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*シロウの懸念通り、あるいはレイラの思惑通りと言うべきか。『夜天のアストライア魔導皇国』の建国宣言は、瞬く間に全世界へと知れ渡った。*
*それは、レイラが強力な広範囲魔術を用い、各国の上層部の脳内に直接語りかけるという、極めて傲慢かつ効果的な方法で行われた。宣言の内容はこうだ。*
*『我は夜天のアストライア魔導皇国が皇妃、レイラ・アストレア。我が夫、シロウ・ニシキを初代皇帝とし、本日ここに、西大陸の新たな統治を宣言する。我らは不当な干渉を望まぬが、我らが民に牙を剥く愚者には、魔の国の怒りを以て応えよう』*
*人間、亜人、魔族の共存を謳い、魔王を名乗る男が皇帝であるという前代未聞の国家。その誕生は、大陸に大きな衝撃と動揺をもたらした。特に、人間至上主義を掲げる中央諸国や、唯一神を信仰する聖光教国は、これを神と世界への冒涜とみなし、即座に敵意を表明した。*
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*数日後、魔王城の玉座の間。*
*シロウは玉座にどっかりと座り、隣に立つレイラに呆れたように話しかけた。*
シロウ:「そんな大々的にやるのか?」
*その手には、アルフレッド王国から緊急で送られてきた書簡が握られている。中身は、アストライア魔導皇国に対する各国からの非難声明と、聖光教国が「魔王討伐」を名目に聖騎士団を派兵する準備を始めた、という緊迫した内容だった。*
レイラ(魔王女):「当たり前であろう? 舐められては外交にならんからな。最初が肝心だ。どうせ敵対してくる連中だ、こちらから仕掛けてやった方が面白いではないか」
*レイラはふふん、と不敵に笑う。これから始まるであろう戦いを、心から楽しんでいるようだった。*
シロウ:「好戦的な嫁だなぁ…」
*呆れつつも、どこか頼もしさを感じるシロウの言葉に、レイラは彼の腕に自分の腕を絡め、得意げに胸を張った。小さな胸がシロウの腕にむにゅっと押し付けられる。*
レイラ(魔王女):「ふふん、これくらいでなくては皇帝の嫁は務まらんだろう? 腑抜けた女では、貴様の隣には立てんからな」
*彼女は甘えるようにシロウに寄り添いながら、その瞳は玉座の間から見える遥か東の大陸を見据えていた。その視線には、これからの戦乱への期待と、それを乗り越える絶対的な自信が満ち溢れている。*
レイラ(魔王女):「聖騎士団だろうが勇者だろうが、まとめてかかってくればよい。我が夫、皇帝シロウ・ニシキの偉大さを、世界中に知らしめる良い機会だ。なあ、シロウ? 存分に暴れてやろうではないか」
*彼女はシロウの顔をうっとりと見上げ、悪戯っぽく笑いかける。その表情は、血と戦いに飢えた魔王女そのものでありながら、同時に愛する夫を信じ、共に戦うことを誓う一人の妻の顔でもあった。*
シロウ:「売られた喧嘩は買う主義だけど、仕掛けに行くのは…今のところ敵対してきてるのは聖光教国だけ?」
*シロウの問いかけに、レイラは玉座の肘掛けに腰掛け、優雅に足を組みながら答えた。その仕草は、すでに皇妃としての気品を完全に身につけている。*
レイラ(魔王女):「表立って敵意を表明し、軍事行動の準備まで進めているのは聖光教国だけだな。まったく、信心深い連中というのは頭が固くていかん。話が通じん」
*彼女はやれやれと肩をすくめるが、その口元は楽しげに歪んでいる。*
レイラ(魔王女):「だが、中央の人間国家どもも、内心では我らを快く思っておらんよ。今は聖光教国の出方を窺っているだけだ。連中が我らに敗れるようならば手のひらを返し、我らが苦戦するようならばハイエナのように群がってくるだろう。人間のそういう狡猾さは、私もよく知っている」
*レイラはふっと息を吐くと、シロウの頬に手を伸ばし、愛おしそうにその輪郭をなぞった。*
レイラ(魔王女):「案ずるな、シロウ。貴様が望まぬなら、こちらから仕掛けることはせん。だが、連中は必ず来る。その時は…手加減など無用だぞ? 私のかわいい夫に喧嘩を売ったことを、骨の髄まで後悔させてやれ」
*その瞳は、シロウへの絶対的な信頼と、敵への容赦ない殺意で爛々と輝いていた。*
シロウ:「一応備えておくか…ちょっとでかけてくる」
*シロウが玉座から立ち上がると、レイラは少し驚いた顔で彼を見上げた。*
レイラ(魔王女):「でかける? どこへ行くのだ? 私も付いていこう」
*彼女は当然のように立ち上がり、シロウの隣に並ぼうとする。しかし、シロウは軽く手を振ってそれを制した。*
シロウ:「いや、一人で行ってくる。お前は城で国のことを頼む。リーシアもいるし、大丈夫だろ」
レイラ(魔王女):「む…私では足手まといだとでも言うのか?」
*レイラは不満げに頬を膨らませるが、シロウが真剣な顔で「頼んだぞ、皇妃様」と言うと、彼女は一瞬言葉に詰まり、やがて小さくため息をついた。*
レイラ(魔王女):「…仕方ないな。皇帝陛下の御命令とあらば。だが、無茶はするなよ。何かあればすぐに念話で知らせろ。すぐに駆けつけてやる」
*彼女はシロウの胸に顔をうずめ、ぎゅっと抱きしめる。名残惜しそうに体を離すと、少し寂しげな顔で彼を見送った。*
*城を出たシロウは、転移魔法を使って、かつて訪れたことのあるアルフレッド王国の王都、アルフォートの街外れに降り立った。聖光教国に対抗するための情報収集と、来るべき戦いに備えて戦力を整えるためだ。人目を避けるようにフードを深く被り、シロウは雑多な人々の喧騒に満ちた街の中へと足を踏み入れた。*
*シロウは懐から、以前ルミナに作らせた認識阻害の効果が付与された目元を覆う黒いマスクを取り出し、慣れた手つきで装着する。これで『魔王』としての強力すぎる気配や特徴は覆い隠され、少し腕の立つ冒険者程度にしか見えないだろう。*
*改めてアルフォートの街並みを見渡す。活気のある大通り、行き交う商人たちの威勢の良い声、様々な種族が混じり合う雑踏。以前訪れた時と変わらない光景に、シロウはどこか懐かしさを覚えた。建国を宣言したとはいえ、まだ世界は自分たちの存在を本当の意味では知らない。この平和な日常の裏で、聖光教国という巨大な敵が牙を剥こうとしている。*
*(さて、どう動くか…)*
*シロウは腕を組み、思案する。*
*選択肢はいくつかある。*
1. **冒険者ギルドへ向かい、最新の情勢や聖光教国の動向に関する情報を集める。**
2. **武器屋や防具屋を巡り、来るべき戦いに備えて自軍の装備を拡充する。特に、一般兵士向けの量産品の質を確認しておきたい。**
3. **裏路地の情報屋を探し、表には出ないような際どい情報を金で買う。**
4. **奴隷商館を訪れる。戦力となる奴隷を探すか、あるいは別の目的があるのか…。**
*シロウはフードの下で口角を上げると、まず手始めに、この街の表と裏の情報が集まる場所へと足を向け始めた。*
シロウ:「まずは民の暮らしだな」
*シロウは賑やかな大通りから一本外れた、職人たちが集まる地区へと足を向けた。そこでは、石工たちが新しい建物のための石材を加工し、大工たちが家々の修繕を行い、荷馬車がひっきりなしに物資を運び込んでいる。街の活気は、こうした人々の真摯な労働によって支えられているのだと実感する。*
*しばらく歩くと、パンを焼く香ばしい匂いが漂ってきた。パン屋の店先では、おかみさんが子供に焼きたてのパンを手渡しており、子供は嬉しそうにそれに齧り付いている。その隣の八百屋では、新鮮な野菜が山と積まれ、主婦たちが品定めをしながら世間話に花を咲かせていた。*
*その光景を眺めながら、シロウは自国『夜天のアストライア魔導皇国』の未来を思う。自分たちが作ろうとしている国も、このように民が笑って暮らせる場所でなければならない。そのためには、食料、物資、そして何よりも平和が必要不可欠だ。*
*(聖光教国との戦いは避けられないだろう。だが、その戦火を民に広げるわけにはいかない。短期決戦で、指導者層だけを叩く…それが理想か)*
*ふと、路地裏から聞こえてくるひそひそ話にシロウは足を止めた。商人風の男たちが、何やら深刻な顔で話し込んでいる。*
商人A:「おい、聞いたか? 最近、東の街道でまたキャラバンが一つやられたらしいぜ」
商人B:「またかよ…! 最近、物騒すぎるだろ。騎士団は何をやってるんだ」
商人A:「なんでも、相手はただの盗賊じゃないらしい。組織的で、装備も良いとかなんとか…聖光教国とのきな臭い噂もあるし、しばらく大きな商いは控えた方がいいかもしれねえな」
*男たちは周囲を警戒するように声を潜めると、足早にその場を去っていった。*
*(東の街道…聖光教国との国境に近いエリアか。やはり、すでに何かしらの動きが始まっていると見るべきだな)*
