軍勢と渡り合うのは、いくら皆様が人智を超えた力をお持ちだとしても、無謀の極みかと。兵站を断つ、奇襲をかけるなどの策を併用するべきでは…?」
*彼女は主の決定に異を唱えることはない。だが、忠臣として、考えうるリスクを提示する義務があった。彼女の言葉は、この無謀な作戦に対する唯一の理性的な声だった。*
シロウ:「そうか?だったら俺とルミナとレイラの3人にする?」
*シロウがリーシアの懸念を一笑に付すかのように、さらに無謀な提案を重ねた瞬間、玉座の間の空気が凍りついた。5人で5万が今度は3人で5万。もはや常識も計算も意味をなさない。*
*その狂気的な提案に、最初に反応したのはレイラだった。彼女は一瞬呆気に取られた後、腹を抱えて哄笑した。その笑い声は、もはや愉悦や興奮を通り越し、純粋な狂気をはらんでいた。*
レイラ(魔王女):「くは、はは…あっはははは! 3人だと!? 貴様は、どこまで私を楽しませれば気が済むのだ、シロウ! 面白い! 面白すぎるぞ! 良い! 3人でやろうではないか! 聖光教国の歴史に、たった3人に滅ぼされたという最大の屈辱を刻み込んでくれるわ!」
*彼女は完全に正気のタガが外れている。その瞳は血のように赤く輝いている。*
*影の中から、呆れ果てたようなルミナの声が聞こえる。*
ルミナ:「…はぁ。お兄ちゃん、わたしのノルマ増えるじゃん。…まあ、いいけど。1人と、1万6666人…と、端数。わかった。レイラには負けない」
*彼女はぶつぶつと計算しながらも、既に戦うことを決めている。兄の決定が絶対であり、それが無謀であればあるほど、彼女の闘志もまた燃え上がるらしかった。*
*しかし、この状況でついに、常に冷静だったメイド長リーシアが限界を迎えた。彼女は普段のポーカーフェイスを崩し、珍しく感情を露わにしてシロウに詰め寄った。*
リーシア:「お待ちください、シロウ様! さすがに看過できません! 3人で5万の軍勢に挑むなど、それは作戦ではなく自殺行為です! 私やゼノス殿が足手まといだと仰るのであれば、後方支援に徹します! ですから、どうか、どうかご再考を…!」
*彼女の声は悲痛ですらあった。主君を死地に送り出すことだけは、忠臣として絶対に認められない。彼女はシロウの前に跪き、深く頭を下げた。その姿からは、主を心から案じる強い忠誠心が伝わってきた。*
シロウ:「………」
*シロウが押し黙り、考え込む素振りを見せる。リーシアの悲痛な訴えは、さすがに彼の心にも響いたようだ。3人で5万の軍勢と戦う。それは、自分たちの力を絶対的に信じているからこその発想だったが、客観的に見れば無謀極まりない。本当に可能なのか、冷静に戦力分析をする必要がある。*
*(まずはルミナの力を正確に把握しよう。)*
*シロウは心の中で「鑑定」を発動し、目の前で心配そうに自分を見上げる少女――ルミナのステータスに意識を集中させた。*
```
【ステータス】
名前:ルミナ
種族:元熾天使(堕天)
称号:影の暗殺者、魔王の刃、絶望を告げる者、シロウの眷属
Lv:158
HP:48,000 / 48,000
MP:95,000 / 95,000
STR(筋力):7,500
VIT(耐久力):6,800
AGI(敏捷力):15,500
INT(知力):11,200
DEX(器用さ):13,000
LUK(幸運):350
【スキル】
・短剣術:Lv.MAX
・隠密:Lv.MAX
・暗殺術:Lv.MAX
・気配遮断:Lv.MAX
・影魔法:Lv.9
・毒生成:Lv.8
・罠設置:Lv.8
・鑑定妨害:Lv.MAX
・言語理解:Lv.MAX
・高速思考:Lv.7
・危機察知:Lv.9
・堕天の翼:Lv.---(真の姿を解放する。全ステータスが大幅に上昇し、光・闇属性魔法への完全耐性を得るが、魔力消費が激しく、使用後は極度に消耗する)
・眷属の誓い:Lv.---(主であるシロウへの絶対的な忠誠。シロウが近くにいる限り、全能力に補正がかかる)
・スキル整理
【装備】