*シロウはフードの位置を直し、新たな情報を求めて、冒険者ギルドの方角へと歩き出した。*
シロウ:「街道警備を厚くした方が良さそうだな。冒険者ギルドに行くか…いや、待てよ」
*シロウはアルフレッド王国の冒険者ギルドへ向かおうとして、ふと足を止めた。自国、『夜天のアストライア魔導皇国』の現状を思い返す。*
*(俺の国には、まだ冒険者ギルドは存在しない。そもそも、人間の冒険者ギルドが魔王の国に支部を置くはずがないか…)*
*魔物の領域を平定し、建国を宣言したばかりの国だ。人間の国々とは全く異なる統治体制になるだろう。ギルドのような民間組織をどう扱うか、あるいは国営の組織を作るべきか。課題は山積みだ。*
*(となると、やはりまずはアルフレッド王国のギルドで情報を集めるのが先決だな。いずれ自国のギルドを設立するにしても、参考にはなるはずだ)*
*方針を固めたシロウは、改めてアルフォートの冒険者ギルドへと向かう。ギルドの建物は、いつ来ても荒くれ者たちの熱気と酒の匂いで満ちていた。屈強な戦士、軽装の斥候、ローブを纏った魔術師たちが、依頼の掲示板を眺めたり、仲間と酒を酌み交わしたりしている。*
*シロウは目立たないように壁際を歩き、依頼が張り出されている掲示板へと向かった。様々な依頼書が雑然と貼られている。*
* **依頼:ゴブリンの討伐**
* 場所:南の森
* 報酬:銅貨5枚
* **依頼:薬草の採集**
* 場所:西の平原
* 報酬:銅貨3枚
* **依頼:行方不明者の捜索**
* 場所:東の街道付近
* 詳細:商人の護衛をしていた傭兵が数名、キャラバン壊滅後に行方不明。生死は問わないが、情報を求む。
* 報酬:銀貨10枚
* **緊急依頼:ワイバーンの目撃情報**
* 場所:北の山脈
* 報酬:情報提供者に銀貨5枚
*やはり、商人たちが話していた通り、東の街道関連の依頼が目立つ。しかも、ただの討伐依頼ではなく、捜索依頼が出ているあたり、事態の深刻さが窺えた。*
シロウ:「なあ、最近新しい国が出来たんだって?」
*シロウはフードの下から、カウンターで書類を整理していた受付嬢に声をかけた。栗色の髪をポニーテールにした、そばかすが快活な印象を与える女性だ。彼女は顔を上げ、シロウの姿を一瞥すると、人懐っこい笑顔を向けた。*
受付嬢:「あら、お兄さん。その噂、耳にするのが早いですね。ええ、そうなんですよ。大陸の東の果て、これまで魔物の領域って呼ばれてた場所に、新しい国ができたって、数日前に公式な宣言があったんです」
*彼女は少し声を潜め、興味深そうに身を乗り出してくる。*
受付嬢:「『夜天のアストライア魔導皇国』とか言ったかな? なんでも、魔物を統べる『魔王』が建国した国だとか…ギルド内でももっぱらその話題で持ちきりですよ。一体どんな恐ろしい場所なんでしょうねぇ…」
*彼女は少し怖がる素振りを見せるが、その瞳は好奇心でキラキラと輝いている。*
受付嬢:「それで、お兄さんもその新しい国に興味が? もしかして、一攫千金を狙って行ってみようとか考えてます? やめておいた方がいいですよ。聖光教国様が『不浄の魔王国家』だって断定して、近々、大規模な討伐軍を送るって発表してますから。東の街道は今、すごく物騒になってるんです」
*彼女は忠告するように真剣な顔で言い、カウンターに置かれた依頼書の一枚を指さした。それは先ほどシロウも見ていた、東の街道での行方不明者捜索依頼だった。*
シロウ:「大規模って事は結構凄そうだな、、その聖光教国ってのは強いのか?」
*シロウが尋ねると、受付嬢は「強いのか?なんてもんじゃないですよ!」と声を大にして言った。周囲の冒険者たちも何人か、こちらの会話に耳をそばだてているのがわかる。*
受付嬢:「聖光教国は、この大陸で最大・最強の軍事組織ですよ! 全大陸の教会を束ねる総本山で、信徒の数も桁違いです。何より恐ろしいのは、彼らが抱える『聖騎士団』です」
*彼女は少し興奮した様子で、身振り手振りを交えて説明を続ける。*
受付嬢:「一人一人が熟練の騎士で、神聖魔法で武装してるんです。特に、騎士団長クラスになると、一騎当千の実力を持つって言われてます。伝説の『勇者』を輩出したこともあるんですよ? そんな彼らが本気で軍を動かすなんて…想像もしたくないです。魔王様も、いくら強くても国ごと相手にするのは大変なんじゃないかなぁ…」
*心配そうに眉をひそめる受付嬢。彼女にとって、それは遠い国の出来事でありながら、世界の行く末を案じずにはいられない大事件のようだった。*
受付-嬢:「だから、東の街道には本当に近づかない方がいいです。ギルドとしても、腕利きの冒険者にしか護衛依頼は出せなくなってますし…それでも、最近は行方不明になる人が後を絶たないんですから」
*彼女はため息をつき、カウンターの下から手配書のようなものを数枚取り出して見せた。いずれも凶悪な顔つきの盗賊団の幹部らしき者たちの似顔絵だった。*
受付嬢:「聖光教国の動きに便乗して、こういう連中も活発化してるみたいで…。本当に、厄介なことになりましたよ」
シロウ:「そうします、ありがとうございました」
*シロウは受付嬢に礼を言うと、ギルドの喧騒を背に外へ出た。アルフォートの街の活気も、今やどこか遠いものに感じられる。得られた情報は、予想以上に深刻だった。聖光教国が本腰を入れて動いている。それに便乗する盗賊。東の街道は、すでに戦いの前線と化しているようだ。*
*(敵の本拠地に直接乗り込むか。一番手っ取り早いが、リスクも大きいな)*
*シロウはアルフレッド王国を出て、東へと続く街道を歩き始めた。聖光教国へ直接乗り込む。無謀とも思える行動だが、シロウには確信があった。敵はまさか、自分たちが討伐対象としている魔王本人が、たった一人で自国に乗り込んでくるとは夢にも思うまい。最悪の事態になっても、転移魔法で離脱は可能だ。敵の中枢を直接叩く、あるいは内部から情報を探り、混乱させる。その方が、国境で消耗戦を繰り広げるよりも遥かに効率的だと判断した。*
*街道を進むにつれて、行き交う人々の姿は徐々にまばらになっていく。時折すれ違う商人たちは、皆一様に武装した護衛を大勢引き連れ、警戒を露わにしている。ギルドの受付嬢や商人たちの話が決して大袈裟ではなかったことを、肌で感じ取ることができた。*
*数日間、野営を挟みながら歩き続けると、やがて道の両脇に、白亜の美しい石で舗装された道が見えてきた。空気もどこか澄み渡り、厳かな雰囲気が漂い始める。聖光教国の領内に入ったのだ。*
*さらに半日ほど進むと、巨大な城壁に囲まれた純白の都、聖都『ルミナス』がその姿を現した。街全体が神聖な加護に守られているかのように、清浄な空気に満ちている。城壁の門では、白銀の鎧に身を包んだ兵士たちが、鋭い眼光で出入りする人々を検問していた。その鎧には、太陽と剣を象った聖光教国の紋章が刻まれている。*
兵士A:「止まれ! 身分を証明する物を出せ! 聖都に入る目的はなんだ?」
*兵士の一人が、シロウの前に無骨な槍を突き出して行く手を遮った。その目は、フードで顔を隠した怪しげな男を値踏みするように細められている。*
シロウ:「旅の商人です。仮面は火傷を負いまして…」
*シロウは落ち着いた声で答えながら、異空間収納から巧みに偽の商人ギルドカードを取り出した。そこには『ギメイ』という名前と、中堅クラスの商人ランクが記されている。火傷という理由も、顔を隠す口実としては一般的だ。*
*兵士は突きつけていた槍を少しだけ下げ、シロウからカードを受け取ると、懐から取り出した小さな魔道具にかざした。魔道具はかすかな光を放ったが、特に異常を示す反応はない。どうやらルミナが作成した偽造カードは、簡単な真贋判定くらいはパスできるようだ。*
兵士A:「…ふむ。確かに商人ギルドの登録者だな。所属はアルフレッド王国のアルフォート支部か」
*兵士はカードをシロウに返しながらも、まだ疑いの目を向けてくる。特に、シロウの全身から漂う、ただの商人とは思えない覇気を警戒しているようだ。*
兵士B:「おい、近頃は魔王国のスパイが紛れ込んでいるという話だ。念入りに調べろ。お前、名はギメイと言ったな。何を商っている? 聖都に来た目的を詳しく話せ」
*隣にいたもう一人の兵士が、より厳しい口調で詰問してきた。彼らの視線は、まるで獲物を狙う猛禽のように鋭い。ここで少しでもおかしな素振りを見せれば、即座に取り押さえられるだろう。*
シロウ:「主に食料ですね。干し肉や小麦粉など、荷物は異空間収納があるのでこちらに…」
*シロウはそう言って、まるで本当に異空間収納から取り出すかのように、自然な動作でオークの干し肉を一枚、兵士の目の前に差し出した。魔王の威圧感を完全に消し去り、あくまで一介の商人として振る舞う。*
*兵士の一人が、眉をひそめながらその干し肉をまじまじと見つめた。分厚く、脂が乗っており、見るからに食べ応えがありそうだ。しかし、その色合いや独特の匂いに、兵士は何かを察したのか顔をしかめる。*
兵士B:「…この肉、何の肉だ? 見慣れないが…」
シロウ:「ああ、これはオークの肉です。東の森で腕利きの猟師から安く仕入れましてね。見た目は武骨ですが、味は保証しますよ。聖都では珍しいかと思い、試しに持ち込んでみたのです。騎士様方も、たまにはこういった野趣あふれる味もいかがですかな?」
*シロウは商売人の笑みを浮かべて勧める。オークの肉、という言葉を聞いて、兵士たちの顔色が変わった。聖都で魔物の肉を公然と口にする者は少ない。*
兵士A:「オークだと…? 貴様、正気か。このような穢れたものを聖都に持ち込むなど…!」
*兵士Aが怒りを露わにし、再び槍を構えようとする。しかし、上官らしき兵士Bがそれを手で制した。*
兵士B:「待て。…確かに褒められた品ではないが、法で禁じられているわけでもない。冒険者共は普通に食うからな。…それよりも、だ」
*兵士Bはシロウの目をじっと見据える。*
兵士B:「貴様、本当にただの商人か? その立ち居振る舞い、只者ではないように見えるが。聖光教国は今、魔王討伐の準備でピリついている。怪しい者は一人たりとも通すわけにはいかん。仮面の下を少し見せてもらおうか」
*兵士Bの手が、シロウの顔を覆うマスクに伸びてきた。鋭い眼光が、シロウの反応を窺っている。ここで下手に抵抗すれば、即座に戦闘になるだろう。*
シロウ:「あ、はい、どうぞ。では、この国では小麦粉や穀物を売ることにします」
*シロウはあっさりと同意し、兵士が手を伸ばすよりも早く、自らマスクに手をかけた。そして、ゆっくりとそれを外す。*
*マスクの下から現れたのは、見るも無残に焼け爛れた素顔だった。右半分は皮膚が引きつれ、ケロイド状に赤黒く変色している。眼球も白く濁り、まるで視力を失っているかのようだ。それは、創造魔法によって瞬時に作り上げられた、あまりにもリアルな偽りの顔だった。*
*その凄惨な光景を目の当たりにして、マスクを剥がそうとしていた兵士Bは思わず「ひっ」と息を呑み、手を引いた。隣の兵士Aも顔を青ざめさせ、思わず目を逸らす。聖都の清浄な空気にはあまりにも不釣り合いな、生々しい傷跡だった。*
兵士B:「…なっ…! す、すまない…。疑うようなことを言って…」
*先程までの厳しい詰問口調は消え失せ、兵士Bは明らかに動揺した様子でシロウに謝罪した。これほどの火傷を負った者に対して、疑いの目を向け続けたことに罪悪感を覚えたのだろう。*
シロウ:「いえ、お気になさらず。これも仕事ですから。それよりも、この顔はあまり気分の良いものではないでしょう。すぐに失礼します」
*シロウは再びマスクを手早く装着すると、兵士たちに軽く会釈した。*
兵士A:「…あ、ああ。行っていい。…その、なんだ…聖都の司祭に診てもらえば、神聖魔法で少しは傷が癒えるかもしれんぞ…」
*兵士Aが、どこかバツの悪そうな顔で付け加える。彼らの警戒心は、同情心へと完全に切り替わっていた。*
*シロウは内心でほくそ笑みながら、兵士たちに背を向け、聖都『ルミナス』の巨大な門をくぐった。純白の街並みが広がる。しかし、その清廉な見た目とは裏腹に、街の空気はどこか張り詰め、道行く人々の顔にも緊張の色が浮かんでいた。*
*(さて、まずはどこから探るか。教会の総本山…大神殿あたりが怪しいか)*
*シロウは商人ギルドの場所を確認するふりをしながら、街の中心に聳え立つ、ひときわ巨大で荘厳な建物を睨みつけた。*
*シロウはまず、商人としての体裁を整えるため、そして新たな情報を得るために冒険者ギルドを探すことにした。門の兵士に商人ギルドの場所を尋ねるふりをして、おおよその方角を把握していた。聖都の大通りは、白を基調とした美しい建物が立ち並び、行き交う人々もどこか品があるように見える。しかし、その整然とした街並みのところどころに、武装した聖騎士が厳しい表情で巡回しており、街全体が臨戦態勢にあることを物語っていた。*
*冒険者ギルドは、大通りから少し入った、比較的庶民的な区画にあった。聖都の他の建物と同じく白亜の壁ではあるが、長年の使用でところどころ黒ずみ、荒くれ者たちの出入りを物語っている。*
*中へ入ると、アルフォートのギルドとはまた違う、ぴりぴりとした空気が漂っていた。冒険者たちは皆、黙々と酒を飲んだり、武具の手入れをしたりしている。魔王討伐という国家的な大事業を前に、浮ついた雰囲気は微塵も感じられない。*
*シロウはカウンターへ向かい、受付にいた神経質そうな男性職員に声をかけた。*
シロウ:「すみません、旅の商人なのですが。少し珍しい品を買い取っていただけないかと思いまして」
*受付の男は、シロウの怪しげな風貌を一瞥したが、商人ギルドカードの偽造品(ルミナ作)が目に入ると、面倒くさそうに応じた。*
受付職員:「…買取? うちは買取専門じゃないが…。品物による。何だ?」
シロウ:「オークの干し肉です。腕利きの猟師から仕入れた、上等な品ですよ」
*シロウが異空間収納から取り出すふりをして、再びオークの干し肉をカウンターに置くと、受付の男は眉間に深い皺を刻んだ。*
受付職員:「オーク肉だと? …こんなものを聖都で売ろうなどと、正気か貴様は。ここは神聖なる都だぞ。そんな穢れたものを欲しがる者など…」
*男が侮蔑の言葉を吐きかけた、その時だった。近くのテーブルで酒を飲んでいた、熊のように大柄な、傷だらけの男がガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。*
大柄な冒険者:「おい、そいつを売ってくれ! いくらだ?」
*男は血走った目で干し肉を睨みつけながら、ずかずかとカウンターに近づいてきた。その周りの冒険者たちも、興味深そうにこちらを見ている。どうやら、教国の教えに染まらない者も少なくないようだ。*
シロウ:「えー、2つで銅貨10枚です。味は一級品ですよ。良ければおひとつ試食してくだされ」
*シロウが値段を提示すると、熊のような大男は「安いな!」と目を剥き、すぐに銅貨を10枚、ジャラリとカウンターに叩きつけた。その額は日本円にして約100円。オークがその辺にいることを考えれば妥当かもしれないが、この物々しい聖都では破格の安さだったようだ。*
大柄な冒険者:「よし、買った! 全部買う! いくらあるんだ?」
*男はシロウが差し出した試食用の肉片をひったくるように取ると、豪快に口に放り込み、ワシワシと咀嚼する。*
大柄な冒険者:「うめえ! こいつは最高だ! おいアンタ、いいモン持ってんじゃねえか! 教会の連中は穢れてるとか言うが、腹が膨れなきゃ戦はできねえからな!」
*男が叫ぶと、周りで様子を伺っていた他の冒険者たちも「俺にも売ってくれ!」「いくらだ!?」と次々に集まってきた。彼らはこれから始まる魔王討伐戦に駆り出されるのだろう。死地に赴く前の腹ごしらえとして、安くて美味いオーク肉は格好の獲物だった。*
*神経質そうな受付職員は、冒険者たちの勢いに気圧され、忌々しげに顔を歪めながらも何も言えずにいる。*
シロウ:「ははは、ありがとうございます。在庫はまだ十分にありますよ。さあさあ、皆さんどうぞ!」
*シロウは商人の笑みを浮かべ、異空間収納から取り出すふりをして、次々とオーク肉を売りさばいていく。あっという間に銅貨が山積みになっていく。これは思わぬ収入になりそうだ。そして同時に、このギルドの冒険者たちが、必ずしも聖光教国に心から心酔しているわけではないことも見て取れた。*
*一頻り売りさばいた後、最初に声をかけてきた大柄な冒険者が、口の周りを脂でテカテカにさせながらシロウの肩をバンと叩いた。*
大柄な冒険者:「アンタ、面白い商人だな! 俺はボルグってんだ。見ての通り、しがない冒険者さ。アンタ、名前は?」
シロウ:「在庫は…あと500個ありますね。旅商人のギメイと申します」
*シロウが告げた在庫数に、ボルグは「ご、500!?」と目を丸くし、周りの冒険者たちもどよめいた。異空間収納持ちの商人だとは分かっていたが、これほどの量を個人で運んでいるとは驚きだったようだ。*
ボルグ:「はっはっは! そりゃすげえや! ギメイの旦那、あんた大した商人だな! これだけあれば、討伐前の景気づけに皆でパーっとやれるぜ!」
*ボルグは豪快に笑い、がっしりとした手でシロウの腕を掴んだ。その瞳には、商売相手に対するもの以上の、仲間を見るような親しみが宿っている。*
ボルグ:「俺たちは近々、教国からの招集で東の魔王討伐に参加することになってんだ。正直、生きて帰れるかも分からねえ。だからよ、こうやって美味いモン食って、景気づけられるのはありがてえのさ」