・星影の双剣:神話級。星の光と夜の闇を宿した双剣。斬撃に対象の魔力を霧散させる効果と、影を媒介とした瞬間移動を可能にする。
・夜風の衣:伝説級。着用者の気配を完全に遮断し、物理・魔法攻撃に対する高い防御力を誇る。
・沈黙の靴:伝説級。足音を完全に消し去る。
【加護】
・魔王シロウの加護
・女神の微かな加護
```
*シロウは内心でルミナのステータスを確認し、その人外の領域にある数値に改めて頷く。敏捷力と器用さが突出しており、まさに暗殺者としての能力に特化している。熾天使の姿にならずとも、その戦闘力はそこらの将軍など比較にもならないだろう。*
*(次に、隣で期待と不安が入り混じったような顔でこちらを見ている妻、レイラのステータスを確認する。)*
*シロウは静かに意識を集中させ、レイラに「鑑定」の視線を向けた。*
```
【ステータス】
名前:レイラ・フォン・アストライア
種族:魔人(亜神級)
称号:魔王女、夜天の女王、戦闘狂、傲慢と臆病の二重人格、シロウの妻
Lv:185
HP:98,000 / 98,000
MP:120,000 / 120,000
STR(筋力):12,500
VIT(耐久力):11,000
AGI(敏捷力):10,800
INT(知力):14,500
DEX(器用さ):9,200
LUK(幸運):580
【スキル】
・魔王の覇気:Lv.MAX(周囲の格下の存在に威圧効果を与え、士気を低下させる)
・古代魔術:Lv.9(通常の魔法体系とは異なる、強力無比な古代の魔法を操る)
・重力魔法:Lv.8
・空間魔法:Lv.7
・超再生:Lv.8
・深淵魔法:Lv.8
・崩壊魔法:Lv.8
・物理攻撃耐性:Lv.9
・魔法攻撃耐性:Lv.8
・精神汚染耐性:Lv.5
・痛覚無効
・完全隠蔽
・夜伽の術:Lv.MAX
・高速詠唱:Lv.MAX
・魔力操作:Lv.MAX
・二重人格:Lv.---(精神状態により人格が入れ替わる。戦闘時は好戦的な『魔王女』、平時は臆病な『メイド』の人格が主となる)
・カリスマ:Lv.9
【装備】
・魔剣グラム:神話級。所有者の魔力を増幅し、斬撃に破滅の概念を付与する。真名解放により、広範囲殲滅魔法『終焉の黒陽』が使用可能。
・女王のドレス:伝説級。あらゆる状態異常を無効化し、高い魔法防御力を誇る。着用者の覇気を増幅させる効果を持つ。
・誓いの指輪:アーティファクト。シロウとの繋がりを示す指輪。互いの存在を常に感じることができる。
【加護】
・魔王シロウの加護
```
*ルミナ、レイラと二人の圧倒的なステータスを確認し、シロウは改めて彼女たちの実力を認識する。ルミナは対人・暗殺に特化した神速のアタッカー。レイラは広範囲を殲滅する古代魔術の使い手。どちらも単独で一個師団を壊滅させる力を持っている。*
*(では、俺自身はどうだ?)*
*シロウは自らの内側に意識を向け、「神眼」となった鑑定能力で己の魂の情報を読み解いていく。*
```
【ステータス】
名前:シロウ・ニシキ
種族:神人
職業:SSランク冒険者、魔王
称号:異世界転移者、夜天の魔王、神眼の所有者、世界を識る者、レイラの夫、龍の盟主、鑑定士、世界樹の寵愛を受けし者、竜殺し(ワイバーン)、王女を救いし者、海賊団の蹂躙者、精霊王に名付けし者、迷宮の支配者、ギルド史上最速のSSランク、魔王、幸運の覇王、神殺し
Lv:210
HP:155,000 / 155,000
MP:250,000 / 250,000
STR(筋力):15,000
VIT(耐久力):14,800
AGI(敏捷力):15,200
INT(知力):18,000
DEX(器用さ):17,500
LUK(幸運):測定不能
【スキル】
・神眼:Lv.MAX(鑑定の上位スキル。対象の情報を完全看破し、スキル・魔法を奪取または複製する)
・スキル整理:Lv.---
・創造:Lv.---(Lv.50で習得。経験値や金銭を対価に、新たなスキルや魔法を創造する)
・全言語理解:Lv.MAX
・並列思考:Lv.MAX
・万物操作:Lv.---