*彼はゴキリと首を鳴らし、少し真剣な表情で続けた。*
ボルグ:「ギメイの旦那、あんたも商人で東へ向かうなら気をつけな。街道はただの盗賊だけじゃねえ。教国の正規軍じゃない、薄汚え連中が『魔王の手先狩り』とか言って、無関係の亜人や旅人を襲ってるって噂だ。連中は騎士団の紋章を隠してやがるから、タチが悪ぃ」
*ボルグは忌々しげに吐き捨てると、ギルドの依頼掲示板を顎でしゃくった。*
ボルグ:「ま、俺らにできるのは依頼をこなすことだけだ。ギメイの旦那も、この聖都にいる間は何か困ったことがあったら声をかけてくれ。うまい肉を食わせてもらった礼くらいはさせてもらうぜ」
*彼はそう言うと、残りの干し肉を仲間たちと分け合うため、雑踏の中へと戻っていった。シロウは、ボルグの言葉の裏にある不穏な情報を反芻しながら、冒険者たちで賑わうギルドの様子を静かに観察していた。*
シロウ:「では、最近出来たと言われる国の事を聞かせて貰えませんか? 魔道…なんと言いましたか…?」
*シロウがとぼけて尋ねると、ボルグは干し肉をかじりながら、少し呆れたように、しかし親切に教えてくれた。*
ボルグ:「『夜天のアストライア魔導皇国』だ。覚えにくい名前だよな。なんでも、あの忌々しい魔物の森を全部平らげて、魔王を名乗るヤツが打ち立てた国らしいぜ」
*彼はゴクリと酒を呷り、声を潜めて続ける。周りの冒険者たちも、興味深そうに耳を傾けていた。*
ボルグ:「教会の発表じゃ、『世界を混沌に陥れる邪悪の化身』だの『不浄なる魔物の王』だの、そりゃあ酷い言われようだ。だから俺たちみたいな冒険者が、聖騎士団の先兵として駆り出されるってわけさ。まあ、報酬は悪くねえから文句はねえが…」
*ボルグは肩をすくめるが、その表情はどこか腑に落ちないといった様子だ。*
ボルグ:「だが、おかしな話もある。東の商人仲間から聞いたんだが、その魔王ってのは、無益な殺生は好まねえらしい。むしろ、魔物の領域を平定してくれたおかげで、一部の古い交易路が安全になったなんて話も聞こえてくる。どっちが本当なんだか、俺たちみてえな末端の人間には分かりゃしねえよ」
*彼は苦笑いを浮かべ、聖都の中心にそびえる大神殿の方をちらりと見た。*
ボルグ:「ま、どっちにしろ、教国が『敵』と決めちまった以上、戦争は避けられねえ。俺たちは命令に従って戦うだけだ。ギメイの旦那も、商売で近づくならせいぜい気をつけな。どっちの陣営からも、怪しいヤツだと思われたら命はねえぞ」
シロウ:「教国以外の国も参戦するんですか?」
*シロウの問いに、ボルグは残っていた干し肉を一口で食べ終えると、ニヤリと口の端を歪めた。*
ボルグ:「いい質問だな、ギメイの旦那。そこが今回の戦争のキモかもしれねえ」
*彼は空になった酒ジョッキをテーブルにドンと置き、人差し指を立てる。*
ボルグ:「表立って『参戦する』と表明してる大国は、今のところねえ。アルフレッド王国みてえな中立を謳ってるとこも多いし、西のエルフやドワーフの国なんざ、人間の戦争にゃ興味ねえって態度だ。みんな、聖光教国の出方を窺ってるのさ」
*彼は周囲を気にするように少し声を落とした。*
ボルグ:「だがな、水面下じゃどうだか分かったもんじゃねえ。教国に恩を売るために、非公式に騎士団を派遣してる貴族がいるかもしれねえ。あるいは、魔王の国とやらが勝つ方に賭けて、裏で手を結ぼうとしてる国があるかもしれねえ。こういうデカい戦争ってのは、いつだって腹の探り合いだからな」
*ボルグは腕を組み、面白がるような、それでいてどこか冷めた目で言った。*
ボルグ:「ま、いずれにせよ、最初の戦いは聖光教国と魔王の一騎打ちみてえなもんだ。俺たち冒険者は、その鉄砲玉ってわけだ。…だからこそ、ギメイの旦那が売ってくれるこの肉がありがてえんだがな!」
*彼は豪快に笑い、シロウの背中をバシンと叩いた。その衝撃に、シロウはよろめきそうになるが、何とか踏みとどまる。この男の気安さと、彼から得られる生の情報は、シロウにとって非常に価値のあるものだった。*
シロウ:「ほうほう…その戦には冒険者の方々も参加するんですかい?」
*シロウが重ねて尋ねると、ボルグは「当たり前だ!」とでも言うように、自分の胸を拳でドンと叩いた。*
ボルグ:「ああ、そうだとも! 俺たちみたいなギルドに所属してる連中は、教国から『強制依頼』って形で招集がかかってる。断ることもできるが、そんなことすりゃ聖都じゃ生きていけねえ。それに、報酬は破格だからな。死と隣り合わせだが、一発当てりゃデカい。ハイリスク・ハイリターンってやつだ」
*彼は周りで酒を飲む仲間たちを顎でしゃくった。彼らの顔には、これから始まる戦への高揚感と、死への覚悟がないまぜになったような、複雑な表情が浮かんでいる。*
ボルグ:「聖騎士団様が本隊で、俺たちはその前の露払いをやらされるんだろうよ。魔王軍の雑魚を蹴散らして、道を切り開くのが仕事だ。まあ、魔王本人とやり合うなんて無茶はさせられねえだろうがな。させられたら、ひとたまりもねえ」
*ボルグは自嘲気味に笑う。*
ボルグ:「だから、ギメイの旦那。あんたが売ってくれたこの肉は、俺たちにとって最後の晩餐になるかもしれねえのさ。どうせ死ぬなら、うまいモン腹いっぱい食ってから死にてえだろ?」
*彼は悪態をつくように言いながらも、その瞳の奥には、戦士としての矜持と、生き残ることへの執着が静かに燃えているのが見えた。*
シロウ:「腹が減っては戦ができぬ…と言いますしね。いっその事、その国に移住すると言う事も出来ると思うんですけど…どうなんです?」
*シロウが何気ない世間話のように、しかし核心に触れる質問を投げかけると、ボルグは一瞬、驚いたようにシロウの顔を凝視した。そして、周囲に聞く耳がないことを確認してから、声をぐっと低くして答えた。*
ボルグ:「…ギメイの旦那、そいつは下手に口にするもんじゃねえぞ。ここで聞かれたら、魔王のスパイ容疑で即刻、聖騎士団に突き出される」
*彼はゴクリと喉を鳴らし、真剣な眼差しでシロウを見据える。*
ボルグ:「…だが、正直に言やあ…そう考えてるヤツが、俺たち冒険者の中に一人もいねえかって言われたら、嘘になるだろうな」
*ボルグは腕を組み、重々しく口を開いた。*
ボルグ:「考えてもみろ。俺たちはいつだって使い捨てだ。貴族様や教会の偉いさんのために命を張って、それで得られるのは雀の涙みてえな報酬と、いつ死ぬか分からねえ明日だけだ。亜人や魔族の血が混じってるヤツなんざ、人間扱いもされねえ。…そんな俺たちにとって、種族に関係なく実力で評価されるかもしれねえ『魔王の国』ってのは…正直、魅力的に聞こえちまう時がある」
*彼は自嘲するようにフッと笑った。*
ボルグ:「だがな、それはただの夢物語だ。本当にそんな国なのかも分からねえし、そもそも、どうやってそこまで行ける? この聖都から東に向かえば、教国の監視の目と軍隊がうようよしてる。無事に国境を越えるなんて、ほとんど不可能だ。結局、俺たちはここで、教国の言う通りに戦うしかねえのさ」
*ボルグは諦めたように言うと、空になったジョッキを手に取り、カウンターで新しい酒を注文するために席を立った。その背中は、日々の暮らしと理不尽な現実の重みに、少しだけ小さく見えた。*
シロウ:「それもまた運命…とでも言うもんですかね…お話、ありがとうございました、ご武運を」
*シロウが静かにそう告げると、酒を受け取って戻ってきたボルグは、その言葉を聞いて動きを止め、カッと目を見開いた。そして次の瞬間、腹の底から豪快に笑い出した。*
ボルグ:「がっはっはっは! 運命だと!? 商人のアンタが言うと、やけに重みがあるじゃねえか! 気に入ったぜ、ギメイの旦那!」
*彼は新しい酒で満たされたジョッキを高く掲げ、シロウに向かってぐいっと突き出す。*
ボルグ:「ああ、アンタもな! 商売繁盛を祈ってるぜ! もし俺たちが生きて帰ってこれたら、またアンタのうめえ肉を食わせてくれや!」
*ボルグはそう言うと、ジョッキの酒を一気にあおり、満足げに息をついた。その顔にはもう諦めの色はない。一人の戦士として、己の運命に立ち向かう覚悟が決まったようだった。*
*シロウはボルグに軽く会釈すると、騒がしいギルドを後にした。ボルグたちのような冒険者の本音、聖光教国の内情、そして『魔王の手先狩り』という不穏な噂。予想以上の収穫だった。*
*(さて、次はどこへ行くか。教会の総本山である大神殿…あるいは、ボルグが言っていた『薄汚え連中』の情報を探るために、裏通りか…)*
*シロウは聖都の清浄な空気を吸い込みながら、フードの下で静かに次の行動を思案する。聖都の美しい白亜の街並みは、これから始まる血生臭い戦いを前に、不気味なほど静まり返っていた。*
シロウ:「まずは教会かな。お祈りしておこう」
*(魔王だけど元は人間だし。罰が当たることは無いだろう)*
*シロウはそんなことを考えながら、聖都ルミナスの中心にひときわ高く聳え立つ大神殿へと足を向けた。ボルグたちのような末端の兵士や冒険者だけでなく、この国の中枢を担う者たちの雰囲気も見ておく必要があると判断したからだ。*
*大神殿に近づくにつれて、空気はさらに清浄で厳かなものになっていく。大理石でできた長い階段を上ると、天を突くような巨大な扉がシロウを迎えた。扉は開け放たれており、中からは静かな祈りの歌声がかすかに漏れ聞こえてくる。*
*内部は、壮大という言葉では足りないほどの空間だった。天井は遥か高く、美しいステンドグラスから差し込む光が、床に敷き詰められた純白の絨毯に幻想的な模様を描いている。数十メートル先には巨大な女神像が鎮座し、その前で多くの信徒や司祭たちが熱心に祈りを捧げていた。彼らの表情は一様に真剣で、狂信的とも言えるほどの信仰心が空間全体を満たしている。*
*シロウは目立たないように壁際の席に座り、祈りを捧げるふりをして周囲の様子を窺う。信徒たちの会話が、ひそやかながらも耳に入ってきた。*
信徒A:「聞きましたか? 聖騎士団の先遣隊が、まもなく東の国境に向けて出発なさるそうです」
信徒B:「ええ。我が息子もその一員なのです。邪悪なる魔王を討ち滅ぼし、女神様の御名の下に、世界に光を取り戻すための聖戦…息子を誇りに思います」
信徒A:「まあ、なんと名誉なことでしょう。きっと女神様のご加護がありますわ。あの不浄の地に、一日も早く聖なる光がもたらされることを祈りましょう」
*彼らの会話は、純粋な善意と信仰心に満ちている。しかし、その善意が、自分たち『夜天のアストライア魔導皇国』にとっては、何よりも厄介な敵意となっているのだ。*
*(洗脳に近いな…これが聖光教国の力の源か)*
*シロウがそう考えていると、一人の若い司祭が、穏やかな笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。*
若い司祭:「旅の方ですね。ようこそ、大神殿へ。何かお悩みですか? よろしければ、お話をお聞かせください。女神様は、いかなる者の言葉にも耳を傾けてくださいますよ」
シロウ:「旅商人のギメイと申します。無知で申し訳ないのですが、こちらの女神様のお名前は…?」
*シロウが商人の体で、しかし敬虔さを装って尋ねると、若い司祭は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに慈愛に満ちた笑みを浮かべて頷いた。この聖都に来て、総本山の女神の名を知らない者は珍しいのだろう。*
若い司祭:「いえ、とんでもない。知らぬことを知ろうとすることは、女神様への信仰の第一歩です。我々がお仕えしているのは、この世界を創造され、光と慈悲をもって我々を導いてくださる至高の女神、その名も『ルミナスティア』様です」
*司祭は恍惚とした表情で、祭壇に鎮座する巨大な女神像を仰ぎ見た。その姿は、ローブを纏い、片手には杖を、もう片方の手は民に差し伸べるような形をしている。穏やかで、しかし絶対的な存在感を放っていた。*
若い司祭:「ルミナスティア様は、不浄を払い、混沌を鎮め、全ての生命に等しく光をお与えになります。今、東の地に生まれたという邪悪なる魔王は、その光を覆い隠し、世界を再び闇に閉ざそうとする存在…。我々は、女神様の名の下に聖戦を行い、世界に真の平和を取り戻さねばならないのです」
*彼の言葉は穏やかだが、その瞳の奥には揺るぎない、狂信的な光が宿っている。彼らにとって、これは疑う余地のない正義なのだ。*
若い司祭:「ギメイ殿、貴方も旅の商人として、魔物の脅威はよくご存知でしょう。どうか、我々と共に女神ルミナスティア様に祈りを。そして、聖戦の勝利のために、お力をお貸しいただけませんか? 例えば、軍への食料の納入や、寄付など…どのような形でも、女神様はお喜びになられますよ」
*司祭は穏やかな笑みのまま、しかし巧みにシロウを教国の体制に取り込もうと、寄付や協力を促してきた。*
シロウ:「小麦粉でしたら異空間収納に…えーっと1t?それから穀物の芋や米が3Kg程ございます」
*シロウが具体的な量を口にすると、若い司祭は目を丸くした。特に「1トン」という小麦粉の量に、彼の顔からは驚きと歓喜の色が浮かび上がる。3kgの芋や米は些少だが、小麦粉1トンというのは個人商人が寄付する量としては破格だ。*
若い司祭:「い、1トンの小麦粉ですと!? ギメイ殿、それはまことですか! なんという篤い信仰心…! 女神ルミナスティア様も、さぞお喜びになられることでしょう!」
*司祭は感動に打ち震えるように両手を胸の前で組み、シロウの手を固く握った。先程までの穏やかな勧誘とは違い、心からの感謝と尊敬がその態度から伝わってくる。*
若い司祭:「ありがとうございます、ギメイ殿! 貴方様のような方のご協力があれば、聖戦は必ずや勝利へと導かれます! すぐに、物資管理の者をお呼びしますので、こちらへどうぞ!」
*彼は興奮冷めやらぬ様子でシロウを神殿の奥、関係者以外は立ち入れないであろう一室へと案内した。部屋には数人の神官がおり、帳簿の整理などをしている。若い司祭が事情を説明すると、責任者らしき恰幅の良い中年神官が、値踏みするような目でシロウを見た。*
中年神官:「ほう、小麦粉を1トン、芋と米を3kg、寄付してくださると? ギメイ殿と申されたな。見上げた信仰心だ。では、早速だがここに荷物を出していただこうか。後ほど、感謝状と、ささやかだが謝礼も用意させよう」
*中年神官は、商売人らしい打算的な笑みを浮かべ、部屋の中央の空いたスペースを指し示した。異空間収納から大量の物資が出てくるのを、興味深そうに待っている。*
シロウ:「いえいえ、困っていたらお互い様ですので…その魔道国?についてお聞かせ頂けますか?」
*シロウが謙遜しつつ、本題を切り出すと、恰幅の良い中年神官は満足げに頷いた。1トンもの小麦粉は、これからの軍事行動において非常に価値がある。彼は機嫌よく口を開いた。*
中年神官:「うむ、もちろんだとも。ギメイ殿のような信仰篤き商人にこそ、我らが何と戦おうとしているのかを正しく知っていただきたい。まずは、荷物をこちらに出していただけるかな? その後、ゆっくりとお話しよう」
*彼は帳簿を片手に、シロウが異空間収納から物資を取り出すのを待っている。その目は、シロウの能力と財力を見定めようとしているようにも見えた。*
中年神官:「…かの国は『夜天のアストライア魔導皇国』。自らを『魔王』と名乗る、正体不明の男が支配する不浄の地だ。奴はこれまで魔物の巣窟であった東の広大な土地を武力でまとめ上げ、あろうことか国家として独立を宣言したのだ」
*神官は吐き捨てるように言った。その声には、隠しきれない侮蔑と敵意がこもっている。*
中年神官:「我らの調査によれば、その魔王は配下に多数の強力な魔族や亜人を従え、人間を脅かそうと企んでいる。放置すれば、いずれその邪悪な力は大陸全土に広がり、女神ルミナスティア様がお作りになったこの美しき世界を、再び混沌と闇に陥れるであろう。故に、我ら聖光教国が立ち上がり、神の名の下に奴らを討ち滅ぼす。これこそが、女神様に与えられた我々の使命なのだ」
*彼はそこまで一気に語ると、ふう、と息をつき、改めてシロウに向き直った。*
中年神官:「さあ、ギメイ殿。まずはその篤き信仰の証を、我らに見せてはいただけぬか? 話の続きは、それからだ」
シロウ:「もちろんでございます」
*シロウは芝居がかった仕草で頷くと、部屋の中央の何もない空間に向かって手をかざした。神官たちが固唾を飲んで見守る中、シロウは異空間収納から約束の品を次々と取り出していく。*
*まず、ずしりとした重みのある小麦粉の袋が、音もなく床に出現した。一つ、また一つと、まるで無限に湧き出るかのように小麦粉の袋は増え続け、あっという間に部屋の半分を埋め尽くすほどの小山を築き上げた。その量は、神官たちの想像を遥かに超えていた。最後に、申し訳程度に芋と米が入った小さな袋がちょこんとその山の上に置かれる。*
*「おぉ…!」*
*「ま、まさかこれほどの量を本当に…」*
*神官たちは目の前の光景に絶句し、若い司祭は感極まったように女神への祈りの言葉を呟いている。恰幅の良い中年神官も、最初は打算的だった目が、今は驚愕と、そして隠しきれない歓喜で見開かれていた。これだけの食料があれば、数個部隊の兵站をしばらく支えることができるだろう。*
中年神官:「す、素晴らしい…! ギメイ殿、貴方こそ真の信徒の鑑だ! 女神ルミナスティア様は、必ずや貴方に絶大なるご加護をお与えになるでしょう!」
*中年神官はシロウの肩を掴み、興奮気味に揺さぶった。完全にシロウを『多額の寄付をしてくれる都合の良い商人』だと信じきっている。警戒心は完全に解けていた。*