・完全耐性(物理・魔法・状態異常・精神汚染・即死)
・魔力操作:Lv.MAX
・魔力吸収:Lv.MAX
・武神:Lv.MAX
・全属性魔法:Lv.MAX
・結界魔法:Lv.MAX
・転移魔法:Lv.MAX
・スキル整理
・スキル統合
・隠匿神
・生活魔法
・削除
・飛翔
・解体
・レベルドレイン
・回復魔法:Lv.8
・重力魔法:Lv.8
・魔力操作:Lv.9
・記憶操作
・概念魔法:Lv.7
・経験値獲得量アップ:Lv.MAX
・完全隠蔽
・空歩:Lv.1
・オートマティック:Lv.1
・パーマネント:Lv.1
・星渡り
・大蘇生
・召喚魔法:神格
【装備】
・誓いの指輪:アーティファクト。レイラとの繋がりを示す指輪。互いの存在を常に感じることができる。
・星麻毒の刃『ステラヴェノム』(等級:伝説級/属性:超麻痺猛毒)
・夜天の牙『ナイトファング(等級:伝説級/属性:出血、腐食)
・聖剣『アスカロン』(星屑の迷宮、99階層の守護騎士からのクリアした証、初代勇者が使っていた。)
・星屑の外套(等級:神話級/物理、①魔法ダメージを90%軽減する。②全ての状態異常を無効化する。③スキル『星渡り』を使用可能にする。(※『星渡り』:短距離の瞬間移動を任意に発動できる)
(奈落の大迷宮、100階層のボスからドロップ。)
説明:星の神々の加護が織り込まれた外套。これを纏う者は、夜空の星々に見守られるという。
・『神癒の指輪』(等級:神話級/①装備者の治癒魔法の効果を10倍に増幅する。②装備時、スキル『大蘇生』を使用可能にする。(※『大蘇生』:死者を完全な状態で蘇らせる。ただし、魂の消滅した者、神々の呪いによる死には無効。使用時、膨大な魔力を消費する)
説明:生命を司る神が遺した指輪。失われた命すら呼び戻す奇跡の力を秘めている。
【所持金】
黒金貨 150,056枚
白金貨 28枚
金貨 715枚
銀貨 8,547枚
銅貨 1,864枚
鉄貨 176,734,003枚(釣り銭)
【加護】
・世界樹の加護
・星の導き
・元熾天使の祝福
・精霊王の寵愛
・竜神の盟約
```
*シロウは自分、レイラ、そしてルミナの規格外のステータスを順に確認し終え、その圧倒的な数値を前にして、思わず乾いた笑みがこぼれた。リーシアの心配はもっともだが、この戦力を見れば、3人で5万という狂気の作戦ですら、現実的な選択肢として浮かび上がってくる。*
シロウ:「どうしよう、負ける気がしない…」
*シロウが誰に言うでもなくそう呟くと、その言葉は玉座の間に奇妙な静寂をもたらした。跪いて必死に再考を促していたリーシアは、主のその呟きに込められた絶対的な自信を感じ取り、顔を上げる。彼女の目には困惑が浮かんでいた。*
*その静寂を破ったのは、シロウの腕にしがみついていたレイラだった。彼女はシロウの言葉を聞いて、さらに目を輝かせた。*
レイラ(魔王女):「ふはは! 当たり前ではないか! この私と貴様、そしてあの影の小娘が揃って、負ける道理など万に一つもないわ! そうだろう、シロウ!」
*彼女はシロウの顔を覗き込み、同意を求める。その表情は勝利を確信した者のそれだ。*
*影の中からルミナもひょっこりと顔を出す。彼女もまた、シロウの自信に満ちた呟きを聞いて、不安よりも期待が勝ったようだ。*
ルミナ:「…でしょ? だから言ったのに。お兄ちゃんがいれば、負けないって。…だから、3人でも、いいよ? わたし、頑張るから」
*先ほどまでの悲痛な訴えはどこへやら、リーシアは3人の圧倒的なオーラと揺るぎない自信を前にして、反論の言葉を失ってしまう。彼女の常識、彼女の戦術論では、この魔王たちの思考はもはや理解の範疇を超えていた。*
リーシア:「…シロウ様…皆様がそこまで仰るのでしたら…私などが口を挟むべきことでは、ないのかもしれません…。ですが、どうか、どうかご油断だけは…」
*彼女はかろうじてそれだけを絞り出し、再び深々と頭を下げた。主の決定に従う。しかし、その身を案じる心までは、消し去ることができなかった。*