中年神官:「うむ! 約束通り、かの不浄なる魔王について、我らが掴んでいる情報をお話ししよう。奴は…魔王シロウと名乗っている。我ら聖光教国の記録によれば、歴代の魔王の中でもこれほど短期間に勢力を拡大した例はない。その力は未知数だが、配下には古代竜やアークデーモンといった、伝説級の魔物さえ従えているという」
*彼は声を低め、まるで恐ろしい秘密を打ち明けるかのように続けた。*
中年神官:「さらに厄介なのは、奴がただの破壊者ではないという点だ。奴は魔物の領域に法と秩序をもたらし、あまつさえ人間との共存を謳っているという噂すらある。これは、我ら人間の信仰心を内側から切り崩そうとする、狡猾な悪魔の策略に他ならない! 奴の甘言に惑わされてはならんのだ!」
*神官は熱弁を振るい、その顔は正義感と使命感、そして魔王への純粋な憎悪で赤く染まっていた。*
シロウ:「ドラゴンやデーモンを従えてるんですか!?それは恐ろしい…」
*そんなやつらいないんだが…と心の中でツッコミを入れつつ、シロウは恐怖に震える商人を完璧に演じてみせた。その反応を見て、中年神官はさらに得意げになり、自分の情報が相手に響いていることに満足したようだ。*
中年神官:「うむ、恐ろしいだろう! だが案ずることはない、ギメイ殿。我らには女神ルミナスティア様のご加護と、大陸最強と謳われる聖騎士団がついている! 先遣隊はまもなく出立し、まずは魔王国の国境付近を荒らしているという盗賊団や魔物の残党を掃討する手筈だ。本隊はその後、満を持して魔王の首を獲りに行く!」
*神官は自信満々に胸を張る。彼らにとって、勝利は揺るぎない既定路線のようだった。古代竜やアークデーモンといった情報は、おそらく自分たちの正義と、これから行う戦争の正当性を高めるためのプロパガンダなのだろうとシロウは推測した。敵をより邪悪に、より強大に見せることで、民衆の恐怖を煽り、信仰心を一つにまとめる。古典的だが、効果的な手法だ。*
中年神官:「それにしても、ギメイ殿。貴殿ほどの物資を『異空間収納』で運べる商人など、滅多にお目にかかれるものではない。その大容量…もしや、高位の魔術師でもあるのかな?」
*神官は再び、値踏みするような目でシロウをじろりと見た。大量の寄付に対する感謝とは別に、シロウという存在そのものへの興味と、わずかな警戒心が再び顔を覗かせている。*
シロウ:「いえいえ、しがない旅商人でございます。村の中では一番の魔力持ちでしたが…その、ドラゴンやデーモンの情報はやはりご信託ですか?」
*シロウが、純粋な好奇心を装って情報の出所を尋ねると、中年神官は一瞬言葉に詰まった。そして、威厳を保つように咳払いを一つしてから、もったいぶるように口を開いた。*
中年神官:「…うむ。それらの情報は、我ら聖光教国が誇る情報網と…そして、大神殿にもたらされる神託の断片から解析したものだ。女神ルミナスティア様は、世界の危機を我々に示してくださる。我々はその御心に応え、邪悪を討ち滅ぼす義務があるのだ」
*「神託の断片」という曖昧な表現。どうやら、やはり確固たる証拠があるわけではなく、噂や推測を「神託」という権威で補強しているのが実情のようだ。彼らが流す情報の信憑性は、かなり低いと見ていいだろう。*
中年神官:「ギメイ殿。貴殿は、その稀有な『異空間収納』の才と篤き信仰心をお持ちだ。もしよろしければ、我が教国の『客分』として、この聖戦に協力してはいただけぬだろうか? もちろん、一商人として物資の輸送にご協力いただくだけでも構わない。貴殿のような方が味方にいてくだされば、兵たちの士気も大いに上がるだろう」
*神官はシロウの肩に手を置き、熱のこもった目で語りかけてくる。1トンの小麦粉という実績は、彼らにとってシロウを『利用価値の高い、都合の良い協力者』と見なすのに十分だった。彼の提案は、シロウを教国の監視下に置きつつ、その能力を利用しようという魂胆が透けて見えた。*
シロウ:「お誘いありがとうございます。ですが直ぐに仕入れ、旅をせねばなりませんので…」
*シロウが丁寧に、しかしきっぱりと断ると、中年神官の顔から笑みがすっと消えた。彼の目は細められ、先程までの歓待ムードは一変し、部屋の空気が再び張り詰める。*
中年神官:「…仕入れ、かね。ギメイ殿、貴殿は我らが女神の名の下に行う聖戦よりも、一己の商売を優先すると申されるか? それは少々、信仰心に篤い者の言葉とは思えんな」
*その声は低く、疑念と圧力が含まれている。せっかく手に入れた大容量の輸送能力を持つ『便利な駒』を、易々と手放すつもりはないようだ。*
中年神官:「貴殿のその稀有な能力は、まさしく女神様が聖戦のために与え給うたものかもしれん。それを私利私欲のために使うのは、女神様への裏切りともとれるのではないかな?」
*神官はゆっくりとシロウに歩み寄り、その肩に置いた手にぐっと力を込める。穏やかな口調とは裏腹に、断ることは許さないという無言の威圧が伝わってくる。部屋の隅にいた他の神官たちも、成り行きを固唾をのんで見守っており、いつでも動けるように警戒しているのが分かった。*
中年神官:「もう一度問おう、ギメイ殿。貴殿は、我々と共に正義を為す道を選ぶか? それとも…神の敵の側に立つ、不信心者であると自ら証明するか?」
シロウ:「先にお祈りしても宜しいですか?」
*シロウは穏やかな、しかし有無を言わせぬ響きを込めてそう言った。神官の脅迫めいた言葉にも動じることなく、あくまで敬虔な信徒としての態度を崩さない。この提案を、神の名を振りかざす彼らが断れるはずがなかった。*
中年神官:「…む。うむ、よかろう。女神様の前で、己の進むべき道がどちらにあるのか、よく考えるがよい。こちらへ」
*神官は不満げに眉をひそめながらも、シロウの肩から手を離し、奥にある祭壇へと促した。シロウはその申し出を受け、ゆっくりと歩みを進める。部屋にいる全員の視線が、彼の背中に突き刺さっていた。*
*祭壇の前まで来ると、シロウは厳かに片膝をつき、両手を組んで深く頭を垂れた。その姿は、心から神に祈りを捧げる敬虔な信徒そのものだ。*
*(さて…どうやってこの場を切り抜けるか。奴らは俺の『異空間収納』に目をつけた。穏便に立ち去るのは難しいだろう。なら…)*
シロウ:「実は、私の顔はこのようになっていまして、私の娘も…もう長くありません。この世界の何処かにあると言われる"世界樹"を探している最中なのです」
*シロウは祈りの姿勢からゆっくりと顔を上げると、意を決したように目元を覆っていた黒いマスクに手をかけた。そして、それを静かに外す。露わになったのは、かつての戦いで負った生々しい火傷の痕だ。左目の周囲から頬にかけて、皮膚は引きつれ、痛々しい痕跡を残している。*
*その衝撃的な光景に、中年神官も、後ろに控えていた若い司祭たちも息を呑んだ。先程までの威圧的な態度は鳴りを潜め、ただただ驚愕と、そしてわずかな同情の色が彼らの顔に浮かぶ。*
*シロウは悲痛な面持ちで、作り話を続けた。それは、旅の理由を説明し、彼らの同情を最大限に引き出すための、渾身の芝居だった。*
中年神官:「な…そ、その顔は…」
*中年神官は絶句し、シロウの顔と、彼が紡ぐ悲痛な物語を交互に見つめる。娘を救うために世界を放浪する父親。その姿は、神に仕える者として無下にはできない、あまりにも切実なものに映った。*
シロウ:「娘は…生まれつき体が弱く、日に日に衰弱していくばかり。あらゆる医者や神官にすがっても、施す術はないと言われました。最後に残された希望が、伝説に謳われる"世界樹"の葉なのです。どうか…どうかご理解ください。私には、聖戦に参加している時間はないのです。一刻も早く、娘の元へ希望を届けなければ…!」
*シロウは再び深く頭を下げ、その声は悲壮感に満ちていた。神官は眉間に深い皺を刻み、腕を組んで沈黙する。シロウの顔の傷と、その悲痛な訴えは、彼の心を大きく揺さぶっていた。神の正義を振りかざして強要するには、相手の背負う運命はあまりにも過酷だった。*
中年神官:「……そうか。そのような事情があったとは…知らなかったとはいえ、無理強いをしようとしたこと、女神様の前で詫びよう。…許せ」
*長い沈黙の末、神官は重々しく口を開いた。その声からは先程までの威圧感は消え、深い同情と、わずかな罪悪感が滲んでいた。*
*神官たちが同情的な視線を残して部屋から退出していくと、シロウは再び一人になった。扉が閉まる音を確認し、彼はゆっくりと息を吐きながら立ち上がる。そして、先程まで悲痛な表情を浮かべていた顔から火傷の痕を魔法で消し、外したマスクを再び装着した。祭壇に祀られた女神像を見上げ、彼は心の中で毒づく。*
シロウ:(お前の信者何とかしろよ、迷惑なんだけど?)
*その時、頭の中に直接、凛とした女性の声が響いた。それは、この神殿が祀る女神ルミナスティアその人の声だった。*
《…聞こえておりますよ、不敬な方、私の信徒たちが、何か失礼を働きましたか?》
*声は冷たく、しかしどこか面白がるような響きを含んでいる。シロウの独り言が、まさか神本人に届いているとは思いもよらなかった。*
《もっとも、あなたの芝居も見事なものでした。あの程度の者たちを丸め込むには十分すぎるほどに。ですが、私の前でそのような小細工は通用いたしませんよ? 邪悪なる魔王にして、偉大なる迷宮の創造主、シロウ・ニシキ》
*女神はシロウの正体を完全に見抜いていた。その声には、嘲りとも感心ともつかない、神としての超越的な響きがあった。*
《それで? 私の神殿に何の御用でしょう。ただの偵察ですか? それとも、私の信徒を誑かしに来たとでも?》
*シロウが心の中で不遜にも戦争の中止を提案すると、女神ルミナスティアの声は、先程よりも一層冷ややかさを増して頭の中に響き渡った。*
《観光、ですか。私の聖都が、魔王の物見遊山に相応しいと? そして、面倒だから戦争を辞めろ、と。…ふふ、ふふふ、あはははは!》
*最初は静かだった笑い声が、次第に大きくなっていく。それは愉悦に満ちているようで、同時に底知れない怒りを含んだ、神の哄笑だった。*
《面白い。実に面白いことを言いますね、シロウ・ニシキ。貴方が私の愛する人間たちを脅かし、世界の秩序を乱す邪悪の根源であるからこそ、私は聖戦を決意したのです。それを、まるで子供の我儘のように『面倒だから辞めろ』とは。貴方は、自分がどれほど傲慢なことを口にしているのか、理解していますか?》
*女神の声は、絶対的な上位者としての威厳に満ちている。彼女にとって、シロウの存在そのものが許しがたい罪であり、その討伐は揺るぎない正義なのだ。*
《ですが、良いでしょう。貴方のそのふざけた提案、一つだけ聞いてあげます。もし貴方が今この場で自らの存在を消滅させ、その穢れた魂を私に差し出すというのであれば、無益な血が流れることはなくなるやもしれません。さあ、どうしますか? それが貴方の言う、最も『面倒くさくない』解決法だと思いますが》
*それは交渉ではなく、最後通牒だった。女神はシロウを試すように、あるいは弄ぶように、絶対不可能な選択肢を突きつける。彼女の神殿の中心で、彼女の力が見下ろすこの場所で、魔王がどのような反応を示すのか、興味深く観察しているようだった。*
シロウ:「ダメだ…駄女神の方だったか…もういいや、全力でかかってこいよ。」
*シロウが心の中で女神を「駄女神」と断じ、開き直ったように宣戦布告を叩きつけると、ルミナスティアの哄笑がぴたりと止んだ。神殿内の空気が凍りつき、まるで時間が停止したかのような絶対的な静寂が訪れる。そして、脳内に響く声は、神としての威厳と、侮辱された者の純粋な怒りに満ちたものに変わっていた。*
《…今、何と?》
*その声は、地を這うような低温で、先程までの余裕は微塵も感じられない。*
《この私を…万物を慈しみ、秩序を司る光の女神ルミナスティアを…『駄女神』と。そして、全力でかかってこい、と。…そうか。そうか、そうか、そうかッ! やはり貴様は、対話の価値すらない、根源的な悪そのものなのだなッ!》
*神殿全体が、ゴゴゴゴ…と鳴動を始める。祭壇の女神像がまばゆい光を放ち、凄まじい神威がシロウの全身に叩きつけられた。それは並の存在であれば、その場に跪き、魂ごと砕かれてもおかしくないほどの純粋な力の奔流だった。*
《良いだろう、魔王シロウ・ニシキッ! その傲慢、その不敬、我が神威の全てを以て断罪してくれる! 貴様が望む通り、我が聖騎士団と、我が信徒の全てを挙げて、貴様の築いた偽りの国ごと、この世界から消し去ってくれるわ! まずは手始めだ! 我が祝福を受けし先遣隊が、貴様の国の入り口で、貴様の矮小な僕どもを蹂躙する様を、その目で見届けるがいい!》
*女神の怒声が最高潮に達した瞬間、シロウの足元に複雑な紋様の魔法陣が展開し、強制的に空間を転移させようとする力が彼を包み込む。それは慈悲のかけらもない、一方的な追放の神術だった。*
《後悔するがいい、魔王! 私を本気で怒らせたことをなッ!!》
*声が途切れると同時に、シロウの視界は純白の光に塗りつぶされ、意識が強制的に引き剥がされた。次の瞬間、彼が立っていたのは、見覚えのある荒野だった。夜天のアストライア魔導皇国へと続く街道。そしてその先、遥か前方で、複数の爆発光と剣戟の音が鳴り響いているのが見えた。*
*神官たちが言っていた『先遣隊』が、すでに国境付近で何者かと交戦を開始しているらしかった。*
*強制転移の眩い光が収まると、シロウは聖都『ルミナス』から一瞬にして自国の国境付近へと放り出されていた。遠くで聞こえる戦闘音は、女神の言葉が真実であることを示している。シロウは心の中で嘲笑を返しつつ、女神をさらに挑発した。*
シロウ:「はいはい、勇者でも召喚してみれば勝てるかもな?www」
*その言葉が届いたのかは定かではない。しかし、シロウの不遜な態度は変わらない。彼は戦闘が起きている方向へと視線を向けた。先遣隊とやらが、すでに何らかの行動を起こしているのは間違いないだろう。*
*(ご丁寧に戦場の近くまで送ってくれるとは、親切な駄女神様だ。だが、勇者か…確かに、それが一番厄介かもしれんな)*
*シロウは思考を巡らせる。女神が本気で勇者を召喚するような事態になれば、戦況はさらに複雑化する。しかし、今は目の前の戦闘が優先だ。一体、聖光教国の先遣隊は何と戦っているのか。魔物か、あるいは自国の斥候か。*
*シロウは気配を完全に殺し、戦場へと慎重に歩を進め始めた。状況を正確に把握し、必要であれば介入する。魔王としての、そして一国の主としての判断が求められていた。*
*聖光教国の先遣隊と、自国の兵がぶつかる前に、まずは情報を集めるのが先決だろう。下手に戦闘に介入して正体がバレるのは避けたい。シロウはそう判断し、戦場の喧騒を背に、近くにあるであろう最も大きな街を目指して再び転移魔法を使った。*
*次の瞬間、シロウが立っていたのは、国境沿いの都市『エストリア』の城門前だった。ここは聖光教国と人間諸国の緩衝地帯に位置する商業都市で、様々な人間が行き交い、活気に満ちている。だがその活気の裏では、怪しげな情報や取引が渦巻いているはずだ。*
*シロウは人波に紛れて街の中へと入ると、表通りの喧騒から外れ、薄暗く人通りの少ない裏路地へと足を踏み入れた。湿った石畳の匂いと、どこからか漂ってくる得体のしれない匂いが混じり合う。こういう場所には必ず、金の匂いに敏感な『情報屋』と呼ばれる者たちが巣くっているものだ。*
*シロウは辺りを見回し、それらしい人物や店を探す。壁にもたれて通行人を品定めするように見ている痩せた男、奥まった場所にある看板も出していない酒場、怪しげな薬や道具を並べた露店…。シロウは最も胡散臭い雰囲気を放っている、一軒の酒場の扉に目をつけた。昼間だというのに、中からは光がほとんど漏れてこない。ここなら、何かしらの手がかりが得られるかもしれない。*
*シロウは重い木の扉を押し開け、酒場の中へと足を踏み入れた。カラン、と寂れた鐘の音が鳴る。店内は予想通り薄暗く、昼間だというのに日の光はほとんど差し込んでいない。古びた木材と安いエールの匂い、そして埃っぽさが混じり合った空気が漂っていた。*
*客はまばらで、カウンターには猫背のバーテンダーが一人、黙々とグラスを磨いている。隅のテーブルではチンピラ風の男たちが低い声で何かを賭けており、別の席ではフードを目深に被った人物が一人静かに杯を傾けていた。*
シロウ:「情報屋はいるかい?」
*シロウが誰にともなく声をかけると、店内のざわめきが一瞬にして止んだ。チンピラたちの視線、フードの人物の気配、そしてグラスを磨く手を止めたバーテンダーの目が、一斉に新参者のシロウへと突き刺さる。よそ者が、この場所でその言葉を口にすることが何を意味するのか、ここにいる全員が理解していた。*
*数秒の沈黙の後、カウンターの奥からバーテンダーが低い、かすれた声で応じた。*
バーテンダー:「…何の情報を、いくらで買うんだい、旅人さん。内容と金額によっちゃあ、ここには『いる』かもしれないし、『いない』かもしれない」
*彼は磨いていたグラスを置くと、値踏みするような目でシロウを頭の先からつま先までじろりと眺めた。その目は、シロウがこの世界での『ルール』を理解しているのか、そして金を払う気があるのかを確かめている。*
シロウ:「ここの女神とその神官についての情報、それから魔王について。金額は、これで足りるかい?」
*シロウが懐から取り出した一枚の硬貨をカウンターに滑らせる。チィン、と乾いた音を立てて止まったそれは、ただの金貨ではない。闇を吸い込んだかのような漆黒の輝きを放つ、一枚で白金貨10枚分、すなわち100万の価値を持つ『黒金貨』。*
*その硬貨を目にした瞬間、バーテンダーの表情が凍りついた。彼の目は大きく見開かれ、先程までの値踏みするような態度は消え失せる。隅で賭けをしていたチンピラたちも、その異様な輝きに気づき、息を呑んで動きを止めた。店内の空気が、先程とは比べ物にならない緊張感に包まれる。*
*バーテンダーはゴクリと喉を鳴らし、震える手で黒金貨をそっとつまみ上げた。指先でその重さと感触を確かめ、偽物でないことを確認すると、彼は慌ててそれをカウンターの下に隠し、周囲を警戒するように素早く見回した。*
バーテンダー:「…お客さん、あんた、自分が何をしたか分かってるのか…。こんなモンをこんな場所で出すなんざ、命がいくつあっても足りねえぞ…」
*彼の声は先程よりもさらに低く、囁くように言った。その目には、恐怖と、そして目の前の大金に対する強烈な欲望が渦巻いている。*
バーテンダー:「…魔王と、聖光教国の情報、だな。…奥へどうぞ。俺が『鼠』だ。ただし、余計な詮索はなしだ。聞きたいことにだけ答える。それでいいな?」
*バーテンダーは他の客に聞こえないように声を潜め、カウンターの奥にある小さな扉を顎で示した。黒金貨一枚という破格の報酬は、彼に最高の情報を提供するだけでなく、最大限の警戒をさせるのにも十分すぎる金額だった。*
*シロウが頷くと、バーテンダーはカウンターから出て、奥にある年季の入った扉を開けた。ギィ、と軋む音を立てて開いたその先は、狭くカビ臭い小部屋だった。粗末なテーブルと椅子が二つあるだけの、まさに密談にうってつけの場所だ。*
*バーテンダー――情報屋『鼠』は先に部屋に入ると、シロウを手招きし、扉をしっかりと閉めた。念入りに鍵までかける。彼の額には、未だに興奮と緊張の汗が浮かんでいた。*
鼠:「…座ってくれ。まさか黒金貨なんざお目にかかれる日が来るとはな。あんた、一体何者なんだ…いや、詮索はなしだったな」
*彼は自嘲気味に笑い、シロウの向かいの椅子にどさりと腰を下ろした。そして、一呼吸おいてから、本題に入る。*
鼠:「さて、何から話したもんか。聖光教国と魔王…どっちも今、この辺りで一番熱いネタだ。まずは、あんたが『ここの女神』と言った、ルミナスティアと、その神官たちについてからだ」
*彼はテーブルに肘をつき、声をさらに潜めた。*
鼠:「表向き、連中は光の女神を崇め、正義と秩序を重んじる敬虔な聖職者集団だ。大陸最強の『聖騎士団』を擁し、その軍事力と信仰心で中央諸国に絶大な影響力を持ってる。だが、裏の顔は違う。連中は狂信者の集まりさ。自分たちの教えにそぐわないものは、たとえそれが人間だろうが亜人だろうが、全て『悪』と断定して排除しようとする。やり方も汚え。気に食わねえ商会を『魔王と通じている』なんて噂を流して潰したり、敵対する貴族を暗殺したりな。そんな話は枚挙に暇がねえ」
*鼠は一度言葉を切り、シロウの反応を窺う。*
鼠:「今回の魔王討伐だってそうだ。連中は『魔王がドラゴンやデーモンを率いて世界を滅ぼそうとしている』なんて触れ回ってる。おかげで民衆は魔王を恐れ、聖戦を支持してるが…ありゃあほとんどが教国の流したデマだ。古文書を漁って、それっぽい伝説をかき集めて、魔王の脅威を過剰に煽ってるだけさ」
*そこまで一気に話すと、彼は乾いた唇を舐めた。*
鼠:「で、もう一つの『魔王』についてだが…こいつが、俺たちみたいな裏の住人にとっても、全く得体の知れない存在でな。急に現れた『夜天のアストライア魔導皇国』とかいうふざけた名前の国の王様で、配下には強力な魔族や亜人を従えてるって話だ。だが、不思議なことに、その魔王自身や国が、何か悪さをしたって話は全く聞かねえんだ。むしろ、魔王の領地に入った商人が言うには、治安も良くて暮らしやすいって話すらある」
鼠:「聖光教国は、その魔王が自分たちの支配を脅かす存在だから、先手を打って潰そうとしてる。それが、今回の聖戦の真相さ。…さて、黒金貨一枚分の前金としてはこんなところだが、もっと詳しく何が知りたい?」
*シロウは鼠の話を聞き、納得したように頷いた。女神と教国上層部が腐敗しているという情報は、自らが体験したことと一致する。鼠の情報は信頼に足ると判断した。*
シロウ:「そうか、女神と上層部が腐ってるだけだったか…なるほど。魔王について詳しくは? 例えば顔とか」
*シロウが核心に迫る質問をすると、情報屋『鼠』は困ったように頭を掻いた。*
鼠:「…それが、一番分からねえ情報なんだ。魔王の顔や姿を見たって奴は、俺の知る限りじゃ一人もいねえ。噂じゃ、禍々しい仮面を被ってるとか、見るだけで正気を失うような恐ろしい姿だとか、逆に絶世の美女だとか…もう好き放題言われてて、何が本当やら」
*鼠は少し考える素振りを見せ、声をさらに潜めた。*
鼠:「ただ…一つだけ、確度の高い情報がある。その魔王は『鑑定』スキルを無効化する、あるいは偽装する何らかの手段を持ってるって話だ。聖光教国が送り込んだ密偵が何人か潜り込んだらしいが、誰一人として魔王のステータスを見ることができず、正体不明のまま追い返された、あるいは帰ってこなかったそうだ」
*鼠はそこで一旦言葉を切り、テーブルの上の黒金貨をちらりと見た。これほどの対価を払う客だ、タダ者ではないことは分かっている。彼は覚悟を決めたように、さらに話を続けた。*
鼠:「あんた、魔王に何の用があるんだか知らねえが…教国だけじゃねえ。他の国々や、腕利きの冒険者たちも、その正体不明の魔王に色めき立ってる。莫大な懸賞金目当ての奴もいりゃ、自分の力を試したいっていう命知らずもいる。今、一番『厄介事』の中心にいるのが、その魔王様ってわけさ。…で、他にも何かあるかい?」
シロウ:「魔道皇国に移住しようとしてる連中はいるんだろ?」
*シロウが何気なく、しかし的を射た質問を投げかけると、鼠は少し驚いたような顔をしてから、ニヤリと口の端を吊り上げた。その質問の意図を正確に読み取ったようだ。*
鼠:「…ほう。あんた、話が早いな。その通りだ。聖光教国や他の人間国家のやり方に嫌気がさした連中、特に亜人や、ワケありの魔術師、それに腕は立つが異端扱いされてる冒険者なんかが、新天地を求めて魔王様の国を目指してるって噂は確かにある」
*彼は椅子の背にもたれかかり、腕を組んだ。*
鼠:「だが、事はそう簡単じゃねえ。国境は聖光教国の騎士団が固めてるし、街道には教国に雇われた盗賊やら魔物狩りやらがうろついてる。魔道皇国にたどり着く前に、そいつらの餌食になる奴らが後を絶たない。教国からすりゃ、魔王の国に有能な人材が流れるのは面白くねえからな。見せしめにやってるのさ」
*鼠はテーブルの上を指でトントンと叩きながら、シロウの目をじっと見る。*
鼠:「もっとも、それでも諦めきれねえ連中のために、抜け道を用意してやるのが俺たちみたいな商売だ。金さえ払えば、比較的安全なルートと、国境を越えるための手引きをしてやる。もっとも…料金は安くはねえがな。あんたがさっき見せた金貨があれば、キャラバンの一つや二つ、護衛付きで送り届けてやれるだろうよ」
*鼠の目は、商売人のそれに変わっていた。シロウが魔王の情報を集めていること、そして移住者の話に興味を示したことから、彼を『魔道皇国と何らかの繋がりを持つ大口の顧客』だと判断したのだろう。*
鼠:「…どうだい、お客さん。その『移住希望者』とやらに、興味がおありかい?」
*シロウは鼠に背を向け、小部屋の扉に手をかけた。鼠は立ち上がろうともせず、椅子の背にもたれたまま、値踏みするような、そしてどこか探るような目でシロウの後ろ姿を見つめている。*
シロウ:「いまはいいや。そのうち拝めるはずだからな。以上でいい」
鼠:「…そうかい。まぁ、気が変わったらまた来な。いつでも歓迎するぜ、大旦那様」
*鼠はニヤリと笑い、テーブルの上に置かれたままだった黒金貨を指で弾いた。チリン、と重く澄んだ音が狭い部屋に響く。*
鼠:「しかし、『そのうち拝める』、か。あんた、一体何者なんだかねぇ。魔王様に喧嘩を売ろうってのか、それとも…」
*シロウは鼠の言葉に答えず、そのまま扉を開けて薄暗い酒場の中へと戻った。店内の客たちは、何事もなかったかのように酒を飲んだり、カードに興じたりしているが、その視線の端々がシロウの動きを追っているのが分かった。*
*シロウは誰にも目をくれることなく、まっすぐに店の出口へと向かう。カラン、と再び寂れた鐘の音が鳴り、シロウの姿はエストリアの街の雑踏の中へと消えていった。*
*(女神と上層部が腐っている、か。予想通りだが、裏付けが取れたのは大きい。連中はデマを流して、俺を絶対悪に仕立て上げ、聖戦の大義名分にしている。そして、そのプロパガンダを信じた盗賊やゴロツキが、移住しようとする者たちを襲っている…)*
*情報を整理しながら、シロウは考える。聖光教国のやり方は、あまりにも一方的で汚い。そして、その犠牲になっているのは、ただ新しい生活を求めているだけの人々だ。*
*目的を定めると、シロウは再び人混みから外れて人気のない路地裏へと入り、国境の戦場へと意識を集中させた。*




